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英文学をゼロから学ぶ

2011-01-19

世界史の教科書に載っている英文学作品

高校時代、世界史は興味のある科目でしたが、暗記が苦手だったため、成績は最悪でした。

定期テストは常に赤点スレスレ。

模擬試験を受けたら、偏差値が20台だったので、受験科目にするのは諦めました。

そんな僕でも、人並みに世界史の勉強をしていたことはあります。

ある時、河合塾の青木裕司という先生が書いた参考書に、次のような記述がありました。

「大学生になったら、古典を読みなさい。古典とは、平たく言えば、世界史の教科書に載っている本のことです。」

当然のごとく、学生時代の僕は先生のアドバイスには全く従わなかったのですが、この言葉だけは、20年近く経った現在でも、なぜか心に残っています。

そこで、英文学をゼロから学ぶにあたって、世界史の教科書に載っている英文学作品(=古典)には、どのようなものがあるか、調べてみました。

大昔からの定番教科書である山川出版社『詳説世界史』の最新版を見たところ、タイトルが明記されているのは、わずか8作品しかありませんでした。

しかしながら、英文科の卒業生でも、この8作を全て原文で読んだという人は、まずいないと思います。

いや、翻訳ですら、全部読んだ人は少ないかも知れません(僕もほとんど読んでいません)。

けれども、以下に挙げる作品は、いずれも英文学史上、極めて重要な作品ばかりです。

まずは、中世の騎士道物語の代表『アーサー王物語』。

これについては、世界史の教科書には著者名が記載されていませんが、手元のイギリス文学史のテキストによると、最も有名なのはトマス・マロリーの手になるものだそうです(1485年頃)。

これは本邦初の完訳版で、全5巻。

読むとしたら、図書館で借りるしかないでしょう。

いつか、ちくま文庫で刊行されることを期待します。

次に、中世詩人・チョーサーによる『カンタベリー物語』(1387年頃)。

完訳 カンタベリー物語〈上〉 (岩波文庫)

完訳 カンタベリー物語〈上〉 (岩波文庫)

岩波版は全3巻です。

この作品は、「中英語」という英語の「古文」で書かれているため、現代英語とは文法や単語が異なります。

そのため、特別に中英語の勉強をしなければ、読むことはできません。

僕が通っていた大学には中英語の授業がありましたが、脱落者続出のハードなクラスだったようです(もちろん、僕は選択していません)。

それから、ルネサンス期の思想家トマス・モアによる『ユートピア』(1516年)。

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

これは、いわゆる「文学」の範疇に入れるべきなのでしょうか。

大学の英文科の授業で読まれているという話は、あまり聞きません。

さあ、いよいよ我らがシェイクスピアの登場。

シェイクスピアだけは、2作品のタイトルが掲載されていました。

1本目は、喜劇の代表作として『ヴェニスの商人』(1596年頃)。

ヴェニスの商人 (新潮文庫)

ヴェニスの商人 (新潮文庫)

ヴェニスの商人』は翻訳でしか読んだことがありませんが、いつかは原文を読みたいものです。

2本目は、悲劇の代表作『ハムレット』(1600年頃)。

ハムレット (新潮文庫)

ハムレット (新潮文庫)

正に今、原文を読んでいます。

難しいです。

シェイクスピアの作品は、大半の大学の英文科で必修になっているので、何らかの形で原文を読んだ人も多いでしょう。

それにしても、世界史の教科書には、チョーサーとシェイクスピアが「ルネサンス」という括りで同じページに載っています。

何という大雑把な分類でしょうか。

日本文学に例えて言えば、『奥の細道』と『坊っちゃん』を同じページに載せるようなものです。

かなり違和感があります。

続いて、シェイクスピアと並び称される英文学史上の偉大な詩人ミルトンによる『失楽園』(1667年)。

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

全2巻。

ここからは少し聖書絡みです。

ミルトンの作品を原文で読むのは、かなり難しいようです。

一読しただけでは、ほとんど意味が取れない英語だと聞きました。

帝国大学(現・東京大学)でシェイクスピアを講義していたという、あの夏目漱石ですら、ミルトンの作品のことを「あれは私の嫌いな本です。あれほど判らない本はない」と言っています。

