2011-02-11
■24時間でとある企業のサラリーマンとOLたちが知恵をあわせて社会貢献ゲームを企画してみた顛末
昨日、今日と、僕は朝から鎌倉にある、とある企業の研修センターに行っていた。
そのとある企業とは、言わずと知れた、(株)電通である。
(株)電通についてご存じないティーン読者のために、軽く電通について説明すると、
日本のテレビ広告のほとんど全部を「所有」している、世界最大の広告代理店だ。
明治34年(1901年)に創業され、今年で創業110年の老舗であり、日本の総てのテレビ局と、総ての新聞と、総ての雑誌の企画、制作、そして広告の裏側に必ず電通が絡む、と言われるほどの日本メディアの影のフィクサーであり、ロサンゼルスオリンピック以降はイベントにも力をいれ、世界陸上、FIFAワールドカップなど、ビッグイベントの仕掛人でもある。
広告代理店として単独で世界一位であり、資産は約2兆円。従業員数1万7千人の巨大企業グループなのだ。
日本を影で支配する邪悪な巨大組織、とよく陰口を叩かれ、なにか理不尽なものが流行すると、だいたい「電通の仕掛けた陰謀」と言われるほど、その組織の影響力は強大だ。
しかし、これほどの規模の会社であっても、なんと単体では3兆円近い売上げをたたき出すGoogleの約半分に過ぎない。
しかもご存知の通り、Googleは利益率が極めて高いので、営業利益が約1兆円であるのに対し、電通は広告代理業という職業柄、連結で4000億円程度である。
Googleの収入は、基本的には総て広告収入だから、いわばGoogleは世界最大の広告代理店のひとつであるとも言える。
100年も続いた老舗広告会社が、創業わずか10年ちょっとのGoogleに売上げで二倍の差を付けられているというわけだ。
実は電通はまだソフトバンクが出資する前のYahoo!の株式を購入しないかと打診があったのだが、当時の経営陣にITセンスが皆無だったため、「そんなわけのわからんものいるか!」と突っぱね、破談になってしまったというのは社内では有名な話である。ちなみにそのときYahooの買収交渉に向かった電通の元社員はこの四月から我らがUEIで働いている。
そういう状況に非常に大きな危機を感じてか、五年前から社内研修制度を急速に充実させたのだという。
電通は依然として就職人気ランキングでは常にトップ級の企業として存在している。
広告業界において、電通はいわば最優秀な人材の宝庫であり、たとえ最初の就職で電通以外の中小代理店に就職したとしても、広告の世界で賞をとったり活躍したりすると、いつのまにか電通に移籍しているというくらいに、貪欲なまでに優秀な人材を獲得することに熱心な会社なのだ。
なにしろ、選りすぐりの人材が揃っていて、ノウハウも無数に持っている。
そうした先輩社員たちが、若手社員(と言っても20代後半から30代前半)に持てる技の総てをレクチャーする、という取り組みだ。
これを仕切っているのは、昭和40年代末期に活躍した覆面プロレスラー、アトラスXこと鏡明(かがみあきら)氏。電通の元執行役員で、現在は顧問として活躍している。63歳のナイスガイ。SF作家でもある。
二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分
- 作者: 鏡明
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基本は部署を超越して営業だろうがクリエイティブだろうが関係なく、全社から優秀な若手社員を20人集め、鎌倉の研修所で一週間、みっちりと先輩クリエイターや外部から招いた講師からの講習を受け、実践課題に挑戦する。
五年前にこの取り組みを始めたところ、社内で受講希望者が殺到し、20名に絞り込むだけでも大変なのだという。
