つかめ商機 農産物輸出で復興 消えぬ風評、なお狭き門・東日本大震災5年

(3/6 09:02 時事通信配信)

東日本大震災の被害を受けた地域で、農産物の輸出に奮闘する人たちがいる。

海外の日本食ブームを追い風に、東京電力福島第1原発事故後の風評被害を乗り越え、海外に販路を広げる挑戦だが、
道は険しい。韓国や台湾など厳しい輸入規制を課す国・地域は今も残っている。

「畜産をやめなければならないかと思った」。岩手県雫石町で畜産業を営む武田敏男さん(68)が5年前を振り返った。
武田さんは黒毛和牛を約50頭育て、シンガポールなどにも輸出している。2010年は宮崎県で発生した伝染病の口蹄疫
の影響を受けたが、原発事故後の逆風はその比ではなかった。餌を放射性物質の影響がないものに変えたが、価格の
低迷は続いた。廃業も脳裏に浮かんだ武田さんを思いとどまらせたのは、畜産への情熱だ。幸いにも県内には東北で
唯一の輸出向け食肉処理施設、岩手畜産流通センターがあった。放射性物質の安全確認が終わると輸出が増えた。
4等級以上の高級部位は、和食が人気の海外で高い評価を受けた。「おいしい牛肉を食べてもらいたい」。武田さんは
輸出に手応えを感じる。

原発事故の風評被害に見舞われた福島県国見町の果樹農家、井砂善栄さん(69)は収穫時期を分散させるため、約10
品種のモモを生産する。事故後は果樹の除染に追われたが、「良いものをつくっていれば消費者が認めてくれる」との
確信があった。仲間と甘くて色づきの良いモモの栽培技術の研究を重ねたかいもあり、高級モモ「あかつき」などの輸
出が増えつつある。

政府は農産物輸出を推進。15年の輸出額は4432億円と10年の約1.5倍になったが、被災地は風評との闘いが続く。福島県
は全てのコメに放射性物質が含まれていないか検査するなど、安全性をアピール。タイ、マレーシア、インドネシア
新たな販路もできた。それでも14年度の輸出はモモ、リンゴ、コメなどで11トンと震災前の1割に満たない。
県の担当者は「海外バイヤーが安全性を理解しても、消費者の反応を懸念して商談が成立しないことは多い」と悔しがる。
主要輸出先だった香港と台湾は門戸を閉ざしたままだ。

被災地の農業関係者は今、欧州連合(EU)の判断に希望を見いだす。EUは1月、科学的なデータに基づいて福島産を含む輸入
規制を大幅に緩和した。政府は他国・地域でも日本の農産品を受け入れるよう訴えていく。