2008-04-01 エイプリルフールに葬式とはね
■今、"努力して手に入れたいもの"ってなんなのだろう
通夜の儀式のあと、坊さんと話をした。
「いまの若い人たちは徳がない」
と言っていた。
「拝金主義が悪い」
みたいなことを言っていた。
「なぜ拝金主義が蔓延っていると思うのですか?」
と問うと、少し考えてから
「おそらく、我々の世代が悪いのだ」
と言った。
昔の日本は貧しかった。
戦争に負け、資源が枯渇し、貧しくなってしまった日本は、とにかく欧米に追いつけ追い越せと猛勉強した。国全体がモーレツだった。
「福沢諭吉とか、大隈重信とかね、昔、役人といえば国家のために滅私奉公することに誇りを持っていた。高い徳で経済の成長を支えた。当時に比べれば、今の役人は利己的だ。天下りに横領、組織ぐるみの誤摩化しが横行している」
「私の父も官僚だった」と坊さんは語った。
「父はとにかく、猛勉強して役人になって、とにかく中央のトップに立てと私に言った。私はそれは叶わず仏門に入ったが、息子には同じように東大へ入れと言った。しかし、そこで私たちは間違った。東大へ入るための猛勉強は、"自分のため"にするのだと教えた。"自分のため"に勉強した子供達が官僚になって、国家より自分を優先して横領に走ってしまうのも、ある意味で仕方がないのかもしれない。息子がそうであるとは思いたくないが」
国のためにトップを目指す滅私奉公の考え方は確かに徳が高かったかもしれない。しかし、実際には一線で滅私奉公する栄誉に浴せない人々、すなわち大部分の人々の羨望は嫉妬に変わり、嫉妬は利己主義的な出世妄想を生んだ。団塊の世代はその最たる物だ。
僕も親父からしつこく言われた。「自分のために勉強しろ」。
学校でも言われた。「勉強できない奴はいい仕事にありつけない、出世もできない駄目人間だ。だから勉強しろ」
進学校というのは、巨大な利己主義者養成所だ。なにしろ勉強するモチベーションは自分の出世欲や生存を満たすためなのである。
そういえば僕の高校の同級生で東大文一に言った奴は、女の子にフラレて猛勉強していた。どこかいびつな気がする。
勉強ができるとモテるから、勉強ができるといい会社でいい給料で働けるから、勉強ができると出世するから・・・僕はそんな幻想を押し付けられて育った。
利己的な学歴主義が刹那的な拝金主義を産むのはある意味当然だ。
なにしろ勉強する理由が"金儲けのため"なのだから救いようがない。
僕の同級生で実際に見知った例でいえば、こんな感じだ。
「おれは建築科を目指しているんだ」
「へえ、どうして?」
「知らないのか?建築家って凄い給料が出るんだぜ」
他の例もある。有名私立大学の政治経済学部に居た奴だ。
「おれは公認会計士を目指しているんだ」
「へえ、会計が好きなのかい?」
「いや、姉ちゃんが会計事務所で働いていてさ、公認会計士になると凄い給料がいいんだって。姉ちゃんは資格持ってないからぜんぜんだけど、会計士はとにかく凄いんだよ。BMWに乗ってるんだぜ」
最後にもう一人、東大に行ったある同級生はこんな感じだった。
「おれは官僚になるのはバカバカしいから、商人になろうと思う」
「なんで官僚がバカバカしくて商人はそうじゃないんだ?」
「官僚の給料なんかたかが知れてる。商人の給料は努力次第で青天井だ」
電通大の同級生にはコンピュータが好きな奴ばかりだったから、こういう人たちは居なかった。たいして勉強しなくても入れる学校だったからだと思う*1。
だからこそ強烈に覚えているのかもしれない。
僕は好きでもないのに金のために勉強したり働いたりすることが全く理解できないし、今でもそれは変わっていない。
好きなことをして生活が出来て、それ以上なんの贅沢があるというのだ。
再び坊さんの話に戻る。
「昔は3Cといって、家電でいえば、クーラー、カー(自動車)、カラーテレビが三種の神器と呼ばれていた。それから電子レンジ、洗濯機、ビデオデッキになり、食器洗い機、CDデッキ、大型テレビになった。今はなんだろうねえ」
そう考えると、今はそういうものがなにもない。
ケータイ電話以降、僕は努力してまで欲しいと思えるものがなくなってしまった。
ひとつは、日本が豊かになりすぎたのだと思う。
1から10へ向かおうとするエネルギーは凄まじいが、1000から1010まで向かうときのエネルギーやモチベーションは相対的に低い。
