2010-07-13
時計のウンチクが満載/『ウォッチメイカー』ジェフリー・ディーヴァー
リンカーン・ライム・シリーズの第7作。手に汗握り、悶絶のラストへ突入する様はジェットコースターそのものだ。富士急ハイランドのFUJIYAMAとええじゃないかを足したようなものと考えてもらえばよい。
ディーヴァー作品の正しい読み方を教えて進ぜよう。ストーリーは必ず3分の2ほどでひと区切りつくので、それ以降はどんでん返しがあるたびに本を閉じ、翌日まで読むのを我慢するのだ。こうすれば多分、通常のミステリの5倍は楽しめるはずだ。
シリーズものはサザエさん化を免れることができない。ディーヴァーファンの中には「食傷気味だ」なんて生意気を言っている連中もいるが、これは文章の細部に目が届いていない証拠だ。
ウォッチメイカーとは時計師のことである。彼が創作するのは、もちろんクォーツを使わない機械時計だ。
その昔、時計を持つ者は「時を司る者」だった。人の一生は時に支配されている――
私の姿は目に見えない。
だが、私はつねにいる。
力のかぎり走るといい。
私から逃れられるものはない。
力のかぎり闘うといい。
私を打ち負かせる者はない。
私は私の論理で人を殺す。
法のもとで罰を受けることはない。
さあ、私は誰だ?
“時”(とき)さ。
【『ウォッチメイカー』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳(文藝春秋、2007年)以下同】
その時計師を名乗る犯人が次々と事件を起こす。時計好きの方であれば、読み終えるまで陶酔に身を浸(ひた)すことができる。ウォッチメイカーは時間に関することなら何でも知っていた――
「時間? 時間についてどんなことを話すの?」
「ありとあらゆることについてだよ。時間の歴史とか、時計の仕組みとか、暦(こよみ)のこととか、そのときの状況によって時間の進みかたが違って感じられるとか。たとえばさ、“スピードアップ”って言葉は振り子時計から来てるとかって話をする。振り子の重りを上(アップ)にずらすと、時計の進み方が速くなるだろう。反対に“スローダウン”は――重りを下(ダウン)にずらす……ふつうならさ、退屈な話だよな。だけどダンカンが同じ話をすると、つい聴き入っちまう」
ディーヴァーは犯人の人物像を実に瑞々しい色合いで描き出す――
――知ってたか、ヴィンセント。“几帳面”(メティキュラス)って言葉は、“おびえる”という意味のラテン語“メティキュロサス”から来てるんだ。
正確でないもの、秩序立ってないものを目にすると、頭をかきむしりたくなる。平行でない線路とか、少しだけ曲がった自転車のタイヤのスポークとかいったささいな欠陥であってもだ。何かが予定どおりに運ばないと、黒板を爪でひっかく音を聞いたときのように、神経が逆立った。
人生は時間であり、歴史もまた時間である。時間は過去、現在、未来と流れ、我々は現在を生きている。にもかかわらず、時間は有限性を強烈に意識させ、我々はいたずらに過去に捉われたり未来を夢見たりしている。
時間はどこに存在するのか? そもそも時間とは何なのか? 既に量子力学で明らかになっているが実は時間は連続して流れているわけではない。時間は過去と現在、現在と未来の比較の中に存在する。つまり時間とは概念なのだ。
脳のシステムは概念を構築する。例えば神や幽霊というのも概念に過ぎない。要は概念としては存在するが、実体は存在しない。
【ビフォア・アンド・アフター】。
人は前進を続ける。
理由はどうあれ、人は前進を続け、ビフォアはアフターになる。
現在は、過去と未来の分水嶺である。未来は存在しないが過去は存在すると我々は思い込んでいる。だが実際は過去も存在しない。過去は記憶の中にのみ存在しており、例えば記憶障害や認知症になれば消え失せてしまう。過去は淡い。その淡い過去が自我を形成している。
光に時間は存在しない。世界が存在するのは光が世界を照らしているからだ。目に見える事物を仏典では「色法」(しきほう)と呼ぶが、色は光の反射である。世界には有無が混在している。有無という見(けん)から離れるところに「空」(くう)が現れる。
色々な意味で時間を考えさせてくれる一冊だ。


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