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読み捨てられてゆく言葉たち このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-08-30

『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』飯田一史(青土社)

| 『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』飯田一史(青土社)を含むブックマーク

 友人(?)に薦められて読んだわけだが、思った以上に良書だったので、レビューを。

 特に、出版業界関係者は必読。ライトノベルを読んでいなくても大丈夫。私もほとんど読んでない(俺妹だけだ)。それでもこの本は「自分出版業界人間である」と思う人なら読んだほうがいい。個人的には自分クライアントには配って歩きたいくらいだ。


 本書は大きく分けて2つのパートに分かれている。

 ライトノベル業界として捕らえ、総論や環境分析を語っている第1部、および第4部(と「はじめに」と「終わりに」)。

 そして、ベストセラーライトノベルタイトルをそれぞれ作品ごとに細かく分析している第2部と第3部、という具合である。


 個人的にはそれぞれのパートによって、ターゲットと語られる本質が異なっていると思うのだが、それがまたそれぞれにまったく違う面白さに繋がっていて興味深い。

 つまり、第1部・第4部に代表される業界分析出版業界関係者に向けて、第2部・第3部で語られる作品分析ライトノベル作家に向けて、読まれるべき内容となっている。作品分析パートは実際の作品を知らないとやや苦しいかもしれないが、知らずに読んでも頷かされる点は多々ある。

(もちろん、どちらの立場でも両方読むことがベストであることは言うまでもない)


 本書にはいくつかの特長があるが、私が思う本書の最大の特長は、「ライトノベル」というエンタテインメントについて、ベストセラーを生む要因がどこにあるのか、外的・内的要因について定量的・定性的な考察からアプローチしている、ということである。


 通常、「この本がなぜ売れたのか」という点について印象論によって語られることはあっても、定量的・定性的な考察からアプローチされることはほとんどなかった。

 それは「面白さ」を定量的・定性的に語ることなどできない、という諦めにも似た前提があったからである。


 しかし著者は本書で、「面白さ」という軸ではなく「なぜ売れたのか」という軸をとことん突き詰めることによって、可能な限り定量的・定性的に語っている。それが面白い

 すべてがうまくいっている、というわけではなく、印象論に近い部分もあるし、定性的な部分に関しては、やや強引な部分も目立つのだが、それを差し引いても真正面から取り組んだ姿勢と、それによって生み出された説得力には素直に拍手を贈りたい。


 そして、その説得力を生み出しているもうひとつの要因が、マーケティングフレームワークに代表される、様々なフレームワークおよびビジネス的な概念の活用だ。

 本書の中には、4Pや5フォーシズといったマーケティングフレームワークをはじめとして、KBFやKSFといった指標、チームビルディングといったマネジメント概念がふんだんに盛り込まれている。

(この辺はいかにも「グロービス経営大学院」という感じだ)


 こうした用語や考え方に慣れていない読者にとっては、逆にとっつきづらい面もあるかもしれないが、個人的にはまさしくこうした知識やスキルこそがこの業界に最も足りない部分であるとも思っているし、これまで多くの業界関係者たちにこうした話をしても、それこそ自分たちの業界からは遠い話としてしか捉えてもらえないことが多かった。

 なので、自分たちの業界マーケティング的に見たら、こうなるのか、ということを知ってもらうためにも是非読んで欲しい。

ライトノベル作家志望者にとっては必要な情報というわけではないが)


 こうした考察に関しては、引用したい部分が多々あるのだが、ありすぎて困る。

 なので、今回はあえて引用はせず、「まあいいから読め、読めばわかるさ」というに止めておく。


 本書で書かれている内容は当然だが「ライトノベル」についてである。

 だからといって「自分業界関係者だがライトノベル担当ではない」とか「そもそも文芸じゃない」とかそういう理由で本書を手に取らないのはハッキリいって愚かな行為だ。

 せっかく著者が、環境分析から市場分析、様々なフレームワークを使っての考察を教えてくれているのだから、それを自分たちのエリアで活かすべきである。文芸だろうが、ノンフィクションだろうが、学術書であろうが、こうしたフレームワークが役に立たないということはありえない。

 この期に及んで「売り上げとか関係ないです。文化なんで。」とか言ってる場合であれば読む必要はないし、「理由なんかなくても売れりゃあいいんだよ」とか言ってるんであれば、おそらく本書を読んでもその価値は理解できないだろう。


 もちろんマーケティングは、すべてを良い方向に導く魔法のツールではない。

 しかし、それを知っていて使わないのと、知らないから使えないのでは大きな違いがある。

 と、同時に「売りたい」と口ではいうのに、何の行動にも出ないのは怠慢と同時に愚かなことである。

 だからこそ、自分たちが今おかれている環境・状況を把握することは大切だし、そのための知識・スキル必須だ。その上で、自分たちになにができるのか、なにをするべきなのかを見出す必要がある。

 出版業界は勝手に息を吹き返しもしないし、電子書籍金の卵でもない。生き残るためには戦略が必要だ。


 引用はしない、と書いたが、一文だけ本書から引用しておこう。

戦略がないことは、不幸である」

(本書 P.306)


 だからこそ、本書は業界関係者に読んでもらいたいし、その上で、自分たちには戦略が、そのための知識とスキルが必要である、ということを感じてもらいたい。


 おまけ:

 個人的には、これまで色々なところでばらばらに聞いていた電撃文庫の個別の戦略についてまとめられていたのが非常に面白かった。

 電撃文庫戦略について、キチンと取材して書けば一冊の本になりそうだし、企業経営者精神論主体のビジネス本なんかよりもよっぽど売れそうだと思った。

 これまで出版業界自身のマーケティングビジネスモデルについて、他業界が学ぶ・真似する、ということは滅多になかったわけだが、電撃の戦略には他業界が学ぶべき要素もありそうだし、ホントに売れるんじゃないだろうか。

 私自身が取材して書きたいよ。

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略

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