Hatena::ブログ(Diary)

SH2の日記 RSSフィード

2012-12-17 Provisioned IOPSの検討 - JPOUG Advent Calendar 2012 このエントリーを含むブックマーク

2012年9月にAmazon RDSでProvisioned IOPSというサービスが利用できるようになりました。本日はこれを題材にして、IOPSを保証するということについて勉強していきたいと思います。このエントリは、JPOUG Advent Calendar 2012の17日目となります。16日目@maroon1stさんでした。

Amazon RDSについては、@horiuchiさんが15日目のエントリでまとめ記事を書いていらっしゃいます。Provisioned IOPSについては記事の反響で第3位ということで、なかなか注目度が高かったことが分かりますね。

fioによるIOPSの測定

さて、まずはIOPSを測定するツールを準備しましょう。I/O関連のベンチマークツールはいろいろありますが、今回はfio - Flexible I/O Testerを使用することにしました。これは私が希望する測定パターンをすべて再現できたこと、Red Hat Enterprise Linuxやそのクローン、およびUbuntu向けにバイナリパッケージが用意されておりインストールが簡単なことが主な理由です。RHEL系の場合はRepoForceからバイナリパッケージを入手、Ubuntuの場合はapt-getコマンドでインストールできます。

fioを使用した最近のベンチマーク結果として、@namikawaさんがAmazon EC2 High I/O Quadruple Extra Large Instanceの測定結果を、@kazeburoさんがIntel SSD 910 800GBの測定結果を公開されています。

これを参考にしつつ、以下のようにカスタマイズしておきます。

  • テストファイルサイズを16GBに拡大します。これはRAIDコントローラやストレージキャッシュによって性能が高ぶれするのを防ぐためです。OSのページキャッシュについてはDirect I/Oを使用することであらかじめ影響を排除しておきます。ディスクに余裕があればファイルサイズはもう少し増やしておきたいところで、例えばさくらインターネットさんではSSDプランの提供にあたり100GBで測定されています。
  • ブロックサイズ4KBに加えて8KB、16KBの測定を行います。8KBはOracle Databaseのデフォルトブロックサイズ、およびPostgreSQLのブロックサイズです。16KBはMySQL InnoDBのページサイズです。
  • 読み書きをミックスさせた測定を行います。読み取り100%、書き込み100%のほかに、読み取り:書き込み=90:10、50:50、10:90での測定を追加します。
  • 非同期I/Oを使用します。多重アクセスによる性能の伸びを測定する際、fioでは-numjobs=64 -group_reportingとしてマルチスレッド実行をさせることができますが、非同期I/Oを使用して-ioengine=libaio -iodepth=64と指定することもできます。基本的に同じ結果が得られます。MySQL 5.1+InnoDB Pluginが同期I/Oのマルチスレッド実行、MySQL 5.5が非同期I/Oを行っているということをふまえ、今回は非同期I/Oを採用します。
  • 非同期I/OにおけるQueue Depthのバリエーションを増やします。64以外に、1から256までの測定パターンを用意しておきます。なおSerial ATAの場合はNCQ(Native Command Queuing)の上限が32なので、高速なSSDを持ってきたとしても多重アクセスによる性能の伸びは32で頭打ちとなります。

できあがった測定スクリプトは以下のようになりました。測定パターンはシーケンシャル読み取り、シーケンシャル書き込みの2パターンに加え、ランダム読み書きがブロックサイズ3パターン×読み書き比率5パターン×Queue Depth 9パターンで135パターンあり、合計で137パターンとなります。1回の測定を60秒に設定していますので、全パターンの測定には2時間強かかります。

手元のパソコンで測定した結果をご紹介します。fioのログからこの表を出力するスクリプトを用意していますので、ご利用ください。

f:id:sh2:20121217001142p:image

f:id:sh2:20121217001143p:image

f:id:sh2:20121217001144p:image

Plextor PX-256M2Pはカタログスペックで読み取りIOPSが70,000、書き込みIOPSが65,000となっていますが、ほぼカタログスペック通りの値が出ていることが分かると思います。黄色のセルは、Windowsでよく使われているCrystalDiskMarkと同じ測定を行っている部分です。

f:id:sh2:20121217001146p:image

f:id:sh2:20121217001145p:image

ブロックサイズが大きくなるとIOPSは下がっていきます。また読み書きをミックスさせると読み取りのみ、書き込みのみの場合に比べてIOPSが下がります。この傾向はPlextor以外のSSDでも同じでした。

cgroupによるIOPSの制御

では、IOPSの制御を試してみましょう。調べたところ、IOPSを制御する方法は2つ見つかりました。

QEMUのDisk I/O Limits機能はまだ開発中ということで、今回はcgroupを使用しました。ここから先は仮想環境で作業を行っていきます。cgroupによるIOPS制御には技術的な制限事項があって、物理環境では少し使いづらいためです。この件については後述します。