本社ビルだけでも6000人以上の社員が居る会社のなかでたった20人だから、それはそれは熾烈なものだという。
いわば電通社内のスーパーエリート養成プロジェクトである。
しかし、ここまで社内教育制度を充実させているというのは凄い。
今回も、極めて優れた広告プロデューサーやCMクリエイターたちの講義があり、それを踏まえた課題へのチャレンジというのが繰り返されていた。
その最終課題として、なぜか全く畑違いの僕を呼んでいただいたのは、大変光栄の至りではあるのだけれども、正直言って不安だった。
前回と同様のゲーム作りの話をして欲しいのだという。
前回
前回のは、あくまで単発のイベントであり、泊まりナシ時間制限アリのもので、汐留の本社で行われたものだった。それはそれで僕としては非常に刺激的な体験だったのだが、今回は時間制限無しで、5チームに別れた電通マン達が朝まで徹底的に考え抜く、という過酷なものだった。
しかも四日続いた研修の残り二日。ふつうに考えて、かなりグロッキーになっているはずだ。
僕は、基本的に同じ話を二度するのが大嫌いである。
正確に言うと、実はある話題に興味があるときは、その話を何度もするのは苦にならない。
似たような話を繰り返しても、ちょっとずつ発展させることができるからだ。
けど、時間をおいて同じ話を二度するというのは、脳に大変な負担を与えるのである。
だから、「同じ話をするなら引き受けられない」と申し上げたのだが、「ゲーム作りを教えてくれるなら話しの内容は任せる」と言っていただけたので、引き受けることにした。
パートナーは、いつものようにカンヌ以来のコンビを組んでる電通の細金正隆さん。
電通 コミュニケーション・デザインセンターのエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターだ。
前回はロジックの話が多かったので、今回は話題の中心をロジックではなく偶発性にもってきた。
まず、快感を感じる原則のこと。
それから、偶発性のこと。
特にソーシャルゲームでは、偶発性による快感の演出が非常にうまく取り入れられている。
それから、見立て、推理と嘘、そして戦略の創造性、それからゲームで多用される心理学上の概念。
偶発性の説明にはサイコロを用いたゲームを実施し、推理と嘘の説明では人狼を用いた。
ゲーム企画の初心者が陥りがちな罠と、ゲームが持っている潜在的な可能性などなどについて。
実は今回の講義は、あまりにも時間がなかったのと、僕と細金さんがあまり事前に打ち合わせできていなかったので、最初は足並みが揃っていなかった。
けれども、五日続く研修の最終課題として、最も難しいものを、ということで敢えて難しいテーマにしようということで、僕らも答えを持っていないものにすることにした。
それは、ソーシャルシリアスゲームの企画。
ソーシャルゲームは今更説明の必要がないくらい、短期間に多くの人びとに普及する起爆剤だ。
いまはそれによって高額課金やさまざまな広告表現などが問題視されている。
しかし、ゲーム業界全体に起きている無視できないムーブメントとして、もはやソーシャルゲームは新たなるメインストリームへの道を歩み始めている。
そこで、このソーシャルゲームの持つ強大なパワーを利用して、なにか社会をより良くするための活動に適用できないか考えた。
たとえばそのひとつは、僕のこの企画だ。
実際これはJAXAとも話が進み、いまは開発計画の策定に入っている段階だ。
これは一例だが、より広い知見と情報収集能力を持つ精鋭の電通マン達なら、もっと凄いことを考えついてくれるかもしれない。
この課題の提出期限は翌朝9:30。講義が終わったのが18:00。戦闘開始だ。
研修センターには立派な食堂がある。
この日の夕飯はとんかつだった。嬉しい誤算。
