シェイブテイル日記2

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日本でジェネリック薬使用を増やすには

日本の医療では諸外国に比べてジェネリック医薬品(後発薬)のシェアが小さいことが以前から指摘されています。

去る19日に開かれた経済財政諮問会議では、民間議員からジェネリック医薬品と効き目が同じでも価格が高い特許切れ新薬を使った場合、患者の自己負担を増やすように求められました。高価な新薬でも、保険でカバーするのは対応するジェネリック薬と同じにする、というのが提案の骨子です。

確かに新薬の保険でカバーされる部分をジェネリック薬と同じにすれば、ジェネリック薬のシェアは上がり、患者負担は減るでしょうが、それは正しい選択なのでしょうか。

日本と海外で、薬価が高いのか低いのかを比較するのは、比較の基準が何種類もあることと、為替の影響で容易ではありません。
ただ、米国で算出された各国薬価比較が公表されており、それと日本での新薬-ジェネリック薬の価格比較から、国際的な薬価の比較がなんとか可能です。*1

日本の薬価は国際的にみて、新薬では低めで、ジェネリック薬では差がない

図表1 新薬・ジェネリック薬の薬価水準国際比較
出所:米国を1とする新薬・ジェネリック薬の薬価比較は
U.S. Department of Commerce (2004) Pharmaceutical Price Controls in OECD Countries
新薬・ジェネリック薬間の薬価比較は沢井製薬ウェブサイトからの筆者推定

シェイブテイルには、日本でジェネリックが使われにくい理由は、諸外国と比べて、新薬-ジェネリック薬間の薬価差が小さすぎるためではないかと思えます。

新薬とジェネリック薬は一般に同じものと思われるかもしれません。
ただ、実態から言えば、新薬とジェネリックでは分子式が同じというだけという方が近いのではないでしょうか。

と言いますのは、新薬では当然ながら患者での有効性や安全性など多様な情報が背景にはあります。何か問題が生じた時、新薬メーカーなら問い合わせに答えられることが、ジェネリックメーカーではわからないということもあるでしょう。

また製造法も新薬とジェネリックでは異なるため、試験的な溶解性は同様であっても、人体での挙動は異なることもあるようです。

こうしたことから、よほど薬価を両者間で差をつけなければ、特許が切れても新薬の方を使いたいという医師は多いままではないでしょうか。 

日本の薬価制度では、特許が切れた医薬品に対し、ジェネリック薬では例えばその6割の薬価をつけて、その後実勢価格で修正するう方式を採っています。 その結果、図表1のように日本の特許切れ医薬では、新薬−ジェネリック薬の価格比が諸外国より小さくなっています。

日本のジェネリックメーカーでは日医工という会社が最も規模が大きく、グループでの売上は1,270億円です。
ところが、世界最大のジェネリックメーカーはTeva社で、売上2.4兆円と、日医工のほぼ20倍の規模です。
従業員数に至っては、日医工930名に対し、Teva社は46千人。ほぼ50倍です。
ということは、一人あたり売上では両者は逆転し、Teva社が53百万円/人、日医工は137百万円/人です。(図表2)

日本のジェネリックメーカーは規模が小さいのに、従業員一人あたり売上は大きい

図表2 ジェネリック薬メーカーでの世界トップ1と日本トップ1の比較
出所:Teva社、日医工ウェブサイトでの直近の業績報告書

それで日医工の最終利益率が高いかと言えば、対売上純利益で5%程度で大して高くはありません。

これらのことから、恣意的につけられている日本のジェネリック薬への初期薬価算定率、60%が高すぎるため、日本の医師にはジェネリック薬を使うインセンティブが働かず、ジェネリックメーカーには規模拡大を目指すインセンティブが働いてこなかったのではないでしょうか。 

その状況でもし経済財政諮問会議の民間議員案のように、更にジェネリックメーカーに有利で、新薬メーカーには不利な医療保険制度に変えるならば、重要な高度技術産業である創薬は日本では衰退するだけという気がします。

経済財政諮問会議については国の経済だけでなく医療の先行きにも影響の大きい施策を提案する場なので、きちんとした分析に基づいた正しい方向性を示していただきたいところです。

*1:ちょっと二階から目薬のような算出方法ですが、ここでは正確性より傾向をみていただきたいのです。