まずIOPSを制御しない状態での、仮想環境の素の性能です。ブロックサイズによる傾向の違いはなかったので、ここから先は16KBの結果のみ掲載します。

f:id:sh2:20121217001147p:image

物理環境とあまり変わらない形のグラフですが、Queue Depthが小さいときの性能の落ち込みが目立ちます。これはI/Oリクエストが2つのOSを経由するため、レイテンシが長くなっていることが原因です。Queue Depth 1の性能はシングルスレッドで行う大量処理、例えばLOAD DATAやALTER TABLEに効いてくるので、仮想化のオーバーヘッドというものは今でもそれなりにあります。

一方、ピーク性能は物理環境と変わりないことが分かります。処理を詰め込めるだけ詰め込んでしまえば、アライメントが合っていないなどのミスがなければ最終的にはストレージの限界性能が出ます。もちろん、CPUなど他のコンポーネントボトルネックになっていないことが前提です。

次は、読み取り、書き込みとも10,000 IOPSに制限した測定結果です。これはKVMホストから以下のコマンドを実行して設定します。

# ls -l /dev/sda
brw-rw---- 1 root disk 8, 0  9月 16 23:00 2012 /dev/sda

# echo '8:0 10000' > /cgroup/blkio/libvirt/qemu/k01sl6/blkio.throttle.read_iops_device
# echo '8:0 10000' > /cgroup/blkio/libvirt/qemu/k01sl6/blkio.throttle.write_iops_device

f:id:sh2:20121217001148p:image

非常にきれいなグラフになっています。ここまでうまくいくとは予想していませんでした。読み取り100%のときはちょうど10,000 IOPSになっており、90%のときは読み取り10,000+書き込み1,111で11,111 IOPSとなります。50%のときは上限20,000 IOPSですが今回使用したSSDはそこまで性能が出ないため、16,634 IOPSとなっています。

続いて、3,000 IOPS、1,000 IOPSに制限した測定結果です。

f:id:sh2:20121217001150p:image

f:id:sh2:20121217001149p:image

きちんと効いていますね。かなり使える機能だと思います。

cgroup使用時の注意点

RHEL 6.3の時点では、cgroupによるI/O帯域、IOPSの制御には技術的な制限事項があります。それはBuffered Writeに対して正常に動作しないというものです。例としてKVMゲストでOS全体に書き込み1,000 IOPSの制限をかけると、以下のようになります。

# echo '252:32 0' > /cgroup/blkio/blkio.throttle.write_iops_device

# dd if=/dev/zero of=test.dat bs=131072 count=8192 oflag=direct
8192+0 records in
8192+0 records out
1073741824 bytes (1.1 GB) copied, 8.20527 s, 131 MB/s

oflag=directを付けた場合は8,192回の書き込みに8.2秒かかるということで、想定通りです。

# dd if=/dev/zero of=test.dat bs=131072 count=8192
8192+0 records in
8192+0 records out
1073741824 bytes (1.1 GB) copied, 202.553 s, 5.3 MB/s

# dd if=/dev/zero of=test.dat bs=131072 count=8192 oflag=dsync
8192+0 records in
8192+0 records out
1073741824 bytes (1.1 GB) copied, 309.503 s, 3.5 MB/s

しかし、oflag=direct以外の設定では極端に性能が劣化してしまいます。OSバッファに書き込んでいる間は速いのですが、そこから溢れて実際にブロックデバイスに書き込みに行くところで制御がうまくいっていないようです。設定が効かなくてフルスピードになってしまうならまだしも、こんなに遅くなってしまっては困ります。

現状cgroupによるI/O帯域、IOPSの制御が期待通りに動作するのは、Direct I/Oに対してのみです。RHELマニュアルにも注意事項が記載されています。

Currently, the Block I/O subsystem does not work for buffered write operations. It is primarily targeted at direct I/O, although it works for buffered read operations.

Chapter?3.?Subsystems and Tunable Parameters

Oracle Database、MySQLはDirect I/Oを使用していますが、すべてのI/OがDirect I/Oというわけではありません。また、PostgreSQLはDirect I/Oを使用していません。これらのソフトウェアに対して直接cgroupでI/O帯域、IOPSの制御を行うことは、まだ無理です。

ではなぜこの機能がRHEL 6.1にバックポートされたのかですが、おそらくKVMでの利用を狙ってのことだと考えられます。qemu-kvmは設定によって、KVMゲスト側のI/O方式に関わらずKVMホスト側でDirect I/Oを行わせることができます。仮想化によるシステム統合やプライベートクラウド基盤の構築を行う際、KVMホスト側でqemu-kvmプロセスにcgroupの設定を行うことで、KVMゲストごとのI/Oリソース消費量を制御することができるというわけです。

qemu-kvmにDirect I/Oをさせるには、仮想ディスクのキャッシュモデルにnoneを指定します。

f:id:sh2:20121217001152p:image

デフォルトはwritethroughです。writethroughの場合はBuffered I/Oが行われるため、cgroupによるI/O帯域、IOPSの制御は先ほどと同じように誤動作してしまいます。ご注意ください。

