Hatena::ブログ(Diary)

shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2016-07-28

元ケータイゲーム屋が思うポケモンGOとIngressのイノベーション 09:36

https://i.gyazo.com/6deb8e1c32254d9eb10d503c45ac741f.png

 いま、オレはビバリーヒルズの高級ブランド街、ロデオドライブのカフェでこの原稿を書いている。

 なんだろう、こういう書き出しをすると、敬愛する落合信彦先生っぽい文章になる気がする。だいたい、ビバリーヒルズ自体が高級住宅地なんだから、その中の高級ブランド街であるロデオドライブはどんだけ高級なんだという話なのだが、どのくらい高級かというと、ヴァレーパーキングが二時間まで無料である。


 この邪悪にして自由の国、アメリカくそったれ合衆国のルールその1、「駐車場が無料なのはド田舎かカネを大量に落とす場所だけ」ラスベガスのホテルがクソ安いのは、当然、カモからカジノでカネを巻き上げるためだ。


 さて、オレはこんなところにきて、ポケモンGoをやっている。

 アホなのか、と思うかもしれない。

 しかし、ビバリーヒルズの、それもロデオドライブである。

 ポケモンもおのずと高級ポケモンが出るんじゃないか。レアポケモンが出るんじゃないかと思っていたら、案の定、カビゴンをゲットした。


https://i.gyazo.com/8d4cdb55abb6bb8601d8bcd27a428579.png


 トム・クルーズニコラス・ケイジあたりも、このへんでポケモンをゲットしてるに違いないのだ。なにしろ連中ときたら、昼夜問わずロデオドライブで油をうるくらいしか楽しみがないらしいからな。


 だめだ。落合信彦先生風の文体は疲れる。

 そして落合信彦先生の文体からすると、落合陽一くんがあんなに善良なのが信じられない。

 どうやったらあんな子に育つのだ。実はマイホームパパなのか?落合信彦先生。


 ・・・ま、いいやそれは。



 いやー、それにしても、ですよ。


 ポケモンGo面白いわ。

 頑張ってるけど出張で飛行機に乗ったりしなきゃなんなくてまだやっとこレベル16。

 課金しまくりでジム戦でたまに勝てる、くらい。


 で、元々僕はケータイゲーム屋だった。

 あのころできることと出来ないことがあって、もちろんできることは少しずつ増えていったんだけど、それでも、やっぱりポケモンGoが全世界に旋風を巻き起こしているのは、その革命の黎明期を体験した人間として素直に嬉しい。


 そこで極めて個人的ではあるが、(かつて世界の最先端のモバイルゲームと言われた)日本のケータイゲーム屋としてポケモンGo(とIngress)の何が凄いと思ったのか、羨ましいのか、当時の状況と比較してまとめておきたい。



 僕が最初に位置情報にケアしたモバイルゲームを作ったのは、1999年のことだった。

 その頃、ドワンゴはまだ20人弱の小さな会社で、たかが数百万の開発費さえ清水の舞台から飛び降りるような気持ちで開発に着手した・・・らしい。その頃の僕はただのコゾーで、大人たちの事情など興味もなかった。


 最初に作ったのは釣りゲームだ。

 ただしこのゲームには、現実の釣り場が登場する。


 これは当時NTTドコモのゲートウェイビジネス部担当部長だった夏野剛さんのアイデアで、彼は「テキストベースのバーチャルリアリティ」と呼んだ。


 この頃はケータイが位置情報をとることが根本的にできなくて、従って、位置情報を一切使わずに現実の地図や地形と連動したゲームを作ったわけだ。


 技術的に不可能というか、倫理的に不可能だった。

 位置情報を出すには、キャリアは機密情報である基地局の情報を或る程度明らかにしなければならない。


 だから、最初は位置情報は使わせてもらえなかった。


 とはいえ、本当の位置情報を使ったゲームが登場するのはわずか一年後の2000年で、この頃はJ-Sky Webというのが、J-Sky Stationだったかなんだかの位置情報サービスを開始するので当時ケータイゲームのヒットを飛ばしていた(信じられないかもしれないがそうなのだ)僕は、J-Phone(今のソフトバンクモバイル)から依頼されて位置情報を使ったゲームを企画することになる。


