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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2010-10-05

プロデューサーの仕事、ディレクターの仕事 12:27

去る東京ゲームショウ2010、過去最大(公称)の20万人が訪れたというこのイベントに参加された読者はおられるだろうか。

参加された方は、その入り口に、こんなバナーがあったのを覚えているだろうか。

http://gyazo.com/384f890835e52a5d7898f8615186e74e.png

名だたる名作・傑作・大作ゲームの中にぽつんとひとつ、"単なる"携帯ゲームのバナーが張り出されている。

天空のエリュシオン。そう。僕たちのゲームだ。


このイラストを書いて下さったのは、広島在住でpixivで活躍されているイラストレーターのユミさん。

今回、東京ゲームショウにあわせてわざわざ東京まで来ていただいて、pixiv通信のインタビューにも答えていただいた。

 ケータイで“手軽”にプレイできる“本格的”RPG「天空のエリュシオン」。シンプルなシステムに用意されたのは、本格的に作り込まれた世界観とキャラクターたち――世界の危機を救うという伝説の理想郷「エリュシオン」を求め、冒険の旅に旅立つ主人公たちを待ち受ける運命とは!?


 そんなプレイヤー(冒険者)たちを描くのは、pixivでもイラストを発表されているユミさん。pixivの人気企画「pixivファンタジア」へも参加されているので、ご存じの方も多いのでは?

 今回は、そのユミさんに「天空のエリュシオン」のイラスト執筆と創作の秘密について伺いました。

イラスト コミュニケーションサービス[pixiv(ピクシブ)]

http://p2.pixiv.net/2010/10/04/23837.html

以前にも書いたけど、この作品を作るにあたり、僕は今回、社内のグラフィッカーを使わないことにしようと思っていた。


その理由は、単純なリソースの問題もあるけれども、ずっと社内のグラフィッカーに頼ってゲームを作り続けると、会社のイメージ全体がその画風に引っ張られてしまうおそれがあるからだ。


かといって、当代人気のイラストレーターを起用しようとすると、とにかく人気なので忙しくてなかなか発注できない。


そうしたら、僕が言うのはおこがましいけれども、まだ見ぬ才能を探し出して、その人と一緒に成長していく、というような作り方ができるのではないだろうか。と考えたのだ。


僕がまず最初に考えたのは、「誰をイラストレーターとして起用するか」ではなく、「誰にイラストレーターを選ばせるか」だった。


その点で、田中晴子ほどうってつけの人物は居なかった。

彼女は絵がそこそこ描けるが、めちゃくちゃ上手いというわけでもない。

けれども、「どんな絵が必要か」「どんな絵が良い絵か」ということを知り尽くしていた。


メインのイラストレーターを田中に選んでもらったとき、出てきた絵をみたときの第一印象は「少し懐かしいけど、なにか新鮮さがある」というものだった。新鮮で親しみやすい・・・なるほど、と思った。田中の目は確かだ。僕の企画意図を言外に汲み取り、こういうビジュアルをイメージしてきた。


田中はこう言った。


 「この数日、彼女の絵を見ていますけど、見て下さい。三ヶ月前からするとものすごく画力が上達してるんです。この人はいま伸び盛りの絶頂期です。この人なら、きっと一緒に成長していってくれると思います」


 「この人はプロなの?」


 「わかりませんけど・・・たぶん、違うんじゃないかな」


 「とにかく一度、会いにいってみよう」



それからあっという間にアポをとって、会いにいくことにした。

なにしろメインのイラストレーターだ。この仕事で何百万か動くことになる。

責任者として、会わないわけにはいかなかった。


広島に新幹線で行こうと思うと、案外、あっという間だった。

待ち合わせは駅前のホテルのスカイラウンジ。


幸い、空いていて広島の市街を見渡せるいい席がとれた。

実際に会ったユミさんはとてもおとなしい人で、簡単な自己紹介のあと、まずは僕がこの作品に賭ける想いを語った。

初対面の緊張から、ものすごく早口になってしまったと思う。


そのあと、田中から仕事の内容について一通りの説明があった。

ユミさんはじっと黙って聞いていた。


その横顔を見ていて、僕は、急に不安でたまらなくなった。

東京からわけのわからない二人組がやってきて、こんなスピードで自分たちの言いたいことだけをまくしたて、もしかして彼女を怒らせてしまったんじゃないだろうか。


僕らの会社はこの世界では全くの無名だし、実績もない。

それにひきかえ、ユミさんはpixivの有名人だ。わざわざ僕たちみたいなどこの馬の骨ともわからない連中と組むメリットはないのではないか。


それに、プロとしてやったことはない、という人に対して、いきなり仕事を頼むというのは、やはり失礼だったのではないだろうか。プロとしてやってこなかったというのは、それなりの理由があるはずだ。


