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2013-12-15

ブレインストーミングが陥る罠 失敗するブレストの7パターン 23:05

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 ブレインストーミングネタが続きますが、ブレインストーミングが失敗する例も知りたいという要望があったので、考えてみることにしました。


 というか、世の中のほとんどのブレインストーミングって、失敗してるんですよ。


 だから成功しなかった企画は全て失敗したブレインストーミングから生まれでていると言うことが出来るわけです。そういうものは多くの場合、世に出ません。ですから「具体的にアレがソレ」と挙げること自体が難しいのですが、非常によくありがちなパターンを挙げておきます。


パターン1. 参加者全員の視野が狭いか、同じようなプロファイルの参加者ばかりで視野が狭くなる

 これは有りすぎてどうしようもないのですが、参加者全員の視野が狭いと、ブレインストーミングそのものが無意味になってしまいます。


 しかし、同じ会社、同じ部署の人間だけとブレストをすると、本人達が自覚している以上に視野が狭いものになりがちです。同じものを見て同じような生活リズムで生活してるわけですから当たり前です。


 ブレストの目的は様々ですが、企業で行われるブレストの目的の多くはマーケティングです。

 人々の内なる欲望とこちらのできる仕事の強みの接点を探す試みがブレストですから、視野の狭い参加者とブレストを繰り返すのは完全に時間の無駄であるばかりか、間違った方向に認識を強化するという悪影響が強すぎます。


 たとえば私が本格的にブレストを行う時は、できるだけ他部署の人間や大学生のアルバイト、許されるなら業界外の単なる友人や友人の友人を呼ぶなど、とにかくメンバーのダイバシティを最優先にします。多様なものの見方がブレストには不可欠なのです。


パターン2. ブレスト参加者の力関係に差がありすぎる

 基本的に偉い人の言ったことに否定的な意見を言うのは勇気が必要ですし、言われた偉い方の人も、ブレストなんだから、と自分に言い聞かせつつも意見を否定されれば傷つきますし、いい気持ちはしません。


 ですから僕は偉い人はブレストに参加しない、というルールを入れた方がいいと思います。それか、ブレストをするなら別の会社の偉い人を呼ぶとか、偉い人だけでやるとか、そういうふうにしたほうがフラットな意見交換ができるはずです。


 特に欧米型の、意見の対立と人格の対立は違う、ということが徹底されているわけでもない日本の会社では、偉い人がブレストにいることそのものがブレストの価値を下げる危険性があります。


 特に企画を立てる人よりも偉い人がブレストに同席すると、結局ブレストとは、偉い人が何を喜び、何を否定するのか観察するインタビューの会のようになってしまいがちです。


 これは公平な意見を出し合うブレストでは不向きな構造です。

 ですから僕は基本的に現場が企画をまとめるブレストには参加しませんし、自分が参加する場合は自分は意見を出さず、聞くことに徹し、最終的には自分が企画をまとめることにしています。


パターン3. 成功体験が邪魔をする


 ありがちなのは、既に成功したプロジェクトAをさらに発展させるための会議(バージョンアップに関する会議)や、プロジェクトAから派生したプロジェクトA'を作ろうという会議。


 こういう会議は、プロジェクトAの成功体験を持ったメンバーが多く参加する場合があり、その場合、まあ基本的にろくなことになりません。


 というのは、プロジェクトAが成功した要因の大半は、運だからです。

 世の中のプロジェクトが成功する理由の大半は、運です。重要なのは運を掴むことです。この「運」というのは環境や時流といった時代背景です。単なる幸運ではなく、計画的に待ち望んだタイミングがたまたまやってきたということです。あるプロジェクトが世に出る前には、それが欲せられる環境があってこそ話題になったりするのですが、一度成功したプロジェクトの派生商品が大きな話題になることはまずあり得ません。


 本当にプロジェクトA2を成功させたければ、運が向いてくるまで、つまり時流がきちんとこちらの意図する流れになるまで待つべきですが、なまじ一度でも成功してしまうと、今度はプロジェクトと関係のない外野が、やれ続編をつくれだとか機能を拡張しろだとか無責任な横槍を入れて来て、本人達も一体何がどうなっているのかわからないままとりあえず機能を追加するとしたらどんなものかねえ、というプロジェクトAありきの発想から逃れることが出来なくなります。


