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2016-06-26 途上国に始まり、EUに終わる? このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

f:id:shavetail1:20160626083430j:image:w250:right今日も英国EU離脱報道がまだ続いています。 英国はもちろんですが、英国での離脱派勝利から、ドイツ以外のEU主要国内でもEU離脱派が勢いづいているようです。
各国内でも、ドイツに牛耳られて一挙手一投足に規制を入れてくるEUに対する不満が大きくなっているのでしょう。

ただ、EU英国を準加盟国扱いにするという情報もあり、ノルウェー、あるいはカナダに準じて処遇するとすれば、英国に対して常識的な幅の中でオプションを提示して、離脱させるという流れになるとすれば、英国の離脱問題自身は不透明性が高い今が問題のピークなのかもしれません。

それに対して主要加盟国から離脱運動が盛んになっているEUのあり方こそ、今後の焦点となっていくのではないでしょうか。

ところで、2011年秋ごろ、リーマン・ショックで個人は多額の負債を抱えたまま放置されているのに、サブプライムローンを売った側の大手金融機関の多くが救済されたという不公平などの理由から、ウォールストリートが占拠されたことがありました。 

あのウォール・ストリート占拠運動もまた、直接的には欧州内に渦巻いていたEUに対する不満が米国に飛び火して発生したものでした。
その占拠運動の主導者のひとりは、デビッド・グレーバーという人物で、活動家でもありますが、本職はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学教授です。*1

彼は人類学調査で赴いたマダガスカルで、経済危機によりIMFから多額の債務を受けざるを得なくなりその代償として厳しい緊縮財政を強いられ、マラリア駆除の予算さえ削減されて、人々の命が緊縮政策の犠牲になる状況を目の当たりにしました。

この経験により、本職の人類学の研究から負債貨幣の関連、およびマダガスカルの状況から負債と緊縮政策との関連について深く関心を持った結果、前者からは現在の経済学に対する強い疑問をいだき、後者から活動家にも進んだようです。 

シェイブテイルとしては、グレーバーはこう考えたのではないかと思います。 
「現在の経済学の基本的な誤りから、世界中に間違った緊縮政策がはびこり、人々を苦しめている」と。

さて、グレーバーの活動家面についてはおくとして、人類学の研究からは2011年に重要な一冊の本が書かれました。 Debt: The First 5000 Yearsという本です。
とても興味深い本なのに500ページほどの原書で、買って読めずにいましたが、この本の骨子について解説した文献を文化人類学者の松村圭一郎氏が現代思想に書いてくれていました。*2
この文献もとても短いという訳ではありませんが、更に骨子に当たる部分を引用します。

(以下引用)
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貨幣負債の起源
貨幣の起源を語る経済学者にとって、負債はつねに貨幣のあとに発達したものだった。ずっと人類学がその誤りを指摘してきたにもかかわらず、経済学的には、信用貸しと負債は純粋に経済的な動機から生じるとされた。だから、負債貨幣以前に存在するとは認められなかったのだ。経済学者は、交換の媒体としての貨幣が登場するまで、人びとは物々交換をしていたと考えた。社会が複雑になるにつれ、直接的な物々交換は煩雑になる。貨幣が媒体となってはじめて、市場が生まれ、取引がうまく機能するようになった。グレーバーは、この神話が想像の産物にすぎないという。

 未開の物々交換を貨幣代替していくという神話の基礎をつくつたのが、アダム・スミスだった。スミスは、貨幣政治体制によってつくられたという考えを否定し、それ以前に貨幣と市場が存在していただけでなく、貨幣と市場こそが人間社会の基礎であると主張した。人間だけが、ある物を他の物と交換し、そこから最大の利益を得ようとする。その人間の性質が労働の分業につながり、人類の繁栄と文明をもたらした。政治の役割は、貨幣の供給を保証するなど限定的なものにすぎない。このスミス観点が、経済が道徳や政治からは切り離され、それ自身のルールに則って作用するという考え方をつくりあげた。
 グレーバーは、その説明には何ら根拠がないと指摘する。 人類学は、物々交換が異邦人や敵どうしのあいだで祝祭的、儀礼的に行われてきたことを示してきた。二度と会わない相手、継続的な関係を結ぶことのない相手との交換では、相互の責任や信頼を必要としない一回きりの物々交換が適切だった。

 経済学のテキストでは、交換する人びとが親しくなることも、地位の差もないという現実離れした想定がなされている。じつさいに社会関係をもつ人びとのあいだでは、物々交換ではなく、贈与交換になる。それが、人類学があきらかにしてきたことだ。

 洗練された物々交換は、むしろ国家経済の崩壊にともなって生じ。最近では、1990年代のロシア、そして2002年前後のアルゼンチンで、貨幣が使われなくなった。かって、ローマ帝国フランク王国カロリング朝が滅んで物々交換への転換が起きたときにも、硬貨を使わない信用取引が行われた。

 古代エジプトメソポタミア時代の紀元前3500年の記録も、硬貨の発明に先立って信用取引が行われていたことを記している。シュメール文明の時代に発明された硬貨の使われ方からは、貨幣が商業的な取引産物ではなく、物資を管理するために官僚機構によってつくられたことがわかる。負債や市場での価格が銀貨で算定されても、それを銀貨で払う必要はなく、ほとんどが信用取引だった。グレーバーはさまざまな時代の資料を示しながら、物々交換の神話が虚構だと論じる。いわゆる「バーチャル・マネー(仮想通貨)」が最初にでき、硬貨はずいぶんあとにつくられた。さらに長い間、貨幣は一般的には使われず、信用取引代替することはなかった。物々交換は、貨幣の一時的な副産物だったのだ。

 では、なぜ経済学において、この神話が保持されてきたのか。グレーバーは、その理由は、物々交換の神話経済学の言説全体にとって中心的だったからだと指摘する。 経済学には、物々交換のシステムが「経済」の基礎にあることが重要だった。個人と国家にとって何より大切なのは、物を交換することである。その視点から排除されてきたのが、国家の政策の役割だった。グレーバーは、貨幣をめぐるふたつの理論を参照しながら、国家と貨幣の関わりを考察する。

貨幣の信用理論と国家理論
 貨幣の信用理論といわれる立場がある。この理論では、貨幣は商品ではなく、勘定のための道具だとされた。つまり、貨幣は物ではない。貨幣単位は、たんに計算の抽象的な単位にすぎない。では、物差しとしての貨幣は何を測っているのか。
 その答えが負債である。信用理論家たちは、銀行券は1オンスの金と同じ価値の何かが支払われるという約束だと論じた。その意味では、貨幣が銀であろうと、金のようにみえる鋼ニッケル合金であろうと、銀行のコンピューター上のデジタルの点滅であろうと、関係ない。それらは「借用書」にすぎないのだから。

