Hatena::ブログ(Diary)

shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2012-12-11

僕が西暦1999年と2000年に予想した未来の姿 08:30

 昨日の記事が好評なのと裏腹に、僕が2001年にどんな予想をしたのかということが気になっている人がいるようだ。

 当時のレンタルサーバーはもう消滅してしまっていたのだが、Weybackマシンでサルベージできた。

 ただし、残念ながら画像は抜け落ちている。


 実際の予想は西暦1999年12月29日と西暦2000年3月22日に行われている。

 当時の僕は23歳だった。

 


 せっかくだから全文掲載しよう

携帯電話が拓く未来

1999/12/29



 TRON*で有名な東京大学の坂村健助教授が、突然「21世紀は携帯電話がノートパソコンの変わりになる」といろんなメディア*で言い出し始めた。

 坂村教授といえば、とにかくあらゆる分野のOSの制覇を目指して精力的に活動し、個人の力で社団法人を立ち上げるまでの成功をしながらも、外圧*に負けてしまった伝説の英雄。

 最近「超漢字」*が発売されたけど、まぁ地味な感じだったわけ。

 その坂村教授がいまごろになってあたりまえのことをいいはじめた。


 IMT-2000の様子などを見れば携帯端末がパソコン以上の性能を持つことは専門家でなくても明らか。i-modeを見てパソコンとの単純な比較論でしか語れない人は21世紀には時代遅れ、になるかもね。



携帯端末を含むネットワークシステムの構成

 携帯端末がノートパソコンに比肩するほどの能力を持ち得るのはなぜか?ここではi-modeに限定して説明しよう。


 たとえば右図はグループウェアIntelliSync*の広告から抜粋した図だが、この図のなかにはインターネットを通してi-modeをスケジューラ端末のひとつとして捉えられている。


 i-modeはWWWブラウザであるため、通常のWEBアプリケーションに可能なことはおよそどんなことでも実現することができるからだ。最近はWEBベースのITソリューションが増えてきたが、そうしたWEBベースのITソリューションのなかで、i-modeを端末のひとつに取り込むのは実に合理的な解決策なのである。


 実際、僕の会社*1では僕が作ったsimon*というWEBベースのスケジューラを使っているが、simonでも当然のようにi-modeからのアクセスに対応している。

 i-modeとPCとの違いは、画面の広さや文字数、そして特殊文字の有無やjpeg*が使えるか否か、JavaScript*が使えるか否か、といったところしかないため、特に工夫しなくてもちょっと関数を書き足すだけで、容易にi-mode向けのページを作ることができる。


 これは携帯端末に限らないが、もしWEBベースのスケジューラでなかったら、Windows98や WindowsNT,Mac,UnixWindowsCE、果てはpalmOSドリームキャストなど多数のOS使いが同居するわが社のような環境では、一部のグループにしか使えない代物になっていただろう。ただ、HTMLという共通の言語を使うだけでパーフェクトにそれらの環境をサポートできるのである。BeOS*からも見れるし、超漢字でも動くはず。およそどんなOSでも動くはずだ*。


WEB=CGI=ショボイ? という不可思議な図式

 だが、なぜかWEBベースのプログラミング、つまりCGIプログラミングといいかえても差し支えないと思うが、そういったものはショボイという不思議なイメージがあった。僕もそういうイメージを捨てきれなかった。


 それはきっと、ひとえにperl*という言語がCGIの代表格的存在として知られているからだと思う。しかもインタプリタ言語だ。最近のperlはコンパイルもするらしいが、方式としてはMSXべーしっ君*やJavaでおなじみのJIT*コンパイルである。


 そんな動作をユーザがページを見ようとするたびに起こすのだ。ちょっと最適化をかじったプログラマなら、想像するだけでウンザリする気持ちが判る。しかも、perlの内容は、バッチファイルみたいなものだし、やっぱりまともなプログラミング環境とは思えない。


 そんなわけで、僕もはじめはWEBベースのプログラミングなんて腹のたしにもならんと敬遠し、フツウの中坊のようにフツウにフリーのBBSスクリプトを拾ってきてフツウに設置するだけにとどめていた。


 そして世の中には四種類のCGIプログラムがひしめきあってることになる。「アクセスカウンタ」と「掲示板」と「占い」、そして「検索エンジン」だ。のこりの僅か数パーセントが、SIMONのようなスケジューラであったり、amazon.comの特許のような買い物CGIであったりするわけだ。チャットやアンケートフォームは掲示板カテゴリ、アクセス解析はアクセスカウンタに含まれることとする。


 perlはunix管理上ユーザに開放しても「比較的安全」だったので、perlなら使ってもイイヨというプロバイダが多かったことで、perlが一気に普及したのだろう。


