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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2011-11-12

「良い企画」の条件 または「良い斬新」とはなにか 09:24

企画の立て方を人に教えるのは相変わらず難しいな、と思った。

特に「良い企画」を立てるのはとても難しい。


企画の新人が応募してくるとき、彼らの書いた企画書をいつも評価しないといけないんだけど、ほとんどの場合、読むに値するものはない。


そのうえ、新人に「良い企画」とはこういうものなんですよ、ということを理解してもらうのも時間がかかるし、また難しい。

そこであくまで僕が、だけれども、「良い企画」だと思うものの条件を述べてみたいと思う。


一般に素人ほど、そして若いほど、「良い企画」とは「斬新な企画」だと思いがちだ。

確かに「斬新な企画」がいい企画の条件のひとつである。


ところが、素人が「斬新な企画」と思っているものほど、いい企画からはかけ離れていくことが多い。


ひとくちに言えば、彼らは「斬新な企画」というのを、「今まで誰も見たことが無いような企画」だと誤解していることが多い。


たとえば映画だったら、「こんな場面はみたことない!」だったり、ゲームだったら「こんな題材は見たことない」というもの題材にしようとする。


しかし、こうして素人がただ奇をてらっただけの企画は、実際にはほとんど使い物にならない。


さて、そもそも「斬新」とは何だろうか。

Yahoo辞書によれば、「発想が独自で、それまでに全く類のないさま。」だという。

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これがまあ一般的な意味だとして、文字に着目すると、「斬って新しい」となる。

だから僕はこれを単なる新しさではなく、「斬り口の新しさ」だと思うことにしている。


ものごとというのは決まった形はない。

表現物というのは、イデアから生じた影のような存在だ。

角度が変われば、影の形も変わる。

これが斬り口だ。


企画の根幹を決めるのは「コンセプト」と呼ばれるものだ。

コンセプトの定義にもいろいろあるが、僕はとりあえず「テーマ+斬り口」だと教えることにしている。


「テーマ」とは、たとえばサッカーだとか、野球だとか、写真だとか、なんでもいいんだけど、そういう、誰もが知っているありふれたものだ。


そこに「斬り口」を導入することで別のものにしてしまう。独自の斬り口を持つこと、すなわち独創性だ。

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この図のもやもやっとした部分が「テーマ」だと思って欲しい。

たとえば「サッカーゲーム」というのを作ろうとした時、ある斬り口からは、「サッカーゲームとは選手を操作するアクションゲームである」というコンセプトが生まれる。

これはウィニングイレブンのようなゲームのもつ共通したコンセプトとなる。


しかし別の斬り口から見れば、「球団を経営するゲームである」という斬り口もある。

それは「サカつく」のようなゲームのコンセプトとなる。


たま別の斬り口からは、「熱き友情を交わすチームワークの物語である」というコンセプトもうまれる。これは古くはテクモの「キャプテン翼」、新しくは「イナズマイレブン」のようなコマンド選択式サッカーゲームとなるだろう。


こんなふうに、同じ「サッカー」というテーマでも、四つの大ヒットゲームの企画が生まれる。

これらはどれも斬新な斬り口の企画だった。


しかし、素人が「斬新な企画」を考えようとするとき、どうしても斬り口ではなく「テーマ」の方を斬新にしたがる。

そのほうが目新しく見える、と思いがちなのだ。


しかし、テーマそのものが新しい場合、ゲームとしてどう楽しんでいいのかわからない企画になることが多い。

結果として、ユーザに遊び方、楽しみ方をうまく伝えられず、消えていくことになる。


もちろんテーマそのものが新しく、同時に斬り口も新しいというゲームがヒットしたことがなくはないが、それは超絶なウルトラCなので、素人がいきなり手を出せる領域ではない。また、たとえそうであったとしても、緻密な計算と時代の文脈にきちんと乗っているのである。


たとえば、テーマも斬り口も新しかったゲームとして、「どこでもいっしょ」が挙げられるが、あれは「会話ゲーム」という非常に古くからあるテーマを「たまごっちブーム」のような育成ゲームブームの流れに載せてリファインしたもの、と考えることができる。

たまごっちブームがなければ、「どこでもいっしょ」をどう楽しんでいいのかわからないユーザの方が多かっただろう。


では「たまごっち」はというと、それはさらにその以前の育成ゲームの文脈から派生したもので、複雑な育成ゲームやシミュレーションゲームを子供でも遊べるレベルまで簡易化し、けれどもゲームとしての進行やバラエティはそのまま残した、という形だ。これにしても、万歩計やゲームウォッチなどの文脈がなければ、どう遊んでいいのか、どう楽しんでいいのか伝えるのは難しかっただろう。


逆に目新しいテーマを選んで失敗した作品は数多いので、調べれば出てくるのでここでは敢えて紹介しないが、当然、「たまごっち」や「どこでもいっしょ」のように本当の意味でテーマも斬り口も目新しいゲームが成功する確率はありふれたテーマに新しい斬り口を持ち込んだ場合よりも遥かに低い。


