Hatena::ブログ(Diary)

英文学をゼロから学ぶ

2018-09-22

英語史の参考文献

英文学が英語で書かれたものである以上、英文学の歴史を学ぶには、英語史の知識が必要になります。

そのため、どこの英文科にも英語史の授業が設置されているのですね。

僕の在籍していた大学にも、当然ながら、英語史の授業はありました(僕は受講していませんが)。

このブログで英語史を解説するような高度な芸当は、僕には到底出来ないので、その代わりに、参考文献を幾つか紹介したいと思います。

専門的なものではなく、僕の近所の調布市立図書館でも借りられるようなものを選びました。

入門的なもの

まずは、手軽に読める新書からです。

現在入手可能な英語史の新書は、次の3点があります。

『講談・英語の歴史』

講談・英語の歴史 (PHP新書)

講談・英語の歴史 (PHP新書)

初版は2001年(但し、僕が入手したアマゾンのオン・デマンド版は2014年)。

著者は渡部昇一氏(上智大学名誉教授)。

「まえがき」によると、本書が生まれたのは、次の二つがきっかけだそうです。

一つ目は、著者が旧制中学の頃に英語を教わった佐藤先生の授業中の脱線。

二つ目は、著者が学生の頃、あの福原麟太郎氏が一般人を相手に行なった英文学についての講演の速記録を読んだこと。

これらのことがずっと脳裏にあって、著者は「座談調、あるいは雑談調の英語史を書いてみようか、という気になった」そうです。

昨今は(と言っても、もう30年以上前から)、大学受験の参考書でも、「○○の実況中継」のような、予備校の授業をそのまま活字にしたものが流行っていますが、その英語史版だと思えばいいでしょう。

著者は、本書を「語り下しの英語史」と呼んでいます。

新書という性質上、読者は英文科の学生とは限りません。

英語史や英文学についての知識のない読者に対して、英語の歴史を、実に分かり易く述べているので、入門書に最適だと思います。

英語は、ドイツ語と同じゲルマン語に属しており、5世紀頃にブリテン島に移住したアングロ・サクソン族が話していた言葉です。

英語史には、古英語(オールド・イングリッシュ)、中英語(ミドル・イングリッシュ)、近代英語(モダン・イングリッシュ)という三つの時代区分があります。

古英語は、最初のアングロ・サクソン人の言葉。

現代英語とは、文字も文法も、かなり違っています。

古英語による代表的な文学作品は『ベオウルフ』です。

その古英語が、1066年のノルマン・コンクエスト以降、大量に流入したフランス語の影響を受けて、中英語に変化します。

中英語による代表的な文学作品は、世界史の教科書にも載っている、チョーサーの『カンタベリー物語』です。

この時期になると、文法が簡略化し、語の綴り等は多少違いますが、現代英語にかなり近付きます。

そして、中英語が、15世紀の大母音推移(アクセントのあるシラブルの母音が一つずつ上がり、一番高いところにあった母音は二重母音にする)という変化を経て、近代英語になります。

近代英語の代表は、シェイクスピアと、ジェームズ1世欽定訳聖書です。

この時期に、ロンドン英語を中心に、標準英語が確立します。

英語史については、最初は大まかに、これ位の流れが分かっていれば良いでしょう。

これらのことが、本書では、豊富な具体例を挙げて、説明されています。

英語と日本語を比較しながら解説されているのも良いですね。

イギリスも日本も、どちらも大陸に近い島国で、元々あった言葉(ゲルマン語、大和言葉)に大陸からの教養語(ラテン語、漢文)が影響を与えて、語彙を豊かにしたという類似点があります。

ですから、両者を比較しながら説明されると、非常に腑に落ちるのです。

学問的な英語史なら、もっと説明の詳しい本があるのでしょうが、本書は非常に面白く読めるので、最初の一冊として強くオススメします。

『英語の歴史―過去から未来への物語』

英語の歴史―過去から未来への物語 (中公新書)

英語の歴史―過去から未来への物語 (中公新書)