 だが、キャバクラで同じ女の子を指名し続けるよりもちゃんとした彼女がいたほうがいいのと同じように、借り物のサーバよりも自分のサーバがあったほうがいい。自分のサーバならば、perlなんてケチくさいものは使わずに、C++でCGIプログラミングができるのである。いや、CGIどころかdaemon*を立ち上げることすらできる。そのかわりセキュリティには気をつけなくてはいけないが・・・。


 誰でも持てるサーバというと、ほんの少し前はなぜかWindowsNTだといわれていた。そしてそれにオマケでついてくるIIS*だ。IISなどのCGIはVisualBasicで書けるため、これまたお手軽な感じがする。僕も以前WEBカメラをリモートコントロール*するCGIを書いたときはVisualBasicを使った。といっても一行しか書いてないけど。


 世間一般ではVisualBasicからDBにアクセスするのは簡単なのでWEBベースの業務用システムについてはけっこう使われているようだ。


 かくして世の中にはVisualBasicで書かれた(面白みのない)業務用システムと、大量に複製・改竄されたperlスクリプトによるCGIページだらけになってしまった。というわけである。



WEB=非リアルタイム処理ならなんでもできる

 WEB用のプログラミングというと、すぐにJavaScriptとかJavaとかを引き合いに出すのはいかにも俗っぽい。JavaScriptもJavaも、CGIプログラミングとの関連で考えれば補助的な役割を果たすに過ぎない。


 コンピュータの本質的な部分というのはどうやって決まるのか、それを思い出してみればいい。


 コンピュータの処理の本質のひとつは、ユーザとのインタラクションである。つまり、双方向的な処理さえできればいいのだ。ほとんどすべてのコンピュータサービスがインタラクションであればいいということを考えれば当然のこと。


 WEBプログラムになったときに問題になるのは、その応答時間だ。

 つまり、リクエストを送って、結果が表示されるまでの時間である。


 i-modeでは通信速度は9600bpsと非常に遅い。しかし文字だけを送ることを考えれば、その昔は300bps*で立派にパソコン通信していたのだから、比較すれば32倍速である。しかももともとの通信速度が遅いので、逆にいつもフルスピードに近い速度で通信できる。ISDNが64kbpsといっても、プロバイダによってはいつも64kbpsでているわけではないのと違い、i-modeの通信速度はキャリアであるNTTドコモが保証している数値なのだ。遅いと感じることがあるとすれば、それは情報プロバイダ側の処理能力が低いせいだ。


 この応答時間は、しかしさすがに秒間60フレーム毎秒というわけにはいかない。せいぜい一秒に一回のやりとりができれば上出来だろう。


 それに、通信速度以外にも遅延*(レイテンシ)の問題もある。インターネットを中継したときの遅延はベストケースでは200ms、良好な場合で通常は500ms〜1秒といわれているから、サービス時間もあわせると、応答までの遅延は1秒〜2秒ということになる。


 ちなみにこういう問題はLAN環境では発生しない。


 この遅延の問題さえ気にしなくてよいアプリケーションならば、およそなんでも走るのがi-modeなのだ。つまり、i-modeは数ギガバイトのハードディスクと最新のCPUのついたPDAと同じわけだ。


 単にインターネットでCGIを使える、というだけならば、IDOやDDI*のEZ webなどをはじめとするサービスでもいいと考えるかもしれない。


 しかし、それらのサービスとi-modeとの決定的な違いは常時性である。

 EZ webはまずインターネットにアクセスするのに先立って、ダイアルアップ*しなくてはならない。ダイアルアップって奴は無数な同じ処理の繰り返しとアナログ的な待ち時間の総体である。毎回毎回ハンドシェイクして、悪いときはつながらないこともある。まるでひと昔まえのパソコン通信のようだ。むしろ、EZ webはノートパソコンに携帯電話を接続するのとあまり変わらないのだ。違うのは画面が狭くてキーが押しにくいというデメリットでしかない。


 ではi-modeはというと、これはCATV-LAN*のようなもので、基本的に常時接続といって良い。ただし、厳密には接続状態と切断状態が存在するが、それはIP上の問題でしかなくて、基本的にはボタンを押せばすぐにTCP/IPパケットを投げようとする。ほっておくとIPの期限が切れるが、ボタンを押せばすぐに復帰動作をする。そのために驚くほど接続が速い。


 実際に、i-modeとEZ-webを同時に使ったことがあるが、i-modeで映画情報を調べて最寄の映画館に電話し終わるころ、EZ-webではまだダイアルアップ動作とハンドシェイクを行っていた。それほどの違いがある。