注釈書も少ないため、英文科でも、学部レベルで読まれることはあまりなく、大学院の授業で読まれることが多いようです。

さらに、ジョン・バニヤンの『天路歴程』(1678年頃)。

天路歴程 正篇

天路歴程 正篇

全2巻。

これについては、英文科で読まれているかどうかはさっぱりわかりませんが、おそらく、ほとんど読まれていないでしょう。

18世紀になり、ついに小説が登場。

デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(1719年)です。

ロビンソン・クルーソー〈上〉 (岩波文庫)

ロビンソン・クルーソー〈上〉 (岩波文庫)

僕は今、この作品の翻訳を読んでいます。

これは、戦前の旧制中学における英語の副読本として、非常に多くの生徒に読まれました(もちろん原文)。

ハンバーガーの買い方しか教えない昨今の中学校英語と比べて、何という違いでしょうか。

もちろん、エリートのみが進学する旧制中学と、義務教育である新制中学との、制度上の違いは心得ているつもりですが。

戦前の中学では、現在の英文科も顔負けの授業が行なわれていたということです。

当時の英語教育のレベルの高さには舌を巻きます。

英語の授業時間数も週6時間(つまり毎日)ありました。

今の公立中学では、「英語を使える日本人」などという壮大な目標を掲げるクセに、授業時間数は週にたったの3時間しかありません。

お笑いですね。

現行の英語科のカリキュラムを作った人は何か大きな勘違いをしています。

話がそれてしまいました。

世界史の教科書にタイトルが載っている最後の英文学作品はスウィフトの『ガリヴァー旅行記』(1726年)です。

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

これも、戦前の旧制中学における英語の副読本として、人気の作品でした。

僕は大昔に、子供向けの本か何かで読んだきりです。

情けない。

世界史の教科書にタイトルが載っているのは以上の8作だけです。

サッカレーとかディケンズとか、その辺りになると名前すら出てきません。

英文学を志す者としては以上の作品は読んでいて当たり前のものばかりでしょう。

僕も早急に翻訳を読みたいと思います。

そして、いつかは原文で。

【追記】

2013年に発行された教科書『詳説世界史』(山川出版社)の最新版の「19世紀欧米の文化」という項目には、以前は載っていなかった英文学作品が新たに取り上げられています。

作家と作品は以下の通りです。

『チャイルド・ハロルドの遍歴』(バイロン

1812年に発表された作品です。

夏目漱石が在籍していた頃から、帝国大学の英文科で読まれていました。

有名な作品ではありますが、現在日本で発行されているのは大学教科書用の上の版しかありません。

しかも、全4巻の予定が、3巻までで出版が止まっています。

同時代の詩人だと、ワーズワースやコウルリッジなど、他にも著名な作家がいると思うのですが、何故バイロンが選ばれたのでしょうか(ちなみに、手元にある山川出版社の『世界史B用語集』には、ワーズワースとスコットも載っています)。

オリヴァー・トゥイスト』(ディケンズ

オリバー・ツイスト〈上〉 (新潮文庫)

オリバー・ツイスト〈上〉 (新潮文庫)

1837〜39年に発表。

ディケンズは著名な作品を多く持つ作家ですね。

他にも、『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コッパフィールド』『大いなる遺産』等があります。

しかし、何故教科書には『オリヴァー・トゥイスト』の名前だけが載っているのでしょうか。

確かに、複数の作品名を載せているのはシェイクスピアだけ(でも、『ハムレット』と『ヴェニスの商人』しか載っていません。『ロミオとジュリエット』は?『オセロー』は?『マクベス』は?『リア王』は?)なので、それ以外の作家は代表作を一人につき一つだけ載せるという方針なのでしょうが。

用語集には他にサッカレーの名前も載っていますが、『詳説世界史』には出て来ません。

英文学には、高名な作家が他にもたくさんいます。

ほとんどの高校生は、教科書に出て来ない限り、一生名前すら聞くこともないでしょうから、もっと多くの作家・作品を挙げて欲しいものです。