 もうひとつの立場が、ドイツ歴史学派として知られる歴史家によって唱えられた貨幣の国家理論である。貨幣が計量単位だからこそ、皇帝や国王にとっての関心事となる。彼らはつねに国内で度量衡を統一することを目指していた。じつさいの通貨の循環は重要ではない。それが何であれ、国家が税の支払いなどで認めさえすれば、通貨となる。つまり通貨政府への債務の印として取引されてきた。

 近代の銀行券も同じだ。最初に成功した世代的な中央銀行であるイングランド銀行設立されたとき、イギリスの銀行家連合は、王に30万ポンドのローンを提供した。その代りに、彼らは銀行券の発行についての王室の独占権を受けとった。今日に至るまで、このローンは返済されていない。最初のローンが返済されてしまえば、イギリス全体の貨幣システムが存在しなくなるからだ。

 この観点から、国家がなぜ貨幣を用いて課税をするのかがあきらかになる。スミスが想定したように、政府から完全に独立した市場の自然な作用によって金や銀が貨幣になったわけではない。グレーバーは、むしろ貨幣と市場は国家によってつくられたと強調する。国家と市場が対立するというスミスに由来するリベラルの考え方は誤りで、歴史的な記録にもとづけば、国家なき社会には市場も存在しないのだ。マダガスカルでは1901年フランスの占領によって、人頭税が課された。この税は、あらたに発行されたマダガスカル・フランでのみ支払いが可能だった。納税は収穫直後に行われ、農民は収穫した米を中国人かインド人の商人に売って紙幣を手に入れた。収穫期はもっとも米の価格が低い時期だった。
 多くの米を売らざるをえなかった世帯は、家族を養えなくなると価格が高い時期に、同じ商人からツケで米を買い戻すことを強いられた。借金から抜け出すには、換金作物をつくるか、子どもを都市やフランス人植民者の農園に働きに出すしかなかった。それはまさに安い労働力農民から搾り取るための仕組みだった。農民の手元に残ったお金は、中国人の店に並ぶ傘や口紅といった商品の消費に使われた。この消費者の需要は、植民者がいなくなったあともマダガスカルフランスに永遠に結びつけた。1990年に革命政府によって人頭税が廃止されたとき、市場の論理はすでに浸透していた。

同じことがヨーロッパ軍隊によって征服された世界各地で起きた。 それまでなかった「市場」が、まさに主流派経済学が否定した「国家」によってつくりだされたのである。
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いかがでしょう。 現代経済学人類学調査の結果が否定する物々交換という神話を手放さないのは、経済学者にとっては現在の仕事の基礎を失うため、政治家にとっては、政府は小さいほうがいいという自分たちの主張の誤りを覆い隠してくれるから、というのは言い過ぎでしょうか。

シェイブテイルとしては、世界を変えるようなノーベル経済学賞経済学者の世界からではなく、ちょっと会計をかじった人類学者から出るのではと半分冗談ながら思っています。

Debt - Updated and Expanded: The First 5,000 Years

Debt - Updated and Expanded: The First 5,000 Years


*1:生まれはニューヨーク

*2現代思想 2012 vol.40-2 pp218「負債モラリティ

asdasd 2016/06/26 15:18 市場原理主義者の方々は「とにかく市場に任せろ、国家を切り離せ」と言うけれど、そもそも市場とは貨幣(国家管理された道具)で成り立ってるものだってことわかってんのかいな
…という不満をずっと持ってましたが、この本が広まってくれれば私の溜飲も下がりそうですね

asdasd 2016/06/26 15:28 ネットで序盤を翻訳してくれてる方がいたので今読んでますが、異様に面白いですね。人類学者なのに、そこらの経済学者連中より圧倒的に信用を理解している(笑)
惜しむらくは日本語訳が出版されてないことですが、早速現代思想を取り寄せてみました。

shavetail1shavetail1 2016/06/26 15:43 asdさま
コメントありがとうございます。全くおっしゃる通りで、これほど面白い本がなぜ邦訳されないのか不思議なほどです。

2016-06-03 やはり、大昔物々交換などなかった このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

経済学の教科書のはじめの方に登場する物々交換ですが、フェリックス・マーティン著「21世紀の貨幣論」には物々交換が人類学などから疑問を呈されているという話を以前書きました。

大昔、物々交換などなかった - シェイブテイル日記 大昔、物々交換などなかった - シェイブテイル日記

今年4月に出版されたカビールセガール著「貨幣の新世界史」でも、少し違う切り口から大昔には物々交換などなく、貨幣の起源は債務にある、という説を紹介しています。

以下は貨幣の新世界史から引用します。*1

(引用開始)
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お金のもうひとつの起源

経済入門のクラスでは、お金の歴史をつぎのように教えるケースがほとんどだろう。

昔々、世界の果ての地で、人びとは物々交換を行なっていました。しかし、常に満足できる形で成立するわけではなく、やがてお金が発明されました。

アリストテレスの思想はこの考え方の延長線上にあるし、さらに時代を下れば、アダム・スミスなど古典派経済学者にも行き着く。アダム・スミスによれば、分業によって道の専門化が進んだが、そのおかげで取引は複雑さを増した。それをスムーズに運ぶため、お金の役割がクローズアップされるようになった。彼は『国富論』で以下のように書いている。

たとえば肉屋が、自分が必要とする以上の肉を店に持っており、酒屋とパン屋がその一部を手に入れたがっているとする。肉屋もパン屋もそれぞれの仕事で生産したものしか持っておらず……このような状態から生まれる不便を避けるために、分業が確立した後、どの時代にも賢明な人はみな……他人が各自の生産物と交換するのを断わらないと思える商品をある程度持っておく方法をとったはずである。
〔「国富論 上」(2007年 山岡洋一訳)より引用〕

さらにスミスは、スコットランド高地では釘などの商品が交換手段として使われ、初期貨幣の役目を果たしていたと述べている。やがてこれらの商品に代わり、貴金属の小片が使われるようになった。
すでに本書ではお金の起源に進化生物学的な立場から取り組んできたが、食べものや手斧といった商品の物々交換がお金の誕生につながったという発想は、進化生物学的に見ても説得力がある。相互依存的な物々交換が貨幣による交換の先駆けだったという考え方は、ロマンチックであるし、わかりやすい。スミスには銀貨三枚を褒美としてあげて、この間題は解決ということにしたい。

ところがそう簡単にはいかない。あるイギリス人経済学者が一九二二年、「バンキングロー・ジャーナル」のなかでこの理論に疑問を寄せた。その経済学者、アルフレッドミッチェル・イネスは、スミスの説には歴史的な証拠がないどころか、実際のところ間違っていると主張した。さらに釘が交換手段として使われたという箇所は、ほかの人物からも誤りを指摘される。「ザ・ウエルス・オブ・ネーションズ」の編集者だったウイリアム・プレイフェアは、当時の釘職人が貧困層に属していたことを挙げ、釘の原材料を関連業者から提供してもらうしかなかったと説明している。おまけに業者は原材料だけでなく、作業中の職人がパンやチーズを買えるように融資までしていたという。つまり釘職人は債務を抱えていたのだ。作業が終了すると、職人は完成品の釘を業者に提供して債務を返済したのである。ミッチェル・イネスはこう書いている。「アダム・スミスは実体のある貨幣を発見したと信じたが、実際には信用取引の仕組みを発見しただけにすぎない」。

