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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2013-05-09

なぜ、ベンチャー企業だけが「新しいコンピュータ」をつくることができるのか 12:42

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 いやー、発言に気をつけなきゃいけないな。



 やはり何度もiPhoneがドコモから出る、と繰り返し報じた(そして出ない)メディアだけあって、刺激的なところだけを抜き出してくれるのでもの凄く誤解を産みそうなのでどういう内容なのか僕から説明しておきますね(これ、しかも読もうと思ったら会員にならなきゃならないしね)。



 まず、「Dynabookを超えるコンピュータを作れるのは僕たちだけ」という部分。要約しすぎると意味が変わる典型例というか、こりゃ石原元都知事も失言で叩かれるわけだ。マスコミの人と話をするときはやっぱりよほど気を付けないとオモシロおかしく変えられちゃう、ということをいまさら思い知りました(しかもITProって僕も何回か取材受けたり中の人と仲良かったりしてたのでどちらかというと身内だと思っていただけにショックです)。


 この発言、聞き方によってはすごい偉そうだよね。お前は何様なんだと。これは語弊があるので、説明させてください。


 たしかこの発言はこんなやりとりで産まれました。


日経「まず、なぜソフトウェア企業である御社が、ハードウェア事業に参入することにしたのか、そのあたりを教えて下さい」


清水「ほんとうはハードウェアを作る気なんかぜんぜんなかったんですよ。そりゃ、いつかは自分のハードを作りたいっていう夢は夢として、コンピュータに関わるエンジニアなら誰でも持っていると思うんです。けど、現実ってそんなに甘くないじゃないですか。だから僕も最初は、アプリを作っていたわけです」


日経「なるほど。ではどうしてハードウェアを作ることになったんですか?」


清水「メーカーさんとか、キャリアさんとかと、enchantMOONのもとになるアイデアについてはもう何年も一緒にやってきてるんです。あるときは、ある会社さんの中に専用のプロジェクトルームが設けられて、毎日10時間以上会議してたこともありました。そこで話されたアイデアのうちいくつかはenchantMOONにも大きな影響を与えています。また別の会社さんとも、本当に長い時間をかけて、いろいろと新しい試みをしようとやっていたんです。ところがね、そのどれもものにならなかったんですよ」



日経「それは日本の大企業の抱える問題みたいなものですか?」


清水「ひとつはそうでしょうね。だって考えてもみてください。日本の大メーカーの社長って、iPhoneなんか日本に来るまで見たことも聞いたこともない人ばかりだったんじゃないですか。実際、当時僕のところにiPhoneについて教えてくれといろんなメーカーの偉い人が来ましたけど、聞きたいことって"iPhoneは売れない"っていう言葉だけなんです。でも売れるかどうかわからない、としか答えられなかった。ただ、素晴らしいものですよ、と言ったんです。すると、"いや、しかしスペックでみればハーフVGAだし、カメラの画素数も液晶の画素数もうちのケータイの方がいいはずだ。だからiPhoneなんか売れるはずないですよね?"と聞いて来るんです。いや、そうじゃないよ、と何回言っても聞く耳を持ってくれなくて、僕もなんのために彼らを安心させるためだけの話に呼び出されたかわからないんですよ」


日経「でもiPhoneは売れました」


清水「ですよね。当時、それを理解してたのは、孫さんだけだったんです。だから彼らはかなり厳しい条件を提示されたにも関わらず、それを飲んだ。結果的にそれが今の勝利に繋がっているわけですよ」


日経「ソフトバンクさんでこうしたハードを出すという話にはならなかった?」


清水「ならないですよ。僕たちは当然、ソフトバンクさんも含めて、三つのキャリアさん全てと取引があります。その全ての人たちと、"こういうものが作りたい"という話をしたことはあります。現場では凄く盛り上がる。毎日のように何時間も夢中になって会議していた時期もありました。けどね、そういうのってすぐ潰されちゃうんですよ」