 もうひとつ、i-modeがノートパソコンよりも優れている点としては、インターネットメールを即時受信できるということだ。


 これはEZ webをはじめとするほかのサービスにはできない。

 たとえばcdmaOneのCH201はインターネットメールを受信できるが、それはダイアルアップした後だけだ。これはつまりユーザが能動的にメールを読みにいかなくてはならないということである。


 それに対してi-modeではポケベルと同じように、電波の届くところにいれば即座にメールを受信できる。これは迷惑な場合もあるのだが、迷惑ならそもそもi-modeのメールなんか使わなければいいのである。


 他の機種にもたとえば「ショートメール」のような機能はあるが、いずれも独自のプロトコルに因っている。i-modeはページブラウズもメールも一貫してインターネット経由を可能にしている点がなによりも優れているのである。


 このことが、アプリケーションとi-mode端末との完全な双方向性を実現しているからだ。

 メールをメールとして使う必要は、実はなくて、単にユーザへの緊急通知事項を知らせる手段として使えばよい。


 この発想から、地域を指定しておくと雨が降りそうになったときに直ちにメールしてくれる「雨降りアラーム」サービスや、魚がかかったときにメールでアタリを通知する釣りゲーム*が可能になるわけだ。



 これは、ほとんどのプログラムに要求される処理をi-modeとCGIの組み合わせだけで処理できるということである。他社端末との最大の違いはこの一点だ。 

 

マーケットの可能性

 携帯電話の拡張としての携帯端末のほうが、PCよりも市場性が遥かに高いことは言うまでもない。

 

 現在、国内のインターネットユーザは全部で1700万人と言われている。多いように感じるかもしれないが、これは国民の1割強に過ぎない。対して、携帯電話ユーザは4500万人であり、これは国民の1/3にも相当する。

 i-modeの大成功を受けて、IDO,DDI,J-PHONEも来年中にはi-mode相当の機能を自社の製品に盛り込む勢いで、これが実現すれば、インターネットの総人口を携帯端末ユーザが超えることになる。しかも、インターネットと違い、国民の1/3が肌身はなさずネットワーク端末をもって歩くのである。これは革命といって良い。もちろん、それを買った本人達にネットワーク端末を持ち歩いているという自覚はないだろうが、キラーサービス*が登場すれば、一気に爆発する可能性を常に秘めているということでもある。

 

流通の圧縮

 さらに流通構造が大きく変わる。かつて、ソニーは問屋を通さず直接小売店にソフトを卸すことで流通マージンを圧縮したが、携帯端末用のサービスはさらに小売店や流通業者(運送業や接待要員も含めて)を軒並み流通構造から排除することができ、さらにマージンを圧縮できる。こうすることにより、メーカーはユーザからの直接的な利潤を期待でき、価格を下げることにつながる。


 つまり、携帯端末向けゲームが流行してくれば、こうした流通構造の大規模な変革が起き、少なくとも既存のゲーム業界のパイの一部を切り取ってしまうことは間違いない。家庭用パン作り器がでまわったときのパン屋さんくらいのダメージは覚悟しないと生き残りは難しくなるだろう。既存のゲーム業界の市場はこれ以上伸びないか、もしくは邦画のように細々としたものになるか、とにかく苦戦を強いられるのは間違いないだろう。



そしてゲームはもっと面白くなる

 この構造のもっとも優れた点は、クソゲーや売り逃げゲームを完全に駆逐できることだ。なぜなら、メーカーはユーザを楽しませつづけなければ採算を回収できなくなり、そういうレベルでの競争が激化するのは必至だからである。だからあえてソフトいう表現ではなく、サービスと表現しているのだが、こうなると、ゲームメーカーはテレビ放送局であり、なんとしてもチャンネルを他のゲームメーカーに明け渡してはなるものかという占遊率争いとでもいうべきものが起きる。


 これはつまりゲーム競争の激化を意味し、つまらないテレビ番組がすぐになくなってしまうように、つまらないゲームはすぐになくなってしまう。でなければそもそも存続できないのだからあたりまえである。

 

 流通の圧縮とネットワークゲームサービス激化の部分というのは、ネットワークを介して提供されるゲーム全般に言えることなので、携帯ゲームには限定しない。なぜなら携帯端末以外にも無線回線を使うサービスが開始されるのだ。

 

IMT-2000とは?