 続編がだらだら続く映画がなにかイマイチな場合があるのも、これと同じような要因に依る者と思われます。


 ブレインストーミングをするときに、プロジェクトAに何を足したらもっと良くなるか考えよう、という考え方をするのは完全に無意味です。それは作り手側の勝手な妄想であり、結果として作りたいものを優先的に作ってしまうことになります。そうではなくて、プロジェクトAを支持した顧客は、次に何を求めているか、ということを考えなくてはならないのです。


 たとえばファイナルファンタジーシリーズやドラゴンクエストシリーズが、フォーマットは前作を踏襲しながらも毎回まるで違うものをゼロから構築してきた、というのはそういうことです。単に前作のストーリーの続編を作るのではなく、前作が出た後、という市場において、次に求められるのはどのようなゲームであるか、ということをゼロベースで構築してきたわけです。それとは別に変わるべきでない部分はシステムとして残してあります。これはシリーズの文法となって受け継がれるわけです。


パターン4. ブレストで合意形成をしようとする

 ブレストで結論めいたものを求めようとしたり、ブレストで出たアイデアに縛られたりするのもよくありがちな失敗です。


 ブレストの目的はあくまでも人々の顕在化されていない内なる欲望を見つけ出すことですから、そこでひとつも出ていないアイデアが別に見つかれば、それを結論にしたってかまわないのです。


 重要なのは、一度発想を広げておくこと。全く別の視点から出て来たアイデアに自信が有ればそのままやればいいですし、自信がなければメンバーを変えてもう一回ブレストしてもいいはずです。


 また、ブレストをまとめて企画書を書く人間の立場が弱いと、偉い人の法則(パターン2)にハマってしまい、自分の考えではなく偉い人の顔色を伺うことにばかりエネルギーが浪費されることになります。


 合意形成や偉い人インタビューの場としてブレストは便利ですから、偉い人の言質をとれると思ってしまう人が多いのですが、偉い人はブレストで自分が何を言ったかなんて全く覚えていません。ですから言質をとることもできませんし、合意形成されたと思うのは幻想です。


 ブレストはあくまでも調査手段のひとつであって、結論は企画者が自分で導きださなくてはなりません。それが結果としてブレストと一見して無関係なものであっても、矛盾していなければ問題ないのです。


 無関係かつ矛盾しないというのはこういうことです。

 たとえばブレストで「通勤時間が退屈だ」「地下鉄は電波が途切れてゲームが遊び辛い」「ゲームは飽きるし時間の無駄という気がする」「ゲームを遊んでる画面を満員電車で見られるのは恥ずかしい」「ゲームではなく新聞を読ませるサービスをやったらいいんじゃないか」みたいな意見が出たとします。


 最後の部分が結論めいているのでこの結論にすがりたくなるのですが、本質的な欲望は最初に「通勤時間が退屈」ということが全てで、他の部分全てそれに対する手段です。


 こういうブレスト結果をふまえた上で、「電車内にイヤホンで聞ける英語学習教材」を提案しても良いのです。これは、結論は無関係ですが、どの条件とも矛盾していません。


 むしろブレストで出るアイデアというのはその場の思いつきですから、それに頼り切ると後で慎重に考えてみたときに思わぬ落とし穴に落ちる可能性もあります。


パターン5. 質問(テーマ設定)の仕方が間違っている

 ふつう、ブレストでは最初に「○○について不便と思うことは?」などのテーマを設定し、それについてみんなで討論するという形をとります。

 

 ところが、この質問がヘタクソだと全く無意味なブレストになってしまいます。

 ヘタクソな質問とは、たいてい、ストレート過ぎます。


 たとえば、「○○に必要だと思う新機能は?」という、企画者が知りたいことをストレートに聞いてしまうことが圧倒的に多いのです。


 そんな質問に的確に答えることが出来るのならそもそも企画者は要りません。企画者はもっと本質的な質問を投げかけなくてはならないのです。


 たとえば、製品Aの改良に関するブレストであれば、最初に聞くべき質問は、「製品Aのユーザが気に入っている部分と、そうでない部分はどこだと思うか?」というような質問です。