とんかつとか、食べちゃいけないってわかってるけど、電通さんで出されたらしょうがないよ。
しょうがないよね。
辻さんもなんか嬉しそう。
細金さんも嬉しそう。
「しっかし、難しい課題だよねー。俺らも答えわかってないんだからさ」
と細金さん。
「いやー、全くですよね。これみんな何時までやるんですか?」
「いや、朝までやるでしょう」
「ええっ!?マジで?」
「そのために研修センターで泊まるんだもん」
「過酷だ・・・というか・・・鬼だ・・・・」
そう言えば電通には鬼十則という鉄の掟があるらしい。
くわばらくわばら。
食事も一段落すると、各チームの部屋を細金さん、鏡さんと三人でまわってみることになった。
「どのチームも苦戦してるねえ」
と、鏡さん。
「やっぱり、ちょっと難しすぎましたかね」
と、僕。
「いや、でも最終課題だから、このくらい難しいのもアリかもしれないけどね。それにしても難しいわー。うーん。どうなるのかほんと解んない。不安だねえ」
と細金さん。
それからラウンジでビールとワイン。
「んー、しかしこの研修プログラム、本当に充実してますね。ズルいですよ電通ばっかり」
「豪華だよねえ。清水さんのも面白いからもっとやってほしいな」
細金さんが頷く。
「いっそ、もう僕、ギャラとかいらないし、今後いくらでも電通で講義するから、そのかわり、うちの社員を電通さんの他のセミナーにまぜて貰えないですか?」
「ええっ?・・・・まあ調整は必要だろうけど」
「電通さんの研修って、僕もけっこう時間と体力使うんですよ。ギャラもらっても正直赤字ですよ。けど、うちの社員を混ぜてくれるんなら・・・ほんと一人でもいいんで・・・そしたら会社としても報われますから」
「交換留学ね・・・・考えてみるか」
そして鏡さんのプロレスラー時代の逸話で盛り上がり、結局、午前3時くらいまで続いた。
そこからタクシーでいったん帰宅し、泥のように寝て、朝また起きだして再び鎌倉へ。午前9:30。
総てのチームのプレゼンが揃う。
「いやー、今回のはさすがに無理だったかなあ」
とつぶやく細金さん。
そしていよいよプレゼン開始。
どんなだったかって?
さすが5日間鍛え上げられて来ただけあって、全員のプレゼンは淀みなく完璧。
そして・・・・
このブログの読者は、大前提として、僕が電通を大好きだと知っておくべきだし、それをいくつか差し引いてもかまわない。
実際、前回のブログを書いた後で、前回の優勝チームと今は一緒に彼らの企画を進めている。
前回も非常にレベルが高かった。あれだけ短時間で、良く僕の行っていることを理解し、咀嚼し、自分のものにしてくれた、と思った。
しかしね、前回というのは、時間制限もあったし、よくも悪くも「すごく良く出来たね」っていう感じだったのよ。
「こんな優秀な生徒を持ったことを無いよ」っていう感覚かな。
実際彼らは凄く優秀だった。
でも、今回の場合、どうなったかというと、僕はね、うん、上手く言えないけど。
総てのチームのプレゼンが、レベルが高いだけでなく、アイデアが研ぎすまされていた。
どのチームのプレゼンにも、僕が想いも寄らなかったような凄いアイデアが必ず一つは組み込まれていた。
そして、たとえばあるチームのプレゼンを見たときの僕の反応を淡々と書いてみよう。
最初はプレゼンから目を背けたくなった。社会問題を扱うと、ときどきそういう写真を見なければならないこともある。でも、次のスライドを見て、衝撃を受けた。そして次、涙がにじんだ。この時点で僕は点数表に10を5つくらい書いた。で、次、驚いた。で、次、嫉妬した。で、次、殺意が芽生えた。で、最後、後悔した。
なんだろうね、この企画書。
こんな企画書、見たこと無い。
もし仮にだけど、うちの社員がこの企画書を書いて持って来たら、僕は迷わず相手を抱きしめただろう。抱きしめるっていってもハグだよ。
