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安倍首相は二者択一が必要だったのだろうか



改造安倍内閣の人事がネットでは波紋を呼んでいます。 注目されるのが、自ら自民党総裁として消費税増税に邁進した谷垣氏の党幹事長起用です。

この4-6月期は個人消費を中心に景気が落ち込み、実質GDPの前期比は年率換算でマイナス6.8%を記録しました。

 内閣府が13日発表した2014年4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.7%減、年率換算では6.8%減だった。マイナスは2四半期ぶりで、1〜3月期(年率換算で6.1%増)から急減した。消費増税前の駆け込み需要の反動が出て、自動車や家電など耐久消費財を中心に個人消費が大きく落ち込んだ。

4〜6月GDP、年率6.8%減 駆け込み需要の反動  日経 2014/8/13

7月以降の景気回復も思わしくないう分析がいくつもなされています。

8月の国内新車販売、大手百貨店の売上高速報が1日発表された。いずれも振るわず、夏以降に消費が本格回復するとした政府のシナリオに狂いが生じている内容となった。7〜9月期の国内総生産(GDP)は、来年10月の消費税率再引き上げの大きな判断材料となるが、その6割を占める個人消費に力強さは見られない。
力強さ欠く個人消費…政府シナリオに狂い 新車販売9%減、百貨店も振るわず SankeiBiz 2014/9/2 08:15

消費税10%への再増税の主な判断材料である7-9月GDPに既に陰りが見えているのですから、改造人事は増税増税中止の両天秤が可能となる布陣かと思われていましたが、フタを開けてみると、ガチガチの増税派谷垣氏を安倍首相は党幹事長という要職につけました。

これについて、第一次安倍内閣以来安倍首相とも近い高橋洋一氏は次のように分析しています。

政権交代で長い間冷飯を食っていた自民党議員は、政権奪取のうまみを味わいたいので、消費増税を今かと待ち焦がれている。今年度予算は大盤振る舞いだったので、それなりに息がつけたが、政権交代の3年半の分はまだ取り戻していない。そこで、消費増税が予定通りできないと、困ってしまう。

 財務省を含め中央省庁の予算担当者も思わぬ余波を受ける。一応消費増税を前提として予算要求しているので、消費増税がスキップとなれば、年末の忙しい時期に、予算のやり直しになりかねない。消費税増税を見込むとは、機械的な手続きではなく、要求は気前よくやっていいというのが、役人の間で暗黙の了解なので、それをご破算にされたら、役人の間で大騒ぎになるだろう。

 各地方の自治体も割を食うことになるだろう。今回の地方創生大臣がでてき、地方へのバラマキがあると期待していたにもかかわらず、それもストップするだろう。なにより、新たな地方創生大臣になった石破氏の仕事がなくなるので、いったん矛を収めた石破氏が再び暴れ出すかもしれず、自民党のまとまりがなくなってしまう。

 政治はポリティカル・キャピタルをどこに投入するかということであるので、社会保障改革のほか消費増税で後ろ向きな話は、谷垣幹事長の党で引き受けてもらうことにする。その一方、消費増税で景気が落ち込むので、それへの対策は、安倍政権がフリーハンドを持つようになり、かなりの規模の経済対策ということになる。おそらく、ある時点で、金融緩和と景気対策になるだろう。

党人事・内閣改造の狙い 政策工房 高橋洋一 Public Policy Review September 04, 2014

つまり、

1)増税して今の財政規模を維持する
2)増税を断念し緊縮財政を選ぶ 

の二者択一だとしたら、安倍首相としては2)よりも1)が優るとの判断から、現在の景気落ち込みには目をつぶり増税した上での財政金融政策の追加を考えているというわけです。

ただ、この判断は正しいのでしょうか。 
またそれ以前に、そもそも安倍首相は上の1)、2)からの二者択一が必要なのでしょうか。


図表1 バブル崩壊後の景気循環
バブル崩壊後の景気後退期は
91年…バブル崩壊
97年…消費税5%増税
01年…ITバブル崩壊
08年…リーマンショック

 図表1はバブル崩壊後の景気循環を示しています。
一方、図表2は、バブル崩壊後の大規模経済対策の実績です。

図表2 バブル崩壊後の大規模経済対策
出所:三菱東京UFJ銀行「経済レビュー」H21.4.14

図表1,2を比べていただければ分かるように、バブル崩壊後の大規模経済対策は、景気後退期入りが確認された後にだけ実施されています。 そしてそれぞれ景気後退期を脱することができています。

大きな景気後退を回復させるためにはそれなりの巨額の財政出動を余儀なくされています(図表2)。
つまり、景気後退→巨額財政出動→政府債務積み上がりといった図式になるわけですね。

ではもし、景気後退期ではない時期に大規模財政出動をしたらどうなるのでしょうか。

財源に国債増発を使った場合のシミュレーションは、元国際大学学長、元筑波大学副学長・名誉教授 宍戸駿太郎氏、日本経済復活の会会長 小野盛司氏によりなされています。

そのシミュレーションの代表的な結果を以下に示します。

景気後退期ではないタイミングでの大規模財政政策の効果
【前提】
[小泉型]構造改革(緊縮)+金融緩和(2003年の現実政策)
[亀井A型]小泉型に加え、30兆円(03年)、以下8兆円の財政出動増額
[亀井B型]亀井A型に加え、政府投融資などでの資金供給(最大06年に29兆円)
【シミュレーション方法】
計量経済分析ソフト Economate を利用した分析
【結果】

景気対策の効果の分析(宍戸・小野 2003)
 AJER 03-13 日本経済復活の会 ウェブサイト

名目GDPは亀井B型>亀井A型>小泉型と、財政出動するほうが大きくなるのは当然としても、民間消費支出デフレーター(消費者物価)も亀井B型>亀井A型>小泉型となり、金融緩和下での大規模財政出動によりデフレ脱却が可能という結果になっています。

また最も注目すべきなのは、国債及び政府債務残高/名目GDP比で、これは小泉型>亀井A型>亀井B型となり、大規模財政出動したことにより政府債務問題は縮小することが示されています。


最近のGDPなどを見ると、現在の日本は既に消費増税による景気後退局面入りしている気配が濃厚です。

それでも元々経済には疎かった安倍首相とその周辺では今のところ消費税増税やる気満々といったところでしょうか。*1

その結果、今の景気後退が更には恐慌状態になる可能性もあります。
そこではさすがに大規模財政出動は余儀なくされるでしょう。

いえ、1997年の消費税増税を最終決断した橋本元首相がすぐに政権の座を降りざるを得なかったように、本格的な財政出動の決断まで第二次安倍内閣の命脈がある保証さえありません。 そうすれば日本経済史には、安倍首相は単に緊縮増税を行った首相としてのみその名を刻まれることでしょう。

安倍首相が元々唱えていたアベノミクスの通り、第二の矢で好景気下の大規模財政出動をやっておけば上記の宍戸・小野両氏のシミュレーションと似た結果を享受できたのでしょうが、アベノミクスが大規模金融緩和+消費税での負の大規模財政出動と変質した今、1998年以降の経済小史、つまり緊縮財政→大幅景気後退→大規模財政出動財政問題悪化が繰り返されることになるのではないでしょうか。

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*1:9月2日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、アベノミクスを安倍首相に伝授した山本幸三氏は今になって、再増税は望ましくないという見解に変わったようです。8%増税前にそう判断して欲しかったのはシェイブテイルひとりではないでしょう。