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国の借金の勘違い

少し前ですが、11月27日放送のNHK・ニュースウォッチ9でキャスターの井上あさひさんが、日本の国の借金について「国民一人あたり850万円の借金」と紹介していました。 日本政府の粗債務約1000兆円を人口1.2億人で割った数字だと思いますが、あの説明を変だと思った視聴者は少なくなかったと思います。

借金をしているのは、国と言っても日本政府であって、民間が1000兆円の債務を持っているわけではないのですから。それどころか、よく知られているように、日本政府の債務の9割以上は内債ですから、政府の借金を支えている者つまり債権者が日本国民と言えるわけです。 

それにもかかわらず、NHKのニュースキャスターでさえ「国民一人あたりXX万円の借金」という言い方をするのは、言外に「政府の借金も一円残らず返済されるべき」という前提があるのでしょう。
しかし、国の債務は、個人の債務と同様、全額の返済が本当に必要なのでしょうか。

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国の債務を全て返済すれば

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ところで、私達が普段使っているマネーのうち、紙幣、いわゆる日銀券は日本銀行が創り出しています。 ただそれは、何もないところから創り出している、というわけではなく、その価値の形式上の源泉は、日銀バランスシートの資産です。*1


図1 日銀のバランスシート(単位:兆円)

日銀バランスシート上、現在はたまたま日銀券とほぼ同額の資産として国債が計上されています。 仮に、日銀保有国債などの資産が、債務返済により全てなくなったとすれば、日銀券は発行できなくなってしまいます。 
このことを端的に語ったのが、第二次世界大戦中の米国FRB議長だったエックルズ氏です。

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1941年9月30日。 当時のFRB議長 マリナー・S・エックルズは下院銀行通貨委員会の公聴会でライト・パットマン議員から20億ドル分の国債購入資金の出処について尋ねられました。 *2

Mr. Patman: "How did you get the money to buy those $2 billion of Government securities?" (20億ドルの国債購入資金はどうやって入手しましたか?)
Mr. Eccles: "We created it." (我々が創りました。)
Mr. Patman: "Out of what?" (どっからですって?)
Mr. Eccles: "Out of the right to issue money, credit." (信用貨幣を創造する権利によってです。)
Mr. Patman: "And there is nothing behind it, except the Government's credit?" (つまり、政府の信用以外には何もない、ということですね。)
Mr. Eccles: "We have the Government bonds." (我々には政府国債があります。)
Mr. Patman: "That's right, the Government's credit." (そう、政府の信用が。)

Mr. Patman: "You have made the statement that people should get out of debt instead of spending their money. You recall the statement, I presume?"(あなたは、人々はお金を使うのは止めて借金を減らすべきといったこと、覚えてますよね?
Mr. Eccles: "That was in connection with installment credit."(それは消費者割賦払いについて述べたものです。)
Mr. Patman: "Do you believe that people should pay their debts generally when they can?"(人々は債務は支払うべき、とは考えていますか?)
Mr. Eccles: "I think it depends a good deal upon the individual; but of course, if there were no debt in our money system..."(それは相手にもよりけりかと。もし我々の通貨システムに債務がなければ…
Mr. Patman: "That is the point I wanted to ask you about."(そこですよ、私がお尋ねしたかったのは。)
Mr. Eccles: "There wouldn’t be any money."(お金は存在しなくなります。)
Mr. Patman: "Suppose everybody paid their debts, would we have any money to do business on?"(もし、全ての人々が債務を払ってしまえば、経済活動を行うためのお金は全くなくなってしまうと?)
Mr. Eccles: "That is correct."(その通りです。)

Mr. Patman: "In other words, our system is based entirely on debt."(言い換えれば、我々の通貨システムは全て債務によるもの、ということですね。)

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要するに、政府の債務全て返済してしまえば、私達の通貨システムは崩壊してしまう、というわけです。
これは上の図1で雑駁に言えば、政府が日銀保有国債を返済する、つまり国債の分だけ日本銀行のバランスシートの債権を圧縮すると、バランスシートの負債部分も同時に日銀券の分だけ圧縮されることに相当します。

ただ、このことは政府債務は一切返済する必要がない、ということを意味するものではありません。
政府が債務を増大させていくと、ついには金利の支払いが滞ることになり、財政が破綻する可能性が出てきます。

結局政府債務とは、国家の経済を回転させていく起爆剤であり、起爆剤なしに国家経済は回らない、とも言えますが、起爆剤が多すぎては国家経済を破壊するとも言えるでしょう。

ところで、政府債務を全て返済すれば、国家経済が崩壊するとたった今書いたばかりですが、政府債務を全て返済することができないか、といえばそうではありません。 
 
図2 政府債務が多い国々と政府債務がない国々
横軸:政府純債務対GDP比率(2011年、%) *3
政府債務が多い国には、日本の他、欧州危機の国々などがあり、
逆に政府債務がなく、政府が債権を有している国々には産油国、北欧諸国などがある。

図3 政府純債務国比率
世界の国々の大半は政府純債務国。ただし、1割強の国々は政府に純債権がある。

 世界の国々の1割強は、政府が純債務を負っておらず、逆に純債権があります。 これらの国々ではマネーシステムが崩壊している、というわけではなく、単に世界の他の国々がこれらの国に借金をしているということです。 つまり、ある閉じた世界の中にマネーがあったとすれば、その世界の中に同額の負債があり、閉じていない世界では、ある人のマネーには必ずその人を除く世界中の誰かの債務が対合しているということになります。

 民主党政権は、日本政府の多額の借金を背景に、社会保障制度を存続させるために、消費税を増税すると言っています。
しかし、今見てきましたようなマネーの仕組みである以上、実体経済を犠牲にしてまで政府の債務を減らそうとすることには全く意味がないどころか有害無益であり、マイルドインフレの中での成長戦略により、自然な税収増で国家の借金をコントロールすることこそ政府の役割だといえるでしょう。

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*1: 議論の本論から外れますが、あえて形式上とか来ましたのは、価値の本質は日本国内の生産力や商品が紙幣の価値の本質と考えるからです。

*2:出所 The Social  Credit proposals explained in 10 lessons  Lesson 4: The solution: debt-free money issued by society 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - このエントリーをはてなブックマークに追加

*3:出所IMF WEO Oct2012