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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2012-05-30

賃貸と経営。または地の利 09:58

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ここんとこ週一で電通に通っている。


毎週毎週通っている。

今日なんか、昨日も行ったのに朝からまた電通に通う。


電通と僕は特殊な取引関係にある。

電通のグループ企業から資本を貰っているが、口は出せない程度でしかない。


お金のやりとりもない。

けどなぜか毎週通っている。


そして昨日、ふと気づいてしまった。


 「・・・・このビル飽きた」


と。


そしてもうひとつ気づいてしまった。


 「あ、電通はもう引っ越しできないんだ」


と。

10年前、電通は株式公開して莫大な資金調達を行った。

この背景には、大株主だった時事通信の経済事情があった。


インターネットが全盛となり、次第に立場が弱くなって行く通信会社。

それを見越して現金を必要とした時事通信が子会社の電通を上場させた。


しかしそんな懐事情だけではいくら超優良企業の電通といえど上場できない。

上場するには何らかの「口実」が必要だった。


上場して莫大な資金を調達し、その資金で何をするのか、ということが重要なのだ。

そこでなんと電通は、汐留に巨大な自社ビルを建築することを掲げた。


築地にあった電通は、ボロいビルの集合体だった。

セキュリティなんかなんにもなし。無法地帯で、誰でも出入りできたし、好き勝手に巨大な水槽を置いてみたり、飲み屋のママが水槽の魚にエサをやりにきたりしてたそうだ。

築地のある地区は全て電通とその関連会社のビルでひきめき、ちょっとした「電通街」を形成していた。


隣の部署が三軒先のビル、ということも珍しくなく、会議の度にビルを移動する人も多かった。

それに比べると、確かに一箇所に集中させてしまったほうが会議はエレベーターだけで行けるし効率は上がりそうだ、と思われた。


しかし同時に、電通のビル内は細かく統制され、40階近くもあるフロアは全て同じレイアウトで同じ色。まるで無個性になった。

しかも、株式公開みたいな派手な資金調達は一回こっきりしかできない。

つまり、電通は二度と上場できないわけで、こんな大規模な引っ越しをもう一度やることはほとんど不可能なのだ*1


僕はCSKの創始者、大川功氏を経営者として尊敬している。

大川氏は、CSKを皮切りに、アスキー、セガ、T-ZONEといった秋葉原の重要文化を担った会社を作り、支援した起業家だ


優れた経営者にはよくあることで、大川氏には数々の伝説が残っているが、その中でも僕がいつも心に留めているのは、「不動産を買ったらいかん」ということだった。


経営者なら金が余ると誰でも不動産が欲しくなる。

けど、不動産を買ったりビルを建てたりしてはダメだ、というのが大川氏の持論だったらしい。


事実、CSKグループ企業のSEGAは不動産を所有しているが、CSKの本丸は賃貸ビルのままだ。大川氏が最後に作った会社、ISAOも賃貸ビルに入っている。


その意味は僕にはよくわからなかった。

不動産を所有すれば、それは資産として計上されるし、家賃も払う必要がなくなる。一見すると、いいことのように思える。


けど、電通が向こう何十年かは引っ越しできないことを想像して、なるほど大川功は正しい、と思った。


会社は時代とともに変わって行かなければならない。

汐留や銀座が花形という時代もいつまで続くか解らない。


その時々で、あるべき場所に機動性を持って移動できるというのが賃貸のメリットだ。

例えばコナミなんかは、ランドマークタワーや丸ビル、六本木ヒルズを経て、今は東京ミッドタウンという、その時代で常に最先端で華やかイメージの場所を抑えている。


例えば久夛良木健氏は、プレイステーションのプロジェクトを立上げ、ソニー・コンピュータ・エンターテインメントを設立するときに、「品川なんて田舎にいたら新しいことはできない(ソニーの本社機能の大半は品川にある)」と言い放って、青山の246号沿いにカッコいいビルを借りて、そこをSCEの本社とした。


SCEがソニーグループの中にあって飛ぶ鶏を落とす勢いで成長し、ついにはSCE出身の平井氏がソニー本社の社長に上り詰めるまでの成功を修めたのが、オフィスの場所と無関係では決してあるまい。


もっとも、今はSCEも品川に引っ込んでしまったけど。


日本のMicrosoftも笹塚から新宿サザンタワー、そして品川へと本社機能を移動させている。


そういう意味では、会社の増床や引っ越しには大きな意味がある。

会社が増床すれば、社員は気分が変わるし、新しい刺激でリフレッシュされる。


もっと広い場所や便利なビルに引っ越しすれば、誇らしい気分になり、もっと頑張ろうと思うかも知れない。クリエイティビティにとって通勤路がずっと変わらないというのは危機的状況だ。


日本のメーカーが作るハイテク製品はもうどれも野暮ったく見えてしまう。

それはどの会社も製品開発をしているのはかなりの僻地だからだ。


新宿のかっこいいオフィスで製品開発はされてない。

のどかな田園風景が広がる、都内から最低でもたっぷり一時間はかかるような距離にある工場で、新製品が開発されている。


スマートフォンを使ってる人なんてまるで居ないような田舎町だ。

Apple Storeもない。


そんな場所でiPhoneに勝てる製品を作るのは相当難しいだろうと思う。


そんな会社で「iPhoneが・・・」と言っても使ってる人がほとんど居ない。

理由は「他社メーカーの製品だから」だ。仮に使っている人が居たとしても、こっそり契約してる。経費なんて認められない。


GoogleにはiPhoneユーザーが山ほど居る。

だからAndroidはiPhoneに対抗できる。それでも苦しい。


クリエイティビティは静止・停滞した状態では育たない。


シリコンバレーももちろん田舎町だ。

けど、Apple Storeはあるし、スタンフォード大学もある。

マウンテンビューの街では全てのカフェでGoogle WiFiを無料で使うことが出来る。


みんながiPhoneやAndroidを使ってる。

BlackBerryなんてダサい端末は誰も使ってない。


マンハッタンではBlackBerryを使ってる連中も少なくない。

さすがにもう居なくなったかな。


よく、親は「進学校に進みなさい」と言う。

それは勉強しなさいということだけでなく、勉強をするのが当たり前の環境に身を置きなさい、ということだ。


進学校に進むと、模試が当たり前の環境になる。

勉強しなければ友達との会話の話に入れない。

大学に進学するのが当たり前になる。

だから大学に行くために受験勉強をすることが苦にならない。


人間は環境に引っ張られる。


ゲームセンター、ファミコン、プレイステーション、そしてソーシャルゲームと、コナミが時代の趨勢を確実に掴み続けているのは、引っ越しが多いという特徴と無関係ではないのかもしれない。


最先端の環境に身を置くことで、最先端のさらに先を読むことが出来るようになる。

川へ次になにが流れてくるのか知るためには川の上流にいけばいい。簡単なことだ。


だから僕は香港や中国に通っている。今はここが上流だからだ。

将来的にはオフィスを設けることもわりと本気で検討している。


電通で一番ラディカルな藤田さんはサイバーコミュニケーション(CCI)とD2コミュニケーションズ、二つの子会社を立上げ、大成功させて、今は100億のファンドの責任者として、単身、シンガポールに電通デジタルホールディングス(DDH)という会社を立ち上げた。


一度遊びに行ったのだけど、レンタルオフィスに一人ぼっちで、楽しそうに働いていた。

CCIもD2Cも今や大会社になったというのに、また一人になって、シンガポールに行ってしまう藤田さんはさすがだと思った。

*1:もちろん電通の規模がずっと小さくなってビルを売るとか、そういう方法がないわけではないがあまりハッピーな展開ではない