# dd if=/dev/zero of=test.dat bs=131072 count=8192 oflag=direct
8192+0 records in
8192+0 records out
1073741824 bytes (1.1 GB) copied, 262.503 s, 4.1 MB/s

なおwritebackは設定としては存在しているのですが、障害発生時にデータを失う危険性があるためサポート対象外となっています。

ここまでの内容から、RHEL 6.3の時点でIOPSの制御を行うための前提条件は以下のようになります。

  • KVMによる仮想化を行う
  • 仮想ディスクのキャッシュモデルにnoneを指定する
  • KVMホスト側でqemu-kvmプロセスに対しcgroupの設定を行う

ここでcgroupによるI/O帯域、IOPSの制御はブロックデバイスを対象とした機能ですので、以下の条件も追加されます。

  • KVMゲストのイメージファイルが、NFS上ではなくブロックデバイス上に配置されている

イメージファイルがブロックデバイス上に配置されていない場合は、もう一つの方法であるQEMUのDisk I/O Limits機能が提供されるのを待つことになるかと思います。

IOPSを保証するということ

話をAmazon RDSに戻すと、Amazon Web Servicesは仮想化基盤としてKVMではなくXenを使用しているので、ここまで述べたものとは別の方法でProvisioned IOPSを提供しているということになります。XenでIOPSを制御する方法はすぐには見つかりませんでしたが、もしDom 0でtapdiskプロセスにcgroupが効くのであれば似たような方法で実現できるのかもしれません。あるいは、もっと低いレイヤで実装しているのかもしれません。

IOPSを保証するというのはAmazon RDSのようなパブリッククラウドサービスだけでなく、プライベートクラウド基盤や一般のシステム開発にとっても重要な概念です。近年一つのシステムが一つのストレージを占有できる構成は少なくなってきており、システム基盤の共通化という方針のもと複数システムで少数のサーバストレージを共有するようになってきています。その際CPUやメモリについては現行を踏襲したハードウェアリソースを割り当ててもらえるのですが、ストレージについては容量しか考慮してもらえないことが多く、あとから深刻な性能問題を起こすことが増えています。

IOPSというものがストレージ製品のカタログに書いていないことも、サイジングの際に容量しか考慮してもらえない原因の一つだと考えています。IOPSは同じストレージ製品でも構成によって大きく変わるので、確かにカタログに書きづらい部分はあります。そこで今回簡単にIOPSを測定できるスクリプトを用意しましたので、これを用いてさまざまなストレージ製品の性能を事前に収集しておくことをおすすめします。

プライベートクラウド基盤を設計する際は、特にDBMSを稼動させる計画がある場合、CPUコア数やメモリ量だけでなくIOPSについても目標値を定め、適切な設備投資を行ってください。

システム統合を行う際は、まず現行システムのリソース消費状況を調査すると思います。その際CPU使用率だけ見るのではなく、必ずI/O状況も見てください。Oracle Databaseであれば、Statspack/AWRレポートのLoad ProfileセクションからPhysical readsとPhysical writes、MySQLであればSHOW ENGINE INNODB STATUSからFILE I/Oセクションのreads/sおよびwrites/sを確認してください。I/O状況の調査は、夜間バッチや業務繁忙期などシステム負荷が高い時間帯を必ず含むようにしてください。そして、各システムのIOPSを合計したよりも高い性能のストレージ製品を調達してください。

Provisioned IOPSはユーザから見ると希望するIOPSを得られるというサービスですが、クラウド基盤提供側やシステム統合の立場から見ると違った意味があります。この機能には、特定のユーザやシステムが必要以上にI/Oリソースを占有して他のシステムに影響を与えることを防ぐ意味があります。現状さまざま前提条件がありますが、RHEL系でKVMを使用している場合は検討する価値のある機能だと思います。最大の課題はOracle DatabaseがKVM上で動作保証されていないことですね。まあ、システム統合のついでにPostgreSQLマイグレーションするというのもいいかもしれませんね。

Oracle Databaseについていえば、IOPSが足りないときの究極の解決策はOracle Exadataを導入することです。I/O性能が本当に一桁違うので、現行システムのI/O状況があまり分かっていなくてもそこがボトルネックになることはないでしょう。ただEngineered Systemに任せきりになって、いつの間にか自社の技術力がなくなっていたということのないようにしたいものです。

JPOUG Advent Calendar 2012、18日目@mutatsuさんです。それではまた。