古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『良心の領界』スーザン・ソンタグ/木幡和枝訳(NTT出版、2004年)



良心の領界

 スーザン・ソンタグを囲むシンポジウム「この時代に想う−共感と相克」を中心に、「ニューヨーク・タイムズ」や講演会で発表された最新テクストをまとめる。2002年刊『この時代に想うテロへの眼差し』の続編。

吉永良正、高橋源一郎


 2冊読了。


 52冊目『新装版 数学・まだこんなことがわからない 難問から見た現代数学入門吉永良正講談社ブルーバックス、2004年)/3〜4日前に読み終えていたのだが書くのを失念していた。講談社出版文化賞受賞作品。旧版が出たのは1990年のこと。数式をすっ飛ばして読んでも十分面白い。原理という点において宗教と数学は似ているが、数学の方が桁違いに美しい。そして歴史に名を連ねる天才数学者の創造力は、宗教的天才と響き合う余韻がある。


 53冊目『13日間で「名文」を書けるようになる方法高橋源一郎朝日新聞出版、2009年)/一度も本を閉じることなく読了した。明治学院大学の講義を編んだものとしては、加藤典洋著『言語表現法講義』に続く作品。名文を書く方法の根源をまさぐることで、「ものの考え方」を激しく揺さぶり、思い切り振り回している。そして実際は文学というよりも哲学の領域に踏み込む。ここには紛(まが)うことなき教師と生徒の「出合い」がある。出会いというよりも出合い。そのぶつかり合いは時にソクラテスの対話を髣髴(ほうふつ)とさせ、プラトンが創設したアカデメイアを想起させるほど。圧巻は休講のあとの十日目。まず高橋は机を壁際に移動させ、教壇から降りて学生と同じ目の高さで語り始める。前回の講義を休んだことを詫(わ)び、その理由を明かした。2歳になる高橋の子供が急性脳炎になった、と。飽くまでも淡々としていて、小説家らしい的確な言葉で語られている。そうでありながらも、生の根源を探る言葉が不思議な宗教性を帯びている。まるでサンガのようだ。経典本といっていい。

4人死刑に強い行動必要だった…人権団体

 中国遼寧省で9日午前、麻薬密輸罪による死刑判決を受けていた武田輝夫死刑囚(67)ら3人に対して行われた刑の執行。
 日本政府は6日の赤野光信死刑囚(65)の執行以降、新たな申し入れなどは行わず静観を続けていたが、4日間で計4人が執行されるという事態に、国内の人権団体などからは、「もっと強い行動を起こすべきだった」との声もあがった。
 執行の一報を受け、「アムネスティ・インターナショナル日本」の寺中誠事務局長は、「執行が立て続けに行われたのは許されない。前回の執行後、中国大使館に抗議を続けてきたが……」と重い口調で語り、「日本政府は執行停止を求めるべきだった」と続けた。
 日本弁護士連合会も、「日本政府は国民の生命に対する権利を守るための明確な要望を行わず、尊い人命が失われたのは極めて遺憾。国民の生命権を守るために毅然(きぜん)とした態度で臨むよう、改めて強く要請する」とのコメントを出した。
 政府の対応について、「死刑廃止を推進する議員連盟」事務局長の村越祐民衆院議員は「抗議できなかったのは日本にも死刑があるから」と述べ、「これを機に日本の死刑の存廃についても議論すべきだ」と話す。しかし、ある法務省幹部は「日本では薬物犯罪が死刑に値するとは考えにくい。それだけに、日本人は今回の執行は日本とは無関係と感じるのでは。国内の死刑についての議論にはならないだろう」と語った。


 千葉法相は執行前の9日午前の閣議後記者会見で、「中国の刑罰法規は日本と異なるだけに、日本人は違和感や反発を感じているのではないか。中国もそういうところは少し考えてもらうとよかった」と話した。


YOMIURI ONLINE 2010-04-09


 中国政府が中国人を殺す分には構わないが、日本人を殺すことは許さないということなのだろうか? すっきりしないのは本来重んじられるべきはずの人権よりも、国籍が重視されているためだろう。社会も世界も犠牲者が出ないと変わらない事実を示しているようにも見える。法治の欺瞞が透けて見えやしないか? 法=ルールは国家の数だけ、はたまた部族の数だけ、テロ組織や暴力団の数だけ存在するのだから。

若きカストロの熱弁

 裁判は、はじめ公開で、途中から非公開になった。10月16日、カストロは、自分自身の弁護人として法廷に立った。約5時間、かれは熱弁をふるった。それは文字通りの熱弁であった。獄中にあって、いかなる本も読むことができなかったにもかかわらず、かれは古今東西の文献、キューバの統計を引用した。その博識ぶりは、驚嘆の一語につきるものであり、その弁舌の力強さは、27歳の青年のものとは信じられぬくらいだった。
 かれは、バチスタの悪を告発し、キューバの解放を訴え、最後にこういった。
「わたしを断罪せよ。それは問題ではない。歴史はわたしに無罪を宣告するだろう!」


【『チェ・ゲバラ伝』三好徹(文藝春秋、1971年)】


チェ・ゲバラ伝