初版は2008年。

著者は寺澤盾氏(東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻准教授)。

本書は、英語史の入門書としては、過不足なく、分かり易く説明されています。

また、「まえがき」にあるように、図表・写真など視覚的な情報やコラムを随所に取り入れ、肩の凝らない読み物となっていますね。

更に、具体例が実に豊富です。

語彙・綴り字・発音・文法について、古英語からどのような変化の末、現代英語に至ったかがよく分かります。

本書で特筆すべきは、現代英語についての記述の詳しさです。

著者は、「まえがき」で、「英語の歩んできた道程を知ることで、現代英語に対する理解を深めることができる」と述べているように、一貫して、現代英語の理解を深めるための英語史という立場を取っています。

特に、差別語やらIT関係の語彙やらを、「これでもか」とばかり盛り込んでおり、最早、英語史の本を通り越して、現代英語(特に語彙)の解説書と言えるでしょう。

これらによって、今や「国際共通語」となった英語が、これからどうなって行くかを、ある程度予想出来るかも知れません。

副題に「過去から未来への物語」とあるように。

「あとがき」によると、このような内容になったのは、著者が、1980年代の後半にアメリカへ留学した経験を通して、「現代でも英語は変化し続けていることを改めて認識させられたから」だそうです。

余談ですが、本書の出版(元になった連載)を著者に勧めたのは斎藤兆史先生であり、堀田隆一氏(中央大学文学部助教)は著者の教え子なのだとか。

巻末の「文献案内」「英語史年表」も充実しています。

新書1冊で英語史の概略を知りたいなら、本書一択でしょう。

『英語の歴史』

英語の歴史 (講談社現代新書)

英語の歴史 (講談社現代新書)

初版は1989年。

著者は中尾俊夫氏(津田塾大学名誉教授)。

僕が学生の頃には既に出ていた本です。

「まえがき」には、本書の目的として、「歴史的視点から今日の英語の成り立ちやその動的な構造を明らかにしようとすること」とあります。

そのために、「現在の英語の例えば文法や発音を出発点とし、時間を過去にさかのぼっていったとき、それらはどのように過去に反映されているかに焦点をあて、述べていくことにした」とのことです。

英語史の勘所を、新書サイズで、よく網羅しているとは思います。

ただ、現代英語からさかのぼる記述なのが、非常に本書を読みづらくしているのです。

やはり、「歴史」というのは、古い時代から順に語ってもらわないと困ります。

現代英語のみに関心がある人なら良いのでしょうが。

なお、巻末の「英国史・世界史対照年表」は古い時代からになっています。

ただ、もう少し具体的な文学作品を挙げてあれば、もっと役に立つでしょう。

英語史と英文学史は、切っても切り離せないのですから。

という訳で、英語史を学ぶための最初の一冊としては、本書はオススメしません。

ある程度、英語史を学んだ人が知識の整理のために読むというのなら、良いのかも知れませんが。

むしろ、入門書としては、同著者(共著)の『図説 英語史入門』(後述)を読んだ方が良いでしょう。

教科書的なもの

大学の英語史の授業のテキストとしても使われているような、ポピュラーなものを2冊、紹介します。

『図説 英語史入門』

図説 英語史入門

図説 英語史入門

初版は1988年。

著者は、中尾俊夫氏(津田塾大学教授)、寺島廸子氏(浦和短期大学専任講師)。

古典的な英語史の教科書です。

「まえがき」に、「できるかぎり分りやすく、簡潔な記述になるよう努めた」とあるように、必要な事柄だけを、実にコンパクトにまとめてあります。

必要以上に細かいことは書かれていません。

具体例も最低限必要なものだけに絞ってあります。

だから、入門書にはもってこいでしょう。

かと言って、決してレベルが低い訳ではありません。

やはり「まえがき」に、「英語史の理解に必要十分な情報を提供することを目標とした」「本書は入門的英語史ではあるが、英語史を本格的に研究しようとする人のために、英語史に関する最新の情報、問題点のありか、研究のヒントも盛り込んである」とあるように、設定された到達点は高いです。

