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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2016-05-10

量子物理学者ロジャー・ペンローズをネタにした本が面白すぎる 07:41

 ロジャー・ペンローズという物理学者がいる。


 まあこの人は物理学の歴史に燦然と輝く偉大な業績をいくつも持っている人なんだけど、ビックリすることにまだ生きてて現役で論文を書いてる。


 まあ書いてる論文が「生物の脳を形成するニューロン量子力学的な観測を繰り返しており、素粒子には意識の元となる未知な属性が付随していて、生物が死ぬと意識が空間にアップロードされ、しばらくその空間を彷徨う」という、「おいマジか」と言いたくなるような内容なんだけど、詳しくは量子脳理論や先日紹介したWiredのDeath2.0特集をご覧いただきたい。


 ただ、最近の量子力学的宇宙論は、僕らが子供の頃はどちらかというと気持ち悪い理屈に思えた。

 

 今でも覚えているのはNHKのアインシュタイン・ロマンという番組で、アインシュタインは最後まで「神はサイコロを振らない」と主張し続けるが、アインシュタインが反証として掲げるパラドックスが次々と実験によって確認されてしまうという下りで、今や物理学ではアインシュタインの信条に反して「神がサイコロを振る」というのが常識的かつ支配的な考え方になっている。


 量子論のなにが凄いのか。なにが常識と異なっているのか、簡単にわかるビデオがある。

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 これ、わずか5分のビデオなので知らない人は是非見て欲しい。


 言葉で説明するとややこしくなってしまうが、量子をボールに例えるとすると、2つのスリットがある板に向かってボールを1つずつ投げると当然、ボールは2つのスリットのどちらかを通って奥の壁に到達する。このボールは水風船みたいなもので、中にインクが入っていて、スリットを通って奥の壁に激突したら色が付くことにしよう


 ボールを沢山投げると、スリットが2つあるとすれば奥の壁に二本の筋が刻まれるはずである。


 実際に人間の大きさの世界で実験をすれば、これはこの通りになる。


 ところが量子の世界では、事情が異なる。

 量子の世界といっても、光子や電子を発射するだけなので、原理としてはデジカメと同じだ。デジカメだって、レンズを通って入ってきた光子をCMOSセンサーで検出しているだけなんだから。


 実際に光子または電子を二重スリットに向かって発射すると、二本の線にはならずに、波を送ったような干渉縞が記録される。まるで量子がどこにいけばいいのか迷っているかのようだ。


 この実験は1805年に英国王立研究所で行われたが、その時は「光は粒子と波の性質を併せ持つソリトンである」と考えられた。


 アインシュタインの死後、1961年にドイツでこの実験をさらに詳細にする実験が行われた。


 ライトのような装置で大量の光子を連続的に送るから、光子同士が干渉を起こして縞模様を形成している可能性があるので、今度は光子を厳密に1つずつ飛ばすことにしたのだ。

 すると、それでも干渉縞が発生する。

 

 わけがわからないと思った科学者達は、それでは厳密に一つしか発射していなかった光子は、2つのスリットのどちらを通ったのか計測しようと、スリット側にセンサーを取り付けた。光子がどちらを通ったか観測しようとしたのだ。


 するとなにが起きたのか。

 

 なんと、スリットを観察した途端、現れたのは干渉縞ではなく、二本の線になったのである。


 ポイントは、観測する場所以外は干渉縞ができる実験と全く同じ実験だったことだ。


 これは一体どういうことなのだろうか。

 その結果、科学者達はある結論に達した。


 量子は観測するまでは確率波として空間を移動し、観測した瞬間に確率が確定するという性質を持っている、ということだ。


 これを量子重ねあわせ(スーパーポジション)と呼ぶ。


 この原理は、量子と無縁の生活を送っている人には果てしなく詭弁に聞こえるが、実際にこの原理を利用して量子暗号や量子テレポーテーション、そして量子コンピュータといった工学的に応用可能な成果が生まれている以上、この宇宙を構成する根本原理は、「誰かが観測するまで量子の状態は確定せず、幽霊のように無数の状態が重ね合わさっている」という単純な事実を認めなければならない。


 正直に言うと僕もこの直感に大きく反する理屈を受け入れられるようになったのはつい最近だ。もちろん僕は物理学の専門家ではないし、量子論で使う複雑な数式を理解しているわけではない。