 冒頭で出てきたIMT-2000という言葉について、もう少し深く解説しなくてはならないだろう。IMTとは、インターナショナル・モバイル・テレコミニュケーション2000の略であり、世界中で利用可能な移動体通信システムである。


 この要件は

  ・有線網と同等な音質を確保

  ・144kbps〜2Mbpsクラスの高速データ通信

  ・世界中で同じ電話機を使える国際ローミングが可能

  ・2GHz帯

 というもので、これは国連*の下部組織であるITU(国際電気通信連合)がとりまとめている。


 現在は、どの方式をIMT-2000として採用するかを決定する段階であり、日本からはエリクソンが提案するW-CDMA方式を候補としてあげている。また、クアルコム社のcdma2000も候補のひとつとして取り入れられている。


 国内でIMT-2000が実用化するのは西暦2001年を予定しており、これが実現すれば、現行のISDNを優に追い抜くことになる。


 また、マイクロソフト、ソフトバンク、東京電力によって計画されているスピードネットでは、電信柱に光ファイバーケーブルを敷設し、数百メートル間隔で無線基地局を設置して家庭と高速なLAN回線を繋ぐという構想があり、これは現状2Mbpsが限界だが、11Mbpsまで拡張できるとされている。こちらは2000年中に配備される勢いだ。


 もっとすさまじいのはソニー、IIJ、トヨタが設立した「クロスウェイブコミュニケーションズ」でトヨタの持っている光ファイバー網を使い、最大600Mbpsの超高速バックボーンサービスを既に行っている。2000年中には東京、名古屋、大阪の三都市でオフィスや家庭から無線LANを使える。


 さらに、来年はPS2で話題をかっさらったり飽きられたりする予定のソニーは、単独でも第一種電気通信事業の認可をうけており、2000年7月から21都道府県で無線通信サービスを提供する予定だ。最近ソニー製の携帯電話がリリースされないと思ったらそういうわけだったのである。


 2Mbpsや10Mbpsと実に景気がいい。


 これだけの大域幅があれば、もはやDVDで配信するとか、ハードディスクにセーブするとかというのはナンセンス極まりなく、テレビのように情報を垂れ流し、それをストリーミングしながら遊ぶ、「ストリーミングゲーム」というようなものが登場するだろう。


 サーバ側には数テラバイトのハードディスクを置くか、またはリアルタイムで情報を生成し、爆発的な速度で末端端末に伝送するという新しい形態のサービスが考えられる。


 そうなれば、もはや家庭用ゲーム機でわざわざポリゴンを動的生成する必要すらなくなってしまうかも知れない。


 進化の激しい画像生成部分はすべてサーバ側で行うようにしたほうが、明らかに経済的だからだ。

 無線通信、ネットワークサービスは新たなフロンティアなのだと思う。

http://web.archive.org/web/20001017233631/http://www.and.or.jp/~shi3z/index2.html

次が西暦2000年3月に書いた文章

iアプリ(iモード向けJava)登場の一年前に書いたものだ。

ちなみに当時docomoがiモードにJavaを搭載するという以外の情報は一切公開されていなかった

凡庸な未来

2000/3/22

 20世紀全体を通して,100年間も人々の夢と希望の象徴となっていた21世紀まであと数ヶ月を残すのみとなった。

 結局、民間の宇宙旅行も巨大ロボットも隕石衝突も最終戦争も起こることなくただ現在の延長でしかない凡庸な「未来世界」がいまや目前に迫っている。


 コンピュータの登場以後、数多くの未来物語が作られ、その可能性について語られてきたし、またそうした未来物語に影響を受けた若者が次々とそれを現実のものとするべく技術者になり、時には物語を遥かに凌駕した発明も生まれた。


 しかし、ことネットワークについて、今日のような状況を精密にいいあてた例はほとんどなく、またあったとしても、今日のような状況こそがその終着であるに過ぎなかった。

 21世紀でも22世紀でも27世紀でも、西暦を使わないほどの未来であっても、ことネットワークに関してはまったく似たような発展のイメージしか得られていなかったというのが真相ではないだろうか。唯一例外なのがサイバーパンク*小説に登場する"マトリックス"とよばれる仮想現実世界だが、これとてビジュアルイメージのみが圧倒的に先行し、精密な21世紀をいいあてるものではない。20世紀にジュール・ベルヌ*はいなかったのだ。


 20世紀後半に圧倒的な市場を形成したゲーム産業の構造的変化も、まだ誰も話題にしていないし、誰も予想すらしていないであろうが、すでにゆっくりと始まっている。


 "ゲームソフト"という単体のROM構造物から、"ゲームサービス"への変化が始まったのが1999年という年であり、その台風の目となっているのがNTT DoCoMoのiモードである。