ミッチェル・イネスの論文はまずまずの注目を集め、特にジョン・メイナード・ケインズからは絶賛される。しかし一世紀近くのあいだ忘れられたままで、二一世紀になって再び脚光を浴びた。L・ランダル・レイなど著名な経済学者やデイヴイッド・グレーバーなど著名な人類学者が、この説の長所に注目したのだ。たとえばレイは、貨幣債務はまったく同じものだと主張して、貨幣債務の一手段にすぎないと指摘した。 一方、グレーバーは著書『Debt: The First 5,000 Years (債務‥最初の五〇〇〇年)のなかで、物々交換について研究した数人の人類学者の成果を紹介している。そのひとり、ケンブリッジ大学のキャロライン・ハンフリーは、つぎのような意見だ。
「純粋でシンプルな形の物々交換経済の事例はどこにもないし、まして、そこから貨幣が誕生したなどとは考えられない。入手できる記録文書の内容から判断するかぎり、そんなものが存在していたとは想像できない。」
著書のなかでグレーバーはいくつもの点を結びつけたうえで、これほど証拠が不足しているのであれば、貨幣の起源に関する従来の説の正しさは疑うべきだと語っている。そしてさらに、貨幣の発達に関する基本理論は神話にすぎなかったとまで推測している。

そもそもミッチェル・イネスと同じくグレーバーも、貨幣が誕生する以前から債務は存在していたと考えている。利子つきの融資は古代メソポタミアで最初に登場したが、それはリディア王国で硬貨が発明されるより何千年も古い。メソポタミアでは、神殿や宮殿や有力者の家で働く人たちは、銀や大麦などの商品価格に基づいて融資金額を計算した。ちなみにビールのつけ払いも古い習慣で、古代メソポタミアではすでに普及していたという。 最終的にグレーバーは、債務貨幣よりも先行していたか、少なくとも同時に発達したという結論に達している。このように債務は歴史的に重要な意味を持っているのだから、様々な角度から理解を試みるべきだろう。
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(引用終わり)

貨幣の起源はアダム・スミスらの想像上の産物、物々交換などではなく「債務」であったという話に加え、アダム・スミスが物々交換の好例と考えた釘職人の釘さえ、債務の一形態だったというのは面白い話ですね。

ほぼ百年前にミッチェル・イネスが唱え、ケインズに絶賛されたという、上に引用した論拠をを踏まえ、書き換えられた経済学の教科書があるのなら、是非それを読んでみたいものですが、21世紀になった今もまだ国富論の間違いはそのまま堂々と事実であるかのように教科書に載り、その間違いを基礎に現在の経済学が組み立てられているのは、学問とは誤りを正していくのが本質と信じている私にはかなりの違和感があります。

 話は飛ぶようですが、安倍首相は最近の記者会見で、アベノミクスとともに財政再建の旗を降ろさず、プライマリーバランス均衡達成を目指すとしていますが、もし安倍さんが、政府債務というものは貨幣経済を毀損するどころか、その一部をなしていることを知ったとすると、それでもやはり財政再建を急ぐということになるのでしょうか。

f:id:shavetail1:20160603204537j:image:w150
18世紀スコットランドの釘もまた、流動性を持つ債務としてのおカネだった?


*1:p109

JancloJanclo 2016/06/04 17:31 貨幣の起源は、物々交換か債務か、という議論を見ると、天動説と地動説の議論を見ている感じがしますね。
アダム・スミスやマルクスは、貨幣を物々交換の発展形として捉えたわけですが、彼らから批判された前時代の重商主義者達の中には、フランス中央銀行の創設に携わったジョン・ローなど、マネーの本質に気づいていた人間もいるわけですが、経済学の主要にはなれていないわけです。

キリスト教世界おいては、地動説は反キリスト教的として長く無視されてましたが、経済学の世界でも、債務マネー論が数世紀も無視されたことに、不思議な関連をかんじますね。

DYODYO 2016/06/05 21:14 信用がマネーを生むかマネーが信用を生むのかとういう話ですよね
量的緩和に効果はないと決定づけられる気がしますが

shavetail1shavetail1 2016/06/05 21:30 Jancloさま、DYOさま
お二人ともよくご理解いただいているようで、ありがとうございます。
天動説も大勢の人々が生業とするとなると、簡単には誤りを認められなくなるものなのかもしれません。

ただ、思うのは信用、債務が貨幣を生むという原理に基づいた経済学、部分的にはかなりケインズの経済学に近いものかも知れませんが、そう遠くない将来、新しい経済学を誰かが創り上げるのではないか、そんな気がします。

まっつんまっつん 2016/06/18 01:06 MMTの理論構成の入口になるような話ですね。

shavetail1shavetail1 2016/06/18 20:10 まっつんさま
コメントありがとうございます。
スタグフレーションをきっかけに隆盛を極めた主流派経済学でしたが、リーマン・ショックも見通せず、昨今では先進国がどこもかしこも低インフレに悩む時代に対応できずにいます。

そう遠くない将来、MMTあるいはポストケインジアンがベースになるような信用貨幣を中心とする経済学体系を世界の経済学者のうち、どなたかが確立して大きく時代が変わるのでは、と思っております。

2016-05-29 貨幣と財政からみた経済学派分類 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

安倍首相は昨晩(5月28日)、現在はリーマン・ショック級の経済危機という認識から、10%への消費税増税2019年10月まで2年半先送りする方針麻生副総理らに伝えたとのことです。 会合後の報道ではその方針に異論も出たとのことで最終的な落とし所はまだわかりません。

ただ、コンセンサスが得られてきたことは、どうやら金融政策中心のアベノミクスでは限界があり、デフレ脱却・景気好転のためには財政出動も必要だろうということです。

このブログを読んでいただいている方々からみれば、なるべくしてなった結果ということかも知れません。

それにしても、デフレ脱却・景気好転を願う目的は同じでもこれほどのアプローチに対する選好がことなるのでしょう。 今日はこの点を改めて考えてみたいと思います。

下の図は、貨幣(細かく言えば民間を巡るマネーストック)の生まれ方に対する認識(横軸)と財政政策の役割に対する認識(縦軸)の二軸で、マクロ経済に対する認識をグルーピングしたものです。*1


f:id:shavetail1:20160529134248j:image:w600

現代の主流派とよばれる経済学派は、全て貨幣外生説側、つまり図の左側にグルーピングされます。 左側のグループには新古典派系の経済学、ヒックス以後の新古典派総合、あるいはアメリカンケインジアンとよばれる新古典派の土台にケインズのトッピングを載せたような経済学もこちらに入るでしょう。

中央銀行マネタリーベースを増やせば、民間のインフレ期待が高まり、民間を巡るおカネ、マネーストックも増えるという考え方は、中央銀行がコントロールするおカネマネタリーベースにより民間のおカネマネーストックが操作可能と考えていることになりますから、これまでの金融政策中心のアベノミクスを理論的に支えた岩田規久男日銀総裁らのいわゆるリフレ派もこのグループになります。