また、タイトルに「図説」とある通り、図や表や写真を多用しているので、興味深く、理解の助けになります。

80年代後半と言えば、未だ大学に権威主義的な色は残っていたでしょうが、実に思い切って学生目線に徹した教科書です。

章立ても、オーソドックスに、世界の言語を簡単に概説した後、古英語、中英語、近代英語、現代英語の順に述べています。

学部の学生なら、この本に書かれている程度の英語史の知識が頭に入っていれば、十分でしょう。

専門にする人は、もっと詳しい本を読めばいいだけです。

昔は、この本を1年掛けて読んだのですね。

昨今の大学の授業は半期しかありませんが、何らかの学問を体系的に学ぼうと思ったら、幾ら入門でも、半期では足りないと思います。

『英語史入門』

英語史入門

英語史入門

初版は2005年。

著者は橋本功氏(信州大学人文学部教授)。

本書は、完全に教科書です。

昨今の大学の授業は半期で終わりますが、これだけの内容を消化出来るのでしょうか。

これまでに読んで来た新書や教養書とは違い、教科書なので、内容が詳しいです。

まずは、イギリス史を解説しながらの英語史の展開。

高校世界史の復習にもなりますが、非常に詳しいです。

ただ、この概説は中英語期の途中までしかありません。

アルファベットの歴史、主な方言、外国語との接触。

それから、文字と音声、語形、統語法。

最後に、アメリカ英語と聖書の英語に触れています。

ただ、全体として、現代英語の内容が手薄です。

やはり、現代英語については、別の授業を取れということなのでしょうか。

余談ですが、本書の口絵は、『欽定訳聖書』とシェイクスピアのファースト・フォリオの表紙です。

やはり、英語史で最も重要なのは、聖書シェイクスピアということですね。

専門的なもの

一口に「専門的」と言っても、色々あると思いますが、概説的なものではなく、ある切り口から書かれた本というつもりで、下の3冊を紹介します。

『英語の帝国 ある島国の言語の1500年史』

英語の帝国 ある島国の言語の1500年史 (講談社選書メチエ)

英語の帝国 ある島国の言語の1500年史 (講談社選書メチエ)

