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日本国債は暴落するか、させられるのか

日本国債が破綻(返済不能)になることはないと書いてきました。
では破綻まではせずとも、日本国債が暴落することはあるのでしょうか。

日本国債の破綻があり得ないことはこれまで何回か書いてきました。

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ただ、破綻までには至らずとも、国債が大暴落することはないのでしょうか。

小笠原誠治氏というコラムニストの方がいらっしゃいます。

この方が、BLOGOSに投稿した話で、麻生大臣が6月17日の横浜市での講演で、「国の借金?お金を刷って返せばいい。簡単だろ?」と発言したのを批判し日本国債のデフォルト・暴落を憂えたコラムを出発点に、この問題を考えてみたいと思います。

 小笠原氏は日本国債のような内国債ギリシャのような実質外国債は別だというスタンスですので荒唐無稽な内容ではありません。(文中、ボールド体はシェイブテイルによる)

 …。
 日本のお金持ち層が、直接的にしろ間接的にしろ偶々今のところは国債で資産を運用することに何の疑問も感じないとしても‥これから先も国の借金が増え、その結果、例えば他国で資産を運用することに益々魅力を感じるようにでもなれば、日本の国債の人気が落ちてしまう可能性もあるからです。
 今国債に投資している全員が一斉に国債を手放すようなことがなくても、例えば、一部がそのような動きをするだけで、大変な影響を与える可能性があるのです。そして、そうした波紋が広がると‥それが怖いのです。

 もちろん、麻生大臣が言うように、日本政府には徴税権もあり、いざとなったらお札を刷ることもできる。それはそのとおり。

 しかし、仮に、国民の多くが国債に対する信用を失うような事態になったときに、幾ら増税で財源を確保しようとしても、今でさえ増税に反対する声が大きいのに、そんなこと実現できる訳がないではないですか。もし、どうしても増税するとなれば、そのような政治家は選挙で落選してしまうでしょうから。

 それに、そのような場合に政府が幾らお札を刷ったとしても、そのような金欠病になった政府が止むに止まれずに発行したお札など、誰が喜んで受け取るというのでしょうか?
 そうではないですか?

 つまり、理屈の上では政府には徴税権があり、そして、造幣権を復活することがあり得るとしても、それによって常にデフォルトの事態を回避することができるとは保証できないのです。

 それに、経済や財政の仕組みについて詳しい人なら、麻生大臣が言っているようなことは言われなくても十分分かっているのです。

 もちろん、政治家のパーティーに参加するような人々の多くががそのような知識を有しているとは思えないので、その意味で、麻生大臣のような話をすれば、意外性があり、聴く人を引き付けるかもしれません。

 しかし、繰り返しになりますが、財政に責任を有する立場にある人が、そのようなことを口にすること自体に、国債保有者は危うさを感じてしまうのです。

 それに、国債が幾ら自国通貨建てであっても、その国債のかなりの部分を海外の投資家が保有するような事態になれば、大変由々しき事態になってしまうのです。

 だって、債権者が自国の人々でない訳ですから、急に国債を大量の売り払らわないとも限らない。そして、そのことを一番よく認識しているのが、基軸通貨国債を発行している米国自身であるのです。

 自国通貨建ての国債だから安心だと麻生大臣が言うのであれば、基軸通貨建ての自国通貨で国債を発行している米国は、何も心配する必要はないという理屈になりませんか?

