蒼井上鷹『九杯目には早すぎる』
第26回小説推理新人賞受賞作「キリング・タイム」、第58回日本推理作家協会賞・短編部門候補作「大松鮨の奇妙な客」を収録した蒼井上鷹デビュー作。5作の短編に4作のショートショートが挟まれるような構成です。
●「大松鮨の奇妙な客」
尾行していると、男は寿司屋で茶碗蒸しに寿司を加えてかき混ぜ、寿司屋を追い出された・・・「どうしてかき混ぜたのか」という部分が解き明かされても「どうして茶碗蒸しだったのか」という部分がそのまま残ってしまいます。
●「私はこうしてデビューした」
作家志望の相尾がネットで作品を発表するとファンレターが・・・この捻り具合はなかなかおもしろく、サイコがかった展開がスリリングでした。
●「タン・バタン!」
行きつけのバーであった男。会話が合わずイライラするがどうも親しまれてしまって・・・男のイライラがよく伝わってきて、読んでいてイライラしてしまう、ということは成功なのかな。
●「見えない線」
バーの常連のあの人は幸せにならなければいけない・・・オチの持つ切なさがよかった作品。その辺りがブラック一辺倒の作品と違うところ。意味深なタイトルともきれいにつながっています。
●「キリング・タイム」
偶然出会った上司に飲みに連れて行かれるが、彼は「最近誰かに狙われている」という・・・悪くはないけれど、やや無理やりな感じがします。
5作の短編はいずれも一捻りに加えてもう一捻り? といった具合の結末を迎え、その持って行き方はなかなかのもの。それは十分評価に値するのでしょうが、正直なところ物足りなさが残りました。短編は5作とも酒のイメージが強く、しかもブラックで後味が悪い点も共通しています。おまけにいずれの作品も男と女が事件に絡む殺人事件で・・・と、どれを読んでも同じようなイメージを持ってしまって、飽きてしまいました。初出で個々に作品を読む分にはそういう事もないのが当然ですが、短編集としてまとまってしまっているが故に、不満として残ってしまうのです。
ノンシリーズの短編集にするならばバラエティに富んだものの方がよかったでしょうし、同じ傾向のものならばいっそシリーズものにして端役の登場人物や舞台を統一するとかした方がよかったのではないでしょうか。作品自体は悪くないでしょうから、この構成上の問題が残念です。
とりあえず、僕は今回に限ってはちょっと合わなかったですね。
収録作:「大松鮨の奇妙な客」「においます?」「私はこうしてデビューした」「清潔で明るい食卓」「タン・バタン!」「最後のメッセージ」「見えない線」「九杯目には早すぎる」「キリング・タイム」
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