詳しく書けないのが本当に残念なんだけど、この企画がどのくらいすごいかって言うとね、まあこういうこと言うと、語弊があるかもしれないけど、僕は数年前に似たような経験をしたことがある。
ニコニコ動画の企画の方向性が決まったときだ。
よし、まずYoutubeを使おう、Youtubeから切られたら、自社で動画サーバ作ればいいや、ひろゆきに見せて、彼の意見を聞こう。それでもって、最初は何千万という予算がかかりそうだったけど、その数十ぶんの1の予算でできることが解ってしまった。
これがわかったときの興奮というのは、凄いものだった。
絶対に当たる、と思った。
だいたいそうだけど、絶対に当たる、と思ったときの予感はまず外れたことがない。
残念ながらこの「絶対に当たる」という予感がすることが滅多にないんだけどね。
「よし!やろう!清水君、これ来週までに作ってよ」
と川上さんが言った。確かに、来週までに本気だせばすぐ作れそう。
しかし僕は断った。そんなヒマなかったし。
僕たちはアイデアを研ぎすました結果、何千万円か貰えたはずの仕事が、数十分の1の予算になってしまった。そんなに低予算ならなにも僕たちがやる必要ないよねと言って、ニコニコ動画の商用開発の仕事は断った。恋塚さんにメインプログラマーをやってもらおう。彼はこういうの大好きだし、本物のスーパーハッカーだ。声をかけるといいよ、と言って僕らはドワンゴを後にした。
他にも僕たちしかできない仕事をたくさん抱えていたしね。
そのチームのプレゼンは、そんな感じのものだった。
もちろんニコ動と性質は違うけど、素晴らしく研ぎすまされたアイデアだけが持つ、輝くような魅力に溢れていて、しかもものすごい低予算で今すぐ実行することができ、なおかつとてつもない効果を見込め、そして非常に深刻な社会問題を扱っているにも関わらず、誰もが参加したくなるほど愉快で楽しくて、それ自体がライフスタイルの成立を大きく変えるムーブメントになる可能性を内包していて、なおかつ日本だけでなく、世界中に広げていけるような大きな可能性を秘めていた。
ひょっとするとだけど、ニコ動よりも世界で広がるのは早いかもしれない。
率直に言って、非常に悔しい。
というのも、アイデアを構成する要素は総て僕にとって既知のものだった。
なおかつ、いくつかは僕が専門的に知っているものであり、それでもって、ねえ。ウズウズするほど参加したくなる、作りたくなる、遊びたくなるような魅力を秘めていた。
しかもニコ動と違って、なんかいろいろヤバい感じとか、コンテンツが集まるか心配する感じとか、そういう心配が一切無い。いますぐ、誰の協力もなしで始めることができて、なおかつ、電通ならもっとそれを広げることができる。巨大かつ強大なムーブメントにすることができるのだったら、これは凄いことだ。
「おれコレ、いますぐパクっていいですか?」
と冗談まじりに聞いたら
「まあそのあたりはオトナの話をしましょうよ」
と言って細金さんはニヤリとした。
もちろん彼らが優勝したわけだけど、今回は前回と違って、優勝作品を事業化する、という約束になっていなかった。
けど、こんなのは事業化しないでいるのは勿体ない。
「電通さんが事業化にモタモタしてたら、博報堂にもってきますよ」
と冗談混じりに言った。
うちは博報堂の仕事もけっこうやってるからね。
やっぱ電通マンすげえ。
彼らが電通マンであることが、むしろ勿体ない。
だってさ、クライアントに提案するタイプの仕事というのは、結局、クライアントの担当者の能力に制約を受けちゃうんだよね。
AppleがめちゃくちゃカッコイイiPhoneやMacBookAirを作れるのは、ジョナサン・アイブがいるからではなくて、スティーブ・ジョブズがジョナサン・アイブのセンスを理解しているからだ。
なぜなら、ジョナサン・アイブってのは、ジョブズが復帰する前から、あの冴えないデザインばかり作ってた頃のアップルに居たわけだからね。
