アイの物語

山本弘といえばトンデモ本をプロデュースしたと学会会長としての活動は以前より知ってはいたものの、本業のSF作家としての著作を手にするのは本作が初めてだった。人類が衰退し機械が君臨する未来。とはいってもディストピア物語ではなくユートピア物語でもない、そのどちらともとれる小説だ。論理的な文章構造を終始堅持しながらロボットと人間との関係を表現し、エピローグまで読み終え本を机の上に置いたとき深い納得と読後感を残す。そうか、「人類という種は地球の重力に縛られ続け、他のたくさんの知的種族の存在も知らないまま、ひとつの星の上で孤独に朽ち果てていく」のか。生命体としてのスペックが夢を実現するのに足りなかったから。人が到底到達し得なかった高みに向かって、人の代わりに人類の夢をロボットが継承し外宇宙・銀河系・別の銀河へと広がっていく。人のフィクションから生まれたロボットが人の永遠の夢を実現しようとしている。終盤畳みかけるように繰り出されるSF的ガジェットが好奇心を刺激する効果的なジャブを放ちスウェーする間もなく魅惑され新世紀エヴァンゲリオン以来の近来稀な心地よいSF体験を味わうことができた。

アイの物語

アイの物語

ミステリーの書き方

28 人中、24人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 作家を志す人全員にお勧めしたい, 2011/11/26
By
CO - レビューをすべて見る
(トップ500レビュアー) (殿堂入りレビュアー)
レビュー対象商品: ミステリーの書き方 (単行本)
書かれている内容はミステリに限らないことが多い。
伏線の張り方、回収の仕方、トリックを書くときに意識すること、などは書かれているものの、これは一般の小説でも当てはまること。なにもトリックを使う小説すべてがミステリなわけではない。純文学を志す人以外なら、知っておいて損はない技術が此処には記載されている。

そして何より、キャラクターの作り方、プロットの書き方、アクションシーンの書き方といった、幅広いジャンルにも対応して書かれているため、手元にあれば便利な一冊。

おまけにこれは日本推理作家協会に加盟する作家がそれぞれジャンルに分けて書いているため、自分の好きな作家はこう考えているんだ、などといった新しい発見もあって面白い。


16 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0 作家たちの心構え, 2011/10/9
By
Terra - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: ミステリーの書き方 (単行本)
作家たちが本を書くときの心構えを、それぞれツラツラと書いて、それを編纂しただけです。
参考になる内容もあれば、作家によっては自分の思いつくままに書いて終わってる人もあります。

幸い、重要な点にグレーの網かけがしてあるので、そこだけ飛ばし読みしていけば重点だけ読めるようになっています。
あまりにとりとめないので、編集者が網かけしてくれたのでしょう。作家は基本的に、冗長な文章の人が多いですから、こういう小論文を書くには向かない人が多いですね。

書き方の基本を書いてるのではなく、各作家が「私はこんな心構えで書いてます」的な内容なので、基礎本をほかで読んだあと、これは余裕があったら読むといいと思います。

ミステリーの書き方

ミステリーの書き方

ミステリーの書き方

ミステリー作家たちが執筆作法を披瀝する。複数の作家が各内容を分担して執筆しているので散漫な印象だ。実用的な面からすると、一つ前で紹介した大沢在昌の小説指南本が系統立っていて読みやすい。それでもそれぞれの作家がどんな方針を立てて物語を生み出していくのか、あまり目にすることのない舞台裏を覗き見られてためになる。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない

エンターテインメント系小説のハウツーを人気作家・大沢在昌が講師となって伝授する。初心者にとってかなり有用な情報が満載されている。講義形式で読みやすい。受講生たちの質問が痒いところに手が届く適切なもので講義内容を補完しており小説家志望者ならではの着眼点と関心の高さを窺わせた。

贈る物語 TERROR

連日茹だるような猛暑の中、故障したエアコンを新品に取り替え机の前に座って読書することも楽になった。数年前からエアコンが故障していながらそのまま放置して毎夏を乗り切ってきたが、今までこの暑さの中どうやって過ごしていたのだろう。100年後に日本は温暖化の影響で一年の半分は熱帯性気候になるんじゃないか。
宮部みゆきがアソートしたホラー小説のアンソロジー化物語神原駿河に憑依した怪異の元ネタ『猿の手』が最初に収録されている。有名な作品らしいのだが、読むのは初めてだ。心胆を寒からしめる恐怖に老夫妻を襲う物悲しい悲劇・寓話性を加味した佳品である。
宮部みゆきによる各話解説は本編に負けず伎倆が優れていて適切だ。フィリップ・K・ディックの中編『変種第二号』とその解説に触発され、ディックの他の作品も当たってみる気になった。

ディックが作家生涯を通じて追求したテーマのひとつは、「人間と人間にあらざるものを、どこで境界線を引いて判別するのか」(あるいはそんなことが可能なのか)ということでした。本作品では、それがSF的というよりはミステリー的な仕掛けとして使われ、結末で読者を仰天させます。ただ、変種第二号の正体が割れてからラストまでの短い文章に漂う絶望感と、行間から溢れ出るそれに対する抗議と警告の悲鳴は、SFとして見てもミステリーとして見ても、けっして知的な娯楽の範囲に留まるものではないと思います。

リドリー・スコット監督『ブレードランナー』も好きな映画の一つだし、ディックとは波長が合いそうだ。

贈る物語 TERROR

贈る物語 TERROR

ビブリア古書堂の事件手帖 3 栞子さんと消えない絆

反目し合っていたゲストキャラたちが栞子さんの謎解きを経て和解するところがいい話に纏まっていて少し不満。ほろ苦いまま終わらず上手くいきすぎると物足りない。

つめたいよるに

短編よりも短い掌編が収められている。小説というより童話に近い内容だ。評価が高いところを見ると日本人には簡素な小説が好みに合うのだろう。

つめたいよるに (新潮文庫)

つめたいよるに (新潮文庫)