2011-12-17
■ソーシャルゲームの向こう側: 単なるWebサービスには飽きてきた。じゃあなんだろう。
先日、頓知・の井口さんの呼びかけで開催された「SXSW ベンチャーピッチバトル」の審査員をやってほしいと言われて、引き受けた。
井口さんのイベントにはいつも唐突に誘われるので、前回のイベントは出れなかったから、まあその罪滅ぼしの意味もあった。
審査員として参加したのは、僕と、芸者東京の田中泰生、そしてmixiの宮田さんだ。
おいおいなんでこの組み合わせなんだよ、と思ったけど、これは前回のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト/全米最大の音楽・映画・Webの祭典。TwitterやFoursquareがデビューしたことで有名)に行った日本のベンチャー起業家を審査員にする、ということらしい。
実際には法人化はおろか、サービスそのものも完成していない作品が殆どだったんだけど、率直に言って失望した。
結局、Turntable.fmの焼き直しと、Hot or Notの焼き直しがいろんなベンチャーコンテストで何度も優勝して、今回も出てきたんだけど、もはや一体このひとたちはなんでこのバトルに出てきたのか。
M1に同じネタで何度も挑戦する、みたいな感じでショウとしていまひとつつまらない。
しかし他はもっと退屈だった。
時代遅れのセマンティックウェブ論や、時代を三歩くらい遅れてる企画ばかりで、正直、早く家に帰りたかった。
泰生も言ってたけど「リアルタイム検索で今Googleより速いです、ということがどうして差別化につながると思うのか」
これに尽きると思う。
たとえばすごいエンジンを作りましたと。
自動車用に1000馬力のエンジン作りましたと。
で、それを使ってどんな車をつくるのかというと、これは間違いなくスーパーカー。
ポルシェとかマクラーレンとか、5000万円から億単位の値札がつく最高機種。
世界の大富豪と好事家が何台か所有し、それで終わり。
けど、実際に売れる車はカローラ。
Googleはカローラ。
カローラより速いエンジンを作りました、なんて言ってもなんの驚きもない。
当然、カローラのすごさは速さじゃない。
リーズナブルさだ。
新技術をつくるなら、それで体験そのものを変えないと意味がない。
唯一、体験が変わりそう、と思ったのは「ナナ」だ。
これはWe Are The Worldにヒントを得て作られたサービスで、みんなで歌う、非同期型合唱システムだ。
これはすごく感動がある。
こういうものがいい。
ただ、持続性は分からない。
持続すればもっといいと思うけど、そもそも家で一人で大声で歌う人を沢山つくらなければならない。
そこがハードルになるとおもうが、そのハードルを超えたら大成功するかもしれない。
カラオケボックスが「ナナ」に対応するかもしれない。
ニコ生で「ナナ」を使って合唱するのが流行るかもしれない。
体験が変わる、というのはそういうことだ。
検索エンジンの中身そのものがどれだけ優れていても、商売にしていくのはそう簡単ではない。
これはUEIのOBであり、分散コンピューティングの専門家である太田一樹が大学の先輩と設立したPFI(プリファード・インフラストラクチャ)がまさにそうだった。
彼らはGoogleより少なくとも10倍程度には高速な検索エンジンを持っていた。
しかし、Googleと同様のWeb検索をするためのインフラもないし、仮にそれを作ったとしても、Googleが十分実用的な速度で答えを返してくる以上、Yet AnotherなWeb検索エンジンの必要性そのものを作り出すのはかなり難しいことが分かっていた。
それはそもそもGoogleそのものが、日本においてはYahooにダブルスコアで負けているという単純な事実が奇しくも証明してしまっている。
Webの業界にいるとみんな「世界はフラットだ」という意識があるので、Googleがあらゆる国で米国並みに普及していると思いがちだが、実際には各国でかなり苦戦している。
Web検索エンジンを新たに作り直して「Googleに(本当の意味で)勝つ」ためには、速いエンジンを作ったり、速いクローラーを作ったりすることはそれほど重要ではない。
重要なのは、検索体験そのものを変えてしまうことだ。
ただし、検索体験をどう変えて行くか、ということ当のGoogleはもちろん、YahooにしろAltaVistaにしろ、既存の検索エンジン企業が徹底的に研究し尽くしている。
