『なつき☆フルスイング! ケツバット女、笑う夏希。』(電撃文庫)

ケツバット女。

なんとも興味引かれるワードじゃないですか、

ケツバット女。

はい、というわけで電撃文庫13期の新人4人がデビューの今月。受賞作発表時全ての話題をかっさらったのは<銀賞>『ケツバット女、笑う夏希。』でした。刊行に際してサブタイトルになってしまいましたが……

このサブタイトル(さらに本タイトルも『なつき☆フルスイング!』とアレげな感じ。「☆」が真ん中に入るだけで地雷臭がしませんか?)で、表紙も胸がやたら強調されている下手すれば下品とも取られそうな原色眩しい女性の1枚絵。

うっわぁ、すごく地雷のにほひがするナリ…

でも(正確には「だからこそ」?w)新刊7冊を買って真っ先に読みました。


……あれ、ちゃんとしたストーリーじゃないですか。


あれ? 夢(目標)を失った思春期の少年少女がそれを乗り越えていくという割と真っ当な青春モノで、明るく清清しく至極真っ当に面白い話ですよ? あれ?


人の心の隙間に入り込み、その人が望む「幻」を見せる「夢魔」。昼間であろうと辛い現実や過去を忘れさせ安寧をもたらすが、反面精神は衰弱していく。その夢魔を体から追い出し、消滅させるのは風来の横暴台風女・夏希のケツバット――


登場人物は固定ながら、ストーリーとしては3話オムニバス(夢魔3体)なので1話あたりが短くサクサクと読んでいけます。文章も特に詰まることもなく、読みにくいこともなく及第点。キャラクターはややデフォルト設定のままかなぁ、という印象ながらもイラストの補助もあって1人の人物として認識できます。ケツバット女は真っ向からの全力投球で清清しいし、ツンクールな幼馴染(黒髪ツインテール、細い)も好ましいです。

そういえばこの幼馴染、「子供の頃からずっと想い続けて云々」という設定がデフォルトのこの業界において「子供の時にバレンタインデーチョコとか渡したけど、あれは単に一番近い男の子だったからで、成長して改めて考えると別に恋愛感情じゃないなぁ」と距離を置くようになっているというのが逆に新鮮で良かったです。他にもカラーページに載ってる某女の子が主人公以外のイケメンと恋人関係だったり、お色気おねーさんが別の男を連れ込んでいる描写があったり、ラノベ・ギャルゲ業界(=キャラクターコンテンツ)の「暗黙のお約束」(ヒロインはフリー)を気にしていないあたり些細なことながら興味深い。


一応この1冊で最初から最後(クライマックス)まで、ということで3話目がやや唐突で、ストーリーといいキャラクター感情といい、でこぼことまだちゃんと舗装されていない道路な印象。その前の2話目が綺麗な作りだっただけに尚更”粗い”感じ。あと個人的に嫌いな「考えなし正義感で突っ込み周りの迷惑鑑みないバカ主人公」に陥ってしまったのが残念でした。気になったのはそれくらいで全体としてテーマの筋が通っているし、ネガティブな感情を乗り越えさせる清清しいストーリーは心地良かったです。キャラクターも悪くないし。特にクーデレ幼馴染がね(←割とツボだったらしい)。

と、かなり高評価なんですが……かえすがえすもなんでこのタイトル…とめろよ。とめてやれよ編集…たぶん今期一番「タイトルで損したラノベ」確定だろうなぁ。(2番目はサンササン。でもあれは内容とマッチしていたのでおk)

なつき☆フルスイング!
樹戸 英斗〔著〕
メディアワークス (2007.2)
通常24時間以内に発送します。