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2009-09-13

アフガンの英雄アフマド・シャー・マスード/『マスードの戦い』長倉洋海


 この男の風貌は強い何かを私に訴えかけてくる。どうしようもなく惹きつけられる風情を湛(たた)えている。憂愁と知性とが均衡した表情でありながらもエレガントだ。旧ソ連軍が侵攻してきた時、この男は徹底抗戦し幾度となくソ連軍を退けてきた。「パンジシールの獅子」と呼ばれたこの男が、アフマド・シャー・マスードだ。


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 本書は、長年にわたってマスードと行動を共にしてきたカメラマンの長倉洋海が綴った評伝である。時々おかしな文章に出くわすが、マスードの人となりは十分伝わってくる。


 チェ・ゲバラは理想家だった。カストロは政治家だった。マスードは指導者だった。そしてアフガン北部同盟の英雄は、9.11テロ(2001年)の2日前に暗殺された。


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 マスードは民衆から愛されていた――


「マスードは政治的な能力をもっていて、すべてを良く知っている。そして人をいろいろ使い、統率力もある。わしはマスードが好きだ。国民の99パーセントもマスードが好きに違いない。よく働き、よく指揮をとり、寝ません。よく働く人はいるだろうけど、彼ほど頭を使う人はいないよ」(マスードのジープの運転手、ココ)

「8年前の最初の戦いで、山中をさ迷った時、私が病気になった。毛布もなくガタガタ震えている私を、マスードは両腕でかかえこみ、抱くようにして一晩中、看病してくれた。彼の素晴らしい個性――勇気、知力、謙譲心、統率力、やさしさ――は、神からの授かり物としか考えられない」(パンシール・スポークスマンのエンジニア・イサク)

「ソ連軍の攻撃下で、食物がなくラワシイ(ワラビに似た植物)や草を食べていた。エネルギーが尽きかけていた時、マスードが、5〜6人の戦士とやってきた。我々に食物がないのを知ると、彼の持っていた食物をすべて置いていった。それで我々は力を得て、また戦った。私は知っている。彼が勇敢で偉大な人であるということを。彼のような人は、アフガンの歴史の中でもう生まれないだろう。彼の能力が全アフガニスタンに広がればよいと思う」(マラスパの地区司令官、モスリム)

 町で会った人、村の兵士、老人、みながマスードを尊敬し愛しているようだ。


【『マスードの戦い』長倉洋海〈ながくら・ひろみ〉(河出文庫、1992年/『峡谷の獅子 司令官マスードとアフガンの戦士たち』朝日新聞社、1984年に一部加筆)以下同】


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 一読して直ぐに気づくことだが彼は実務家である。仕事が速い。相談に訪れる多くの人々に対しても、素早く的確にアドバイスをする。そして読書家でもあった。


 マスードは一方的に取材を受けるだけの人物ではなかった。長倉に対して次々と質問を浴びせる。好奇心というよりは、情報収集能力が高いのだろう。


 アンダローブでの仕事をみな終えて、気が楽になったのか、マスードの質問がまた始まる。

「東京の大きさは、人口は」

「都市の労働者の勤務時間は」

「税制は、遺産の相続は」

「どんな政党があるのか」

「日本のタンカーは大きいと聞いたが」

 と次から次へと彼の興味は尽きない。


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 時代が人を生むのか。あるいは人々の心が時代を動かすのか。これほどの人物が現れる背景を思わざるを得ない。


 マスードを失ったアフガンは今も尚、混迷の度合いを深めている。マスードの遺志を継承する者はいるだろう。だが果たして、マスードの思想を体現する人物がいるだろうか。


 偉大な人物は人類の教師である。しかしながら、その偉大さはキャラクターに負うところが大きい。そして、資質というものは学び得るものではない。だが、たとえ現実はそうであったとしても、時を経てマスードの生命と感応する青年が登場することだろう。

マスードの戦い (河出文庫)

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