北村薫『野球の国のアリス』

 満開の桜の下で、彼女は不思議な話を始めた。昨日までおかしなところで投げていた、と。少年野球チームのエースでありながら、小学校卒業にあわせて野球をやめざるを得なかった彼女は、いったいどんなところで投げていたというのか、どんな試合をしていたのだろうか・・・


 ミステリーランドの最新作は、ミステリではないと思うけれど、なんともミステリアスで北村さんらしい作品。野球への愛情に満ち溢れています。
 また宇佐木さんという名前、お茶会や赤の女王、あるいは本書のタイトルを見てもわかるように『鏡の国のアリス』をモチーフにした作品です。
 もう野球ができないはずのアリスに与えられた最後のチャンス。このチャンスにアリスが心の底から野球を楽しんでいる様がとても心地よく感じられます。そしてこの野球からの卒業こそが、アリスにとっての大人への第一歩のような気がします。
 そういう意味で、ちょっとした出来事でチャンスを失いかけたアリスに、再び、そして最高の舞台が与えられたのがとても印象的でした。
 女房役で少し大人の兵頭や天才とも称されるスラッガー五堂、鏡のこちら側ではおとなしかった安西など、アリスの周囲を彩る仲間たちも個性的でおもしろいです。
 ところどころに差し挟まれるジョークも思わずクスッと笑ってしまいます。


 あべこべとなった鏡の世界で、アリスは野球に対するおかしな価値観と対峙します。この一件で、この世界での考え方が少しでも変わるのでしょうか。確かに気は晴れるかもしれません。しかし、そんなことよりもアリスたちが野球を楽しんだということの方がきっと重要です。
 野球に興味のない人、ルールを知らない人にもオススメ、と言いたいところですがどうなんでしょう?

2008年9月13日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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野球の国のアリス (MYSTERY LAND)
野球の国のアリス (MYSTERY LAND)北村薫
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