中谷美紀/食物連鎖(1996)


憂いが松葉杖をつきながらぎこちなくやってくる。
そして憂いはその陰を隠さずにうっすらと光の射す方向へ近づいてくるけれど、それは決して光の下には現れない。
その陰、暗がりは決して照らされることがない。
艶かしさを兼ね備えたその暗がりに鷲掴みにされたまま、ただ引き摺られるばかりで引き摺られた後の傷でさえ愛おしくなるからこれがまた不思議なのだけれど、兎にも角にも為す術が無い。
快感を伴ったこの傷は背徳的で、だからこそ甘美だ。


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