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2009-11-09

匂いや爪で病気を判定する


 私はK・V・シルヴェンガダム博士という教授が、患者のにおいだけで病名を判定する方法を教えてくれたのを想い出す。糖尿病性のケトン症患者に独特のマニキュア液のような甘い息。焼きたてのパンのようなチフス患者のにおい。気のぬけたビールのような嫌なにおいがする腺病。むしったばかりのニワトリの羽のようなにおいの風疹。肺膿瘍の腐敗臭。ガラス洗浄剤のようなアンモニア臭のある肝臓病患者。(最近の小児科医なら、シュードモナス感染のグレープジュースのようなにおいや、イソバレリアン酸血症の汗臭い足のようなにおいを、これにつけ加えるかもしれない。)手の指を注意深く調べなさい、とシルヴェンガダム教授は言った。肺癌になったとき臨床的な徴候があらわれるずっと前に、指と爪床の角度がほんの少し変化して、その予兆となることがあるからだ。驚くべきことにこの徴候――ばち指形成――は、外科医が癌を切除したとたんに手術台の上で、たちまち消えてしまう。この原因は今日もまだわかっていない。また別の恩師である神経学の教授は、パーキンソン病の診断をするときは目を閉じて患者の足音で診断するようにと、いつも強調していた(パーキンソン病の患者は特徴的な足を引きずる歩き方をする)。このような臨床医学の探偵めいた側面は、現代のハイテク医学のなかでは、滅びゆくわざであるが、私の心のなかにはしっかりと植えつけられている。患者を注意深く観察し、聞き、触れることで、そしてそう、においをかぐことでも、妥当な診断に到達できる。検査はすでに知っていることを確認するために使うだけだ。


【『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー/山下篤子訳(角川書店、1999年)】

脳のなかの幽霊 (角川文庫)

サティシュ・クマール


 1冊読了。


 127冊目『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール/尾関修、尾関沢人〈おぜき・さわと〉訳(講談社学術文庫、2005年)/サティシュ・クマールは少年時代にジャイナ教の僧侶となり、18歳でガンジー思想に目覚めた。世界各地を巡礼し識者との対談を重ねている。バートランド・ラッセルマーチン・ルーサー・キングシューマッハーなど。注目すべきは前半に次々と登場する母親の言葉と、クリシュナムルティー(本書表記のママ)との出会いだ。本書は思想的なまとまりを欠いているが、これだけでも読む価値がある。また、ジャイナ教裸形派のストイックなまでの非暴力も実に新鮮だ。仏教、ヒンズー教、ジャイナ教などを融合した土俗的な思想という印象を受けた。日本の八百万(やおよろず)の神的曖昧さが目立ち、何でもありの寄せ鍋状態。このため確かに平和を志向してはいるのだが、思想的なキレが欠如している。元々インドでは独りで覚った人をブッダ(目覚めた人)と呼称していたが、その後阿羅漢と呼ばれるようになる。サティシュ・クマールは声聞だ。真面目で謙虚だが面白くない。読み書きのできない実母があれほどの智慧の言葉を語りながらも、著者が僧侶の道から外れた時の混乱ぶりには考えさせられた。

直観


 これ、直達正観(じきたつしょうかん)なり。


クリシュナムルティ●直観は、英知の極致、頂点、精髄なのです。


【『私は何も信じない クリシュナムルティ対談集』J.クリシュナムルティ/大野純一訳(コスモス・ライブラリー、2000年)】

私は何も信じない―クリシュナムルティ対談集