 先のi-mode一周年パーティでの発表によれば、i-modeがNTT DoCoMoのすべての携帯電話に搭載されることが決定した。

 ドコモのラインナップは20xシリーズ(小型軽量)と50xシリーズ(多機能)に別れている。

 いままで小型軽量の20xシリーズではi-modeに対応してはいなかったが、今年の秋から出る20xシリーズ(おそらく209)からi-modeに対応するとのこと。

 そして年末にかけて発売が予定されている最新型の503シリーズでは待望のJava*が搭載される。こうした技術革新が次々と起こる中、その用途はあまり考えられてはいないというのが実情ではないだろうか。

 さらに2001年の春には、広帯域のW-CDMA方式*を採用した端末が発売される予定である。そのとき世の中に必要とされるコンテンツは?本稿ではこうした状況を踏まえて,Java, W-CDMAをにらんだ次世代ネットワーク端末の可能性とその向こう側にある21世紀初頭のモバイルネット未来像について考えてみたい。


Java対応i-mode端末の潜在能力

 先のコラムでi-mode端末が単体で極端なリアルタイム性を要求されるものを除き,ほとんどの対話処理を行えることを論じた。

 単体で充分な性能を持つi-mode端末に,Javaというクライアントサイドの要素が加わることでなにがかわっていくのだろうか。

 おそらく既存のi-modeからJava内蔵端末への移行は,技術的にはHTMLからJavaアプレット付きHTMLに移行したのと同じようにスムーズだ。ただし,当然のことながらその普及に関する部分は未知数である。

 そもそも既にある程度普及してしまった既存のi-mode端末のあとからJava内蔵端末を出したとして,ニーズがどれだけあるかはまったくわからない。これはJava内蔵端末のニーズはすべてコンテンツ次第だということである。

 逆にいえば、コンテンツプロバイダ(インフォメーションプロバイダ)は単にJava端末に対応したコンテンツを作るのでは不十分で、Java端末の性能を最大限に活かしたコンテンツの提供をしなくてはならない。

 Java端末が既存のi-mode端末に比較して決定的な差をつけるのは以下の三点である。

  1. 高速なインタラクティブ処理
  2. 独自プロトコル通信
  3. 非通信時の動作

 高速なインタラクティブ処理とは、たとえば単純なアニメーション処理も含む。簡単なアクションゲームならそれほど労せずして開発することが可能である。しかし、簡単なアクションゲームを携帯電話でやる必要性はあまりない*。市場規模としては大きいかもしれないが、技術的実現可能性を探る観点からみれば不毛である。


 Java対応というと、いつもこの「高速なインタラクティブ処理」すなわち単純なアクション系のゲームばかりが注目されるが、Java対応端末の決定的な価値は他の二点である。

 まず、独自プロトコルで通信できるということは、iモードゲームユーザにとって一番深刻な課題のひとつである「パケット通信料金」*を爆発的に減らすことができる可能性が生まれる。通常のHTMLを使った方式ではHTTPヘッダやHTTPリクエスト、そしてHTMLタグの送信が毎回発生する。これによりパケット料金は膨れ上がっていくわけだが、独自のプロトコル通信を行えば、必要最小限の情報を一回だけダウンロードして使いまわすことができる。こうすれば、ひとつの操作について毎回1円〜10円のパケット通信料が発生することももうなくなり、うまくいえばパケット通信料金は半分〜1/10になるだろう。


 こうなると、いままでの課題だった「面白すぎるとパケット料金がかかりすぎてしまう」という問題を解消でき、無制限に遊べる面白いゲームを提供しても良いことになる。


 次に、非通信時でも操作できるというのも非常に大きいポイントとなる。

 なぜならいまやどこにでも持っていけて、どこでもつかえる携帯電話にとって、最大の死角は地下鉄やビルの中であるからだ。この部分的な死角は単に電話をかけることができないというだけならばそれほど問題にもならないが、ゲームやその他の情報コンテンツにとってはほとんど死活問題と言っても良い。

 i-modeがゲームボーイに唯一勝てないのは地下鉄の移動中なのだ。

 これを解消するのが、このJavaアプレットによる非通信時の動作であり、たとえば通信切断中の操作をすべて記録しておき、接続が回復すると同時にサーバに対して同期をとる、といったことが可能になる。

 この二点のメリットをいかに引き出すことができるか?それがJava対応i-mode携帯端末の命運を決定するのかもしれない。



アプレットとサーバの二人三脚がカギ

 ではJava端末の機能を最大限に引き出すには、どのようなコンテンツが最適だろうか。 Java端末の特徴を充分に活かした上で考えられるコンテンツは以下の三種類に大別できると思う。


  1. データを適宜ダウンロードしてJavaから使うタイプ
  2. ゲームデータのアップロード/ダウンロードを行うタイプ
  3. JavaをUIとして用い、ゲーム自体はゲームサーバで行うタイプ