 しかし、実はアメリカは安穏としている訳にはいかないのです。

 何故ならば、仮のどこかの国が一気に米国債を手放すことにでもなれば、それこそ米国の経済を大混乱に巻き込むことが可能であるからです。

 今のところ、日本の国債保有する海外勢の割合は、比較的小さなものにとどまっているからいいようなものですが‥でも、そうは言っても少しずつ海外の投資家が保有する割合が大きくなっているのです。

 だから、決して安心はできないのです。

 それにも拘わらず、貸借対照表に借り方と貸し方があり、誰かがお金を借りているということは、誰かが貸しているということであり‥なんて話を得意そうにされると、専門家は絶句 してしまうのです。

 散髪屋でする話としてならいいかもしれないのですが‥

    「借金はお金を刷って返せる」と言う麻生財務相が気が付いていないこと 
   小笠原誠治 BLOGOS 2013年06月21日 17:09

文中、ボールド体で示したところがポイントですので順番に見てみましょう。

国債に投資している全員が一斉に国債を手放すようなことがなくても、例えば、一部がそのような動きをするだけで、大変な影響を与える可能性がある
 これは、内国債の売り崩しが可能か、というお話で、大変興味深いし、簡単でもない話ですので、最後に回しましょう。

>国民の多くが国債に対する信用を失うような事態になったときに、幾ら増税で財源を確保しようとしても(増税できない)
 小笠原氏は、歳入=税収+国債+通貨発行益という財政の基本が分かって書いているのでしょうか。 
 国債の信用云々以前の話として、歳入を増やしたいのであれば、増税は単に一手段に過ぎず経済成長による歳入増がもっとも健全です。 また歳入源は、債務の借り換えでもよいし、財政危機となってそれさえ困難だとしても、政府紙幣中央銀行による国債直接引受けによる通貨発行益によって歳入は得られます。 

通貨発行益に頼ると怖い場合とは、インフレがすでに進んでいる場合で、この場合には通貨発行益は最善手とはなり得ないでしょう。 しかし、日本は長期デフレ。歳入を通貨発行益から得ることが最善手である可能性は十分あります。

>政府が幾らお札を刷ったとしても、そのような金欠病になった政府が止むに止まれずに発行したお札など、誰が喜んで受け取るというのでしょうか?
この質問をしている小笠原氏に逆に聞きたいことがあります。小笠原氏は「日本の財政は相当に危ない」という立場のようですね。そうなると、江戸幕府末期に軍資金目的で製造された、「チャラ金」と呼ばれた低品位の万延二分金のように*1、現在の1万円も額面では通用しなくなる、とでもいうのでしょうか。 

 金貨とは異なり不換紙幣には元来根源的価値などはなく、交換価値だけしかありませんから、政府が金欠病であろうがなかろうが普通に国民は受取り、使うでしょう。 

 極端なことを言えば、年率100%のインフレ状態でさえ、日本国内で円の受取りを拒絶する人はわずかしかいないのではないでしょうか。もし小笠原氏が日本円は信用出来ないというので捨てるつもりなら、いつでもシェイブテイル宛に送金してください。

>理屈の上では政府には徴税権があり、そして、造幣権を復活することがあり得るとしても、それによって常にデフォルトの事態を回避することができるとは保証できない
冒頭触れた過去のエントリーでも再三書いたように、自国債がデフォルトするケースは1)内戦などによる政情不安、2)ドルペッグ国やユーロ圏のように自国債に見えて実質外貨建て 3)高インフレ の三種以外には知られていません。 小笠原氏は日本がこれらうちのいずれかの状況にあるというのでしょうか。それとも過去800年の世界金融史にも見られなかった新たなデフォルトの危機に日本国債が直面しているとでもいうのでしょうか。

国債が幾ら自国通貨建てであっても、その国債のかなりの部分を海外の投資家が保有するような事態になれば、大変由々しき事態になってしまうのです。だって、債権者が自国の人々でない訳ですから、急に国債を大量の売り払らわないとも限らない。

現在、円建て国債保有者の1割弱は海外投資家になっています。仮にこの比率が今よりも高いとした場合を含め、円建て国債が売られて海外投資家の手元に残る円貨はどうなるのでしょうか。

円は海外では土産物店など一部を除いて殆ど通用しません。海外に円貨を持って行った海外投資家にしても、その資産を運用するとなれば、日本国内で運用するか、その円貨を売って外貨に替えざるを得ません。結局、日本国債が売られた結果の円貨は日本国内で運用する以外にはないのです。 1兆円だけでも容積120㎥にもなり、タンス預金はリスクがあるだけで無意味ですから、いずれ預金などに回ってしまい、結局は日本国債を買う原資となるだけです。