 タイトルは「誰でもスパイ気分」というもので、たしかボードゲームIncognitoにインスパイアされた企画を立てた。このゲームは、近隣にいる複数のプレイヤーがアトランダムに選ばれ、マッチングされ、ひとつのミッションをこなす。


 現実の場所を移動しなければミッションは成功せず、現実にどのような場所があるかは手動ではとても間に合わないので、プレイヤーに自己申告させる方式だった。つまりプレイヤーはスパイという設定だから「エージェント●●、現在位置を報告せよ」というと、その人が自分の位置を報告することでデータベースが勝手に増えていくというものだった。Ingressでいうポータルの仕組みだが、Ingressと違ってポータルを審査する仕組みそのものが弱かった。だからうまくいかなかったんだね。他にもいろいろ企画的な無理があって、当時のプログラマーと丸投げしてしまったディレクターには迷惑をかけてしまった。

 

 ところがこれはあまりうまくいかなかった。

 僕自身が企画を立てただけで完成まで立ち会ってなかったのもあるけれども、それ以前にJ-Sky Station対応機種が少なすぎて遊べるほどユーザーが集まらなかったのだ。


 空けて2001年、僕は「サムライロマネスク」という世界初の携帯電話向けMMOで同じミスを犯す。

 全国300箇所のリアルな地名(しかも伊能忠敬が書いた80万円もする地図の復元版を日本橋図書館に買ってもらってそこから抜き出した)と町を作った。企画人員は僕とダーワとあと一人か二人くらいで、実質的に作ったのはダーワなので、彼はほとんど死んでた。


 けれども、当たり前だが新機種用のゲームだから、初日からそんなにユーザがいるわけない。

 結果、300もある町は誰にも会わない広大すぎるマップとしてゲームバランスを大きく崩した。


 それでもちゃんと遊んでくれる人がいて、何年もあとに「あのとき最初に天下統一したのは私です」と名乗りでてもらったときは嬉しかった。


 このゲームは気象衛星と連携していて、ゲーム内の場所が雨が振ると実際に鉄砲が使えなくなったり、騎馬が不利になったりする。

 

 要はお遊びなんだけど、現実の天気予報を見ながらゲームの戦略を練る、みたいな展開があればいいなと思っていた(実際に天下統一した人は天気予報を見て攻撃する国を選んでいたようである)。


 たぶんこれと平行して最初の頃のバージョンのコロプラが生まれて、「ケータイ国盗り合戦」なんてのも出てきた。ケータス国盗り合戦にはヤラれたとおもった。なにしろゲーム性がほぼ皆無なのにものすごく流行ってるのだ。


 ケータイ国盗り合戦は、国盗り合戦という名前の割に、合戦の要素はほぼ皆無で、ただ基地局を移動して「国盗り」みたいなボタンを押すと「盗った!」と表示される。ただそれだけ。


 こんな「ただそれだけ」のゲームなのにこれは流行った。

 無料だったのも大きいと思うけど。


 このゲームのためにツアーが組まれるほどだった。


 その後、時代はずっと下り、iPhone3Gが日本で発売され、3GSが出る頃に、僕らは「クリムゾン・フォックス」というA/ARゲームを作った。Alternative / Augmented Reality Gameの略だ。海外で単にARGというと、オルタナティブ・リアリティ・ゲーム、要するに代替現実感ゲームを意味する。そこに拡張現実感を意味するAugmented Realityの要素を付け加えた。


 これは、現実の渋谷をフィールドとして、総務省と東急の協力を得て、渋谷のあちこちに宝物を意味するARコード(これはソニーCSLの暦本先生が開発したKARTを使った)が隠されており、iPhone3GSをかざすと、それが認識されてスコアに加算されるというゲームだった。


 ゲームの仕組みそのものはくだらないし、プログラムもものすごく簡単だったが、現実の渋谷で遊ぶというのが面白そうなのでやってみた。


 ポケモンGoに少し物足りないのはしいて言えばこの要素で、ARをやるならケータイをかざすとポケスポットやポケモンが見える、くらいの演出があっても良かったのではないかと思わなくもない。


