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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2013-02-16

「抵抗や批判のあるなかの研究こそが未来の研究である」ということ 06:57

 昨日は東京大学の西田友是教授の最終講義があった。


 先生の教え子やお弟子さんたち、そして支援団体や企業の人間などが集まり、東大小柴ホールは超満員となった。


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 西田先生といえば、サザーランド、アラン・ケイに続き歴史上12人目のスティーブン・A・クーンズ賞の受賞者であり、ラジオシティ法やベジェ・クリッピング法の発明など、コンピュータ・グラフィックスの発展に多大なる貢献をした人物。


 クーンズ賞はACM(全米コンピュータ学会)で二番目に名誉ある賞であり、CG業界ではノーベル賞級の貢献をしたと認められたことになる。これより上はチューリング賞*1しかなく、日本人受賞者はまだ一人も居ない。つまり名実ともに日本のトップ研究者が西田先生だったのだ。



 そんなトップランナーの語る最終講義は、西田先生によるコンピュータグラフィックス研究の歴史を振り返り、そして最後に次世代の研究者へとバトンを渡すメッセージを語るという感動的な内容だった。

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 CGの研究は、一般にイメージされるように、単に映画やゲームなどで用いられている技術だけではない。

 個人用コンピュータ(パーソナルコンピュータ)という概念そのものが、CG研究のプロセスに登場したのだ。

 iPhoneもWindowsも、CG研究者の成果を単に商業化したに過ぎない。

 CGの開祖であるアイヴァン・サザーランドの研究室の出身者から産まれた企業は、Pixar、AdobeNetscape(Mozzila)、SGIなど、いまや世界の最先端をリードする企業群であり、コンピュータそのものの発展の歴史とCGの歴史はかなり重なっている。


 そうしたなかで、西田先生が力強く語る主張は次のようなものだった

真理の探求のみが研究ではなく、日常の生活を豊かにするのもまた立派な研究である。抵抗や批判のあるなかの研究こそが未来の研究である


 ということ。

 CGの研究を始めた当初は、日本に学会もなく、コンピュータで絵を描くとはなにごとかと批判の嵐にさらされながらも、研究テーマを偽装してまで研究を続けた。


 15年もの間、地方の大学で冷や飯を食わされながらも着々とSIGGRAPHに論文を提出し、成果をだしつづけても、日本の学会からは認められないという日々が続いたある日、突然、東大からお呼びがかかり、東大教授になったというエピソードは、何度聞いても勇気づけられる。

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 祝賀会にも数多くの人々がつめかけ、西田先生の趣味だという、ジャズピアノ演奏で大いに盛り上がった。


 西田先生は明後日からバルセロナの学会での発表。3月も海外講演を多数控えているという多忙の身である。


 東大の新しいルールで、教授が定年退職すると研究室は解散になってしまう。西田先生もまだまだお元気で、一線の研究者として活躍できる(サザーランドは80歳の今でも現役の研究者として教鞭をとっている)というのに、日本の国立大学のルールというのは硬直した面がある。


 ギリギリまで一線の研究者で居続けるという、先生の強い意志を感じる。

 そして研究者の頂点にまで上り詰めた一人の男が、次なる人生へ踏み出した。


 偉大なるコンピュータ・カウボーイに乾杯


CG界の巨匠、西田教授による小柴ホールでの最終講義つぶやきまとめ #西田教授最終講義 - Togetterまとめ

http://togetter.com/li/456356

*1チューリング賞は、アラン・ケイですら2003年まで受賞できなかった。ケイが最初に注目されたのは1970年代と考えれば相当な時間を要したことになる