だから、優れたクリエイターというのは、スーパーカーに似ている。
間違いなく、スーパーカーは速く走ることができる。
が、誰が運転しても速く走れるわけではない。
電通マンがどれだけ優秀でも、電通の仕事は、結局、下請けだ。
クライアントの宣伝担当者がクビを縦に振らなかったら、どんなにすごいアイデアも、霞んでしまう。
最後の講評で、僕は言った。
「この企画書書いたチーム、全員、爆発しろ!」
笑いが漏れた。
なぜならここまで圧倒的だと、誰の目にも解るのだ。そのアイデアの素晴らしさ、力強さが。
「それか全員、うちの会社に転職して来てほしい。悔しい」
高いと言われる電通よりも高い給料を払ってもいい。
というか、僕よりも高い給料を払ってもいい。それくらい、素晴らしい。
というか、こんな才能が電通なんかでご用聞きをしてるのは勿体ない。
くっそ。なんだこれは。なんなんだこの連中は。僕と同年代のくせに、僕よりずっと冴えてる。
柔軟で、賢くて、イケてる。なんだそりゃ。当たり前だけど、これがエリートの底力というものか。
「今回も、みんな面白かったねえ」
と鏡さん。
「いやー、本当にホッとしましたよ。みんな優秀だなあ」
と細金さん。
「あのねー、僕はこんなこと予想もしてなかったんですけど、電通マンは優秀すぎて、僕が今貰ってるギャラじゃ、割にあわないですよ。お金とかの問題じゃない」
と僕。
「また別の講師もお願いしてるんだよね」
「いや、面白いしいつも新しい発見があるからまたやらせていただけるならやりますけど、ちょっとお金じゃ買えないものを失っている気がしてきました」
「まあまあ、いいじゃない。しかしこの研修プログラムも成果でてきたなー」
この鏡さんという人が、ここんとこ、僕と電通が急接近した話のすべての仕掛人だ。
停滞していた電通社内の空気を循環させ、いままた若手に活力を与えようとしている。
ズルい。こんな面白いこと、電通マンだけでやってズルい。
うちの会社でもやりたい。けど、うちの会社で20人っていうのは、全社員の何割っていう感じに成ってしまって、そんなのを研修させたら、業務がとまってしまう。
しかし、チームで考えさせるというのは非常に有効な方法だ。しかも、やはり20人くらいで5チーム作るというのはまさにベストの方法だ。5チームで競い合い、頭をひねる。素晴らしい研修プログラムだ。
「わかった。やっぱり、僕、パクリます」
帰り際、タクシーを待っているときに、僕は鏡さんに宣言した。
「まあまあ、あの事業をやりたいならぜひ一緒にやりましょうよ」
とオトナの対応。
「いや、そうじゃなくて、鏡さんの研修プログラムをパクリます。UEI創発ラボ」
すると鏡さんは少し驚いたように目を開いた。
「それで、鏡さんと細金さん、講師として来て下さい。そしたら僕、ギャラいりませんから。交換講師ってことで」
「いいよ。オレで良ければ」
「本当ですか?いや、それ嬉しいな」
だって鏡さんはSF作家でプロレスラーでもと電通役員で顧問だ。半世紀近くこの世界にいるわけだ。
鏡さんの話が面白くないわけがない。
すごいセミナーができそうだ。
「それで、おたくの社員になにか課題をやらせるの?」
「いいえ。うちの社員20人集めたら、大変なことになりますから」
「じゃどうするの?」
「公募したらいいと思うんです。いま僕、少年プログラマーを募集してるんですけど、プログラマーに限らず、クリエイターを目指しているいろんな人、つまり企画者、究極の企画者を要請する、UEI創発ラボ。で、うちの営業の若手とか、企画の若手とか半分くらいと、あとは外部の優秀な人。今度は年齢性別問わず、単に授業を受けてみたい人を公募するんです」
「それ金とるの?」