 データを適宜ダウンロードするコンテンツは、たとえばショートシナリオのアドベンチャーゲームやパズルゲームの提供に最適だ。また、地図情報のような、どこかへ遊びにいくときに、あらかじめ現地の観光名所や店のデータ(地図含む)をダウンロードしておいて使えるサービスも重宝されるだろう。無論、地図情報はビットマップでは重いのでベクトルデータにして必要な部分だけ切り取って使われるだろう。Javaアプレットを使えば適宜拡大・縮小もできるのでいまの地図サービスよりもかなり便利になると思われる。


 ゲームデータをアップロード/ダウンロードするタイプは、たとえば「プロ野球チームを作ろう」のようなデータ対戦型ゲームを実現できる。また、パズルゲームの問題をユーザが作ってアップロード/ダウンロードしたりするサービスにも向いている。広い意味では、ターン制のシミュレーションゲームは1ターンごとにアップロードとダウンロードを行うことで実現できるといえる。ただしこの場合は相手が手を打ち終わったというシグナルを直接送信しなくてはならない*。



i-modeで表示可能なサイズのJavaゲーム

 Javaアプレットを単なるUIとして用いる場合は、現行のi-mode向けゲームのすべてを移行してかつパケット料金を爆発的に圧縮できる。それだけではなく、ウルティマオンラインのように二次元的な街を歩いて知らない人と出会ったり、話をしたりするタイプのゲームサービスも提供できる*。また、現在の「ミスティックグラップル」や「海運ジェネレーション」のような戦闘シーンのあるゲームでは、より迫力に満ちた戦闘シーンを提供できるはずである。

 このようなゲームを開発・運営するにはゲーム専用サーバの開発能力が必須となる。効率的なプロトコルを独自に開発する能力も求められるため、こうした部分を包括するミドルウェアを開発するメーカーの登場もありうる。



Java KVMとJave2 ME 求められるチューニング


 i-modeに搭載が予定されているのはJava KVM*・・・ Kilo Virtual Machineと呼ばれるコンパクトなJavaVMだ。これはあくまで単なる実行環境にすぎないのでJavaアプリケーションを動作させるためのJava2 ME(ME;Micro Edition)を搭載するとされている。この他に携帯電話特有の機能・・・たとえばバイブレータや赤外線通信機能、バックライト、FM音源などを起動するための特殊なネイティブクラスが追加されて提供されるという噂である。


 このKVM上に乗せることのできるアプリケーションに許されたメモリはほんの僅かであり、この限られた空間をいかに有効に使うかが最終的な勝負の分かれ目となるだろう。


 たとえばGIFのパレットを惜しんで限りなくベタに近いランレングスフォーマットで格納したほうがメモリを効率的に使えるかもしれない。当然、グラフィックデータ自身もランレングス圧縮にチューニングしておく必要がある。


 また、文字を画面内に細かく表示することはほとんど絶望的なので、たとえば画面切り替えをどのくらい効率的に行うとか、会話シーンだけをHTMLで表現する、などの切り分けが必須になってくる。


 この時点まで来ると、WEBサーバと専用プロトコルサーバが独立していたのでは都合が悪くなるため、なんらかのかたちでWEBサーバと専用サーバのハイブリッド化が必要になるかもしれない。


 また,たとえJavaに対応しても通信速度が速くなるわけではないので、あまり頻繁にアプレットをダウンロードするようなケースは考えられない。できるだけオンメモリでアプレットを動かしたままときどきHTMLに切り替えるというのが現実的な路線だと思われる。


 こうなると、ひとつの端末に保持できるアプレットの容量に限りがあるため、各コンテンツ間でメモリ争奪戦争が行われるだろう。アイボール・ウォー*ならぬキロバイト・ウォーである。



W-CDMAが実現する21世紀のモバイル環境


 NTTドコモが中心に取りまとめている次世代携帯電話通信方式であるW-CDMA方式*2。MPEG-4*に対応し、音声・動画の大量伝送を可能にするなど、派手なイメージが強いW-CDMA技術だが、仏作って魂入れず、という言葉があるが、技術的にはハードルをクリアしつつあるものの、具体的なコンテンツ提供プランについてはまるきり公表されていない。しかし2001年春のサービス開始だけは高らかに宣言されているという実態だ。


 W-CDMAが可能にする広帯域通信端末とi-modeの違いは、基本的には通信速度しかない。i-modeのハイエンドモデルがJavaを搭載するのならば、当然W-CDMAにもJavaKVMは搭載されるのだと考えられる。他にもシームレスな国際ローミングが可能になるが、これは基本的に海外に頻繁に行く機会のある人意外にはあまり用事がない機能だ。