新しいなにかを買うことでその人の生活様式が変わるというよりも、他人より浪費することで自らの存在確認をするために拝金主義となるのだ。彼らが拝金主義を意識するせざるに関わらず、その影響を受けている人は、結局のところ自分の半生が正しかったと証明するためにお金を必要とするのである。なにしろ今の日本で普通に働いていて飢え死にすることはまずないはずなのだ。衣食中足りて、なぜその上を目指すか。それは己の存在確認に他ならないのではないか。
中国を見ると、彼の国を支えているのは豊さへの渇望というエネルギー、「貧しさ」というエネルギーなのだと直感する。
中国の豊かさを支えるのは超格差社会だ。
ところが既に一億総中流となってしまった日本には、努力してまで新しいなにかを欲するというほどのエネルギーがない。
液晶テレビがなくたって誰も不自由しない。そういう時代ではなくなってしまったのだ。
我が国で今や「出世したい」と公言する若者を探すのは難しくなってきている。誰も出世したいなんて思っていないのだ。ヒーローになんかなりたくない。平凡になりたい、というのが大部分の日本人の意識ではないだろうか。
「出世したい」という人がいないかわりに「金持ちになりたい」と公言する人は多い。稀に「出世したい」と言ってる人を見つけても、話を聞くと実際には「金持ちになりたい」という人の方が多いように思う。
「金持ちになるために出世したい」というのと、「出世したら金が儲かった」は似ているが大きく違う。
「出世したい」と「金持ちになりたい」というのはどちらも似たモチベーションだが、証明主義と拝金主義という二つの軸が存在するはずだ。
証明主義とは、「自分の考えが正しいと証明すること」を目的とした出世欲である。この場合の出世というのは、必ずしも組織の中での昇進のみを指さない。自説のただしさを何らかの事業によって証明することで、自分の存在価値を確認するのが目的だ。こういう人にとって金銭は二の次である。
革命的な仕事をするのはほとんどの場合、証明主義的な人だと思う。
スティーブ・ジョブズは若くして億万長者になりながらも、革命的な製品を作ろうとする姿勢を決して崩さなかった。今だって満足していないだろう。
スピルバーグもしつこく映画を撮り続けている。あれだけの大家になりながら、これだけたくさん映画を作るというのは凄いことだ。
トーマス・エジソンも、ハワード・ヒューズも、ベンジャミン・フランクリンもひとつやふたつの成功で満足することなく次々と事業を重ねていった。
そういう人は金離れがいい。
喪うことを全く恐れず、破産覚悟で信じる道に殉じる。それが彼らの強さだと思う。
逆に拝金主義的に出世する人というのは、金持ちになった時点で欲望が満たされてしまうのである。
たとえば大きな会社で出世レースに勝って、社長になってしまったらその時点でやる気がなくなる。
「課長 島耕作」の後半で、まさに大泉社長が「やる気がなくなった」という理由で引退する場面がある。
[rakuten:book:12053796:detail]
とんでもない理由である。
しかも大泉社長は、社長になって数年でそんなことを言い出すのだ。
社長になるのが人生の最終目的地だったわけである。
そもそも、そんな人間に社長をやらせてはいけない*2。
こういう思考様式は拝金主義の極北と言えるだろう。そもそも、社長になること自体が目的というのは、一体なんのために社長に成ったのかわからない。
坊さんの言葉を借りると、
「結局、徳が足りないんですよ」
ということになる。
「徳」というのは便利なバズワードだ。
Ultimaにも出てくる。徳を修めるとアバタールになれるのだ。
では徳というのはどうやって身につけるのか、または教育の現場でどうやって徳を説いていくのか、と聞くと
「宗派により違いますが、私たちの場合は、徳を口で伝えては駄目ということになっています。たとえば布教の類いは一切しない。ただ黙って禅を組むだけ。
そして普段の立ち居振る舞い。飯の食い方、しゃべり方、物腰、考え方、捉え方、勉学への励み方、そういう人間が全て心を入れて行う所作をただ黙々と
続けるのです。するとそれを見た人が自然に徳を理解し、徳のある考え方や行動とはどのようなものか学び取り、共鳴していくと教えられています」
と答えられた。
これは非常に難しい。しかし合理的な考え方のようにも思う。
結局、徳を説くには自らが徳を積むしかないのだという、なんというか、禅問答のような話になってしまった。
今日は落ちも結論もない。
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