自由に絵を描きたいとか、絵でお金儲けしたくない、とか。

そういう芸術家としての気持ちを、僕たちが踏みにじってしまったとしたら実に申し訳ない。


そんな気持ちになってきた。

ユミさんはじっと押し黙って田中の話に聞き入っている。


田中が説明を終えてしまうと、僕はせきをきったように喋りだした。


 「僕らはこの作品に賭けているんです。そのメインのイラストレーターをぜひユミさんにお願いしたいと思っているんです。もちろん、初めてのことで不安はあると思います。僕たちみたいな全く無名な会社の仕事なんてしたくないと思っておられるかもしれません。けど、僕らはこの作品を絶対にメジャーにしてみせます。それだけの自信と情熱を持ってやっているんです」


田中はびっくりしたような顔で僕を見た。

ユミさんは真剣な目で僕を見返す。


 「この会社を初めてから今年で七年、そのあいだに貯めた貯金、知識、ノウハウ、人材、そういうものをぜんぶこの作品に注ぎ込むつもりです。この田中が、pixivの総ての作品を徹底的に見て、今回の企画にピッタリな方を探し当てました。それがユミさんなんです。pixiv以外にも沢山のイラストレーターさんの起用を検討しました。けれども僕たちは、新鮮な絵で勝負したいんです。この言い方が失礼になったら申し訳ないけど、ユミさんと一緒に僕たちも成長していきたいんです」


いっきにまくしたてた。

二人とも固まってる。

どうしよう・・・へんなことを言ってしまっただろうか。

最後に、僕はおそるおそる聞いてみた。


 「で・・・あの・・・この仕事、引き受けていただけますか?」


するとユミさんはハッと目を伏せた。

しくじったか・・・僕の額に油汗が浮かぶ。

広島まできてなにやってんだ。

こんな若い女の子に、汗臭い理屈なんかまくしたてたってついてきてくれるわけないじゃん。

ああ、断られたら企画を練り直さないといけないかもしれない。どうしよう。

そんな逡巡を僕の頭が駆け巡る。


田中がとっさに身を乗り出した。


 「ユミさん、どうでしょう?」


するといままでずっと黙っていたユミさんが口を開いた。

僕は一言一句聞き漏らさないよう、目を見開いた。


 「私でよろしければ・・・やらせていただきたいと思います」


僕はドっと力が抜けて、ありがとうございますと返すのがやっとだった。

それから、田中がユミさんをホテルのロビーまで送っていった。


そのあと、実際のイラスト作業が始まった。

田中はアートディレクターとして、資料を集め、キャラクターの台詞や設定を書き、ポーズの相談に乗った。

二人は息があったらしく、次々と、素晴らしいキャラクターデザインが上がってきた。


そのあたりのことは、インタビューの通りである。

ディレクターの仕事というのは、目に見えにくい。

いわば、漫画の編集者のような仕事である。

資料を集め、感動を最大化するような演出を考える。

自分で手を動かしてものをつくるのとは違い、誰かに作ってもらうという仕事は、時にはもどかしさのストレスが仕事の喜びを上回ることさえある。


そしてプロデューサーである僕の仕事は、誰かを信じ、任せること。


今回の仕事で、実は僕はこの会社を作って初めて、グラフィックに関してなにひとつ文句をつけなかった。

それまでは僕が直接グラフィッカーとやりとりしていたから、ドットひとつにまで気を配る細かい神経が必要だったが、元来、それは僕に向いた仕事ではないのだ。



田中がいなければこの作品、「天空のエリュシオン」は決してここまでのクオリティで完成することはなかっただろう。

そんな田中とユミさんの二人のコラボレーションが、明日10/6発売の少年サンデーの表三広告でも存分に発揮されている。

ぜひチェックしていただきたい