気持ちの変化が連鎖していく Wake Up, Girls! 新章 ― 第4話「美味しい時はうんめーにゃー!」

内容(公式サイト 各話あらすじより
WUGメンバーがそれぞれ各方面で奮闘する中、ついに真夢にドラマのオファーが。
しかも岩崎志保とのW主演ということで、注目を浴び話題になる。
エキストラ募集の記事を見つけて東京へやってきた歩たちは、
憧れの真夢や志保に会うことができて……

 今回はまず内容について語る前に……
 制作現場が早くもヤバいですな。ある意味前作で鍛えられてるから、作画のヤバさは苦虫噛み潰しながら耐えられるけど、キャラクターの声を入れ間違えちゃダメでしょ。こういうのって、どんな状況から起こるのだろう?脚本上は当然役が決まっており、絵コンテも監督や設定を熟知した演出家が書いてるわけだから、そこで間違うはずはない。声が入れ替わっているところは、未夕と実波の止絵の口パクだけなので、原画か動画担当が口を動かす順番を間違えたのだろうけど、とにかくこれは痛恨のミスだよね。もちろんうっかりミスはどんな職場でもあるものだが、最後のチェックが出来てなかった、あるいは差し替える時間すらなかったのだから深刻だ。現場も分かっちゃいると思うので、円盤化の際の修正と、今後の再発防止はマジでお願い。こういうのに気づいてしまうと、物語に集中できなくなるので。その他にも不自然なくらいの止絵長回しが多くあり、とにかく制作現場がんばってくれ。

 では内容についての感想。

 今回は真夢がメインの話だ。前回、他のメンバーたちが自分なりに個性を活かして現状克服に動き出したのに対し、真夢だけ新たな仕事がなく、自分の「個性」のあり方に悩んでいた。そこに、ドラマのオファーが飛び込んでくる。しかもI-1 Club時代の仲間でありライバルである岩崎志保との、ダブル主演での共演だ。真夢はそのことが引っかかり、少し躊躇するが、メンバーたちに後押しされて、そのオファーを受ける。

 今回の話では、真夢についていくつかのポイントが挙げられる。

 その一つが、真夢がドラマのプロデューサーに、自分にオファーしたのは相手役が志保だからかと尋ねたことだ。元I-1 Clubのセンター同士という話題作りありきのキャスティングなのは、誰の目にも明らかだったが、それを暗黙のうちに受け入れるのではなく、真夢はまずはっきりさせたかったのだろう。自分の現状の価値が「島田真夢」の個性ではなく、世間的にはいまだ「元I-1 Clubセンター」という昔の肩書にあることを、はっきり認識しておきたかったのだ。WUGの他のメンバーたちが、それぞれ自分の弱点を認識し、一歩踏み出したことを見ていて、自分が乗り越えなきゃいけない壁はまずこの肩書だと、真夢は気付いたのである。

 次にドラマの役作りについて。ドラマで演じる役は、明るい元気な体育会系の女の子だ。それに対し真夢は、自分とは全然違うタイプと感じ、役を掴みきれずに悩んでいた。そんな中、束の間のオフの際、未夕と実波にその悩みを打ち明ける。すると二人は、彼女自身が気付いてなかった側面を言い当て、「もっと素直に自分を出しちゃえばいいんじゃないですか」(未夕)とアドバイスした。そのことで真夢は何かに気づく。このシーンは、一見ありがちな演出だけど、メンバーと共同生活していることで、前作では一人で抱え込みがちだった真夢が日常的に悩みを相談できること、そして未夕や実波もそれに対し、自信を持って普通に答えてあげられるという、新章での新たな設定が非常に活きているのである。

 そして続くシーン。ドラマ撮影のある場面で、真夢は度々NGを出す。そのときちょうど脚本家が現場を訪ねてきたので、彼女は思い切って監督と脚本家に自分の考える役のイメージを話した。すると二人はそれに納得し、脚本を修正して撮影。真夢は自分のイメージした役を演じ、周りも納得する仕上がりとなった。恐らくそれまで、脚本が求める役柄をそのまま演じようとしていたのに対し、自分自身を役の中に投げかけ、その役が持つ個性を自ら引き出そうとしたのだ。そのためには脚本の変更を促すくらい、彼女は積極的に自分から動いたのである。ドラマを見た母からも「こんな顔もするのね、とびっくりしました」という驚きとともに嬉しさと期待を込めたメールが届く。前作での険悪な関係から和解へという二人の関係を思うと、真夢の成長が大きく感じられる憎い演出だ。

 私は、この真夢の成長シーンを見て、声優吉岡茉祐とリアルWUGの成長を思わずにはいられない。吉岡茉祐は小説を書くのが趣味で、これまでライブ前の影ナレの脚本を書いたりしていた。真夢が脚本の変更に関わるという形で一歩踏み出した演出には、恐らくこの中の人の特性が意識されていると思える。そして今年の4thライブツアーでは、吉岡、永野愛理を中心に、WUGのメンバー自身がセットリスト等の演出に大きくコミットとしていた。こういったリアルWUGの成長が、今回の真夢の成長に反映されてると感じるのである。

 この第4話では、もう一人意識の変化を感じさせる人物がいる。岩崎志保だ。志保は、かつて真夢がI-1を抜けた後のセンターを担っていたが、前作の続劇場版で萌歌にその地位を明け渡し、白木の指示で博多へ拠点を移して、若いメンバーとともにネクストストームのリーダーとして活躍していた。そんな彼女は、ドラマの演技ではNGを出さず、メディアへの受け答えも卒がなくて、まさに優等生アイドルである。真夢に対しては元々強い対抗心を抱いており、前作を通じて認め合うライバルへと変化する心境が描かれていたが、それでも真夢に負けたくないという気持ちは強い。しかし上述のとおり、役に悩んでいたはずの真夢が、自分の考えを主張し脚本の変更までさせる動きを見せた。これに志保は動揺するのである。

 志保の心理について考えてみたい。かつて真夢は白木に反意を示したことで、追い出されるようにI-1 Clubを辞めている。一方そんな真夢に対し、I-1 Clubのセンターとしてトップに君臨し続けることが、志保にとってアイドルとしてのレゾンデートルだった。そんな彼女もまた博多へと「都落ち」したことで、挑戦者として真夢と対等の気持ちを分かち合うことになるが、新章の彼女がアイドルとして改めて挑戦する形は、求められているものに気づき完璧にこなす、誰からも好感を持たれる優等生の姿だった。だからこそ彼女は、真夢の意見で変更された脚本にもすぐに適応して演じている。実はなおもI-1 Clubの「人気アイドルの心得」、「休まない、愚痴らない、考えない、いつも感謝」が、志保の中に生きているのだろう。だから「考えて」周りを動かした真夢の姿に、動揺せざるを得なかったのだ。そこへ萌歌が怪我をした報が入り、白木より一時I-1復帰が命じられる。自ら考え動く真夢を目の当たりにし、志保が今後どう変わるのか。これもすごく楽しみだ。

 さて最後に。ランガちゃんたちが真夢のドラマのエキストラとして出演し、速志歩が彼女とついに邂逅する。それは一瞬の出来事だったが、中学生女子にとってファンから「私もアイドルになりたい」という気持ちに変わるきっかけとしては、十分すぎるものなのだろう。ランガちゃんの物語も、来週からついに動き出すのだろうか。こちらも楽しみだ。