2012-04-17
■メタ経営戦略
ブロガーがもし潜水艦だとすれば、エントリーはアクティブソナーか魚雷である。
前回のピンガー(エントリー)に対して強力な魚雷が帰って来た。
経営戦略よりも重要なこと - @fromdusktildawnの雑記帳
http://ulog.cc/a/fromdusktildawn/14771
分裂勘違い君劇場とは別なのかな?
このエントリーは前回のエントリーに対する反論ではないが、重要なサブテクストである。
ここではこんなことが指摘されている。
経営戦略と商品開発はどちらも重要ではあるが、
世の中には、
「経営戦略が主で、それに従って商品開発する会社」
と、
「商品開発が主で、そのために経営戦略を作る会社」
があるという点を見落として、悲劇が起きることがある。
ジブリの例を僕も否定しない。
というのはジブリの戦略や内実について詳しくないからだ。
そういうケース、つまり商品開発のお尻に兵站や戦略がついてきてしまう場合が少なくないことも否定しない。たいていの成功したベンチャー企業というものは、成功した商品に後付けで戦略を足したものになることが多い。後付けで戦略を足すことが多いことについては前回も触れたつもりだが、戦略の重要性を強調するため弱めになっている。
しかし僕はそれでも敢えて、戦略の方がより重要であるという主張を繰り返したい。
優れた商品開発能力に頼って失敗した例の方が、そうでない場合よりも多いと思うからだ。
ジブリは確かに宮崎駿の卓越した才能によって成り立っている会社のように見える。
しかしそんな会社はジブリしかない。
そして過去もジブリしかなかったかというと、そんなこともない。
天才、中村光一はポートピア連続殺人事件とドラゴンクエストという傑作をつくりだし、サウンドノベルという新ジャンルを開拓するような野心と才能に満ちあふれていたが、チュンソフトの経営は低迷を続けている。
スクウエアでは、逆に経営者よりも偉い(ような見えた)はずの坂口博信を喪ってなお、製品のクオリティ低下や社員の離反と戦って、経営を維持している。
語られる経営戦略は後付けであり、好んで語られるのは成功した戦略だけである、という説に異論はない。
しかし丁寧に探せば、失敗した戦略は山のようにあるはずだ。
たとえばスクウエアはどこで経営を失敗し、エニックスに事実上の吸収合併をされたのか?
幸い、僕の会社にはスクウエアを実際に経営していた人間が取締役として常に「商品先行主義」に頼った失敗を実体験として持っている。
90年代の日本のゲーム会社は、大手メーカーだけでなく、中堅どころも、なにかひとつはキラータイトルを持っていた。
しかし今はどうだろうか。
もはや見る影もない。
インベーダーを作っていたタイトーも、餓狼伝説を作っていたSNKも、リッジレーサーで一世を風靡したナムコも、もちろん大帝国を築き上げたセガでさえも、ブランドは潰えて往時の輝きは消え失せてしまっているのだ。
商品先行だろうがなんだろうが、経営戦略が必要でないことの証明にはならない。
ゲーム会社において最も強力な戦略をもっているのはコナミとエニックス、そして任天堂だった。
もちろん。これも後付けだ。結果をみて言うのは誰にでも言える。
けれども、だからといって歴史的事実を省みないのはさらに愚かな人間のやることである。
コナミとエニックスの戦略には共通点がある。
まず、学校を立てたこと。
エニックスとコナミは当初、共同でデジタル・エンターテインメント・アカデミーを設立し、後にコナミだけが離脱してコナミスクールを設立した。
まず学校をつくり、兵站を確保したわけだ。
もうひとつの共通点は、多作主義である。
コナミもエニックスも、ヒットタイトルだけに固執するのではなく、複数のタイトルによるポートフォリオを重視した経営戦略を採用していた。
才能は泉だ。
どれほどそれに溢れていようと、いずれは枯れ果てる。
だから才能を発掘するためにゲームスクールを設立し、それを育て、見いだし、才能に投資するために冒険的な作品でもどんどん予算をつけた。
エニックスもまたそうした戦略を採用していた。だから看板タイトルのドラゴンクエスト以外にも、スターオーシャンといった人気シリーズも生み出し、同時に鈴木爆発やせがれいじりといった変わった作風のゲームも取り揃えていた。
この二社の戦略を一言で言えば「ポートフォリオ重視戦略」である。