 誰が聞いても「そんなの当たり前じゃないか」と思うような質問を最初に投げかけるのです。

 しかしこの当たり前の質問をすることによって、むしろ当たり前のことを疑うように頭が切り替わるのです。


 たとえば「ドラクエIのユーザーはどこを気に入ってくれたか?」という質問をしたとしましょう。「壮大な世界観」「本格的なRPG」「冒険している感じ」「鳥山さんのキャラ」という答えが返ってくるとします。


 では「どこが不満に思ったか?」という質問を投げかけるとすると、「本格的なRPGのように見えるのに、パーティが組めない」「もっと広いマップで遊びたい」「ストーリーが単純なのでもっと奥深いストーリーが楽しみたい」「もっと長く遊びたい」「数字が変化するだけだからアクションゲームに比べてわかりにくい」という反応がかえってくるかもしれません。


 そして、この聞き方をした場合、返ってくる答えは、最初の誤った質問、「製品Aに必要な新機能は何か?」で本当に欲しかった答え、つまりドラクエIはどのように発展して行くべきか、という答えと同じなのです。


 しかし、もしも最初に「ドラクエIに必要な新機能はなにか?」と聞いたとしたら、「方位を指定しなくても会話できるようしてほしい」「ふっかつの呪文を覚えるのが面倒くさい」といった、細かい改良の方に目がいくはずです。


 満足してるところと不満に思ってるところを聞いた結果でてくるアイデアは、ドラクエIIでほとんど解消されているもので、「必要な新機能はなにか?」という質問に対する答えは、ドラクエIをスーファミやゲームボーイアドバンス用にリメイクしたときに改善されているポイントだということに気づいたでしょうか?


 つまり、質問の仕方によって、人の頭の働き方は大きく異なるのです。


パターン6. 事前準備が足りない

 身も蓋もない話ですが、結局のところまとめ役(ファシリテーター)が未熟だと、どれだけブレストを重ねても無意味です。


 アイデアというのは、ただ発言するよりも適切なものを選び取るほうがずっと難しく、企画者(マーケッター)の能力というのはいかにしてアイデアを考えだすかではなく、いかにしてアイデアを選び取るか、ということによって決まります。


 事前に入念な準備や思索を繰り返した上でブレストを行わないと、他人の意見に惑わされて結局正しい質問(テーマ設定)もできないし、出て来た結果に盲従するしかなくなってしまいます。


 適切なアイデアを選び取るためには、まずブレストを行う前に、まとめ役となるであろう人が、事前に相当な準備を行っておかなければなりません。

 この場合の準備とは、(1)企画周辺の動向調査(競争相手はいるか、市場は存在しているか)、(2)敢えて自分たち(自社)がこの企画を行う意義づけ(自社の強みを活かせてるか、弱みをどうカバーするか)、(3)企画を実現するためのベースとなりそうな技術調査(実現するための技術は既に存在するか、存在していなければ作ることが出来そうか)といったことです。


 特に(3)技術調査は、できればブレストに入る前に技術的な問題をクリアできるかどうかプロトタイプくらいまでは作ってあるのが理想です。たとえば、バンダイがセガサターン用に発売したゲーム「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」は、もともと爽快感が低かったロボットゲームの操作性を見直し、壮快なロボットゲームが作れないかということをプログラマとグラフィッカーが独自に試作したプロトタイプが先にあり、それをどのように発展させたら製品としてゲーム化できるか初めて考えられました。このシリーズは異例の成功を修めたと記憶しています。僕は当時学生アルバイトでPS用逆襲のシャアの手伝いをしていたので、ゲームの作り方のあまりの違いに愕然としたのを良く覚えています(この開発プロセス自体はゲーム雑誌にも載っている公知情報です)。


 技術的な問題の調査を疎かにしたままブレストに突入すると、間違った方向(実現不可能な方向)に議論が盛り上がってしまったときにストップをかける人がいなくなってしまいます。


 ここを疎かにして失敗したプロジェクト(いまや失敗と言っていいと思いますが)が、セカイカメラです。

 セカイカメラは実現可能性の検証を疎かにしたまま、アイデアを出し、現実には実現不可能なデモンストレーションビデオを先に作り、公開してしまったことで私を含む既存の開発者たちから大ブーイングを浴びました。