日経「どうして潰されちゃうんですか?」


清水「個別の事情はよくわかりませんが、想像することはできますよね。そもそも新しいハードを作って、それが数千台だか売れたって、ウン兆円の売上げ規模の会社からしてみたら、誤差みたいなもんです。数億から、せいぜい大成功しても数十億。そしたら商売としてのうま味は全くないですよね?しかも失敗する確率の方が高い。だからWindowsマシンとかAndroid端末とかを素直に製造するほうがずっと安全です。また、そうしたリスクを取りたくない人が一人でも経営層に居ると、反対されるんです。大企業の経営者って、要はみんなサラリーマンだから、大きな失敗をしなければドカンと退職金貰えて、豪邸のローンを返せるんです。けど、もししくじったら、経営責任を問われて給料も退職金も返上しなきゃなんない。現場から上がって来たアイデアなんて、経営者にしてみれば、他人の夢ですよ。他人の夢のためになんで自分の身を危険に晒さなきゃならないんですか。だから社長のところまで話が行く前に、握りつぶされるんです。あるときなんかは、社長まで話が行って、号令一下、さあやるぞ、となってプロジェクトが始まったのに、他部署からの妨害でなくなったこともありましたしね。とにかく大企業には政治が多すぎるんです」


日経「能力的にも足りない?みんなが事なかれ主義ということですか?」


清水「そんな馬鹿な。大企業にだって、情熱を持ってる人、能力を持っている人、優秀な人はほんとうに凄く沢山いますよ。その人たちだって本当は自分たちで新しいことをやりたい。新しいものを作りたい、夢を見たいんです。そういう友人はメーカーにもキャリアにも沢山います。彼らは陰日向に僕たちを掩護射撃してくれてる。でも、本当に新しいことをするには、彼らが経営層に登り詰めるまで待っていなきゃダメかもしれない。僕もいつまで生きてるかわからないから、生きてるうちにやりたいことはやっておきたいんです。そういう仲間の何人かは、僕が直接声をかけて、いまはUEIに居ますよ。だから中の人は大企業に居た人です。そのなかでもとびきり優秀な人間だけです。ある社員が転職してきたときは、先方の会社・・・何万人も社員がいる会社ですが・・・たった一人の人間がベンチャー企業に転職しただけで、大きなざわめきがあったそうです。それから僕は、その会社の知人の管理職に呼び出されて、怒られるかと思ったら"どうして僕を誘ってくれないんだ"と愚痴を言われました。けど、本当はわかってる。彼は出世頭で、僕たちの味方がそういう大きな会社で出世してくれたほうがいいんです。長期的に見れば。けど、みんな本当は、夢を追いかけたい気持ちをもっている。けど、今の組織の仕組みのなかじゃ、できることがあまりにも少ないんです」



日経「そのうえで、他のベンチャー企業でハードウェアを作ろうという会社はなかなか現れませんね」


清水「そんなことないですよ。元パナソニックの岩佐さんが立ち上げたCEREVOとか、ほかにもいくつかあります。ただ、コンピュータをまるごと作る、再定義する、となるとこれはもっと別の発想が必要になります。いま、ぜんぶアラン・ケイのDynabookでしょ?1970年の世界観ですよ。それがやっと実現された。ところがDynabook以降の世界というのは、Dynabookにいかに近づけるか、という世界になりました。そこでイマジネーションの進化が完全に止まっているんです。Dynabookっていうのはそもそもパーソナルコンピュータというのが"仮に"実現するとしたら、どんな形が理想なのかという視点で考えられたものです。当時はコンピュータというのは大勢の人間が一台のコンピュータを共有する、いわゆるメインフレームモデルで、一人一台のコンピュータの時代なんていうのは想像することすら難しかった。そのジャンプを敢えてやったのがDynabookなんです。だからアラン・ケイが"パーソナルコンピュータの父"と呼ばれているわけですよ」


