シバチョが第1.5の人生を考える このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016-05-28

ビッグデータベースボール

暇な時に朝にやってるBS1でやってるアメスポを見てたのですが、MLBとNFLにすっかりハマってしまいました。

アメスポ中継はカメラやライブリプレイの技術もさることながら、ボール軌道のトラッキング技術や各種の詳しいデータがネット検索できることから多面的な楽しみ方が出来ます。日本でもヌルデータとかデータで楽しむプロ野球とか頑張ってる人がいますが、やっぱりアメリカのサイトのbasebasll-reference.comfangraphs.comに比べると差があるのは否めません。それはMLBの公式サイトで公開しているデータが段違いであり、それを分析しようというコミュニティが活発である証拠でもあります

データを活用して貧乏球団が勝ち上がる話としては10年くらい前に出たマネーボールが有名ですが、もはやデータの活用は球団運営に当たり前の要素となっています。そんな中で以下に他球団が発見していない指標を見つけ、それを球団運営に活かすかという話がこの本の主旨です。

私自身もピッツバーグ・パイレーツは2013年のポストシーズン進出までほとんど知らなかったのですが(そもそも日本での放送がそんなにない)、この本を読むまではアンドリュー・マカッチェンがスターになって球団を強くしたのかな、程度の認識しかありませんでした。実際には、ストライクゾーンぎりぎり(もしかしたらボール)の球をストライクコールしてもらうピッチフレーミングと呼ばれる技術を持ってるラッセル・マーティンの活躍、打者が打つボールの方向を分析し守備位置を極端に変えるシフトの運用が大きなカギを握っていたことがわかります。特にシフトは現場で活躍する選手に納得してもらうために、野球経験もほとんどないデータ分析担当を帯同させ、選手と密なコミュニケーションを取っていたことが書かれています。「マネーボール」でのGMビリー・ビーンがトップダウンで打順を組み替えていたのとは非常に対照的です。

日本の野球ファン的な視点で言えば、元広島のバリントンがピッツバーグのドラフトの代表的な失敗例に挙げられていること、高額年俸の代表者としてダルビッシュ有が挙げられ、21年ぶりのピッツバーグ勝ち越しを決めた試合で先発しているエピソードが面白い。ピッツバーグがワイルドカードプレーオフで勝った日にはロベルト・クレメンテ橋から川に飛び込んだファンがいたそうですが、道頓堀かと突っ込みたくなります。

ビッグデータ」という言葉は定義があいまいで便利に使われるのであまり好きではないのですが、この本では100年以上の歴史があるメジャーリーグを通じて、PITCH f/x*1やSTATCAST*2の普及により扱うべきデータが飛躍的に増えたことを示して、「人間では扱えずコンピューターでないと扱えないほどの大きなデータ」を使っていくとあります。昔ながらの野球というテーマが一貫しているせいかこの説明は個人的に非常に腑に落ちるものでした。

そして重要なのはビッグデータを分析する人は、現場の選手とはまったく違うキャリアであることです。分析官にはわかる言葉でも現場に納得してもらうためにはデータの見せ方に心を砕く必要があります。こういう話ってのはどの業界でもありますよね。

今後の課題についても書いてあります。やはり先発ピッチャーが肩肘を壊して長期離脱を余儀なくされることについては、まだまだデータ活用の余地があるそうです。メジャーでは先発ピッチャーの投球数を100球に制限し中4日で回す運用が一般的ですが、それではまだ不十分と考えているようです。休養日数は何日か、投げた球種はなにか、疲労の蓄積はどうか云々など考慮するべき部分もたくさんあり、「よりスマートな球数」と呼んでケガをさせない運用はどうか模索しているようです。英語ではPITCH SMARTと呼ばれる概念でMLB公式サイトにもページがあるくらいの有名なもののようです。

マネーボールのパクリや亜種と思うことなかれ。貧乏球団がデータを活用し、ポストシーズンに進むという基本的なプロットは同じものの、組織の作り方の差、データの考え方の進歩、技術革新により取られるデータの飛躍的な増大など読みどころはたくさんあります。「マネーボール」を読んだり映画を見た人はもちろん、スポーツ界におけるデータの重要性について知りたい人にもオススメの本です。

しかし巻末でも生島淳が言ってましたが、日本とアメリカの野球の差は相当出てしまいましたね…わかりやすい所ではビデオ判定ですが、舞台裏でもここまで差がついているとは。どうしてもインターネットとの親和性を考えてしまうのですが、試合が終わったら得点シーンのビデオハイライトが公式サイトで全部閲覧できるのはもちろん、PITCH f/x等のデータをクローリングするファンに対して寛容な姿勢であるMLB担当の言葉が印象的でした。日本でも各種ハイライトや、パ・リーグTVなんかも一部やっている所はあるのですがやはりここはNPB公式が旗を振ってやってほしいところです。でも賭博問題とかもあってコミッショナーはそれどころじゃないか…

ちなみに極端なシフトに対しては保守的であまり採用してこなかったシアトル・マリナーズは今年から方針転換して、極端なシフトを積極的に採用する方向にしたようです。そのおかげもあってか現在アリーグ西地区首位です。同地区のレンジャース所属のダルビッシュ復帰が大きなニュースですが、久しぶりにポストシーズンのマリナーズ見たい気もします。

*1:ピッチャーが投げたボールの軌道をトラッキングするシステム

*2:守備の捕球に向かった初速や効率、ベースランニングの速さを瞬時に視覚化するシステム