『ローマ帝国の滅亡』

この週末は、ブルーレイで『ローマ帝国の滅亡』を見た。

ローマ帝国の滅亡 [Blu-ray]

ローマ帝国の滅亡 [Blu-ray]

1964年のアメリカ映画。
現題は『The Fall of the Roman Empire』だが、これなら『ローマ帝国の没落』辺りが適当ではないか。
この映画が描いているのは、紀元180年、五賢帝の最後の一人、マルクス・アウレリウス・アントニヌスが息子のコンモドゥスに帝位を継いだ前後である。
高3の時、世界史の偏差値が29で受験を諦めたような僕でも、西ローマ帝国が滅亡するのはこの300年も後だということくらいは分かる。
まあ、「没落」ではパンチがないと思ったんだろうな。
コンモドゥス帝は世界史の教科書には出て来ないが。
ハリウッドの大作史劇は、日本で言えば、大河ドラマのようなものだろうか。
豪華なキャストに巨大なセット、多数のエキストラ、戦闘シーンなどの見せ場、それに、3時間を超える長尺。
当然、多額の費用が掛かっているので、大量の観客動員がなければ赤字になる。
実際、『クレオパトラ』のように、膨大な製作費を回収出来なくて、会社が傾きかけたような作品もある。
しかしながら、ハリウッドのドル箱テーマであったことは間違いなく、パッと思い浮かぶだけでも、前述の2作のほか、『クォ・ヴァディス』『十戒』『ベン・ハー』『スパルタカス』『エル・シド』『北京の55日』なんかがあって、いずれも大ヒットしている。
日本でも、かなり客が入ったようで、手元にある『キネマ旬報ベスト・テン80回全史―1924ー2006 (キネ旬ムック)』によると、『クォ・ヴァディス』は1953年度興行ベスト・テン(外国映画)の3位、『十戒』は58年の1位、『ベン・ハー』は60年の1位、『スパルタカス』は61年の4位、『エル・シド』は62年の4位、『北京の55日』は63年の5位、『クレオパトラ』は64年の1位、『ローマ帝国の滅亡』は同4位と、毎年のようにベスト5に入っている。
大量の動員が必要ということは、分かりやすくなければならない。
一部の歴史マニアしか理解出来ないような小難しい内容では、一般の観客は飽きてしまう。
そのため、この手の作品は、必ずしも史実に忠実ではない場合もある。
分かりやすくするために、色々と脚色しているのだ。
それでも、映画として面白ければ問題ない。
ただ、時には失敗することもある。
ローマ帝国の滅亡』は、どちらかと言うと、失敗した方の例ではないか。
物語は、極めて単純化されている。
ローマ帝国の繁栄を築き上げた皇帝、マルクス・アウレリウス・アントニヌスがいた。
演じるのはイギリスの名優、アレック・ギネス
マダムと泥棒』『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』など、出演作は枚挙に暇がない。
さすがの存在感だ。
アウレリウス帝は死期が近いので後継を選ばなければならない。
彼には息子のコンモドゥスがいる。
しかし、この息子は、あまり頭がいいとは言えない。
そこで、アウレリウス帝は、コンモドゥスの親友であるリヴィウスを後継に指名しようとする。
リヴィウス役はスティーヴン・ボイド。
彼は『ベン・ハー』では敵役だったが、今度は主役だ。
ティーヴン・ボイドも『ミクロの決死圏』や『天地創造』に出ていたな。
後継指名を巡って親友の間に亀裂が入るというのは、お決まりのパターンだ。
結局、嫉妬したコンモドゥス、彼の部下たちの陰謀で、アウレリウス帝は毒殺され、友人思いのリヴィウスは、コンモドゥスを皇帝に推す。
で、さらに、そこに女が絡む。
アウレリウス帝の娘であり、コンモドゥスの妹であるルシラは、リヴィウスの恋人だ。
彼女を演じるのは、イタリアの大女優、ソフィア・ローレン
ソフィア・ローレンも、『クォ・ヴァディス』とか『ひまわり』とか『カサンドラ・クロス』とか、色々出ていたなあ。
で、『ローマ帝国の滅亡』の前には、本作と同じサミュエル・ブロンストン製作、アンソニー・マン監督の『エル・シド』にもヒロインで出ていた。
まあ、彼女を売り出すための何かの策略でもあったのだろう。
このルシラは、リヴィウスを愛しているのに、アルメニアの国王と政略結婚させられてしまう。
でも、またローマに戻って来て、リヴィウスと会ったりするし、後にローマとアルメニアが対立した時、国を取るか、愛する男を取るかという(お決まりの)葛藤はあるものの、どうも脚本がうまくないような気がする。
このアルメニア王はオマー・シャリフ
アラビアのロレンス』や『ドクトル・ジバゴ』にも出ている名優だが、本作では、あまり存在感がない。
前半の舞台は、まるで『蜘蛛巣城』のような木で出来た山城。
リヴィウスコンモドゥスの戦車競走のシーンは、『ベン・ハー』の劣化コピー
戦闘シーンの馬とエキストラの数はスゴイ。
ただ、エキストラたちの動きが悪く、どうも迫力に欠ける。
後半の舞台は、打って変って豪華絢爛、巨大な建造物が林立するローマ。
でも、これも『クレオパトラ』にはかなわないだろう。
後半の、蛮族との洞穴での戦闘シーンはどう見てもセット丸出し。
金髪で粗末な着物を着た蛮族たちは、まるで『猿の惑星』の猿のように、すぐにメイクだと分かる。
ハイライトのリヴィウスコンモドゥスが剣で闘うシーンも、『スパルタカス』にはかなわない。
エル・シド』でもそうだったが、この監督の演出する剣での闘いは迫力がない。
後半は、帝位を継いだコンモドゥスが滅茶苦茶やって、国を危うくし、ローマ帝国に滅亡の危機が迫るというものだが。
話は分かりやすいのだが、イマイチ盛り上がらない。
やはり、『スパルタカス』を降板させられたアンソニー・マン監督には凡庸な映画しか撮れないのだろうか。
彼の『グレン・ミラー物語』は小学生の頃、観に行って、面白かった記憶はあるが。
僕の母は生前、「スペクタクル映画を見たい」が口癖だった。
けれども、何を見ても、結局は「やっぱり『ベン・ハー』にはかなわへんわ」というのである。
まあ、スペクタクルなハリウッド史劇がそんなにたくさんある訳でもないのだが。
ローマ帝国の滅亡』には、『ベン・ハー』の迫力、『スパルタカス』の思想、『クレオパトラ』の豪華絢爛さがない。
ちょっと残念な作品だ。
音楽は良かったけどね。
時々、『日曜洋画劇場』のテーマのようにメロディアスで哀愁漂った曲になる。
それから、哲学者役のジェームズ・メイソンは、切ないけど良かったかな。
海底二万哩』とか『北北西に進路を取れ』ではクセのある悪役、『ロリータ』では変態小説家を演じて、その後が賢人だが、何をやってもいい役者はうまい。