初版は2016年。

著者は平田雅博氏(青山学院大学文学部史学科教授)。

本書は、英語史というより、最初はイングランドでしか話されていなかった言葉が、どのようにして世界中に覇権を広げて行ったかを述べた本です。

いわゆる「英語帝国主義」の観点から書かれています。

著者は、英語学の専門家ではなくて、歴史学者です。

従って、上で「専門的」と書きましたが、英語学が専門でない一般の方が読んでも、十分に理解出来ます(しかも、面白いです)。

イングランドで話されていた英語は、ブリテン諸島全体に広がり、更にはインドアフリカへ。

人間は、基本的に母語でしか思考出来ません。

ある地域で、ある言語が他の言語に取って代わるには、主に次のような要因があります。

まず、政治的な要因。

例えば、日本がアメリカに占領され、日本語の使用を禁止されるというような場合です。

次に、宗教的な要因。

例えば、日本の国教がキリスト教になり、聖書の日本語訳が禁止され、英訳聖書しか使えない場合など。

それから、教育。

例えば、学校での教育が全て英語でなされるようになった場合。

あと一つ重要なのが、経済的な要因です。

例えば、英語が出来ないとまともな職に就けないとか、出世出来ないなど。

こうなると、先の教育にも関わって来て、親達は自分の子供に、必死で英語を身に付けさせようとするようになります。

イギリス植民地では、このような過程を経て、英語が広がって行きました。

しかし、かと言って、完全に置き換わった訳ではありません。

ブリテン(日本で一般に言うイギリス)でも、ウェールズスコットランドアイルランドでは、今でも英語と現地語が併用されているそうです。

これは、少々意外でした。

でも、考えてみると、仮に、日本で明日から日本語の使用が禁止されたとしても、大多数の人は英語など話せません。

歴史的に、ある支配言語が使える層と使えない層では、階層が二極分化しました。

かつての学術語であったラテン語然り。

イギリス植民地になったインドでは、一部のエリート層が必死で英語を勉強しました。

それでも、ネイティヴのようには話せません。

ただ、文法から入ったから、読み書きはきちんと出来るようになりました。

翻って、現代の日本。

まるで、わざわざ英語の植民地になろうとしているようではありませんか。

英語を公用語にしようと言い出したり、小学校から英語を教えたり、英語の授業は英語で行うように決められたり。

TOEICの点数が低ければ、入社も昇進も出来ず、親達は必死で子供を英会話スクールに通わせたり。

著者は、序章で、本書を読んでも、「英語を話せるようになるのにはよくて遠回り、迂回路、悪ければ邪魔、役立たずでしかない」と書いています。

それでも、英語を学ぶ人は、こういう英語拡大の歴史を知っておく必要があるでしょう。

盲目的な英語崇拝に陥らないために。

聖書でたどる英語の歴史』

聖書でたどる英語の歴史

聖書でたどる英語の歴史

初版は2013年。

著者は寺澤盾氏(東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻教授)。

これは素晴らしい本です。

英訳聖書を使って、英語の歴史を解説しています。

僕は、恥ずかしながら、英訳聖書と言えば、『欽定訳聖書』位しか知りませんでした。

しかし、古英語、中英語の時代にも、聖書の英訳はあったそうです。

聖書というのは、万人に理解されないといけないので、比較的易しい英語で書かれています。

しかも、特にキリスト教徒でなくても、誰でも知っているような話しがたくさんあるのです。

その、誰でも知っている話しを、時代別に並べて、比較的易しい英文で眺めると、英語の変遷が実によく体感出来ます。

英文学史では、古英語は『べオウルフ』、中英語はチョーサー、初期近代英語はシェイクスピアというのが定番ですが。

それらは文学作品なので、敷居が高いです。

本書は、英語史を学ぶには、格好のテキストだと言えるでしょう。

実際、大学のテキストとしても使えるように作られています。

本書の基になったのは、東大や慶応の講義だったとのこと。

そして、著者はクリスチャンなのだそうです。

ですから、聖書を題材に英語史の本を書こうと思い付いたのでしょう。

後半の現代英語の項では、著者お得意の、ベーシック・イングリッシュ、ピジン英語、差別語排除等の聖書も紹介されています。

また、付録が良いです。

特に、「OEDの使い方」は英文科の学生には必読でしょう。

僕は、恥ずかしながら、OEDを持っていない(細君の購入許可が下りない)ので、ロクに開いたことがありません。

けれども、本気で英語・英文学の歴史を研究したければ、必須でしょう。

それから、古英語・中英語の文献案内は、こういう風にまとめてくれると助かります。

著者の『英語の歴史』(中公新書)で英語史の概略を押さえたら、次は本書で実践でしょう。

『スペリングの英語史』

スペリングの英語史

スペリングの英語史

日本語版の初版は2017年。

著者はサイモン・ホロビン氏(オックスフォード大学モードリン・カレッジ・フェロー)。

翻訳は堀田隆一氏(慶應義塾大学文学部教授)。

訳者は気鋭の英語史学者で、僕も著書を2冊ほど読みました。

本書は、一応一般向けに書かれているそうですが、実質は英語史の専門書です。

原著はかなりの大部だと思われます。

訳書はハードカバーで300ページほどですが、文字がぎっしりと詰まっていて、読むのに骨が折れました。