ただこれらの主流派に属する経済観でも財政政策の重要性についてはかなりの幅があるようです。
財政破綻不可避であり、増税をすべきで財政出動はあり得ないという左下のグループ(財政破綻派としましょう)も現在の日本の学者では相当数いるでしょう。

一方、20年ほど前のアメリカンケインジアン金融政策が主体であるべき(それに倣ったのが現在のリフレ派本体)ですが、クルーグマンなど現代のアメリカンケインジアンは、財金併用に大きく居場所を変えています。*2

さて、今後の安倍政権経済政策と関わりが深いのは図の右側です。
こちらは主流派ではないので、画一的なグループ名は思いつかないのですが、仮に「貨幣中立系」としましょう。

民間を巡る貨幣(≒マネーストック)は、民間銀行で負債と同時に生成し、中央銀行が生み出すマネタリーベースではコントロールはできないという貨幣観が共通しています。

ここには、例えば、旧日銀派例えば白川前総裁以前の日銀)、あるいはポストケインジアン系、現代金融理論(MMT: Modern Monetary Theorists)、そして日銀の実務を知った上で昭和初期にデフレ脱却を果たした高橋是清など、幅広い考え方がありますが、全て「貨幣中立系」グループに一緒くたに属しています。

とはいえ、財政政策に対する選好性は大差があり、旧日銀派は財政政策にはネガティブもしくは無関心であり、今も欧州にいる現代のポストケインジアン貨幣の内生性には関心が強そうですが、財政政策について統一的な見解は私が知る限りはありません。

さて、ケインズ経済学に名を残しているケインズですが、著書は難解で比較的早世したこともあり、位置づけが明確ではありません。
ただ、ケインズ経済学をモデル化したとされるヒックスは、新古典派の考え方をベースにモデル化したため、ケインズ自身の考えとはかなり距離がある「ヒックス経済学」とでもよぶべきものになっており、貨幣に対する考え方はいわゆる主流派のそれと考えて良さそうです。

ケインズ自身は貨幣の内生性にも気がついていたようですが、それをモデル化するには至らずこの世を去りました。ということでケインズ財政政策重視の、左右にまたがる広い帯で示しました。

前フリ?が非常に長かったのですが、シェイブテイルとしましては、デフレ脱却を目指し財政政策を打ち出そうという安倍政権が最も参考にすべきなのは右上に赤い◯で示した高橋是清経済政策ではないだろうかと考えています。

以前も示しましたように、高橋是清は財金併用、特に単年で財政規模を急増させて、わずか1年以内にデフレ脱却を果たし、その翌年には早くも財政規模の縮小に舵を切っています。

アベノミクスと高橋財政を比較してみた - シェイブテイル日記 アベノミクスと高橋財政を比較してみた - シェイブテイル日記

高橋是清がいち早くデフレを脱却できたのも、是清が貨幣とは流動性をもった負債だということを実務経験から知っていたからでは、とシェイブテイルは思っています。 そういう私は、自称高橋是清派ということですね。

*1:もちろん経済学派の分類がこの二軸に限るなどということは全くなく、便宜的な分類です。

*2経済学が専門ではない筆者は、主流派経済学には殆ど関心がないので記載が間違っている部分があるかもしれません。 その点はご指摘いただければありがたいです。

2016-05-26 G7で安倍首相がピエロにならないためには このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

今日から明日までの日程でG7 伊勢志摩サミットが開催されています。

安倍首相はその地ならしとして、G7諸国が一致して財政出動するように求め、各国を回りましたが、調整としては不調に終わったようです。

それも当然で、カナダのようにすでに積極財政に転じて成果が出始めている国もあれば、英国ドイツのように緊縮財政政権の国々もあり、一致して積極財政、となるはずもありません。

安倍首相自身、第2次安倍内閣をスタートし、「3本の矢」を発表した2013年こそ多少の財政出動をしたものの、2014年には消費税増税、昨年も緊縮と、金融政策頼みの経済運営が目立ちました。

その後、家計消費がマイナスなど経済減速がはっきりした昨年9月に、「新3本の矢」を打ち出し、2020年に名目GDP600兆円を打ち出したところは目を引きましたが、後は小粒な目標だけで、肝心の達成手段は何も公表されませんでした。

では、2020年、つまりあと3,4年で名目GDP600兆円を達成するにはどうすれば良いのでしょうか。

現在の名目GDPはちょうど500兆円ですから、今年以降、毎年4%成長を達成する必要があります。
一見非現実的な目標のようですが、そうとも言えません。

図は、安倍政権発足後の3年間での、先進国での政府支出の伸び率と名目GDPの伸び率の相関図です。
f:id:shavetail1:20160526170808j:image:w360
図 政府支出-名目GDP伸び率
出所 IMF 期間2013−2015年 データから筆者作図

図の左側、政府支出の伸びを抑制している国々は財政破綻が現実視されているギリシャキプロスなど欧州諸国です。  図の右側は財政破綻したものの、借金棒引きを叶えられたアイスランドなどで、世界一海外にカネを貸している日本は、財政破綻が現実のギリシャキプロスに近い緊縮を実施し、名目GDPの伸びも低い、という形になっています。

この相関関係はなかなか堅固で、幾通りかの国々、期間を選択しても同様の関係があります。
ですから、現在開催中のサミットで、安倍首相が年率4%程度の拡張財政を宣言すれば、おそらく予定通りに2020年頃には名目GDPが600兆円で世界も羨む状況となっているでしょう。

ただ、「アベノミクスを成功させる会」会長の山本幸三議員が最近首相に進言したように、わずかな財政出動とともに2%消費税増税をすれば、これが恒久的な負の財政出動ですから2020年に500兆円のGDP維持さえ困難で、はっきりとしたデフレに逆戻りしていることでしょう。

安倍首相が拡張財政を訴えて回ったことは大変結構なことでした。 ただ財政政策は各国の政府債務が裏付けで実施可能なものですから、日本は日本独自の大型財政政策、もしくは消費税大幅減税・廃止を打ち出せばいい話です。

もしも、折角招聘したスティグリッツクルーグマン両氏らの示唆も無視して、山本幸三の進言通りにすれば、世界から失笑を買うだけでなく、日本はさらなる失われた数十年を強いられることになるのではないでしょうか。

JancloJanclo 2016/06/01 22:51 http://agora-web.jp/archives/2019504.html
結局、ピエロになってしまったようですね。
ドイツですら、歳出を増やしているようですが、
http://ecodb.net/country/DE/imf_ggrx.html
いい加減、安倍総理も財政再建という欲を捨ててほしいものです。