 このゲームはものすごくウケたが、同時にテストプレイやらARコードを置かせて貰う地権者やお店との交渉やらで僕が疲れ果ててしまい、結局、一回きりで終わってしまった。


 さて、そうした状況が全て終わったあとでIngressがでたとき、最初は少し馬鹿にしていたことを認めざるをえない。


 なにしろ新しいと思う要素がほとんど見当たらなかったからだ。

 Ingressは僕を含めて、いろいろな人が過去に試したことの寄せ集めに見えた。

 それどころか独自の言葉や世界観が多くて分かりづらいとさえ思った。



 しかし実際にプレイしてみると、それは大きな勘違いだということがわかった。


 ポータルにレゾネーターを刺す楽しさ。他のプレイヤーの刺したレゾネーターをリチャージする連帯感。

 なにより、敵のレゾネーターが密集する秋葉原のどまんなかで、レベル8ブラスターを連射する快感。


 畜生

 と思った。


 畜生、おもしれえじゃねえか。


 Googleが背景にあることも間違いないが、やはりNitantecのゲームデザインが光っている。

 そしてポケモンGOの登場である。


 正直、あのPVはやりすぎだろと思った。

 誇大広告じゃん。まるでセカイカメラじゃないか。


 けど、果たして、いざ遊んでみると

 なるほど、脳内ではあのPV光景がまるごと再現されるのだ。


 モンスターボールを投げる感覚。

 今となっては古臭くさえみえる、雑なカメラパススルーのARに、可愛いモンスターが浮かび上がる。


 ゲームのためにARモード切ってたんだけど、ロデオドライブに来たらまたONにしちゃった。

 旅の思い出の一部なんだよな、もはや、ポケモンてやつは。



 そして、ソーシャルゲームのガチャと合成をうまく咀嚼した進化システム。

 これはほんとに見事だと思う。


 ソシャゲーのガチャは、やはりあまりに直接的すぎた。

 いかにも「あそばされてる」という感じが拭えない。


 だから艦これ式の、ガチャはガチャでも、ガチャそのものには課金せず、ガチャのための素材に課金するという方式がウケたのだと思う。


 そしてポケモンGoは、その遥か上を行く。これは間違いなくイノベーションだろう。


 ルアーモジュールを刺すことで、その場にいるみんながガチャ(ポケモン)の出現率Upを体感できる。

 なんで思いつかなかったんだろう。


 天才的である。いや、おれ最近の位置ゲーやってないからコロプラで既にあるよ、とか指摘されてもこまるけど、これを考えたやつは天才だなと思う。


 そうするとどうなるか。

 自然、周囲よりちょっとお金をもっていて、ポケモンGoをやってるプレイヤーは「よし、おれがルアー挿してやるよ」とちょっとした優越感にすら浸れるのである。


 こんなゲームはいままでなかった。少なくとも僕が体験した範囲では。


 デートで「あ、ここポケストップあるからここでお茶していこうぜ」とカフェに座り・・・いやもうこの際、マクドナルドでもいい。


 そこにおもむろにルアーを刺す。

 するとマクドナルドにハッピーセット目当てにやってきたそのへんの子供が「あ!誰かルアー刺した!やっべー!」と大興奮。


 彼女もポケモンゲットで大興奮。

 見ず知らずの人みんなで盛り上がれる。すげーグルーヴ感じゃないの。


 本当はこういうことをやりたかった。

 フラッシュモブみたいな位置ゲームというか。


 それがもう、残念ながら世界最強のキャラクターであるポケモンとともに実現してしまった。


 僕はもうゲームを作るのをしばらくやめているが、かつてのゲームデザイナーとして、ポケモンGoには脱帽である。すごすぎて嫉妬する気さえ起きない。


 だからおれは課金する。

 見ず知らずの人のためにルアーを差し、おこうを振りまきながら歩く。


 それがなんだか知らないが、このゲームを楽しむ大人としてのノブレス・オブリージュなんじゃないかと思うからだ。


 ポケモンGo、バンザイ。

 くっそー、面白いぜ。