基軸通貨建ての自国通貨で国債を発行している米国は、何も心配する必要はないという理屈
 基軸通貨建ての自国通貨建て国債を発行する米国は何の心配もいらないでしょう。

 実際、伝説の債券投資家といわれたビル・グロス氏は2011年3月に米国債を売りに回ったのに、同年8月には売りの失敗を認めています。*2 

日本でもカイル・バス氏が日本国債の売りを仕掛けましたが、現在ではおそらく自分のファンドの7割程度の損失が出ているでしょう。

ただ、ジョージ・ソロス氏が1992年にかつて基軸通貨であったポンドを売り浴びせ、ポンド危機を引き起こした事例はあります。 

これはポンドが既に基軸通貨ではなくなっていて、かつ当時のポンドが、現在のユーロの前駆的制度だったERM(欧州為替相場カニズム)に連動する固定制度になっていたため、割高とみたソロス氏に売り浴びせを仕掛けられたことによるもので、その後ポンドは変動相場に移行しています。*3

◇日本国債の売り浴びせは成功し得るのか
小笠原氏のコラムの最初の問題提起、
国債に投資している全員が一斉に国債を手放すようなことがなくても、例えば、一部がそのような動きをするだけで、大変な影響を与える可能性があるのです。
にも関係しますが、もし資金力がある投資家が日本国債を売り浴びせした場合に成功するチャンスがあるかどうかについても考えてみたいと思います。

上述のポンド危機の場合にはポンドを売り浴びせられた英国では手持ちの外貨を売ってポンドを固定相場レンジに維持する必要がありました。
日本国債の場合には、必要があれば無限に円貨を発行できる日銀が買えばどこまでも買い支えることができます。ただ、ここでは日銀による国債買い支えはしないものとして考察してみましょう。

国債現物売り
これは先ほど述べた通りで、邦人だろうが外国人だろうが、円貨が日本でしか通用しない以上、売却による円貨は日本に留まります。デフレ日本で円貨が滞留する一方、国債価格が下落(利率は上昇)すれば、国債の魅力は高まり、一時的な下落以上に売り込むのは困難でしょう。

国債先物売り
想定すべきシナリオは

先物の売り崩国債価格の大暴落→国内金融機関が国債評価損で大赤字→金融危機貸し剥がし・金融機関による国債の新規購入が不可能に→金利高騰+税収減→日本政府・地方自治体のデフォルト

といったところでしょうか。
先物を大規模に売る主体があれば、先物主導である程度の国債現物価格下落はあり得るでしょう。
ただ、国債先物市場は差金決済ですので、現物市場とは違い、ゼロサムゲームです。日本国内の円貨や国債の総量に影響を与えるものではなく、決済限月前後でみれば、国債先物はかく乱要因となっているに過ぎないと考えられます。 *4

結論として、デフレ日本における日本国債を暴落させたままにすることも、ましてやデフォルトさせることも、やりたくてもできないということです。 日本国債のデフォルトを避けるための増税などという話は、妄想を根拠にした日本経済潰しとしか言えません。

 
自国通貨建て債の売りで失敗したビル・グロス氏(米国債)とカイル・バス氏(日本国債

*1:江戸末期から明治初年にかけて発行された江戸時代を通じて品位がもっとも劣悪な二分金。銀台に金メッキや銅台に金メッキの贋金も横行した。

*2:米国債売却『大失敗』と認めた債券王ビルグロス氏

*3:実質外貨建て通貨の危機

*4:株式市場の場合、株価は適正理論値を算出する方法が何種類もあり、誰にも今の株価が真に適正か判断することはできません。従って、株式先物ゼロサムゲームであっても、そのかく乱要因が、日本の株価時価総額に悪影響を与えることは可能でしょう。