それに資源価格の低下に懸念を持つなら、福祉ではなく、数年前の中国のように公共インフラに投資すればいいだけです。http://kabumatome.doorblog.jp/archives/65863852.html
日本の小さい港湾では事業を維持できない、と撤退する企業が出ているわけですから、すべき公共事業はあるんです。
早く人からコンクリートへと政策転換してほしいものです。

shavetail1shavetail1 2016/06/02 08:11 Jancloさま
まったくおっしゃるとおりだと思いますね。
財政戦略と大きくでたはいいものの、PBバランス均衡などという意味のない妄想を国民生活より重要視するという洗脳が解けていないのは相変わらず。経済指標がどんどん悪化するのはわかっているのに、それを何年もさらに確認して、財政政策を経済が好転しない程度に出し、「やはり財政は一時しのぎ」と再確認()するという伝統芸がすでにみえていますね。

2016-05-24 少子化対策は国債で このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

昨日厚生労働省から発表された2015年人口動態統計によれば、昨年の出生率は1.46と、1994年の1.50並のレベルになっています。(図1)

f:id:shavetail1:20160524080626j:image:w600
図1 日本の出生率推移
出所: 厚生労働省 特殊出生率(H27)

とはいうものの、若い女性の絶対数が減り続けていることもあって、出生数自身は過去二番目の低さに留まっており、少子化にはまったく歯止めはかかっていません。

今朝の日経新聞社説では少子化対策について次のように論じています。

 大事なのは、若い世代の将来への不安を和らげることだ。政府が先週まとめた「ニッポン一億総活躍プラン」は、非正規で働く人たちの待遇改善を柱に据えた。安定した雇用と収入は、若い世代が結婚や出産の希望をかなえるのを後押しする。「同一労働同一賃金」の議論を進めるとともに、個人が自らの力を伸ばせるよう支援することが必要だ。

 男女ともに働きながら子育てができるよう環境を整えることも欠かせない。硬直的な長時間労働を見直すことや、保育サービスの拡充が柱になる。今は保育所の待機児童問題にばかり目が向きがちだが、小学校に入ってからの学童保育など、充実すべき点は多い。


確かに、若い世代の将来への不安を和らげることは必要でしょう。 消費税がどんどん上がるようでは子供を増やすという「贅沢」はその後の人生で大きなリスクを伴いかねません。

ただ、「ニッポン一億総活躍プラン」のような小粒な施策で、政府が目指す特殊出生率1.8や、人口減が止まる2以上などの目標に届くものなのでしょうか。


シェイブテイル個人としては、恒常的に若い人たちの生活が明らかに楽になる施策を取る必要性があると思っています。 
つまりは、子育て支援だろうが、婚活支援だろうが、いずれの施策を考えるにしても結局おカネの問題に帰着するのではないでしょうか。

例を上げれば、消費税撤廃、定額のベーシックインカムでも良いですが、恒常的に生活が楽になると分れば、恋愛・結婚・子育てすべて増えるでしょう。

財源は国債です。

消費税など税金の場合、民間からおカネを吸い上げて、同額財政出動してチャラですが、どの政権も同額財政出動するなど決してせず、法人税減税など福祉とは無関係な「浪費」が多すぎました。

世界一海外におカネを貸すほど金持ちの日本で財源を国債にしたからといって何の問題もありませんが、アレな格付け会社は日本国債の格付けをどんどん下げるかもしれません。 A+がA-に…、という具合に下がっていくかも知れません。しまいにはジャンク債レベルになるかも知れません。

でも、そここそ目指すところです。 ジャンク債になった日本国債はもう下げる余地もありませんから、誰も緊縮しようとは思わないでしょう。

格付けが下がるとカネが借りられなくなる? 今は銀行にも企業にもカネはあふれていますよ。 

ないのは若い人たちなど家計だけです。
だから国債でカネを若い人に撒けば全て解決するんですよね。

JancloJanclo 2016/05/24 09:45 Shavetail1さん

お久し振りです。

Shavetail1さんは少子化対策に、家計支援を提言されていますが、生活が比較的楽だったはずの80年代から、少子化がはじまっていることについては、どう思われますか?

>法人税減税など福祉とは無関係な「浪費」
これは、ちょっと違いますね。
大企業は、労働者の健康保険や退職者の厚生年金を自主運用しているので、法人税減税による利益剰余金の増加は、福祉の拡充に繋がります。

だからこそ、財政政策により、資産の利回りを上げないと行けないのですが、政府が投資減税の縮小など財政再建と自己責任を掲げ続ける限りは、企業は存続するため、投資を控えて利益剰余金を積み上げないといけなくなるんですよね。

ポルシェ万次郎ポルシェ万次郎 2016/05/25 15:40 日本のすべての問題は、「お金がない」と誤解している点にありますよね。

アイドル新党なでしこ! 第019話 ピンチはチャンス!
http://ameblo.jp/p-manjiro/entry-12151886174.html

少子化対策について、少し前に漫画で提言させていただいております。ご一読いただけますと幸いです。

shavetail1shavetail1 2016/05/26 12:51 Jancloさま
お久しぶりです。
 原因としては貧困時代のような子供を労働力と捉える家庭が激減し、女性の社会進出や、晩婚化も効いているのではないでしょうか。

ただ少子化・晩婚化自身は世界的な傾向で出生率が2に下がるまでは大きな問題ではなかったかと思います。

日本は出生率が2を切る頃ちょうどバブルの頂点で、以降は一貫して労働者の賃金が右肩下がりに下がりました。 そうなると低賃金層から子供どころか結婚も困難という層が広がったのでは。

後半ご指摘の保険年金自主運用の件、意識していなかったので、ご指摘ありがとうございます。

ただ、私が若い労働者の立場なら、消費税を上げながら年金に回るお金が潤沢になるという選択肢よりも、直接自分にお金が回る選択肢の方がありがたいし、福利にも繋がると思いますがいかがでしょうか。

ポルシェ万次郎さま
お久しぶりです。
早速読ませていただきます。 ありがとうございます。

janclojanclo 2016/05/28 16:22 shavetail1さま

>低賃金層から子供どころか結婚も困難という層

こちらも原因としては大きいでしょうが、

>子供を労働力と捉える家庭が激減し、女性の社会進出や、晩婚化

こちらの方が私は原因として大きいと思います。
実際、出生率の高い沖縄・九州や山陰地方なんかは、賃金は低いですが、出生率は高いです。
一方で、都心部は賃金は高いが、出生率は低い。
また、これらは、大学進学率と負の相関にあります。

私が思うに、少子化を解決するなら、教育や福祉より公共事業にお金を回す方が効果が高いと思うのですが、あまりこういった意見は聞かれませんね。
また、子ども手当といった給付政策より、世界でもトップレベルである資産課税(相続税、固定資産税等)の減免の方が、質の高い少子化対策(富裕層の多産化)になるような気がするのですが。

>私が若い労働者の立場なら、消費税を上げながら年金に回るお金が潤沢になるという選択肢よりも、直接自分にお金が回る選択肢の方がありがたいし、福利にも繋がると思いますがいかがでしょうか。

若い労働者の立場としても、産休・育休や社員教育といった「間接費」に企業は対応しないといけません(最近になってようやく社会保険料の労働者・事業主負担が免除)から、やはり潤沢な方が福利に繋がります。