 W-CDMAによって可能になるのは最大2Mbpsという膨大な通信速度である*。現在のOCNスタンダードプランでも1.5Mbpsが限度。エンドユーザは128Kbpsが限度ということを考えれば爆発的に高速なプランとなる。おそらく、ほとんどの携帯電話ユーザにとってPCよりも高速・広帯域な通信手段になることは間違いない。


 そして現在、このような広帯域の通信速度に対応したサービスはというと、インターネットのどこを探してもまるで存在しないという状態である。


 これはW-CDMAによる携帯端末革命が、インターネットバブルに匹敵する大きなビジネスチャンスであることに他ならない。


 たとえばいままでは大学の研究室レベルの、一般消費者にとっては夢物語でしかなかったビデオ・オン・デマンドやテレビ電話を実に容易に実現できる。


 しかしそれらの機能はいわばW-CDMA端末の「基本機能」であり、コンテンツプロバイダが担う、すなわち「付加機能」とでも言うべきモバイルコンテンツサービスの可能性をどこまで広げることができるだろうか。


 そのためにはW-CDMA端末をより本質的にとらえ、機能特性を活かしたサービスを提供しなくてはならない。


 たとえば動画が送れるという特質を活かして


  1. 行楽地や高速道路などの混雑具合をリアルタイムに確認できるカメラサービス
  2. 競馬や競艇など、ひとつの映像単位が短いもののVODサービス
  3. ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した動画像をスクリーンセーバにできるサービス
  4. 一日に数回更新されるニュース番組のニュース単位でのVOD/クリッピング


 などが提供できる。


 もちろんサーバサイド技術であることを充分に活かすなら、最後に挙げたようなニュースサービスは非常に発展性があると思う。

 たとえば興味のあるニュースを見たいときになかなかでてこないとき、もしくはすでに見逃してしまったとき、W-CDMA端末で興味のあるニュースだけピックアップして視聴したり、もしくはあらかじめ興味のある項目を設定しておくと、ニュース番組の内容自体をクリッピングして教えてくれるサービスなどは非常に利便性が高いと思う。CNNのような会員制ニュース局はこうしたサービスを積極的に投入してくるのではないだろうか。このようなニュース番組の場合、スポンサーが必要ない(ユーザが支払う)ため、少しはニュースの公平性に貢献できるのではないだろうか。うまくすれば、まったくスポンサーの入らないネット専用テレビ局が誕生するかもしれない。これこそ視聴者の味方ではないか。

 

 

ネットゲーム放送産業の出現

 こうしたネットワーク・インフラの発展とともに台頭してくるのはネットワークの自由度を活かしたコンテンツを提供・維持する、ネットゲーム放送産業*とでもいうべき存在である。


  この、新しい業界を説明するには、まずは既存のマス・メディアの構造について説明しなくてはならない。


 現在マス・メディアの主要なものとなっているテレビ産業は、右図のような構成で利益を上げている。

 どんな産業でもそうだが、最終的に消費者を相手にどのように金が巡るかが重要なポイントとなる。

 この場合、いずれの産業であっても、消費者とスポンサーの関係が基本になる。マス・メディアが既存産業に寄生しているかたちになるのはそもそもスポンサーと消費者の関係をもとにしているからだ。


 マス・メディアとして成立するためには、どの産業構造であっても必ず広告代理店が絡むことになる。また、こうした構造の優れた点は、スポンサーというのも大きな集合体に過ぎず、次々と新しいスポンサーが登場して結果的に産業全体がうまくいくという点にある。スポンサーという抽象化された存在との交流を広告代理店が一括しておこなうことによって、テレビ局は潤沢な資金を容易に得ることが出来るのである。


