『ディア・ハンター』

この連休には、ブルーレイで『ディア・ハンター』を見た。

二度目の鑑賞。
1978年のアメリカ映画。
監督はマイケル・チミノ
マイケル・チミノというのは問題作ばかり撮っている監督だ(これと『天国の門』が双璧か)。
本作は彼の名を一躍高めた。
ベトナム戦争を描いた映画として有名なのものには、『地獄の黙示録』『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』などがあるが、本作が一番先駆けである。
主演はロバート・デ・ニーロ
とにかく役者陣が豪華だ。
3時間の長尺だが、最初の45分は、主人公の工場労働者たちがパーティで酒を飲む場面が延々と続く。
本当に酔っ払っているような演技で、セリフも何だかよく分からないが、この場面で、主要な登場人物たちの性格や関係性は一通り紹介される。
主役のマイケル(デ・ニーロ)とニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーヴン(ジョン・サヴェージ)の3人は、ベトナムに行くことになってしまった。
そして、スティーヴンは、よりによって戦場へ行く直前に結婚することになったのである。
パーティは、結婚式と、3人の壮行会を兼ねたもの。
ニックは、恋人のリンダ(メリル・ストリープ)に「帰って来たら結婚しよう」とプロポーズする。
でも、実はマイケルもリンダのことが好きだった。
仲間たちはベロンベロンに酔っ払ったまま、鹿狩りに出掛ける。
高山の景色が素晴らしい。
マイケルとニックは、仲間の内でも腕が確かだ。
マイケルは鹿を一発で仕留める。
これが後の重要な伏線になる。
場面は一転、ベトナムの戦場に変わる。
陽気なパーティからの、この切り替えが見事だ。
くすんだ画面。
戦場の雰囲気がよく出ている。
南ベトナムの農民を爆薬で蒸し焼きにするベトコン。
アメリカ軍は、豚が放し飼いになっているのどかな現地の村を焼き払う。
マイケルは、偶然にもニック、スティーヴンと再会するのだが、彼らはベトナム軍の捕虜になってしまう。
そこで行なわれていたのは、世にも恐ろしいロシアン・ルーレット
ゲームに負けた者は、頭を撃ち抜かれて即死だ。
ティーヴンは恐怖で発狂寸前である。
マイケルとニックは、一か八かの知恵を働かせて、スティーヴン共々この場を脱出することに成功するが、ジャングルの急流を丸太につかまって流されるだけで、先の展望は全くない。
そこに米軍のヘリが現れ、3人を助けようとするが、救出されたのはニックだけで、マイケルとスティーヴンは川に落ち、スティーヴンは足を折ってしまう。
この場面は大変な迫力だ。
いつも言うが、CGのない時代である。
ニックはサイゴンの病院で手当てを受けるが、心身を喪失している。
そんな時、街中で怪しいフランス人の男から、ロシアン・ルーレットに誘われる。
これが、彼の運命を奈落の底へと転落させてしまうのだった。
マイケルは、ようやく故郷に帰るが、もう以前の彼には戻れない。
先に戻ったスティーヴンは、両足を切断され、左半身にも麻痺が残り、仲間たちも彼のことには触れたがらない。
ニックを待つリンダも、彼から何の連絡もないので、心の空白は埋めようがない。
チャラチャラとピストルを見せびらかす友人のスタンリー(ジョン・カザール)に怒り狂い、ロシアン・ルーレットを仕掛けるマイケル。
この場面の二人の演技は鬼気迫るものがある。
仲間たちで久々に鹿狩りに出向くも、マイケルは鹿を仕留めることができない。
戦争を経て何もかも変わってしまったということが、最初の鹿狩りとの対比で、見事に表現されている。
マイケルは、ニックのことが気掛かりで、陥落直前のサイゴンへ。
ようやく見付けたのは、変わり果てたニックの姿だった。
と言う訳で、後はネタバレになるので、この辺で止めておく。
公開後、賛否両論、様々な議論を巻き起こした作品だ。
僕は、ベトナム戦争そのものよりも、ロシアン・ルーレットを描いた映画になってしまっているとは思う。
だから、戦争を批判しているのではなくて、ロシアン・ルーレットを批判しているようにしか見えない、と言えなくもない。
しかも、そのロシアン・ルーレットそのものが、そもそも本当に行なわれていたかの確証はないらしい。
けれども、この息の詰まりそうな緊迫感は、凡百の映画で、そうそう表現できるものではない。
それから、アジアの訳の分からない小国の内戦に首を突っ込んでしまった果ての、アメリカが覚えた喪失感のようなものは、画面全体から滲んでいる。
アジア人を蔑視しているという意見もあるが、アメリカ人の立場から見れば、こうなのだろう。
アメリカ映画に有色人種が登場する時は、いつもそうだ。
まあ、それが日本人を描いたものなら、僕も強い違和感を覚えるところだが。
デ・ニーロを始め、アカデミー助演男優賞を獲得したクリストファー・ウォーケンや、癌と闘いながら撮影に挑んだジョン・カザール(目の下の隈が痛々しい。本作完成直前に死去)ら、役者たちの演技もスゴイとしか言いようがない。
欠点もあるかも知れないが、やはり映画史に残る作品であろう。
アカデミー賞作品賞、監督賞、助演男優賞、音響賞、編集賞受賞。