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2010-02-24

吐かれた唾を集めた痰壷本/『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ


 ジョン・グレイが吐いた唾(つば)で全ページがドロドロになっている。ま、言うなれば痰壷本(たんつぼぼん)だ。タイムズを始めとする各紙が2009年の一冊に選んだそうだが、所詮欧米の話。キリスト教に打撃を与えるのはまことに結構なんだが、どうもこの著者はいかがわしいところがある。


 とにかく批判、悪口のオンパレード。持ち上げているのは道家の思想とガイア理論くらいか。「んっ?」と思ったのはクリシュナムルティに関するテキスト。何ひとつ根拠を示さずに下半身ネタでまとめている。これについては後日批判する予定。


 つまり、だ。この本は「何が書かれていないか」を知らなければ、コロッと騙(だま)されてしまう危険性をはらんでいる。ジョン・グレイはイギリスの政治哲学者である。2008年に大学教授を引退。該博(がいはく)な知識が逆に「知識人のなれの果て」を教えてくれる。教育者としての素養はゼロといっていいだろう。


 本書の基調は、キリスト教をバックボーンとした進歩主義への批判である──


 ヒューマニズムは科学ではない。人間はかならずや過去に例のない輝ける世界を実現すると断じるキリスト教以降の信仰である。キリスト教以前のヨーロッパでは、未来は過去とさして変わりないと考えるのがふつうだった。知識が進んで新しいものがつくられるにしても、価値体系が大きく変わることはない。歴史は果てしない循環であって、そこに一貫した意味はない、と人は理解していたのである。

 これを異教の考えとして、キリスト教は歴史を罪と贖いの寓話と解釈した。キリスト教の救済の理念を人類解放の祈願に置き換えたのがヒューマニズムであり、進歩の概念は神慮を待望するキリスト教信仰の世俗版である。それゆえ、キリスト教以前の世界は進歩に関心がなかった。

 進歩信仰にはもうひとつ別の根拠がある。科学においては、知識は増大し、蓄積する。だが、人間の存在は全体として蓄積に向かわない。ある世代が獲得したものも、つぎの世代には失われるかもしれない。また、科学の場合、知識は純粋善だが、倫理学や政治の世界では功罪相半ばする。科学は人間の能力を増進すると同時に、人間が持って生まれた欠陥を拡大する。人間の寿命を延ばし、生活水準を向上させるのも科学なら、破壊をほしいままにさせるのもまた科学である。現在、人類はかつてない規模で傷つけ合い、殺し合い、地球を破壊している。


【『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ/池央耿〈いけ・ひろあき〉訳(みすず書房、2009年)以下同】


 ヒューマニズムという言葉には魂がない。その意味がやっとわかったよ。キリスト教的差別観が巣食っていたってわけだ。でもさ、それよりも神が全知全能であることの方が問題だと思うけどね。


 キリスト教世界において人は神になることはできない。そして、神の似姿(姿煮じゃないよ)として造られた人間は動物世界では最上位に位置する。だから動物は殺しても一向に構わないし、自然は征服すべき対象と化す。そして恐るべきことだが、彼等(=白人クリスチャン)は有色人種を動物と考えている節(ふし)が窺える──

 神は愛を体現しているが、結構怒りっぽい──

 これほど人間の出来が悪いのは、神の責任ではないのか? 神様をPL法製造物責任法)で裁くべきではないのか? 大体、世界で最も殺戮(さつりく)に手を染めてきたのは間違いなくキリスト教信者であった。そもそも、ユダヤ教徒のイエスという人物が処刑された出来事からスタートしているから、どう転んでも血塗られた歴史とならざるを得ない。


 私個人としてはイエスは存在しなかったと考えている。だって、当時の記録が何ひとつないんだからね。きっとペテロかパウロがでっち上げた宗教なのだろう。

 キリスト教が虚構だとすれば、これほど壮大な陰謀もない。歴史の捏造(ねつぞう)もお手の物。ご存じのようにスポーツの審判や裁判というのは神を象徴している。誤審、冤罪(えんざい)の類いは決して珍しいことではない。


 古代中国では、わらの犬を祭祀の捧げものにした。祭りのあいだ、わらの犬はていねいにあつかわれたが、祭りがすんで用がなくなると踏みつけにされ、惜しみなく棄てられた。「天地自然は非情であって、あらゆるものをわらの犬のようにあつかう」。人間とても、地球の平穏を乱せばたちまち踏みつけにされ、情け容赦なく棄てられる。ガイア説の批判者は非科学的であるという理由でこの考え方を忌避するが、実を言えば、人間はわらの犬でしかないことを認める勇気がないばかりにそっぽを向いているのである。


 その「わらの犬」の筆頭がジョン・グレイである。彼は意図的に摩擦を起こしているのだろう。それが、MI5からの依頼であったとしても私は驚かない。二重三重に知的な罠が仕掛けられており、老獪(ろうかい)極まりない。


 紙質が悪いのに4000円近い値段となっている。みすず書房は、はなっから売れないものと決め込んでいたのだろうか? 原書と同じ表紙デザインも実に悪趣味だ。裸にされた二人はまだ少女ではないのか?

わらの犬――地球に君臨する人間

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