英語史の初歩的な知識があると理解し易いです。

日本語でも、漢字や仮名遣いを間違えると、知性を疑われますが、英語でもスペリングを間違えると、同じことが起こるのですね。

あるアメリカ副大統領が公衆の面前でスペリングを間違えたことによって、実質的に政治生命を絶たれた(小池や前原のように)エピソードで、まずは読者の気を引きます。

著者の専門は英語史、中世英語英文学です。

興味深かったのは、イギリス人から見ると、中国語や日本語には未だに絵文字が使われているという箇所。

つまり、漢字は「絵文字」なんですね。

まあ、確かにそうなのですが、改めて言われると、「意外」というか「なるほど」というか…。

それから、イギリスでも、チョーサーの原文は大学の英文科で読むものなのだそうです。

シェイクスピアは中等教育で必修だそうですが。

日本のように、『源氏物語』みたいな1000年前の古典を、高校段階で原文で習うというのは、世界でも珍しいとのこと。

チョーサーなんて、たかだか6〜700年前ですしね。

初期近代英語のサンプルとしては、『ハムレット』が挙げられています。

英語の綴りは、どうしてこうも複雑なのでしょうか。

発音と綴りが甚だしく乖離しています。

同じ印欧語でも、ドイツ語やラテン語は、発音と綴りとの対応がもっと規則的です。

ちょっと英語史をかじれば分かりますが、英語はラテン語やフランス語から多大な影響を受けています。

そもそも、キャクストンによって活版印刷の技術が確立されるまでは、決まった綴りはありませんでした。

方言によって綴り方もまちまちな写字生が思い思いに綴っていたのです。

欽定訳聖書や、ジョンソンの英語辞典など、様々な段階で、ようやく綴りは固定化されました。

著者は、英語史の歴史から鑑みて、そんなに綴りの間違いに目くじらを立てるなと言っています。

英語の綴りを発音と一致させようという動きは、これまでにも度々ありましたが、いずれも失敗しているのです。

発音と綴りを一致させるのは、方言もあるし、これだけ英語が世界語化してしまった以上、一筋縄では行きません。

ドイツ語では、つい20年ほど前、国家が「新正書法」というのを定めました。

概ね、エスツェットがssに代わる程度の変化でしたが、大混乱を来たしたそうです。

僕は、ちょうどこの頃、ドイツ語を勉強し始めた頃だったので、「新正書法対応」の辞書を探すのに躍起になりました。

僕の細君は、学生時代、旧正書法でドイツ語を習っていますが。

しかし、少し学習が進むと、この新正書法とやらにこだわることは何の意味もないということが分かりました。

だって、ゲーテヘルマン・ヘッセも、偉大な文学作品は皆、旧正書法で書かれているのですから。

上から綴りを変えさせるのは難しいです。

国家権力が強引に推し進めると、反発がスゴイですね。

一気に変えるには、学校教育によるしかありませんが、そうすると、新しい綴りで教育された世代は、古い文学が読めなくなります。

日本だって、戦後すぐ位までは、旧仮名遣いでした。

僕は高校時代、旧仮名遣いで書かれた筑摩書房太宰治全集を読破したので、大分慣れましたが。

チョーサーの原文などを読んでいると、暗号の解読みたいなものですから。

英語の歴史を振り返ると、現代の綴りが決して絶対的なものではないことが分かります。

言葉は徐々に、自然に変化するのです。

その他の読み物

英語史に興味を持つために役立つ本を、雑学的なものからやや専門的なものまで5冊、紹介します。

『英語の謎 歴史でわかるコトバの疑問』

初版は平成30(2018)年。

著者は、岸田緑渓氏(元セント・アンドルーズ大学客員研究員)、早坂信氏(元学習院大学外国語教育研究センター教授)、奥村直史氏(山梨大学大学院総合研究部教育学域准教授)。

中学生が抱きそうな、英語に関する素朴な疑問がたくさん並んでいますが、解説は英語史の観点から深く掘り下げられています。

入門書というより、英語史の基本を学んでから、具体例を知るために読むと良いかも知れません。

『英語とは何か』

初版は2018年。

著者は南條竹則氏(東京外国語大学講師)。

英語史を紐解きながら、言葉の奥深さを説いています。

我々日本人は、英語とどのようなスタンスで向き合えば良いのでしょうか。

必要以上にひれ伏さず、かと言って甘く見ず。

著者の主張が実に興味深く、納得出来る本です。

『英単語の世界―多義語と意味変化から見る』

初版は2016年。

著者は寺澤盾氏(東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻教授)。

本書は、英単語という材料を使った英語史の入門書です。

同著者による『英語の歴史』(中公新書)の続編のような本ですね。

しかし、多くの英語学習者にとって切実な英単語をテーマにすることによって、万人向けの本になりました。

ある単語(特に多義語)が、ある意味を持つようになったのはいつの時代で、それがどのように他の意味に派生して行ったかを、歴史的に語っています。

その語り口は、古英語、中英語からラテン語、ドイツ語、フランス語まで挙げながら、縦横無尽です。

特に、日本語との比較が多く、イメージがつかみ易くなっています。

OEDからの引用も豊富です。

昔、一世を風靡した『試験にでる英単語』(青春出版社)には、巻末に「スーパー記憶術――これだけで絶対の語源集」と銘打って、接頭辞やら接尾辞やらを羅列した章がありました。

