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2009-11-07

教会と大学による諜報活動/『インテリジェンス 武器なき戦争』手嶋龍一、佐藤優


 期待したほどではなかった。丁々発止(ちょうちょうはっし)、侃々諤々(かんかんがくがく)、喧々囂々(けんけんごうとう)とまでは言わないが、対談というものはもっと緊張感があってしかるべきだ。それがあって初めて、対話の妙が生まれる。基本的に手嶋の姿勢がまるでなってない。礼を失すること甚だしい。面と向かって佐藤を「ラスプーチン」呼ばわりしている。


 ま、挨拶、あるいは情報交換といった程度の内容となっているが、それでもやはりこの二人ならではの薀蓄(うんちく)には目を瞠(みは)るべきものがある。国際社会がどのような政治力学で動いているか、そしてそのための情報収集、情報の取捨選択、情報発信について考えさせられる。


手嶋●(東京は)これだけ生活コストがかかる街にもかかわらず、これはという情報組織は一級の人材を送り込んできている。意外な、と思われるでしょうが、ヴァチカン市国は、隠れた情報大国です。近世の対日諜報報告は、古典に挙げられるほどの水準です。軍事力は皆無に等しいのですが、彼らが全世界に張り巡らしている聖職者のネットワークは、実に整ったものです。そのインテリジェンス能力にはいまも侮りがたいものがある。


【『インテリジェンス 武器なき戦争』手嶋龍一〈てしま・りゅういち〉、佐藤優〈さとう・まさる〉(幻冬舎新書、2006年)以下同】


 例えば十字軍(1095-)、またはテンプル騎士団(1096-)、あるいはイエズス会(1534-)――キリスト教会の歴史はキリスト教による世界制覇の歴史であった。特にイエズス会は、大航海時代(15-17世紀)を背景にして貿易に従事するとともに、相手国の内情を本国に報告していた。そもそも、世界中を航海して回るには莫大な資金が必要となる。すると当然ながら教会としては「先行投資」的意味合いを持たせる必要が生じる。取り敢えずのところは珍しい物があれば構わないが、資源や食料があれば投資結果は倍増する。あるいは奴隷――。

佐藤●では、ニュースソースは誰か。この種の話はきちんとしておいたほうがいいと思うので、あえて踏み込んでお話ししますが、ロシアには科学アカデミーという組織があります。ロシアの最高学府はモスクワ大学で、そこでは東京大学よりもエリートの絞り込みが行われていますが、そのモスクワ大学よりもさらに絞り込んでいるのが科学アカデミーですね。たとえば民族学人類学研究所なら研究員は600人、大学院生は6〜7人しかいない。年によっては入学試験合格の該当者なしということもあります。つまり、そこの大学院(3年制)に入学すれば研究者もしくは大学講師の道が保証される。大学は教育研究機関ですが、科学アカデミーはそれより一段上の研究機関なんです。

 その科学アカデミーの中に、東洋学研究所というのがあるんですね。日本の仏教研究などを行っているのですが、それと同時に、いわゆるオリエンタリスト(東洋学者)というのは各国の植民地支配の手先になったので、常に諜報と深く関係している。諜報員が擬装に使う研究所でもっとも多いのは、科学アカデミーの東洋学研究所なんです。


 何とアカデミーの世界でも諜報活動は行われていた。っていうか、これがグローバルスタンダードなんだよな、本当は。日本の脳天気ぶりがよくわかる。つまり世界の宗教、学術機関には明快な「戦略」があるということだ。そしてそれは、いずれも「対外戦略」となっている。


 日本のエリートはどうしても「内向き」になる。大学は一流企業に就職するための通過儀礼であり、官僚選抜のふるいに過ぎない。これでは、「自分の栄誉栄達」が目的になってしまうのは致し方ないだろう。国際社会の荒波に向かっていける力量はなく、巨大なコンクリートの建物の中で座り心地のいい椅子に納まっているの関の山だ。あるいはせいぜい狭い世界で居丈高に振る舞うくらいのことしかできない。きっと日本人のDNAには「島国根性」と筆文字で書かれているに違いない。


 我が国が世界において抜きん出ているのは、やはり高い技術性であろう。せめて、これらの技術を戦略的に活用することを望みたい。

インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)

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