日経「それがiPadで実現した」


清水「そうではありません。アラン・ケイ自身は"iPadはDynabookではない"と明言しています。何度もね。比較されることを非常に怒ります。なぜか。プログラミングができないからです。プログラミングができないものは、ケイによれば"コンピュータではない"。与えられたコンテンツしか見れないものは、本当の意味でのコンピュータとは呼べないんです。コンピュータは、人類の進歩を後押しするためのツールであって、コンテンツを供給して堕落させるための道具ではない。iPadは、Dynabookもどきなんです。Dynabookではない。そしてDynabookを超えた先というのは、ユビキタスです。この概念も、Dynabookと同じく、ゼロックスのPARCで産まれました。1980年代、マークワイザーが、パーソナルコンピュータが実現したその先、複数人で一台を扱うメインフレームから、一人一台のパーソナルコンピュータ、そして一人が複数台、無数の偏在するコンピュータに囲まれるユビキタスコンピューティングという概念を発明するのです」


日経「ユビキタスはパーソナルコンピュータ、つまりDynabookを発展させた概念だったんですね」


清水「そうです。話が逸れましたが、そういう背景を持って、ユビキタス時代の新しいコンピュータを作ろう、新しいコンピューティングをやってみようと思っても、今度は事業として成り立たないケースがあまりにも多いんです。わからないじゃないですか。事業としてどうなるのか。だから大企業ではまず難しくて、次に大学の研究室ですが、僕は大学の研究室というのはけっこういろいろ見て回ったりするのが好きなんですよ。産総研やATRなんかもときどき遊びに行きます。けど、大学の研究室では、新しいコンピュータの研究というのは、よほどのことがないと産まれないんです。というか製品になるずっと以前のものなんです。手書きのコンピュータ、なんてのは別に新しくない。新規性がないと研究として認められず、学会に論文を提出できないので、その研究がやりたくても誰もやらせてもらえないんです。仮にものすごく新しいアイデア、たとえばイリノイ大学のEVLでは非常に興味深いコンピュータを作っていますが、ああいうものが商品になるまでにはものすごく沢山のハードルがあります。Appleにも居た増井さんは数年前から慶応義塾大学の教授になったのですが、学会用の論文を書くのが面倒くさいとぼやいていました。本当にやりたい研究ができないというのは今の学会全体の問題です。重箱の隅をつつくようなスキマを探さないと研究にならない。ちょっとでも過去に類似例があると新規性がないと看做される。査読委員会が理解できないとどれだけ優れた論文でも却下される。などなど。これもまた巨大組織が抱える問題に近いかもしれませんが」


日経「たとえばソニーのCSLなんかはどうでしょうか」


清水「ソニーのCSLは、増井さんや名大の長尾先生、東大の暦本先生など、僕の知人のうち何人かが所属していました。ただ、どなたも仰るのは、あくまで研究と事業が切り離されていると。ちゃんと事業化された研究は暦本先生のPlace Engineとサイバーコードくらいじゃないかな。要素技術なので製品の組込みが容易なものから入れてるんです。あそこから新しいコンピュータが産まれる可能性は高いと思いますが、産まれてないですよね。結局、CSLも大学と同じで研究者の評価が学会発表ベースだったりするのではないでしょうか。また、そもそも大学の研究者出身の人が多いので、なにかDNA的に"これはやっちゃいかん"と刷り込まれてるような気がしますね。"これは研究者として道から外れてしまう"と。外から見た感想ですが」

 