後、私の立場を言うと、法人税率の引き下げには反対で、投資・開発減税の拡大には賛成、消費税と法人税に関係はない、です。
そもそもタックスシールド効果を考えれば、投資・開発減税を縮小すれば企業は現金を持っておく方が有利になる。
なぜならば、上記のように、将来の労働者の福利も担わされているわけですから。

来年度税制改正で政策減税「ゼロベースで見直す」 麻生財務相が各閣僚に要請
http://www.sankei.com/economy/news/150724/ecn1507240020-n1.html

現政権は法人税において「も」デフレ政策を推進しているわけで、消費税と法人税の分配がデフレに繋がってるわけではないでしょう。
しかし、リフレ派にしても現政権にしても会計に弱いな、という印象を私は持ちますね。

janclojanclo 2016/05/28 16:28 追記
×社会保険料の労働者・事業主負担が免除
○産休育休中の社会保険料の労働者・事業主負担が免除

2016-04-23 実業界はなぜマイナス金利政策に否定的なのか このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

4月のロイター企業調査によると、日銀が導入したマイナス金利の拡大に8割近い企業が反対しており、導入自体が失敗との見方も目立つとのことです。

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前月調査では、導入後間もないことからまだ影響が見通せず、反対の声は6割程度だったが、今月調査では厳しい見方が増加。「導入は失敗だったと思われる」(運輸)、「マイナス金利で改善されたものがない」(化学)、「効果が疑問視されている」(鉄鋼)などといった声が聞かれ、幅広い業種で導入自体への評価が芳しくない。

悪影響について、具体的には「設備投資拡大など景気浮揚には結びつかず、逆に運用収益減の悪影響がある」(食品)、「かえって貧富の差が拡大する」(紙・パルプ)、「金融機関の収益悪化が他の業界に思わぬ影響を及ぼす可能性」(運輸)などの弊害が挙げられている。また「預金金利がつかないことへの心理的悪影響は大きい」(サービス)、「将来に不安」(その他製造業)、「国民感覚とズレが大き過ぎる」(サービス)といったマインド面の影響を指摘する声も多い。

ロイター企業調査:マイナス金利拡大に反対8割、投資にも寄与せず ロイター 2016年 04月 21日 09:28 JST

 日銀が鳴り物入りで始めたマイナス金利政策に対して、実業界からはほとんどポジティブな評価が得られていないのはなぜでしょうか。

シェイブテイルは、この日銀と実業界でのマイナス金利政策に対する評価の差に、企業の事業評価が関係しているのではないかと考えています。

 企業は一般的に、新規事業を開始する前に事業評価をおこなうことが多く、この事業評価にもいくつかの方法がありますが、「資本コスト」を算定して、この資本コストを使って割引キャシュフロー(DCF)法で事業採算性をみるといった方法は企業の実務者にもよく知られているところでしょう。*1 *2


 「資本コスト」と「事業価値評価法」の詳細については末尾に引用した経済産業省レポートに譲るとしまして、ここで重要なのは、企業は事業価値評価日銀が操作可能な長期金利を使っているわけではなく、それより大幅に高い「加重平均資本コスト」を使って事業価値評価をしているという点です。

日銀マイナス金利政策を導入した現在、長期金利はゼロ以下にまで低下しました。 ところが、下のコラムのふたつ目に示すように、事業価値評価に使われる加重平均資本コストは5%程度あるいは末尾の経済産業省レポートに書かれているような2-3%程度に設定している企業が一般的でしょう。 *3
日銀のマイナス金融政策は負債のコストにはわずかながら好影響を与えることができても、それと自己資本コストを加えた加重平均資本コストにはほとんど影響がない、というわけです。

銀行からの貸し出しの実際をみても、日銀の金融政策により貸し出しが増えている業種はあるものの、それは金利自身が事業支配的な影響がある不動産業界や、事業が政策上安定している医療福祉業界程度に限られ、運転資金などで本当に銀行から資金を借りたい中小零細企業については、貸し出す銀行側がリスクに慎重で、貸し出しは伸びていないという報告もあります。*4

日銀金融緩和では、人々の期待に働きかけてデフレ脱却に向かう、というシナリオだった筈です。
冒頭のアンケート結果のように、人々はマイナス金利政策を実施しても、設備投資に大いに寄与するという企業はわずかに2%しかないという中で、日銀が今後マイナス金利政策を一層強化したとして、果たして今後プラスの結果が出てくると期待できるのでしょうか。


資本コストと事業評価
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   資本コストの概念 
企業が事業をおこなう資金には負債自己資本があり、それぞれ
負債コストと自己資本コストがかかっている。
その結果企業の事業評価には両コストの加重平均資本コスト(WACC)が
かかっていると考えられる。

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   事業評価に使う割引キャシュフロー(DCF)法
投資に使われる投資CFを、営業フリーCFで回収するが、この際
将来予測される営業フリーCFは、資本コストで割り引いて考える。

経済産業省レポート リスクリターンと資本コストより

*1経済産業省レポート 事業価値評価

*2経済産業省レポート リスクリターンと資本コスト

*3:筆者は長期金利と比較して加重平均資本コストがなぜこれほど高くなるのかについて、明快に書かれた事業価値評価の解説をみたことはありません。ただ、事業価値分析は通常楽観的に分析されることが常であり、見落とされているリスクを織り込むとすれば、高い資本コストとして織り込まざるを得ないということはあるのではないでしょうか。

*4週刊エコノミスト2016年3月22日号p32「貸し出しの実態 設備投資意欲の低い中小企業 伸びるのは不動産医療ばかり」

MBAMBA 2016/06/01 23:33 マイナス金利は「金融緩和」か「金融引締め」かをまず考える必要があると思います。紙切れである日銀券が価値を持つのは、日銀券総量より、日銀が市中に対して有する債権残高が必ず多くなるように運営されていて、それが日銀のバランスシート上で常に示されているからです。日銀に対して負債を負うものは、それを返済するのに日銀券が必要だが、その総量は常に不足するように運営されているので、紙切れである日銀券に価値が発生する訳です。なぜ日銀券が不足するかというと、日銀が銀行に貸付を行う際に利息を取るからで、その分不足します。そして、日銀が金利を上げると、不足額が大きくなるので、金融引き締めであり、金利を下げると、不足額が緩和されるので、金融緩和となります。今回のマイナス金利は、預金手数料という形ですから、その分金融引締めとなり、マイナス金利幅を増やせば、さらに激しい金融引締めとなります。もし、日銀がマイナス金利で民間に貸し出しをすれば、それは金融緩和ですが、すぐに日銀のバランスシートは債務超過になります。そこまでやる勇気があるのか、どうなのか。

shavetail1shavetail1 2016/06/01 23:42 MBAさま
おっしゃっている意味は、日銀が債務超過になっていなければ日銀券には価値があり、債務超過になれば直ちに無価値になる、ということでしょうか。
こちらのブログにも書かれていますが、オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア連邦銀行は1911年に設立された当時は無資本でした。では当時のオーストラリアドルは無価値だったかといえばそうではないでしょうね。 近い将来日銀は債務超過に陥る可能性があります。 その時に諭吉を捨てるお気持ちがあれば、私にご連絡を。すぐ拾いに行きますので。
http://blog.nihon-syakai.net/blog/2007/06/308.html