 もうひとつのマス・メディアである出版業界、とりわけ雑誌はというと、これは大きく消費者への販売収入とスポンサーからの広告収入の二本柱でなりたっている*。

 しかし、こと出版物に関して言えば、流通コストはバカにならない。印刷・問屋・運送・書店を経由するため、それぞれにマージンが発生する。


 このため、発行部数の少ない雑誌ほど消費者の直接支払う負担は大きくなる。つまり、売れている本ほど安いという不思議な図式が成り立つことになる。


 発行部数の多い雑誌はその分たかい広告費をとれるため、消費者への負担を少なくでき、しかもお金をかけて充実した内容を提供できるようになっている。


 インターネット上でのゲームサービスを中心としたネット放送局も、こうしたビジネスモデルに基づいたものへと発展していくだろう。


 現在、ネットワークゲームはゲームメーカやプロバイダが自社の責任において実験的にコンテンツを提供しているのみである。


 しかし、ひとたび広告媒体として認められれば、固定的な集客力のある確実な広告手段としてネットワークゲームを認知させることができるはずである。


 また、テレビでは非常に困難な追跡調査も、ネットでは非常に簡単である。

 特に、IDを発行するタイプのネットワークサービスであれば、データベースマーケティング*が可能であり、こうして収集した顧客情報や、どの職業のどんな世代に何回見せたかそのユーザのアクセス頻度は?どんな時間帯に見たか? といった細かい情報までもをクライアントに対して開示できる。これは広告媒体としては非常に画期的である。これはともすればテレビ以上の影響力・調査能力を有する情報媒体ですらある。


 逆にいえば、このような素晴らしい媒体を媒体として位置付けるにはやはりキラーコンテンツの登場が急務である。


 ところでテレビや雑誌と違って、ネットワーク媒体の強みでもあり弱みでもあるところは、ひたすら参入が簡単であることに尽きる。


 参入が簡単である、ということは、粗製濫造を産みやすいということである。

 人間は一定以上の情報を処理できない。そのため、チャンネルが100以上ある通信衛星放送などでは見た分だけ料金を支払う「ペイ・パー・ビュー」を基本としている。


 しかし、それまで無料でテレビ番組を見てきた人々にとって、ペイ・パー・ビューという考え方はなかなか受け入れられにくい。そのため、現在になって急激な衛星放送局の統廃合が起きているのではないか。


 だが、たとえばゲームサービスはもともと有料であったゲームソフトを、ネットワークの特性にあわせて拡張したものだと主張することができる。そして驚くべきことに、今現在ですら、人々は単一の閉じた、なんらネットワーク性のないゲームソフトに5800円*という大金を惜しげもなくつぎ込んでいるのだ。


 この現状を踏まえて考えれば、順序としては1)広告スポンサーを探す2)ネットワークゲームサービスを開始する3)ユーザから安価な料金を徴収する、というネットゲーム産業のスタイルが見えてくる。たとえば充分な広告収入が見込めるのならば一年間1000円でゲームサービスを提供しても良い。


 広告を前提とすれば、数億といわれる初期投資金額も広告スポンサーに前借りすることができるし、広告で初期投資を回収しながらゲーム全体を維持しつづけるタイプの企業が生まれる。これが僕が定義するところのネットゲーム放送局である。


 ネットゲーム放送局は単一か、もしくは複数の番組を抱えながら維持費の続く限りユーザに対して新しい情報やゲーム世界を提供・運営しつづける。これはちょうど連載マンガのようなものである。


 連載マンガと決定的に違うのは、そこに一切の作家性を廃することだ。ネットワークゲームの開発・運営はもはや個人の手には追えない領域に進む。ちょうど、テレビドラマのように何人かの監督がもちまわりで開発を続けることになるだろう。テレビに比べて救いなのは、毎回すべての素材を刷新する必要がないことである。テレビ番組の制作で培われた製作の合理化技術を、より推し進めたものになるだろう。


 少なくともネットゲーム放送産業が立ち上がる何年かのあいだは、ユーザは毎日違う展開を見せてくれるゲームに夢中になるはずである。それはちょうど、テレビの黎明期に近いイメージだ。


 それを立ち上げていく過程でも、いまの出版業界と似たスタイルをとることは、芽生えたばかりの産業を安定させるのに役立つだろう。


 今のiモードゲームや、WEBベースのネットワークゲームにはまだ高度な表現技術は必要ない。基本的にテキストベース、静止画面ベースのつたない産業である。


 しかし、それはかつてファミコンの映像がテレビアニメに比べて表現力において劣っていたというのと同じように、それでも面白いゲームを造ることはできるはずである。


 そしてW-CDMAやスピードネットなどの普及により、各世帯に10Mbps規模の非対称ネットワークインフラストラクチャが整備されたとき、そのときこそネットゲーム産業が真に花開くときだ。


 リッチな映像表現と高度なネットワークゲーム技術によって現在は想像もつかないようなゲームを愉しむことが出来るはずである。


 あるときは、映像自体はサーバ側で合成したものだったり、またあるときは、あらかじめ用意・撮影されたものになるかもしれない。


 こうして、既存のプレイステーション2向けなどのゲームは映画のように*、ネットワークゲームはテレビドラマのようになって生き残っていくに違いない。



 これが今僕の想像しうるネットゲーム産業の未来図だ。

http://web.archive.org/web/20001017233631/http://www.and.or.jp/~shi3z/index2.html

*1:ここではドワンゴ

*2:いわゆる3Gである