しかもソフトウェアの世界の場合、数は力、だから、連中が本気になってる分野に横からベンチャーが飛び込んで行っても勝算はきわめて薄い。
もしやるにしても、特許でがんじがらめにして、Googleが真似したらすぐに訴える、くらいの覚悟が必要だ。AppleにしろGoogleにしろ、IT企業は「あ、これは良さそう」と思ったらノータイムでコピーするからだ。
日本人は海外から「真似してばっかり」と批判されている、という意識が強すぎる。
むしろ海外企業のほうが「良く真似している」ことが圧倒的に多い。
違うのは、彼らがそれを「真似」ではなく「イノベーション」と呼んでいることくらいだ。
やってることは一緒だ。
Googleの10倍速い検索エンジンではGoogleに勝てない、という話と似た話でiPhoneがある。
最初のiPhoneは、お世辞にも高スペックとは言えなかったし、バグだらけだった。
単純な計算能力で比較すればたいていのガラケーは勝っていた。
機能の豊富さひとつとってもガラケーの方がずっと先を行ってる。
通信速度だって、初代iPhoneはお話にならない。
回線の太さだって、日本に上陸した頃のiPhone3Gはソフトバンクの貧弱な回線に悩まされながらも売れ続けた。
いまや日本人にとっては必須機能とも言える「おサイフケータイ」機能は、iPhone4Sになっても搭載されていない。
にも関わらず、iPhoneだけが世界中で売れている。
これはなぜか。
性能で上に行こうとしていないからだ。
体験で上に行っているのである。
次々と出てくる退屈なプレゼンの数々を聞き流しながら、僕はぼんやりとそんなことを思っていた。
こんなことを思うのはもちろんこれが初めてじゃない。
ずっと思ってたことだ。
しかし体験で上に行くって、それはどういうことだろうか。
どうすれば体験で上に行くものが作れるんだろうか。
そのあと、僕は古い友人と会った。
彼女は、とあるゲーム会社でプランナーをやっている。
ゴールデン街で飲みながら、こんな話になった。
「私もね、そろそろソーシャルゲームをやってみようと思ってるんです」
彼女はプロのプランナーだから、この場合の「やってみる」は作ってみる、ということだ。
「ほほう」
僕は曖昧に返事をした。
商売敵になる、という意味ともとれる。
「それで教えてほしいんですけど、ソーシャルゲームを成功させる決め手ってなんですか?」
「うん・・・・」
難しいな、と思った。
「どうしてそんなことを聞くのかな?」
「正直、全部が全部、同じゲームに見えるんです。少しずつ違うけど、少ししか違わない。三国志のゲームだけでもうんざりするほどありますよね。でも、聞いてみると、成功と失敗がクッキリと別れているみたいなんです。それはどういうことなんでしょう」
そう。まさにそれが、ソーシャルゲームの難しいところだ。
すべてのゲームは一見すると横並びに見える。
パッと見て分かるのは、モチーフの違いくらいだ。
「面白さで決まってるんじゃない?」
僕はぶっきらぼうに答えた。
そうとしか言いようがない。
「でもその"面白さ"って、一体どこで決まってるんですか?ゲームシステムも全部同じに見えますが」
「厳密には違うよ」
「でも基本は同じですよね。画面構成とか」
「まあ基本を変えると、遊び方がわかんなくなっちゃうからね」
「その微妙な違いってなんなんでしょう?」
「それは色んな要素で決まる。たとえばレスポンスタイム。キーを押下してから、次の画面が出てくるまでの時間。目標に対して近づいているという体験そのものの時間、一定間隔でもらえるご褒美の出てくるタイミング・・・。もちろんガチャガチャで何がどんな確率で出てくるか、という部分もある」
「そんな細かいところで決まってるんですか?」
「そんな細かいところで決まってるんだよ」
「システムに工夫とかは?」
「そりゃしてるよ。毎日ね」
有名なのはZyngaのやり方だ。
彼らは1000人いたら、10人ずつ100チームの小チームを作り、全員で同じゲームを並行して開発する。
会員数が100万人いたら、それを100分割して1万人が実は細部の異なるゲームを遊んでいる。
その中で、性能を評価する。チーム12のゲームは継続率が高いが課金率は低い、チーム72は課金率は高いがARPU(一人当たり課金単価)は低い・・・などなど。