今のはゲーム企画を例にとったが、これはあらゆる企画について言えることだ。

たとえば結婚披露宴の企画を考えるとしよう。

これはたいていの人が一生に一度は考える企画だ。


たとえば披露宴を葬儀場やゴミ捨て場でやる、というのは確かに「誰もやらない」企画かもしれないが、やらない理由は明らかだ。


では葬儀場で行う結婚披露宴が絶対にあり得ないかと言えば、たとえば、新郎新婦が葬儀場で働いていて、そこで劇的なドラマがあってついに結婚に辿り着いたとか、彼らのことを実子のように扱っていた、敬愛する葬儀場の社長が愉しみにしていた結婚式の直前に急逝してしまっただとか、そういうドラマチックな「文脈」があれば、葬儀場での結婚式であったとしても、素晴らしいものになるかもしれない。


ただし、葬儀場で結婚式をするとして、来賓の人びとはものすごい抵抗感があるだろうから、ウェディングケーキ入刀にひっかけた「二人の初めての共同作業で尊父入棺」とか、「骨壺ケーキ」みたいなワルノリをやれば、不謹慎のそしりを免れないだろうし、どれだけこの「葬儀場結婚式」に素晴らしい文脈や新郎新婦の思い入れがあったとしても、来賓は顔をひきつらせて変えるだろう。


つまり、テーマ(この場合は披露宴の場所だけれども)を目新しい、誰もやったことがないような場所にして、なおかつお客さん(来賓)を満足させるというのはかなりの高等テクニックなのだ。


プロのウェディングプランナーほど、奇をてらわない提案から始める。

そこにほんのすこし、新郎新婦の思い入れに関わるようなエッセンスを入れる。

これくらいが一番、満足感の高いウェディングプランになるはずだ。


だいたい、企画書において、ありふれた部分9に対して斬新な部分1くらいがあればいい。

ただし、「斬り口」そのものが斬新な場合は7:3くらいでもいい。


ただ、たとえ「斬り口」が斬新だったとしても、「遊び方」や「楽しみ方」は基本的にはこれまでみんなが使っていてよく知っているもの、プラスα、くらいにしないとわけがわからなくなってしまう。


と、こんなことを書いてしまうと「だからオマエの企画はつまらないんだ」と言われてしまいそうだけど、実際、売れる企画っていうのはそんなもんなんだよね。


売れる企画の場合、まず売れるテーマがあって、そこに新しい斬り口を導入する。それか、売りたいテーマがあって、そこに売れる斬り口を導入する。


この2パターンしかない。

ゲームが戦国とか三国志とかドラゴンと恋愛ものばっかりになっちゃう理由がここにある。

んで、例えば「いや、おれは自衛隊ゲームが遊びたい!」と思う人はいる。僕も遊びたい。

けど、「そういう人って何人居るの?」って言われて終わっちゃう。


海外でどれだけヒットしていても、日本では戦争ゲームはぜんぜんウケない。

ここに大きな問題があるわけだ。だから新しいテーマを導入する場合はよほどの勝算がないと導入されない。既存のテーマに新しい斬り口を持ち込むと、すごい傑作になることがある。たとえばカプコンの「逆転裁判」や「モンスターハンター」はその好例だ。


「探偵もの」というテーマのゲームは昔からあった。ただ、そうしたゲームの場合、主人公は探偵か、刑事で、犯人を捕まえたら終わり、というものだった。

ところが「逆転裁判」は、捕まった犯人の有罪または無罪を裁判で証明する、という全く新しい斬り口を持って来た。それであれだけの大ヒットにつながったわけだ。


「モンスターハンター」の場合、ファンタジー世界でモンスターを狩る、というゲームそのものは、MMORPGなどの王道中の王道テーマだった。それをPSPだけで四人対戦できる、という手軽さを斬り口にしたわけだ。


ソーシャルゲームの場合、「売れる斬り口」というのがいまのところいくつか発見されていて、例えば「怪盗ロワイヤル」の回復薬とバトル、という斬り口があって、「ブラウザ三国志」のカードガチャと合成という斬り口があって、その二つを組み合わせて「売れるテーマ」である「ドラゴン」をかぶせたのが「ドラゴンコレクション」になったりする。

それからドラゴンコレクションのヒットをベースに、コナミは戦国コレクションや秘書コレクションを作る。

という構造があるわけだ。



だから企画書を僕に送ってくる時はね、「テーマ」か「斬り口」、どっちかがありふれてて解りやすいものを送ってくるようにして欲しい。

それにもちろん、テーマよりも「斬り口」が新しいほうが遥かに「良い企画」になる可能性は高まる。

けれども、さらに重要なのは、ここには出てないけど「テーマ」と「斬り口」、どからかが新しくなったとしても、「楽しみ方」の基本は変えないこと。


料理と同じで、「よーし、誰も食べたことないものつくってやろう」と思って「アリゲーターのホイル焼き」みたいなものを持って来ても、食べれる人少ないし、あと、意外とみんな知らないだけで、アリゲーター食べる地方はけっこうあったりしてね。


「美味しさ」や「味わい方」は一緒。それにプラスα、というのがいい。

そういう意味では「ひつまぶし」なんかは凄くいい企画(料理)と言えるよね。

たんなる「うな丼」に、薬味とだし汁を足して、食べ方を指示する「ソフト」が追加されただけなのに、すごく美味しくて楽しめるからね。