MBAMBA 2016/06/02 23:56 >日銀が債務超過になっていなければ日銀券には価値があり、債務超過になれば直ちに無価値になる、ということでしょうか。

全然違います。Aという命題と異なるBという命題を否定しても、Aという命題を否定したことにはならないことは分かると思います。日銀の「資産の質」だの「自己資本」だのは、通貨の価値とは直接関係ありません。書いたように「日銀券総量」と「日銀が市中に対して有する債権残高」の差が通貨の価値を生み出すという話です。ですから日銀がゴミを数兆円の資産として計上しても通貨の価値には影響ありませんし、債務超過でも通貨の価値には影響ありません。
問題であるのは、「マイナス金利は金融緩和か金融引締めか」という問いに対し、正しく「金融引締めである」という答えを導き出せる通貨理論を持ち合わせているかという話です。
企業がマイナス金利に反対なのは、単に「金融引締め」であるからです。事業評価は関係ありません。

JancloJanclo 2016/06/04 21:40 横レスですが

確かに、今回の日銀のマイナス金利とは、日銀預金への付利がマイナスということですから、企業の事業には直接関係ありませんね。

つまり、今回のマイナス金利は銀行へのシバキです。

これが、企業への融資に対するマイナス「貸出し」金利であれば、企業の事業の利回りとかが重要なファクターとなります。
差額分が大きいほど、利益となりますから。

付利のマイナス金利では、0を下回る差額分(実際は手数料がありますが)は、銀行負担となります。
だから、金融政策としてもよろしくないと。

JancloJanclo 2016/06/05 01:05 ちょっと、後半が分かりにくいですね。

要するに、付利のマイナス金利とは、通常の商売でいえば減価償却費、開発費などの間接固定費のようなものです。
価格(金利)に転嫁できれば問題はないですが、今は借入需要が少ないので、ただでさえ預金者に金利を払っている銀行にとっては悩みものであると。

政府・日銀からすれば、ならば貸出しで儲ければいい、となるのでしょうが、優良企業は社債や株式を銀行を通さずに発行できるので、借りません。
となると、銀行としては焦げ付きが恐いのでデレバレッジングに動くでしょうから、政府・日銀の思惑通りにはいかないでしょう。

そして、銀行がデレバレッジングに動くということは、「金融引き締め」といえるでしょう。

2016-04-05 世界で2番目に財政健全性指標が改善した国とは? このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

現在の日本は財政健全性指標(政府債務÷名目GDP✕100)が約250と、世界一悪い国として知られています。 もし財政健全性指標が改善されるならどれだけ経済運営が楽になるかわかりません。

次の図1は、2011−2015年の4年間で比較可能な36カ国で財政健全性指標がどれだけ改善/悪化したのかを調べたものです。
最も財政健全性指標が改善したのは、2011年政府債務を踏み倒したアイスランドでした。日本は20位。3位、4位は均衡財政を憲法に定めたドイツスイス。では2位は一体どこなのでしょうか。

世界で2番目に財政健全性指標が改善した国とは?

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図1 財政健全性指標の改善/悪化度
IMFデータより筆者作図。数値は11−15年の4年間の平均変動率(%)。
プラスが悪化をマイナスが改善を示す。()内は比較可能な36カ国での改善度ランキング。

答えは実は日本なのです。
「え!? 日本は20位って書いてあるんじゃ?」と混乱されたことでしょう。

すみません。ちょっとインチキしてしまいました。
少し日本の条件を変えれば2位になる、ということです。

どういうことかといえば、日本の政府債務から日銀保有分を除けば、財政健全性指標の改善度は借金を踏み倒したアイスランドを含めても世界で2番めに良い、という結果になるのです。
日本の財政は事実上世界最高の改善度といえるのかもしれません。

図2は日本の財政健全性指標の推移をみたものです。グラフには単純に政府債務÷名目GDPで算出した財政健全性指標と、政府債務から日銀保有分を除いて算出した財政健全性指標の推移を示しています。

日本の財政健全性指標は日銀保有の政府債務を考慮すると大きく改善している

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図2 日本の財政健全性指標推移
IMF資料と日銀資料より筆者作成

アベノミクスでは日銀デフレ脱却手段として主に国債などを購入することでベースマネーを供給しました。
残念ながら3年以上にわたって大量のベースマネーを供給してもデフレ脱却は達成できていません。 
ところが、この過程で日本の政府債務残高の3割近くを日銀が買い入れた結果、意図した結果ではないものの、日銀以外の主体が保有する政府債務2011年をピークに減少に転じています。

日銀が保有する政府債務については、政府は事実上利払費が不要で、元本については無限に乗り換えが可能ですから、財政健全性指標の計算から外しても問題はないと考えられます。*1

これまでのアベノミクスは余りに金融政策に力点を置き過ぎて、デフレを招く緊縮財政とのセットでしたから、当初目的とした2年でのデフレ脱却は不可能でした。
しかし政府債務日銀が買い上げることで世界最高水準での財政健全化は実現できています。

このように日本は財政健全化指数、政府債務÷名目GDPの分子縮小はすでに道筋ができたのですから、今後は分母の名目GDP拡大による財政健全化を目指して、緊縮財政から拡張財政に転換し、安倍首相が提唱する2020年に名目GDP600兆円達成に注力すべきでしょう。
金融政策と強力な財政政策の組み合わせなら、デフレを脱却しないわけがありません。

「拡張財政に転換すれば、財政健全性指標が悪化するのでは」ですって?
名目GDPが伸びればデフレ日本ではその3-4倍もの比率で税収が伸び、財政健全化に寄与しますし、必要があれば日銀政府債務を買い入れればいいだけですよ。 これまでの黒田日銀のように。

*1:ただし、日銀がすべての政府債務を買い入れることができるかといえば、銀行業務には国債が良質な担保として不可欠なことなどから、民間に流通する政府債務をゼロにすることはできませんし、する必要もありません。

あかあか 2016/04/06 20:19 日本政府はどうしてこんな単純なことが出来ないのでしょう

dc42jkdc42jk 2016/04/06 22:45 財政拡大の根拠とするにはちょっとインチキすぎるんじゃないでしょうか。他国の中央銀行保有分を引いたのと比べないと意味が無いですよ。

shavetail1shavetail1 2016/04/07 05:17 あかさま
本当に不思議ですね。 新自由主義というこの40年間違いが証明され続けている経済学に取り憑かれているから均衡財政なんて目指すんでしょうね。

dc42jk さま
日本を含め、異次元緩和をしているのは日米欧位で、欧州は政府債務をもつ各国と異次元緩和を実施したECBは別主体で、各国個別の政府債務は減っていません。 スイスは自国通貨安のために金融緩和をやって今はやめていますが、元々スイスの自国債務はほとんどなくて、周辺ユーロ国がスイスに必要な政府債務供給源になっていました。