今ではコナミの看板タイトルとなったメタルギアシリーズも、ときめきメモリアルやラブプラス、そしてもちろん、パワプロやSNSゲームの台風の目となったドラゴンコレクションも、基本的にはそれまで全く無名だったプロデューサーやディレクターが手がけた作品だ。
ヒットすればシリーズ化され、プロデューサーはどんどん昇進していく。
任天堂も似た戦略をとっているが、より徹底している。
ゲームを評価するための社内基準を非常に高く設定しており、その基準に満たないゲームはたとえ完成後でも発売しない。
本当に出来のよいものだけを任天堂ブランドで発売するという戦略でブランドイメージを向上させている。
社内に開発部隊をあまり持たず、外注中心という点では任天堂とかつてのエニックスには共通点がある。
外注中心にすることで新しい血を吹き込み、常にそのとき一番「旬の」クリエイターによる作品を自社ブランドとして発売できるわけだ。
任天堂のブランド審査に落ちた作品を、勿体ないと思う開発会社はそのまま自社ブランドで発売してしまう。
しかしこれは任天堂にとっては思うつぼだ。
既に品質が低いとわかっているものを他社が発売して、わざわざ相対的に任天堂ブランドの価値を上げてくれるのだから。
経営層においてはこれこそが戦略と呼べるものであると僕は信じる。
宮崎駿に匹敵する才能を海外で探せば、ピクサーのジョン・ラセターに行き当たるだろう。
そしてピクサーの戦略とジブリの戦略は似ているように思える。
つまり、一作入魂主義だ。
しかしこうした戦略は、却って逆効果を産む。
ジブリですらも、宮崎駿以外の関わった作品をいくつかリリースし、それが却って宮崎駿の才能を際立たせてしまうという矛盾を抱えるような結果になっている。これが意図的なものなのかそうでもないのかはわからないが、どれだけ優れた人間であっても、いつかは寿命が来る。
手塚治虫ですら、晩年は才能の枯渇に苦しみ、足掻き続けながら逝ったのだ。
ふつうに考えた場合、作品の寿命は1年〜5年だが、5年から10年を考えるのが経営の戦略であるとすれば、一人の希少な才能に頼った経営は、夢をみて馬券を買い続ける人の如く僕の目には映る。
ロマンはある。だがそれだけだ。
ジブリは、たとえばあの天才、細田守の入社を断ったというエピソードがある。
その理由も、「君は恐るべき才能をもっている。だからジブリでは育たないだろう」というものだったらしく、しかもこれは宮崎駿本人が言い、鈴木敏夫が若き細田守に伝えた、という逸話が残っている。
経営者として、あたら優秀な才能を獲得する機会をみすみす逃すとはどういうことなのだろうか。
その気持ちはとても理解できるが、この件に関してだけは、一ヶ月でもいいから細田守をジブリにおいてやらなかったことは失策とすら思える。
ジョン・ラセターのピクサーが強いのは、社長がエド・キャットムルであることと無関係ではないと思う。
エド・キャットムルは自身が天才的な科学者・研究者であり、CG世界のノーベル賞と言われるクーンズ賞の受賞者の一人だ。
そして説明不要の天才的戦略家、スティーブ・ジョブズが経営の骨格を作った。
ラセター自身はウォルト・ディズニーが設立したカリフォルニア芸術大学の第一期卒業生であり、いわば「アニメーターとしての学術教育を受けた」経験を持つクリエイターである。
そうした教育環境というバックグラウンドがあってこそ、つまりこれはハリウッド全体の兵站戦略があってこそ、ピクサーは優秀な人材を育成し続けることができるし、ラセターがピクサーにとって最も重要な才能であることは疑いようがないのは事実だとしても、かといってラセター亡きあとのピクサーが色褪せるとは今も思えない。
「天才が引退するその時」の後の道筋まできっちりと組み立てている経営者の姿を確かに感じるからだ。
それに対して、宮崎駿亡き後のジブリというのはどうなってしまうのだろうか。
ひょっとすると一代で終わっていい、と思っているのかも知れないし、宮崎吾郎に引き継ぐ形での引退を目指しているのかも知れない。
それもまた企業のひとつのあり方としては正しいと思うが、「商品さえ立派なら兵站や戦略はあとからついてくる」という考え方は、僕は少し怠惰に過ぎると思う。
それでももちろん構わないのだが、そんな経営方針は僕にはちょっと退屈だ。
カードガチャを引き続けてレアカードが出てくるのを待つよりも、僕なら頭を使ってバトルに買って、そいつを手に入れたい。
素晴らしい刺激をあたえてくれたfromdusktilldawn氏に感謝する。
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