古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー/池上彰解説、田口俊樹訳(文藝春秋、2010年)



風をつかまえた少年

学ぶことの本当の意味を教える感動の実話!


 アフリカの最貧国、マラウイを襲った食糧危機。食べていくために、学費が払えず、ぼくは中学校に行けなくなった。勉強をしたい。本が読みたい。NPOがつくった図書室に通うぼくが出会った一冊の本。『風力発電』。風車があれば、電気をつくれる。暗闇と空腹から解放される。――そしてマラウイでは、風は神様が与えてくれる数少ないもののひとつだ。


「学校の図書館で出合った本がきっかけで、人生が切り開かれていく。学ぶということが、これほどまでに人生を豊かにしてくれるとは。私たち日本人が忘れていたことを、この本は教えてくれます。日本の子どもたちが、ウィリアム少年のように目を輝かせながら、本をむさぼり読む。こんな日の来ることを願っています」(本書解説「知識が力となるために」池上彰

「晴れた日に」石垣りん

 車一台通れるほどの
 アパートの横の道を歩いて行くと
 向こうから走ってきた
 自転車の若い女性が
 すれ違いざまに「おはようございます」
 と声をかけてきた。
 私はあわてて
「おはようございます」と答えた。


 少しゆくと
 中年の婦人が歩いてくるので
 こんどはこちらからにっこり笑って
 お辞儀をしてみた。
 するとあちらからも
 少しけげんそうなお辞儀が返ってきた。


 大通りへ出ると
 並木がいっせいに帽子をとっていた。
 何に挨拶しているのだろう
 たぶん過ぎ去ってゆく季節に
 今年の秋に。


 そういえば私の髪も薄くなってきた
 向こうから何が近づいてくるのだろう。
 もしかするともうひとりの私だ
 すれ違う時が来たら
「さようなら」と言おう
 自転車に乗った若い女性のように
 明るく言おう。


【『石垣りん詩集』石垣りん(ハルキ文庫、1998年)】


石垣りん詩集 (ハルキ文庫)

長く生きたのではなく、長く翻弄されたのである

 それゆえ、髪が白いとか皺(しわ)が寄ったているといっても、その人が長く生きたと考える理由にはならない。長く生きたのではなく、長く有ったにすぎない。たとえば或る人が港を出るやいやな激しい嵐に襲われて、あちらこちらへと押し流され、四方八方から荒れ狂う風向きの変化によって、同じ海域をぐるぐる引き回されていたのであれば、それをもって長い航海をしたとは考えられないであろう。この人は長く航海したのではなく、長く翻弄されたのである。


【『人生の短さについて』セネカ/茂手木元蔵〈もてぎ・もとぞう〉訳(岩波文庫、1980年/大西英文訳、2010年)】


人生の短さについて 他二篇 (ワイド版 岩波文庫) 生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)
(※左が茂手木元蔵訳、右が大西英文訳)

キム・フィルビーが生まれた日


 今日はキム・フィルビーが生まれた日(1912年)。元MI6(イギリス情報局秘密情報部)長官候補にして傑出した二重スパイ。MI6の課長となり、ソビエト諜報部対策に従事。功績が認められ勲章が授与されている。後にソ連スパイの嫌疑が浮上。スパイ活動を間接的に認めた。ソ連に亡命。KGBソ連国家保安委員会)のイギリス担当顧問に就任。


ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV) スパイのためのハンドブック (ハヤカワ文庫 NF 79)


イプクレス・ファイル

杉原千畝が生まれた日


 今日は杉原千畝〈すぎはら・ちうね〉が生まれた日(1900年)。ユダヤ人難民が亡命できるよう大量のビザを発給。6000人が救われた。外務省の指示に背く行為であった。戦後、ソ連に拘束され収容所で1年間を過ごす。帰国した杉原を外務省は辞職に追い込む。同じ頃、三男が病没。85年イスラエル政府より表彰される。


杉原千畝物語―命のビザをありがとう (フォア文庫) 杉原千畝―六千人の命を救った外交官 (小学館版 学習まんが人物館) 新版 六千人の命のビザ