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2011-03-04

自分自身との対面


 だれでも、青春の日、人生にはじめてまともにぶつかる瞬間がある。その時、ふと浮かびあがってくる異様な映像に戦慄する。それが自分自身の姿であることに驚くのだ。それはいわゆる性格とか、人格とかいうような固定したものではない。いわば自分自身の運命といったらいいだろうか。

 自分自身との対面。考えようによっては、極めて不幸な、意識の瞬間だが。

 そのとき人は己れを決意しなければならない。人間誕生の一瞬である。

 それからは生涯を通じて、決意した自分に絶望的に賭けるのだ。変節してはならない。精神は以後、不変であり、年をとらない。ひたすら、透明に、みがかれるだけだ。

 もちろん貫くには、瞬間、瞬間、待ちうける膨大な障害がある。それはこちらをねじ曲げ、挫折させ、放棄させようとする。だが、そのようなマイナスは、それと徹底的に対決することによって自分を豊かにし、純化し、深める、いわば触媒であるにすぎず、そのたびに己れは太く、強くなるのだ。どんなことがあっても、自分がまちがっていたとか、心をいれかえるとか、そういう卑しい変節をすべきではない。一見、謙虚に見えて、それはごま化しであるにすぎないのだ。

 なぜそんなことを、のっけから、むきつけに言い出したかといえば、この前提こそ芸術の本質にかかわるのであり、今日、一般にそのスジが致命的にに失われているからだ。

 芸術というのはそのように、ひたすら貫くことによって己れをみたし、そしてついには自然に、明朗にあふれ出るものだと思っている。

 多くの人が悔い、迷い、疑い、自他を批判し、干渉し、混乱し、そしてすべてを見失っている。己れを疑い、疑いきれないから他を疑う。また人を疑いきれないで己れを疑う。そんな堂々めぐりがインテリジェンスであり、誠意であるかのような錯覚、それはまた「芸術家」のポーズでさえある。


【『呪術誕生』岡本太郎みすず書房、1998年)】

岡本太郎の本〈1〉呪術誕生

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