性能評価の結果、生き残ったチームの「作品」が、あるタイミングで100万人全プレイヤーに対して提供される。
そしてまた100万人を100分割して、それぞれのチームが改良フェーズに入る。
その繰り返しだ。
このやり方をどう思うか、ということだ。
昔ながらのゲームクリエイターなら、「ふざけるな」と言うだろう。
「ゲームは俺の魂だ。魂の奏でるロックなんだ」という主張をするだろう。
それはそれで正しい。だから僕は9leapを作った。
しかし一方で、エンジニアとしての僕は、このやり方をとてもクレバーだと思った。
これは、プログラミング技法のひとつ、「遺伝的アルゴリズム」の適用だ。
プログラミングの教養が実社会で役に立つ瞬間というのは、まさしくこういうときだ。
遺伝的アルゴリズムとは、ある問題を説くためのプログラムを大量に自動生成し、それに対して評価関数(どのくらい短い時間でその問題を解くことが出来るか、など)を与えて、生存競争を行い、優秀なプログラム同士を交配(つまり、遺伝的形質を与える)させて新しいプログラムを生み出す。
生まれたプログラムはまたさらなる生存競争を争い、最後に残ったプログラムが最強のプログラムになるという、アレだ。
組織運営をエンジニアリングの一環だと考えている僕にしてみれば、Zyngaのこのやり方はため息が出るほど見事だった。
もちろん、こんな贅沢は大量の人員がいないとできない。
しかし今、ソーシャルゲームを運営して、そこそこの成功をおさめている会社(恥ずかしながら弊社もその末席くらいにはいるらしい)は、大なり小なり、同じことをやっている。
運営の最適化いかんによって、そのゲームの「性能」つまり継続率(ゲームを繰り返し遊ぶ面白さ)と課金率(お金を払ってでもゲームをやりたいという面白さ)、そしてARPU(一人当たり課金単価)の高いやり方が生き残って行くわけだ。
これは何百万という人々を相手にした壮大な心理実験と実践の繰り返しだ。
つまり、今、ソーシャルゲームで成功できる企業というのは、根本的には研究室の機能をいかに持っているか、ということだ。
振り返ると、確かにそういう意味ではソーシャルゲームは学歴が高い人の多い企業ほど成功している。
東大出身の守安さん率いるMobageしかり、GREEのゲーム事業をたちあげた慶應出身の青柳さんしかりだ。
ベンチャーでは、京大出身の内藤さん*1率いるドリコム、東大法学部卒の田中泰生率いる芸者東京など、一昔前のいわゆる「ゲーム業界」では考えられないような高学歴ぶりだ。
それでふっと思ったのだけど、ソーシャルゲームでやっているような体験への最適化、というノウハウは実はそのままWebサービス開発にも活かせるかもしれない。
ただ、ソーシャルゲームにないのは、「誰も見たこともない体験」というところだ。
ソーシャルゲームだと「誰も見たことがないようなゲーム」を作ると普通に性能が落ちることが良く知られている。
そのあたりはiPhoneとは大きく違う。
けど、ソーシャルゲームで培っているこうしたノウハウは、後々すごく大きな意味を持ってくるのではないか、と思うのだ。
たとえば、UEIでは社内で「バージンテスト」と呼ばれるゲーム性評価の仕組みを導入している。
これは、隔離された部屋で被験者(そのゲームを遊んだことのない人)にケータイだけ渡してそのゲームを遊んでもらい、それを別室から監察する。
どこでつまづくのか、どこで課金したくなるのか、そういう心理状況の変化をつぶさに監察し、開発にフィードバックするのだ。
録画するのはゲームの画面と、被験者の表情。
やっていて思った。
「まるで大学の研究室みたいだな」
しかし、まさにそうなのだ。
こうしたものの積み重ねが、すなわち「ノウハウ」となる。
たぶん今、これほどまでにリアルタイムで人間の感情がどう変化するのか、どう変化させたら喜ばれるか、ということを実感できる仕事はちょっとないだろう。
次は脳波測定機や心拍数を測る装置も導入しようと思っている。
いわば究極の人間研究だ。
こうして少しずつ、「人間はいつ喜び、いつ悲しむのか」ということを解き明かして行くと、なにかとてつもなく面白いソーシャルゲーム以外のものが作り出せそうな気がするのだ。
その先の未来はなんなのか
*1:最初間違えて東大と表記してました。修正しました
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