 セカイカメラのコンセプト発表から送れること約一年後、iPhoneがコンパスをサポートしたからこそ結果的にコンセプトが実現できるようになりましたが、あのビデオの時点では全く実現できないベイパーウェアの状態で資金調達をしていたので、私は頓知・の井口社長(当時)と日経BPのイベントに同席するのを拒否したことがあるくらいです。取り込み詐欺事件に発展してもおかしくないくらい危ない橋を渡ったと思います。


 素晴らしいコンセプトだとは思いますが、その時点の技術で実現できないことが解っているものを見せて資金調達するのは詐欺行為です。これが許されるなら、モブデムも許されることになってしまいます。


 つまり、技術に関係したものを企画する場合は、先に技術検証を行う必要があります。ブレストに先立つことができなかったとしても、外に向けて発表する前には実現可能性を検証し、できないものを発表しないべきだと思います。井口さんがその後始めたテレパシープロジェクトではコンセプトビデオを先に発表しないのは、そのことの反省があるのではないかと思っています。


パターン7. ファシリテーターが将来のことを考えていない

 

 基本的にサラリーマンが企画を立てる時は、先のことを考えないことが多いような気がします。


 いついつまでに企画を立てろと言われたので立てます、立てなければなりません、というわけなのですが、それは単なる仕事上の締め切りであって、製品が一旦世に出てしまったら、基本的にはその製品は歴史上のどこかの時点から存在し続けることになってしまいます。


 ところが目先の企画をまとめたいという気持ちが焦りを呼び、姑息で即物的な企画を頭の中に想定したままブレストを開催してしまうファシリテーターがあまりにも多いような気がします。


 こういうとき、ファシリテーターの頭の中にあるのは開発の締め切りと、予算です。

 この二つは、ビジネスとして考えれば当然、必要な制約ですが、ブレストの時にそんなことを考えていたらアイデアを膨らませるときに躊躇が生まれます。


 たとえばAというアイデアが出て、それにのっかった荒唐無稽な発展系のAAというアイデアが出て来たときに、思わず「そりゃいいけど予算と期間が・・・」と頭の中で反射的に考えてしまい、とっさに話題を変えたり、自分の頭の中にいいアイデアが浮かんでもぐっと飲み込んでしまったりします。


 こうすると、結局予算と期間という制約によってわざわざ視野を狭くしてしまっていることになります。


 私がお勧めするやりかたは、とにかく予算や期間のことは忘れて、とにかく、とことんまで考えてみるのがいいと思います。たとえば、その製品は1年後にどうなってるのか、5年後には?10年後には?100年後には?1000年後には?そういうタイムスケールを意図的に導入し、想像の幅を広げるのです。


 そうして一度発想を広げてしまってから、俯瞰しつつ現代までさかのぼると、予算的に無理と思われたことも、実は考え方次第で実現ができることが解ってくる場合もあります。


 または、現時点では正しい価値を推し量ることが難しいアイデアも、5年後、10年後を考えると必須と言えるものであることが解ったりします。場合によっては、それがその企画の決定的なコアコンピタンスを形成する可能性さえもあります。


 絶頂期の小室哲哉が残した名言に、「失敗した後のことなんか心配しても仕方がない。成功した後のことを心配しておいたほうがいいよ」というものがあるのですが、意外と企画を立てる人はその企画が大成功した後のことを考えていないことが多いような気がします。


 大成功してしまったときに、そのとき、あとから入れることが出来るアイデアと、現時点でフィーチャーしておかなければならないアイデアというものを予めわかっておかないと、いざ成功への道のりを上り始めてしまったときに、慌てふためくことになります。


まとめ

 いくつか具体的に出せる例もできるだけ交えながらブレストとマーケティングの失敗について紹介しました。私自身もいくつも失敗しているのですが、クライアントさんありきの仕事なので、なかなか具体的なものを書くことが難しく(クレームになってしまいます)、こんな感じの書き方になってしまいましたが、許して下さい。


 みなさんもブレストを単なる楽しい雑談の場で終わらせず、本当に仕事を前進させ人類を進歩させるためのツールとして適切に運用していきましょう。