 ただ実際に量子コンピュータを開発している人に会って話しを聞いたり、実際に量子テレポーテーション装置を見せてもらったりして、僕はいよいよ本格的に、この奇妙な説を受け入れなければならないと考えるようになった。


 しかも、興味深いのは量子は小さいサイズ、つまり光子や電子といったサイズではこういう確率的振る舞いをするのだが、大きいサイズ、つまり実物の野球のボールとかになるとこういう確率的振る舞いをしなくなるということだ。


 だからこそ人間の直感に反するのである。


 それがなぜなのかは、今のところ解明されていない。

 しかし、世の中の根本原理が確率波であるという衝撃的な事実は、それが仮説だった段階から、様々な科学者の想像力を刺激するには十分すぎるものだった。


 パラレルワールドや、意思説などが提唱され、宇宙は人間が考えていたよりもずっと複雑で、我々の知覚する4次元(三次元空間+時間)ではなくもっと沢山の次元によって成り立っているという説(10次元宇宙を扱う超ひも理論や11次元宇宙を提唱するM理論など)もある。また、全く逆に二次元に本質があり、四次元空間はホログラムのように浮かび上がっているのだという説(ホログラフィック仮説)もある。


 これが今の量子論、宇宙論の面白いところであり、想像力を膨らませるところでもあるんだけど、この世界に多大な貢献を果たしたのがペンローズというわけ。


 特にホーキングと一緒に取り組んだブラックホールの研究は面白い。


 アインシュタインが相対性理論を作った時に、どうしても宇宙には無限の圧力、無限の重力が働く特異点ができてしまうということが計算上予測されたが、これは当時の科学者達にしてみれば「計算式の上ではこうなるけど、現実にそんな無茶苦茶な場所があるわけがないだろう」と考えていたらしい。



 ところが現実の宇宙には必ず特異点ができる、ということをホーキングとペンローズは数学的に証明してしまった。


 それどころかペンローズは特異点を含むブラックホールには、事象の地平線と呼ばれる光さえも脱出できない領域があり、さらにその周囲にはエルゴ球と呼ばれる静止限界(あらゆる物質が止まって要らないほど時空が歪んだ状態)があると提唱した。


 つまり、ブラックホールというと一般的には入ったら出てこれない場所というイメージがあるが、実際には事象の地平線を超えなければ原理的には戻ってこれる。


 これを利用して、ロケットにゴミを満載して、ブラックホールに向かって飛ばす。ロケット自身はエルゴ球を利用して加速し、ゴミを事象の地平線の内側に捨てることでエネルギーを得られる(ブラックホールは質量が減る)という。


 要するにブラックホールを使って発電できるという途方も無いアイデアだ。

 このアイデアをペンローズ過程またはペンローズ機構(メカニズム)と呼ぶらしい。


 他にも、ペンローズの業績としてはスピン・ネットワークと時空全体を複素数で表し、量子論と相対論を統一的に扱うツイスター理論の提唱も重要だ。


 ただし、近代の物理学の知識というのは、もうとてつもなく混みいっていて難しい。

 ホーキングが書いた「ホーキング、宇宙を語る」は80年代のベストセラーだが、ペンローズの本はベストセラーになったとは言いがたい。要するに言ってることが難しいのだ。そのうえ「皇帝の新しい心」に関して言えば、Amazonでプレミアムがついて7000円を超える値段になってる(!!!)買えるか!


皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則

皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則


 ところが圧倒的に分かりやすい、ペンローズの本があった。


 東大物理学部卒の科学者であり、作家でもある竹内薫が、ペンローズの業績について誰にでもわかりやすく読めるよう書いた本なのだが、この本がめっぽう面白い。


 ペンローズについて書いた本なのにペンローズの話しがほとんど出てこない。


 それどころか途中、突然、著者の祖父が日本初の溶鉱炉を設計しただとか、それが疑獄事件に巻き込まれて偉大であったはずの業績が抹消されてしまったという一見本論に全く関係ない話しだとか、唐突に「玲子」という女性と著者を匂わせる「竹内」という男性が対話形式で話し始めたりとか、ブルーバックスがいくら新書でもやり過ぎだろうというほどのやりたい邦題だ。


 にも関わらず、ペンローズの難解な理論を複雑な数式を一切用いずに説明しきっているのは凄いとしか言いようが無い。


 内容的に長い長いブログのようも読めるが、このブログの読者なら平気だろう。

 あまりにも面白かったので、次に読むべきKindle本を探している人には強くおすすめしたい