日経「だからベンチャー企業だと。でも他のベンチャー企業ではなぜできないのでしょうか」


清水「できないのではなくて、やりたがらないんです。だって儲からないでしょう。儲からないことにお金を出す投資家は居ないですよ。僕がハードをやるって最初から言ってたらJAFCOは投資してくれなかったでしょうね。僕はJAFCOにはソーシャルゲームをやると言ったんです。ソーシャルゲームで儲けるから、儲けたお金でソーシャルゲームを作るんじゃなくて、enchant.jsみたいなオープンソースソフトやハードを作るんだと。あくまでもハードはオマケ。JAFCOは上場してくれればネタはなんでもいいわけですから、ソーシャルゲームやるなら即投資しようと、本当にすぐに5億円振り込んでくれたんです。ところがあとで解ったのは、自分のハードウェアを作ろうと思ったら、必要なのは2億円くらいだった。ついでに、ソーシャルゲームってそんなにお金かけるところがないので、2億も開発費はいらないと現場に言われた。実際にはもっと掛かっちゃったけど、とにかくお金があった。だから予定を繰り上げて今年ハードを作るって取締役会で言ったときは、JAFCOの担当者は青ざめてました」


日経「怒りださなかったんですか?」


清水「投資委員会にどう説明するんだ、と言われたので、これは研究開発費ですと言いました。我々がより優れたソフトウェアを創りだすためには、ハードウェアからまるごと作れるのだということをクライアントに証明する必要がある。これはそのデモンストレーションなのだと。ソーシャルゲームにあと2億突っ込んでも、当たるかどうかわからない。だからポートフォリオとしてこういう戦略が必要なんだと説明したんです。でもこれは僕らが既に上場してたらむしろできなかったと思います。既に上場してたら株主にしてみりゃなんなんだこいつらはという感じでしょうから。普段無茶な計画に金を突っ込んでるJAFCOですら青ざめる。億単位の増資直後で上場前、かつ社長がちょっと頭おかしい、そういう条件を全部あわせると、いまのところ消去法ですがうちの会社しかそんなバカなことできないでしょう?」


日経「確かに上場していて、突然ハードウェア事業に進出して失敗したら、すぐに社長の首が飛びますね」


清水「そうでしょう。だからできないんですよ。幸いなことに、うちの会社はそれまでメーカーさんやキャリアさんと一緒に新しいコンピュータを作ろうとして試作を繰り返して来たのでOSに関する知識や経験もあるし、基礎的な技術の研究も全部終わってる。ミドルウェアも社内にあるし、メーカーで働いてた人間の人脈もある。だからメーカーやキャリアからプログラマーを引き抜いて来て、本当に"できる人"だけを集めてやってやろうと。これには情熱と資金、人脈、それとなにより大事なのは社長がバカだってこと。そういう条件が全部揃う必要があるんです。これはドレイクの方程式みたいなものですよ。全てのパラメータがちゃんと揃わないと、地球外生命は存在できないのと同じでね。いまのところ、それが全部揃ってるのはうちだけじゃないかな。だからやってみようと思ったんです。ハードウェア事業は、当たればでかいじゃないですか。当たらせるのは天文学的に難しいとしても、今、とにかくなんでもいいから、"わけがわかんないけど触ってみたい"と思う機械ってあんまりないわけですよ。そういうものが好きな人は、僕の予想では日本には10万人くらいは居るはずです。初代のW-ZERO3を買っちゃうような人がね。その10%の人たちがいつも製品を買ってくれたら、僕らとしては充分なんです。そしてそのうち、100万人の人が買ってくれるようなものを作ってみたいですけどね」


日経「なるほど。つまり現時点ではDynabookを超えるコンピュータは御社にしか作れないということですね」


清水「そう言えなくもないでしょうね。可能性の問題としてですね」

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煽り記事にしても恐ろしいことを書くよなあ

ただ、「enchantMOONがDynabookを超えてる」とは一言も言ってないのに、可能性だけで断言してるって恐ろしいです。

超えてませんよ。とりあえずいまのところは(ただ、時代が違うので暫定DynabookであるAltoよりは多少はマシかもしれないけど。あれに比べればずっと小さいし(当たり前だが))。


ただ、コンセプトは凄くいいよ、とケイ先生に褒めていただいたのは嘘じゃないですが