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日本では物価3%は非現実なのか

 
昨日20日金融政策決定会合後の記者会見で、日銀・白川総裁は安倍自民党総裁の主張する物価目標3%を「現実的でない」と批判しています。

安倍氏「物価目標3%に」 日銀総裁「現実的でない」 金融政策決定会合後、記者会見する白川総裁=20日午後、日銀本店で (東京新聞21日朝刊)

 日銀の白川方明総裁は二十日、追加の金融緩和を見送ることを決めた金融政策決定会合後に記者会見した。最近自民党安倍晋三総裁が主張する、日銀による建設国債の引き受けなど「大胆な金融緩和策」に反論した。

 日銀は、望ましい物価上昇率を2%以下のプラスとし、当面は1%を目指して、金融緩和を続ける事実上の「インフレ目標」を採用。だがデフレ脱却を最優先に掲げる安倍氏は目標を2〜3%に引き上げ、無制限の金融緩和を実施するよう訴えている。

 これに対し、白川氏は3%の物価目標は「現実的ではない」と述べた。バブル期を含む一九八〇年代後半でさえ、物価上昇率は平均1・3%だったと指摘。「経済への悪影響も大きい」と語り、物価の動きに連動する長期金利が急に上昇してお金の流れが滞り、景気が冷え込むのを懸念した。

 安倍氏は「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と発言。公共事業の財源調達と、市場に出回るお金の量を増やし景気を浮揚させる狙いとみられる。だが、白川氏は来年末までに金融緩和を目的に三十兆円近くの「極めて多額の国債を買い入れていく」と説明。日銀による国債の直接引き受けは「通貨発行に歯止めが利かなくなる」と、市場による監視の目が届かない国債購入を否定した。

 安倍氏は、日銀法の改正も視野に入れる。日銀の金融政策に対する政府の関与を強める狙いとみられる。だが、白川氏は「中央銀行の独立性は国内外の長い経済、金融の歴史の中から得られた苦い教訓を踏まえて考えられた制度」と指摘。「長い目でみた経済の安定を考え、警告を発していく。独立性をぜひ尊重してほしい」と訴えた。 (白石亘)

<安倍総裁発言> 自民党安倍晋三総裁は、景気対策として日銀に大胆な金融緩和を求める発言を繰り返している。市場では「安倍政権」の誕生をにらみ、円安や株高が進んだ。主な発言は、消費者物価の年率2〜3%上昇を目指すインフレ目標を導入し、目標達成まで無制限の金融緩和。次期日銀総裁インフレ目標に賛成する人を選ぶ−など。これらの主張は、自民が策定中の政権公約にも一部が盛り込まれる見通しだ。

 さて、白川総裁は、過去の物価上昇率の平均値が1・3%だったことから、物価(CPI)上昇率3%は経済に悪影響を与えると指摘しています。

 では、中央銀行にとって、CPI3%を狙うことは世界的にみて非常識なことなのでしょうか。

図1 物価目標採用国の物価目標水準と達成結果
物価目標採用国27カ国を、物価目標水準が低い順に並べたもの。 
最も左のが日本で、その他の国は下記に示した。*1
図中、縦棒が物価目標の幅を、 -の位置が物価目標の中心、
の位置が、2006−11年の間の、CPI平均変化率(%)を示す*2

図1から見ると、日本(日銀)はまず物価目標の設定が世界で最も低く、プラス1%ほど上方バイアスがあるCPIで2%以下のプラス、ということは図中グレーの横帯で示した線の下はデフレですので、日銀の物価目標がそもそもデフレ領域が入っていることになります。 
また過去5年間の物価上昇率の平均値は-0.2%と、世界最低水準で、デフレ気味の目標さえも達成できていません。
そして日銀は、自ら設定している物価目標が、来年もまだ達成できないとはやばやと予測しています。

 世界に目を転じますと、図1の物価目標設定国で、CPI=3%を含まない国の方が少なく、また実際達成した物価水準も3%前後が標準的であることがわかります。

ではなぜ、日銀総裁は3%の物価目標を「非現実的」と断じたのでしょうか。
シェイブテイルは白川総裁個人の資質の問題もありますが、ここにこそ日銀組織の昔からの病理が潜んでいるものと感じます。

物価目標設定国は少なくとも先進国ではその水準をほぼ達成しています。物価は中央銀行がコントロールできるものなのです。
ところが日銀は現在の物価水準も達成していませんし、中央銀行が物価をコントロールできない、という立場の人物が中央銀行を上り詰めて総裁に収まっています。

 一昨日のエントリー 「15党の経済政策をまとめてみた - 15党の経済政策をまとめてみた -」で見ましたように、今の情勢ならば次の選挙で勝利する政権は、恐らく日銀法を改正し、政府の望む物価水準を達成できない中央銀行総裁に対して政府の解任権を復活させるでしょう。

 図1から実証されているように、日本以外の物価目標を掲げる平均的な中央銀行総裁であれば、現代日本を覆う四半世紀に渡る日銀デフレも、ごく短期間で脱却可能ではないでしょうか。

*1:左から日本の次が米国、ポーランドノルウェー、タイ、カナダ、チェコイスラエル、ペルー、スウェーデン、英国、オーストラリア、ハンガリー、メキシコ、アイスランド、チリ、コロンビア、韓国、ルーマニアグアテマラ、フィリピン、インドネシア、トルコ、セルビア南アフリカ、ブラジル。

*2:出所 IMF WEO Oct.2012