他国と同じ条件ではないことはエントリー中に書いた通りですが、このスイス以外で、ここ4年で政府債務のかなりのパーセンテージを中銀に移した国があればご教示ください。

GokaiGokai 2016/04/12 11:04 shavetail1さま

>名目GDPが伸びればデフレ日本ではその3-4倍もの比率で税収が伸び、財政健全化に寄与しますし、

そうかもしれませんが、どういう根拠で税収が3〜4倍比で伸びるのでしょうか?そこもほしいですね。

>日銀が保有する政府債務については、政府は事実上利払費が不要で、
↑これもその通りですが、
しかし、金利を上げたりの通常の金融政策時にはベースマネーを減らす必要が生じ、その回収につれて、財政健全性指標も悪化することになります。
但しその財政健全指標が妥当だとの前提上ですけども。

suikyojinsuikyojin 2016/04/19 13:03 >>名目GDPが伸びればデフレ日本ではその3-4倍もの比率で税収が伸び、財政健全化に寄与しますし、
>そうかもしれませんが、どういう根拠で税収が3〜4倍比で伸びるのでしょうか?そこもほしいですね。

失業者が職を得て所得税を払うようになったり、赤字企業が黒字になって法人税を払うようになったりするからですね。
所得税は累進課税なので所得の伸び率以上に税額が増えますし、法人税も賃金等は費用として課税の対象になっていないのでGDPの基となる企業における付加価値が増えると、税額はそれ以上の割合で増えます。
累進税率の上限に達している個人や赤字を全く心配しないでいい高い利益率を出している企業も存在しますが、それはごく少数です。

そうした結果、名目GDPと政府税収の相関は、以下のエントリの図2のようになります。デフレ下では赤線のように傾きが大きくなります。

http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20150430

GokaiGokai 2016/04/19 23:56 suikyojinさま

グッドなフォローでした。 m(_ _)m

shavetail1shavetail1 2016/04/21 21:49 suikyojinさま
Gokaiさま

諸般の事情で、最近はコメントチェックを怠っておりまして失礼しました。 m(_ _)m

ただネタが尽きているわけではなくw、時間が許せば近くユーロネタなどを書きたく思っております。

通りすがり通りすがり 2016/04/25 17:22 >そうかもしれませんが、どういう根拠で税収が3〜4倍比で伸びるのでしょうか?そこもほしいですね。

政府支出も3〜4倍で増えるということを隠しているんですよ。

>しかし、金利を上げたりの通常の金融政策時にはベースマネーを減らす必要が生じ、その回収につれて、財政健全性指標も悪化することになります。但しその財政健全指標が妥当だとの前提上ですけども。

正しい。でも絶対にこのブログ書いてる人はどんな手を使ってもごまかそうとしてきますよ。

通りすがり通りすがり 2016/04/25 17:32 >日本政府はどうしてこんな単純なことが出来ないのでしょう

シェイブテイルがすさまじい馬鹿だから。
シェイブテイルも自分が間違ってることはわかってるんだけど、馬鹿を釣る、信者を増やす商売が終わってしまうのが嫌だから無理やり続けているだけなんでしょうね。自分が正しいと本気で思っているんだったらさっさと経済学者に論戦を挑みに行けばいいだけなんだから(笑)。

suikyojinsuikyojin 2016/04/28 10:30 >>そうかもしれませんが、どういう根拠で税収が3〜4倍比で伸びるのでしょうか?そこもほしいですね。
>政府支出も3〜4倍で増えるということを隠しているんですよ。

政府支出はGDPの支出面の項目なので、通常、政府支出を増やすとそれ以上にGDPが増えるのですが?
政府支出を増やしてもGDPにおける民間の分が減少して、GDPは少ししか増えないと、主張されるのですよね……。

どういうメカニズムでそういう摩訶不思議なことが起きるというのか説明して欲しいです。そうでないと、私を含め誰も納得しないでしょう。

通りすがり通りすがり 2016/05/03 15:44 >政府支出はGDPの支出面の項目なので、通常、政府支出を増やすとそれ以上にGDPが増えるのですが?政府支出を増やしてもGDPにおける民間の分が減少して、GDPは少ししか増えないと、主張されるのですよね……。

正気ですか?普段、乗数が1以上と言っている経済学者でさえそれは短期の乗数であって長期のものではない(長期では0と認めている、ただしまともな経済学者に限る)と認めていますよ。まずGDPはストックではなくフローだと認識しましょう。フローなので今期の政府支出の増額の効果は来期か少なくとも数年後には消えてなくなります。残るのは借金(公共投資であればほとんど無意味な工事は残るかもしれませんが)だけです。

>どういうメカニズムでそういう摩訶不思議なことが起きるというのか説明して欲しいです。そうでないと、私を含め誰も納得しないでしょう。

これはそういう摩訶不思議なメカニズムを主張している人が答えるべきでしょう。これは単なる一例ですが、穴を掘って埋めるのは当然政府支出ですが穴を掘るとそれ以上にGDPが増える?それならどんどん穴を掘っていくだけでGDPが際限なく増加していくことになるのですが?それともGDPには欠陥がある(公的投資はどんなに無価値なものであっても費用を掛ければ掛けた分だけGDPとして産出される)という指摘ですか?前者のような説明が本当に起こることだと納得する人はいたらそれこそ驚きでしょう、といっても何故か大勢いるんですが…

通りすがり通りすがり 2016/05/03 15:50 このサイトはプロパガンダサイトだということを分かってない人が多すぎ。シェイブテイルの被害者が一人でも少なくなりますように…

のぞみのぞみ 2016/05/07 04:45 「このサイトはプロパガンダサイトだということを分かってない人が多すぎ。」

通りすがりさんにお尋ねいたします。
では、まともなサイトのURLをご紹介ください。

通りすがり通りすがり 2016/05/14 18:32 最近は主流派がでたらめをやっていて、反主流派のスティグニッツ的な考え方が正しいというマスコミが増えた(?)のか

高橋洋一や藤井聡を擁立して朝日放送で「正義のミカタ」っていう番組が面白いです。

こういった消費税増税反対、緊縮反対、財政再建なんて意味がないの声が拡がり

活躍する機会がマス層にも広がっていくといいなと思っています。

suikyojinsuikyojin 2016/05/21 14:48 >これは単なる一例ですが、穴を掘って埋めるのは当然政府支出ですが穴を掘るとそれ以上にGDPが増える?

GDPは普通増えますよ。乗数効果というのがあります。

「穴を掘って埋める」ためにより多く支払われた賃金で、普通、消費が増えます。消費が増えた分誰かの所得が増えます、GDPが増えます。所得が増えた誰かは、消費を増やします。このような繰り返しにより、政府支出を増やした以上にGDPが増えます。