3年の思いを込め原点を演ずる7人 − 舞台「Wake Up, Girls! 青葉の記録」を観劇して

 1月19日〜22日、舞台「Wake Up, Girls! 青葉の記録」がAiiA 2.5Theater Tokyoにて公演された。私は21日(土)昼公演を一般席(15列目)、及び夜公演をプレミアム席(6列目)にて2回観劇してきた。

 ストーリーは最初の劇場映画『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』を再現したものだが、オーディション風景だけを描いた特典映像の『Wake Up, Girls! - 出逢いの記録』や、TVシリーズを見てから知るような場面も組み込まれている。特に後者については、ライバルアイドルチーム「I-1 Club」をWUGのストーリーと並行して描くことで、本編の主人公である「島田真夢」が抱える過去が、『七人のアイドル』の時点でも見えてくる形になっている。基本的にはWUGのストーリーを全て把握しているワグナーたち向けの脚本だが、初見の人にとっても「一つの物語の始まりとして、少女たちが立ち上がる姿を描いたもの」として楽しめるものだったのではないだろうか。

 WUG7人の配役は、この作品から声優としてデビューしたリアルWUGの7人。もともと「ハイパーリンク」というキャッチフレーズの下、アニメの作品内同様に、ド新人が集まったユニットとしてリアル声優7人がアイドル活動していることにWUGの特性があったが、この舞台は彼女たち自身が声だけでなくリアルな役者として、所謂「2.5次元」の世界を演じる特別なものとなっていた。

 大抵二次元作品の三次元化はアニヲタたちから嫌われる傾向にあるものだが、WUGに限っては二次元と三次元が最初からリンクしているため、ファンであるワグナーたちには告知当初から歓迎されていた。それだけに演じるリアルWUG7人は、大きなプレッシャーを感じていたことだろう。殆どのメンバーは、舞台経験すらなかったのだ。

 しかし彼女たちの演技は素晴らしかった。それはきっと、3年間自分とともにいたキャラクターへの積み重ねた思いが、このステージ上の演技に注ぎ込まれていたからだろう。そして私だけでなく、きっと多くのワグナーたちも、その彼女たちの思いを見つめ続けてきたからこそ、恐らく他の舞台では味わえない感動で胸が一杯になったことだと思う。

 島田真夢が自ら閉ざしていた扉を開いてWUGの中へ飛び込んだシーンの後、この舞台ではアニメの中にはなかった場面が挿入される。社長が失踪し活動継続の是非が問われている中、島田真夢の加入によって一度はやる気を取り戻したものの、1ヶ月経ってもやはりライブの予定が立たず、七瀬佳乃、久海菜々美は具体的な目標がない現状に苛立ちを募らせる。そして佳乃はつぶやく。

 「あのときスッパリやめておけばよかった。……結局自分は何をやっても上手くいかない。もう夢なんて見れない……。」

 2015年暮れ、続劇場版後篇が公開され、アニメ作品としての一区切りがついてしまった時に開催された幕張のWUGフェスで、吉岡茉祐は「まだWUGを終わらせたくない!」と泣きながら叫んだ。リアルWUGの7人も具体的な目標をこの時失っていたのだ。それでも翌2016年、「今度は私たちが作品を引っ張っていく番だ。」とメンバーたちは口々に語り、作品への誇りとキャラクターへの愛情を持ってそれぞれの活動に臨み、7人揃ったときには「WUGここにあり」とばかりに、初見の観衆をも惹きつけるパフォーマンスを演じた。3rdツアー初日に「私の役目は他からファンを連れてきて、WUGを大きくしていくことです!」と宣言した山下七海の凄みは今でも忘れられない。それでも16年暮れの幕張では、みなが「今年は不安で一杯だった。」と本音を漏らしていた。去年は本当に苦しみの中、頑張った1年だったのだと思う。

