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2010-06-13

予言の自己成就/『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』マッテオ・モッテルリーニ


 経済学は実に妙ちきりんな学問で、「経済人」という合理的な存在が大前提になっている。しかしながら私は衝動買いをし、読んでいない本が数千冊あってもなお古本を買い漁り、コンビニやスーパーへ行くと常習的にプッチンプリンを買ってしまう。そんな私が経済人であるわけがなかろう。人生を振り返っても「見えざる手」が働いたことは一度もない。


 合理性だと? フン、そんなものはどうせキリスト教的欺瞞だろう。大体において翻訳語がピンと来ない場合、その原語にはキリスト教の歴史が横たわっていると考えていいと思う。


 例えば「個人」というのは「神と向き合う存在」であり、その個人が集まったのが「社会」である。日本には世間はあっても社会は存在しなかった


「理性」も多分そうだ。理性の有無は神を信じることができるか否かに依(よ)っているのだろう。西洋の連中は長い間、遠い世界には化け物が棲んでいると信じ込んでいたのだ。

 マルクス主義もキリスト教の嫡子(ちゃくし)である。神を人民に、教会を党に、信仰を経済に置き換えただけの話だ。経済学と同様、嘘だろうというほどの合理性に貫かれている。


 更に古典経済学ではアングラマネー富の蓄積を読み解くことができない。


 そこで人間の不合理性に着目し、経済学の世界に心理学を導入したのが行動経済学である。立役者のダニエル・カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞している。


予言の自己成就

 個人が自己の予測や願望に沿うような行動をとった場合、社会現象としてその通りの結果が出現すること。

 すなわち、予言されることによって予言されたことが現実のものになり、人びとが自分たちの共有した知識に基づいて行動することによって、その知識が自分のものになって自己成就する。


★「地価は上がる」と人びとが信じることにより、実際に地価は上がり、「株価は上がる」と信じている限り、株価は上がり続ける。その逆もあるわけで、「銀行が倒産する」などと人びとが予測して、預金引き出しに殺到したり、購買拒否したりすれば、銀行や食品会社はあっという間に倒産してしまう。「思い込み」や「風評」の恐ろしさは他人事ではない。とりわけ、現代はインターネットの時代。サイバー社会の「予言」のスピードとパワーは半端ではないのだ。


【『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』マッテオ・モッテルリーニ/泉典子訳(紀伊國屋書店、2009年)】

 これはきっと『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』と同じメカニズムが働いているのだろう。


 言葉はシンボルである。営業マンがやたらと具体的な目標や烈々たる決意を発表させられる機会が多いのは、自分の発した言葉で脳を支配するためだ。情報というものは信号機の役割を果たして集中すべき対象を選別する。


 例えば私があなたに向かって「今年中に不幸な出来事が起こる。見える……。私には見える!!!」と予言したとしよう。人生にはいいこともあれば悪いこともあるのが当然だ。ところが、何かアクシデントが起こった際に突然私の言葉を思い起こす羽目になるのだ。そしてあなたは再び私のもとを訪れ、高価な壷を購入するという寸法だ(笑)。


 一寸先は闇だから、人は少しでも確かなものにすがろうとする傾向がある。占いなんぞが典型だろう。ひょっとすると勉強や蓄積もそうかもしれない。安全性への欲求が高まるあまり「私は成功する」と呪文のように唱えるビジネスマンも多い。


 行動経済学の要(かなめ)は実験証明とヒューリスティクスにある。つまり「経験と直観」だ。21世紀になってやっと経済学の中道が誕生した。

世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)

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