『アパートの鍵貸します』

この週末は、ブルーレイで『アパートの鍵貸します』を見た。

1960年のアメリカ映画。
監督は、『サンセット大通り』『麗しのサブリナ』のビリー・ワイルダー
主演は、『チャイナ・シンドローム』『ハムレット(1996)』のジャック・レモン、『ハリーの災難』『チャンス』のシャーリー・マクレーン
共演は、『スティング』のレイ・ウォルストン。
ユナイテッド・アーティスツ
モノクロ、シネスコ・サイズ。
1959年、ニューヨーク。
主人公のバクスタージャック・レモン)は保険会社に勤務している。
自動タイプライターが動いているので、仕事自体は暇そうだ。
終業時間(17時20分)になると皆、一斉に帰社する。
しかし、バクスターは残業する。
彼のアパートは、セントラル・パークの近くにあった。
夜9時過ぎ、上司と愛人が部屋から出て行くと、やっと帰れる。
要するに、バクスターは、情事用に自分の部屋を上司に又貸ししているのであった。
酒瓶やゴミが散乱する部屋の後片付けもしなければならない。
当然、又貸しなので、隣人や大家には事情を話せない。
ちなみに、隣人は医者である。
これが後の、重要な伏線になるのだが。
バクスター自身は孤独である。
部屋で一人、テレビを付けると、映画『グランド・ホテル』を放映している。
適当にチャンネルを回して、ロクな番組もなく、プレートの食事をオーブンでチンして、コーラで流し込む。
寝ている途中に、別の上司から「部屋を貸せ」と電話が。
断れない。
カギは入り口のドアの前のマットの下に隠してある。
アパートの壁は薄いので、情事の様子は隣に筒抜けである。
(だが、声までは識別出来ないので、隣人は毎晩、バクスターが違う女性の相手をしていると思っている)。
夜中に上司に部屋を貸すハメになったので、バクスターはコートを羽織って、公園のベンチで休むことになってしまった。
何か、学生時代のサークルの溜まり場みたいだな。
僕は結婚してから、一時期、会社の近くに引っ越そうと考えたことがある。
しかしながら、飲み会で終電に間に合わなかった同僚なんかが「泊めてくれ」と言って来そうなので、止めた。
プライバシーも何もあったもんじゃない。
翌朝、公園で寝たから、案の定、バクスターは風邪を引いている。
上司がカギを間違えたので、部屋に入れなかったのだ。
鼻水をすすりながら出勤。
バクスターは、エレベーター・ガールのフラン・キューブリックシャーリー・マクレーン)に声を掛ける。
余談だが、キューブリックという苗字が他にあるんだね。
彼女は、社内の他のオッサンには連れないが、バクスターには笑顔で応対してくれる。
バクスターは、彼女に気がある。
彼は、社内で4人の上司に部屋を貸していた。
交換条件として、彼の出世に協力するとのこと。
ある日、部長から呼び出しを受ける。
エレベーターに乗り、フランに「部長から呼ばれたから、出世の話しかも」と告げる。
部長のシェルドレイク(フレッド・マクマレイ)は、バクスターに「キミは何故人気があるのか?」と尋ねる。
課長連中が揃ってバクスターをほめるのは、何かウラがあるのではというのである。
部長に問い詰められ、バクスターは正直に部屋を又貸ししていることを話す。
部長は、今後他の上司に部屋を貸すのを止めるように告げる。
が、実は自分が部屋を貸して欲しかったんだな。
バクスターは管理職に昇進し、換わりに、部長に(独占的に)部屋のカギを貸すことになる。
そして、今夜の芝居のチケットを2枚もらった。
出世が決まったバクスターは、フランを芝居に誘う。
でも、彼女には先約があるという。
それでも、フランは先約を手短かに済ませて、芝居は観に行くと約束する。
彼女の先約は、何と、シェルドレイクとであった。
彼は既婚者である。
彼女は、要するに、浮気相手だ。
シェルドレイクは、行き付けの中華レストランで、フランに対し、「離婚するからやり直したい」と告げる。
別れ話しを切り出すつもりだったフランは、この言葉に揺れる。
ところが、同じ店にシェルドレイクの秘書がいて、この様子を目撃してしまう。
一方、その頃、バクスターは劇場の前で待ちぼうけを食らっていた。
結局、シェルドレイクは、フランを連れて、ラブホテル代わりのバクスターの部屋へ行くのである。
何という皮肉!
純愛のバクスターに、こんなドロドロした社内不倫の影響が降り掛かるとは。
翌日、昇進したバクスターの元へ、例の4人の上司達が文句を言いに来る。
「どうして、最近は部屋を貸してくれないのか」と。
まあ、そりゃそうなるわな。
適当にごまかし、バクスターはシェルドレイクの所へ、昨晩部屋に落ちていた忘れ物の手鏡を届けに行く。
その手鏡は割れていて、シェルドレイクは「彼女と喧嘩になり、投げ付けられて割れた」と言う。
で、その日はクリスマス・イヴであった。
社内で、仕事もそこそこに、パーティーが開かれる。
酒の勢いなのか、あちこちで抱き合っているカップルがいる。
どんな会社だ!
まあ、社員が3万人もいると、こんなに不倫カップルがあちこちにいるのかねえ。
社員30人のウチの会社にも、不倫カップルはいたらしいが。
バクスターは、待ちぼうけを食わされたことなんか忘れて、熱心にフランを口説く。
彼女はまた、シェルドレイクの秘書から、ある衝撃的な話しを聞かされる。
秘書はシェルドレイクの元愛人であり、「離婚話し」は彼の常套手段だと。
社内には、部長の元愛人がいっぱいいるらしい。
ヒドイ話しだねえ。
本作は、コメディーのはずだが、ちょっと背景がドロドロ過ぎて、笑えない。
正直者は主人公だけのように思える。
しかも、彼は不器用で失敗ばかりしていて、とても気の毒である。
バクスターは、ふとフランが差し出した手鏡を見て、彼女が部長の愛人だと気付く。
小道具を実にうまく使った演出だ。
バクスターはショックを受け、一人、バーで飲んだくれる。
さあ、これからどうなる?
後半、話しは二転三転するが、結末は、まあこれでいいのだろう。
ただ、上に書いたように、素直に笑えない話しではあるが。
余談だが、この時代に既にインスタント・コーヒーがあったんだな。
日本では、ネスカフェゴールドブレンドが登場したのは、60年代後半だと思っていたが。
アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞美術賞(白黒部門)、編集賞受賞。