アンソロジー『放課後探偵団』

 1980年代生まれのミステリ作家が集まった。まさに新しい時代を担う才能の持ち主である。そんな彼らに課された競作。舞台は学園・・・


 彼らの作品がコンスタントに出版されれば、ミステリ界の先行きは明るい、なんて思わせてくれる学園アンソロジー。
似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」
 DVD化のために送ったビデオテープが戻されてきた。だが、梱包を開くと一部が入れ替わっていて・・・なかなか意外で、納得のいく動機でした。確かにあの人はいないので、ファンの方は残念かも。
鵜林伸也「ボールがない」
 100あったボールが練習後には99球に。すべて揃わなければ監督のカミナリが落ち帰れないのだが・・・青春を感じさせる一編。オチにやや拍子抜けしたものの、そこに至るまで推理し続ける過程におもしろみがあります。次に期待。
相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」
 ドキドキのバレンタインデー。集会で留守の教室で、みんなの荷物からチョコを抜き出し、教卓に積み上げたのは・・・なんともキュートなお話。ミステリとしておもしろいだけでなく、初と須川の関係が楽しく、そしてどきどきします。『サンドリヨン』もそうですが、相沢さんの作品が持つ雰囲気がとても好きです。がんばれ須川!
市井豊「横槍ワイン」
 自主制作した映画の観賞会でのこと。暗くなった場面で、参加していた女性に突然ワインがかけられた。どうしてこんなことに・・・〈聴き屋〉シリーズの作品。注釈とか家系図とか見取り図とか、そんなものが入れられたミステリは大好きなので、かなり嬉しい作品でした。このシリーズ、もっと読みたいなあ。
梓崎優「スプリング・ハズ・カム」
 15年前、卒業式の最中に起きた放送室ジャック。その真相は同窓会の場で明らかになるのか・・・いやあ、まいったなあ。見事に逸らされました。現在と過去、ふたつのパートを使った巧みな構成で、トリックをきれいに隠してしまいました。このタイトルが絶妙ですね。ラストシーンの切なさ、美しさが素晴らしい。


 もう「とにかく読め!」と言いたくなるアンソロジー。素晴らしかったのは梓崎さん。楽しかったのは相沢さん。先物買いが好きな方も、そうでない方もぜひご一読を。


収録作:似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」、鵜林伸也「ボールがない」、相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」、市井豊「横槍ワイン」、梓崎優「スプリング・ハズ・カム」

2010年12月5日読了 【10点】にほんブログ村 本ブログへ
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