父上様、母上様。幸吉はもうすつかり疲れ切つてしまつて走れません。何卒お許し下さい。気が休まることもなく御苦労、御心配をお掛け致し申しわけありません。幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました。【画像】
川端康成は、『円谷幸吉選手の遺書』において、「繰り返される《おいしゅうございました》といふ、ありきたりの言葉が、じつに純ないのちを生きてゐる。そして、遺書全文の韻律をなしてゐる。美しくて、まことで、悲しいひびきだ」と語りました。さらに「ひとえに率直で清らかである。おのれの文章をかへりみ、恥ぢ、いたむのは勿論ながら、それから(川端)自身を問責し絶望する」、そして「売文家の私はここ(幸吉の遺書)に文章の真実と可能性を見えたことはまことであった」と文豪川端康成を感嘆させました。【死に様・生き様:円谷幸吉】