「いや、金とったって、どうせペイしないじゃないですか。だから、無料で、そのかわり、選抜試験をして有望そうな人だけ15人程度。これも一種の社会貢献になったらいいなと」
社員だけに研修させるのは本当に勿体ない。
それに、クリエイターを目指す外部の人と研修を通して知り合ったり、仲良くなったりしたら、そっちのほうが社員にとっても意味がある。
「おもしろいね」
「じゃ、お願いですよ!絶対ですよ!」
「わかったわかった。時間つくるよ」
それからタクシーに乗り込んで、鎌倉駅に戻った。
外はしんしんと雪が降っていて、僕は実家の長岡の雪景色を思い出した。
会社の利益で学校をつくる。
これは僕の長年の夢だった。
僕の故郷、長岡市は明治維新で幕府側についたせいで、焼け野原になった。
越後という言葉は今も残っているが、正式な藩の名前は「越後長岡藩」
新潟、という地名は、長岡藩の北方に位置する湿地帯を指すに過ぎなかった。
北越戦争で破れた長岡藩は傷つき、人びとは明日への希望を失っていた。
そのとき、見舞金として、配下の藩から百俵の米が届いたのだと言う。
戦争に負けたから、武士たちは食うにこまっていたので、この米をありがたくみんなで分けよう、という話になったのだが、そこで反対した者が居た。
彼・・・名を小林虎三郎。佐久間象山に師事し、徴収の吉田寅次郎(吉田松陰)と並び「象門の二虎」と呼ばれていた。
虎三郎はこんなことを言ったと伝えられている。
「いま、このわずか百俵の米を分ければ、そりゃありがたい。おれだって欲しい。だけど、それでは一次の渇きが癒えるにすぎない。でも、この米、百俵で、学校をつくり、優れた人物を生み出せば、それはこの長岡という街だけでなく、この日本という国、いや、生きとし生けるもの総てにとって、大きな成果を出す芽となるだろう。本当に必要なのは、優れた人物だ。だから、敢えて我々は我慢して、米百俵で学校を建てようじゃないか。食えないからこそ、学校を建て、人を育てるのだ」
こうして建てられた学校は、今は県立長岡高等学校となり、そこから、真珠湾攻撃を成功させた日本連合艦隊の長官、山本五十六や、東洋大学の創設者である井上円了、東京帝国大学(今の東大)の総長となった小野塚喜平次、そして内務大臣と司法大臣を歴任した小原直が巣立っていったのだ。
新潟県長岡市という、人口わずか数十万の雪深い田舎町のたったひとつの学校で、これだけ多くの逸材が生まれたことは、非常に誇らしいことだ。
いつかこういうことを僕もやりたいと思っていた。
そういうわけで、僕はUEI創発ラボをこの春に実験的に2日だけ開講しようと思う。
もし、やるとしたら、参加したいという人はどのくらいいるだろうか。
今回は、#givemacや少年プログラマー募集とちがい、年齢も性別も国籍も問わない。
講師は、ひとまず鏡さんか細金さん、それと僕を予定しているが、彼らのスケジュールもあるので追って連絡させていただきたい。確実なのは、少なくとも僕は昨日今日電通で行ったのと同じレベルの講義をする準備がある。
三月下旬か四月前半のどこかの土日二日間、都内に来れるということだけが条件である。
我こそはと思う人は、あなたの「胸に抱く青雲の志」と「聞きたい講義の内容や方向性」を書いて、shimizu@uei.co.jpまで送っていただきたい。
その志を精査し、講師や講義内容を選びたいと思う。
また、今回は二日間だけだが、応募者が多ければ、それだけ多く開催するつもりだ。
また、これはコンテストではないので、講義内容と志の内容でもっとも相応しいと講師が感じた人から順番に声をかける。
希望者全員に無料で講義を受けてもらうのが理想だ。
初めての試みなのでどうなるのか僕にも全く予想がつかないけど、ぜひ多くの人と出会い、机を並べて議論を交わしたい。
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