 脚本の待田堂子は、デビュー当時からの彼女たちをずっと見ていたからこそ、この新たなシーンを挿入したのかもしれない。挫けそうになる佳乃に真夢は、今まで逃げてきた自分だからこそ「もう諦めたくない」という思いを伝える。そして「行き詰まった時に歌う歌」としてTwinkleから教えてもらったという『ゆき模様 恋のもよう』を、7人がアカペラで歌うのだ。普段こういった作品を見ても涙を流すことがない私でさえ、このときばかりは目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

 そう、この舞台の上にいたのは、島田真夢を演じる吉岡茉祐ではなく、島田真夢であると同時に吉岡茉祐であり、林田藍里であると同時に永野愛理、片山実波であると同時に田中美海、七瀬佳乃であると同時に青山吉能、久海菜々美であると同時に山下七海、菊間夏夜であると同時に奥野香耶、そして岡本未夕であると同時に高木美佑だったのである。これほどの「ハイパーリンク」があるものだろうか……。

 雪降る演出の中で、バラバラの制服を着て『タチアガレ!』を歌い踊るラストシーン。劇中のライブシーンではコールと手拍子はOKということになっていたが、それをする観客は僅かであった。今、道なき道へと向かいタチアガッた7人。そして3年の思いを込めて新たな道へと踏み出そうとする7人。私たちはきっと、そんな彼女たちを胸に刻みこむように、じっと見つめることしか出来なかったのだ。

 さてこの舞台では、WUG7人以外のキャラクターも、三次元の姿で登場する。しかし岩崎志保役の大坪由佳を除き、全員アニメ声優とは別のキャスティングだ。だがなんということか、全く違和感を覚えないのだ。特に松田耕平役の一内侑の演技は、アニメの松田以上にWUG7人とともにいると感じさせる松田だった。社長も『七人のアイドル』の作中としてはアニメ以上に愛すべきキャラで、演じた田中良子はシリーズを通した丹下社長をしっかり汲み取ってくれていたのだろう。

 狂言回しを演じた大田組の3人も、ワグナー側に立ってとても楽しませてくれた。大田がアニメキャラそのままで、見ていたワグナーみんな納得だろう。

 そしてI-1Clubのメンバーである。実はアニメでは、メイン7人揃ったI-1Clubとしての印象に欠けるところがあった。しかし舞台では7人がみなトップアイドルとして輝き、レッスン風景での掛け合いで各々の個性が感じられ、アニメ以上にキャラクターとしての存在感が溢れていた。素直に「この7人も応援したい」と思わせてくれたのである。加えてキャスト陣がみなツイッターアカウントを持っていて、レッスン中や本番舞台裏の様子をツイートしてくれていたので、彼女たちもまたWUGという作品を愛し、舞台で演じることを心から楽しんでいることを感じられたのが嬉しかった。是非またこの7人が歌い踊る『Knock out』を見てみたい。

 文中は敬称略してしまったが、舞台を支えてくれた裏方の皆さん含め、心から敬意をもって感謝したい。

 心の奥深くまで沁み入る素敵な舞台をありがとう。本当にありがとう。

<追記>

 終演後に書かれたI-1Clubを演じた方々の言葉が嬉しい。舞台はWUGの物語だけど、同時にリアルなI-1の物語もここにはあったんだなと。ブログ記事にはそのリンクを、ツイッターでつぶやいてくれた方には終演後ツイートのリンクを以下に紹介します。心より感謝。

 ◆吉川愛役 岩田華怜さん
  タチアガレ

 ◆近藤麻衣役 小山梨奈さん
  Wake Up, Girls! 青葉の記録 ありがとうございました!

 ◆相沢菜野花役 水原ゆきさん
  『Wake Up, Girls!〜青葉の記録〜』終演①
  『Wake Up, Girls!青葉の記録  終演②』
  『Wake Up, Girls!青葉の記録  終演 ラスト』

 ◆鈴木萌歌役 山下夏生さん
  ※このリンク先ツイートに画像での長文記事あり

 以下お二人はまとまった記事を書かれてないが、ツイートでいろいろつぶやいてくれてました。

 ◆鈴木玲奈役 立花玲奈さん →終演後ツイート
 ◆小早川ティナ役 日下部美愛さん →終演後ツイート