本編の単語すらロクに覚えられなかった僕は、到底こんな所まで手が回りませんでしたが。

優秀な受験生は、語源を覚えて、語彙を増やしたのでしょうか。

伊藤和夫先生(元駿台予備学校英語科主任)は、『伊藤和夫の英語学習法』(駿台文庫)の中で、「こういうとらえ方で迫れる単語が主としてラテン語系の単語で英語の単語のすべてではない」と仰っていますが。

もし、僕が受験生の頃に『英単語の世界』を読んだら、もっと学問的な観点から、英単語に興味を持ったかも知れません。

本書は、最後に「一語一義主義―多義語と英単語学習―」という章を設け、『英単語ターゲット1900』旺文社)を例に挙げて、大学受験界にはびこる「一語一義主義」を批判しています。

頭を少し柔らかくすれば、多義語の他の意味を類推出来ると著者は言いますが、それは、英語に触れた絶対量が圧倒的に少ない大学受験生には無理な相談でしょう。

結局、多くの英文を読み、辞書を引きながら、少しずつ身に付けるしかないのが、英単語学習です。

ただ、この章があるために、本書の購買層を大学受験生にまで広げることが出来たのではないでしょうか(今の受験生が中公新書を読むかは知りませんが)。

著者は、古い英語史だけでなく、現代英語にも精通しているので、本書は、実用的な英語学習にも役立つと思います。

『英語史で解きほぐす英語の誤解―納得して英語を学ぶために』

初版は2011年。

著者は堀田隆一氏(中央大学文学部教授)。

本書は、英語にまつわる素朴な疑問を英語史の観点から解きほぐしています。

同著者の『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(研究社)の姉妹編のような本です。

巻末に「教養書」とあるように、教科書的な記述ではありません。

それでも、英語を学ぶ者なら誰でも抱くような素朴な疑問に答えつつ、自然と英語史の基本を押さえられるようになっています。

大事なことは、「言葉は変化する」ということ。

それから、「言語に優劣はない」ということ。

英語が現在のように「世界共通語」となったのは、たまたまイギリスアメリカが政治・経済・文化的に力を持っていたからに過ぎません。

本書で英語史に入門したら、もう少し概説的な本を読むと良いでしょう。

そのために、巻末の「文献案内」が役に立ちます。

『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』

英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史

英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史

初版は2016年。

著者は堀田隆一氏(慶應大学文学部教授)。

この方は最近、英語史関連で興味深い本を多く出しています。

本書は、慶應英文科での英語史の授業が元になっているそうです。

一般の英語史の教科書のような通史的な部分は最初の章に簡潔にまとめてあります。

本書は、それよりも、英語を勉強している人が抱く素朴な疑問に英語史の観点から答えるということが主眼になっているのです。

ですので、「教科書」ではなく、敢えて「読み物」の方に入れました。

例えば、「なぜ3単現に-sを付けるのか?」

中1の1学期(もしかして、最近は小学校?)に習う最も基礎的な文法事項なのに、その理由を説明出来る人はほとんどいないでしょう。

中学や高校で習って、理由も分からず暗記するしかなかった項目への疑問が氷解するのは楽しいです。

とは言え、専門的な内容もあります。

「はじめての英語史」とあるが、本当に初めてだと、ちょっと辛いかも知れません。

導入はいいのですが。

本書の巻末には、英語史に関する「読書案内」があります。

英語の文献が幾つも挙げられているが、そんなものは英語史を研究している院生に任せておけば良いでしょう。

一般の読者には関係のないことです。

初心者は、中公新書の『英語の歴史』辺りをまず読んで、アウトラインをつかむのが良いでしょう。

英語史の知識は、英文科の学生には必須だが、それで卒論を書くのでもない限り、大まかな内容さえ理解していれば十分だと思います。

投稿したコメントは管理者が承認するまで公開されません。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/shakespeare-ni-naritai/20180922/p1