五十嵐貴久『誘拐』
勤務していた旅行代理店でリストラ役に回された秋月孝介。リストラ勧告した先輩社員の一家心中や、それに起因した娘の自殺と離婚も経験した彼は、自らも退職した後にひとつの行動を起こした。誘拐。彼は時の総理佐山の孫娘百合を誘拐したのだ・・・
これは読ませますね。冒頭から強く引き込まれます。
読み手としては、秋月が抱えている事情は承知しているので、事件そのものの顛末が気になるのと同時に、どうして秋月は誘拐事件を起こしたのか、どうして佐山百合だったのか、どうつながるのかというところを追いかけてしまいます。
事件は犯人の秋月、総理の佐山、そして捜査にあたる警察と主に三者の動きで進みます。それぞれの理由から緊迫感が伝わってきておもしろいですね。
もっとも、結末で明らかになるその真相はいささか腑に落ちないものでした。事件がなかなか手の込んだものだったのと比較すると、その動機が若干弱いように感じてしまいます。もっとも、読者には計り知れないような心情が存在するのかもしれませんが、少し残念です。
さらに言えば、これだけ凝った犯罪を起こしておきながら、実は秋月は捕まりたかったのではないか、あるいは自分へたどり着く手がかりを見つけてほしかったのではないかと想像してしまいました。
五十嵐さんは幅の広い作風で知られていますが、こういった緊迫感を前面に打ち出したような作品が一番好きですね。『TVJ』もよかったですし、『交渉人』も早く読みたいと思います。
【感想拝見】- えせプログラマのつぶやきさま(2008.10.02追加)
- 粋な提案さま(2008.12.19追加)
- デコ親父はいつも減量中さま(2009.02.24追加)
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