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2006-10-14

[][][]ノーベル平和賞と質屋業 13:50 ノーベル平和賞と質屋業を含むブックマーク

グラミン銀行ムハンマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞しました。大手のオンラインニュースに記事が乗るのがなぜか遅いので中日新聞から引きます。


中日新聞:ユヌス氏にノーベル平和賞貧困層支援に尽力

経済学の大学教授だったユヌス氏は、飢饉(ききん)に襲われて貧困にあえぐ祖国の状況を改善しようと1976年から無担保の小口融資事業を始め、83年にグラミン銀行を設立した。貧しい農村女性を対象にマイクロクレジットと呼ばれる小口融資を行い、女性らはそれを元手に起業などして返済。貧困層の自立を促しただけでなく、女性の社会的、経済的解放にもつながった。現在の利用者は約660万人で97%は女性。返済率は9割以上と高く、グラミン銀行の手法はアジア、アフリカなど世界中に広がっている。

日本に限らず世界中には庶民金融としての「質屋」がありますが、それは質草あっての事。戦前戦後は着物や鍋釜布団に代表される日用品を質草に、日雇い仕事をしに行く電車賃や昼食代を用立て、日当を手にして夕方に預けた品物を受け戻しに来るという姿がありました。生活に必要な物でしたので置き主は流す訳にも行かず、質屋もそれを解って貸しているのでその手の生活用品の場合はけっこう長く待ったりしていたみたいです。流して売っても儲からないですしね。

当時から無担保高利貸しの闇金業者はいましたが、取立がキツイとか利息が高いとか今と変わらないというより、むしろ当時の方が厳しかったでしょうから、質屋の存在は庶民にとって欠かせない物でした。バングラではそれ以前に質草になる物がないので、地域共同体を担保に事業資金を融資している訳です。


参照:バングラデシュのグラミン銀行の場合

山形浩生の『ケイザイ2.0』マイクロファイナンスと、高利貸しのポジティブな役割

この人は、バングラから海外に留学して経済学の先生になって帰ってきたんだけれど、経済学の講義をしているすぐ外の通りでは、飢えたホームレスたちが乞食をしていて、そのギャップにすごく心を痛めていた。自分の習ってきた経済学なんて、何の役にもたたない机上の空論じゃないか。


そういう人たちと話をするうちに、かれは貧乏な人たちが、商売の元手がないから貧乏から抜け出せないんだということを知るようになる。商売用の自転車を買いたいけれどお金がない、という男。家具つくりをしているけれど、その道具を買うのに高利貸しで借金をしたので、その返済で手元に利益がぜんぜん残らない、という女性。そういう人たちに、ユヌス教授は、ポケットマネーからほんの2000円とか3000円とかを貸してあげた。すると、みんなそれでちゃんと商売道具を買って、商売をして収入をあげて、きっちり耳をそろえてお金を返してくれた。 


金融の常識からすると、これは驚異的なことだ。貧乏人は、なんせ貧乏だから、担保になるものなんか持っていない。すると、お金を貸しても商売に失敗したらとりっぱぐれる。さらに、貧乏人は何も持っていないから、お金をきちんと返そうという意志が低いんじゃないか、というのがふつうの銀行の発想だ。どうせ失うものがないんなら、その貧乏人たちは借りた金をぱーっと使ってしまって、あとで「無い袖はふれねーよ」と開き直る可能性だってある。いや、その危険はきわめて高い、というのがふつうの金貸しの常識だ。さらに、そもそも貧乏人が貧乏なのは、才覚がなくてお金もうけもできないか、返すお金に手をつけないくらいの自制心すらないからじゃないか、という(暗黙の)考え方がある。


ところがいまのユヌスの体験というのは、この常識にことごとく反している。かれらは返す意志はあった。ちゃんとそれを使って商売をするだけの才覚があり、返すべきお金をちゃんと返すだけの自制心も道徳心もあったわけ。


丁稚が今朝新聞で読んだ時はしきりに「女性を救済」と「低利で」が強調されていましたが、紙面だけでは話しがそこで終わってしまって実際の所が書かれていません。ちょっと長いけど山形さんのコラムからもう少し引いてみましょう。


いまのグラミン銀行は、一人で「金貸して」と言ってもお金を貸してくれない。必ず五人組みたいなグループを組織させる。そいつらにそれぞれ一定額の預金をさせることもある。そして、その5人の中のたとえば2人とかにまずお金を貸して、でも返済はその5人の連帯責任。返済は、毎週取り立て人がやってきて、その5人を集めて連帯で返済させるのだ。借りてる人が返せないと、残りの人たちが血相変えて、おまえの努力が足りない、商売をああやってみろ、こうやれ、と相互に指導をしあったり、営業をだれかが引き受けたりとやって、とにかくそいつが返せるようにもっていく。さもないと最終的には自分たちがツケを払わされる。


確かにこのシステムはすごい。バングラデシュでは一般の銀行の融資の数割がこげついて不良債権化していると言われるけれど、グラミン銀行の利用者は、期日通りの返済が九割を超えている。でも、それは貧乏人が正直だから、かどうかはよくわからないし、グラミンもそんなのをあてにはしていない。


これが成立するのは、グラミンがさっきも言ったように、もっぱら農村部の女性をねらっているからだ。コミュニティがあるため、相互監視がよく効く。さらに、家庭があるので女性は逃げられない。だから村八分にならないためには必死で働くしかない。それと、みんなのローンみたいな消費用の融資じゃなくて、商売用の融資が基本だからこうなります。でも、人によってはとてもきつい立場に追い込まれることはある。これまでは借金取りにいじめられたら、みんなが同情してくれただろうけれど、こんどはそのみんなが借金取りになってるんだから。「グラミンなんか使わない、あんなところで借りたらおしまいだ」というような声も一部にはあるそうだ。


そしてユヌスの自伝にも書いてあるけれど、グラミンは無理矢理お金を貸す。さっき、女性をねらって融資する、と書いた。バングラデシュの多くの女性は、女はお金なんかさわらないものだと思っている。それを、グラミン銀行はまずオルグ部隊を送り込んで、お金を借りるとどんなにいいことがあるか、というのをことば巧みに説いてまわる。そして半信半疑の女性たちを集めて、とにかく貸してしまう。確かに、これは賢い。お金になじみのない女性は、お金の使い手を知らないし、どこで使うかも限られている。なまじお金を持ったことがあって、カラオケ行こうとか、遊びにいこうとか、そういう誘惑を知ってる男よりも散財リスクは少ない。でも、これをいいことと思うか、悪いことと思うかは人によって意見がわかれるだろう。結果としてみんな返せているんだから、そこにはポテンシャルはあったんだろう。でも、そうやって無理に貸すのはいいのかな。これで失敗していたら、たぶんめちゃくちゃ言われただろう。そこらへん、どう判断しようか。

という訳で「女性を救済」というのはある種の「質」を取った状態であり「低利」というのは「他の高利貸しに比べては」という事です。利息が高い方が早く返さないと損なので、踏み倒す訳にいかない借り主はなるべく早く返済する様に努力するという構図は、まさに「質屋的」な仕組みではないでしょうか。


質屋もマイクロファイナンス

一般的に質屋の顧客は個人融資が多く、生活費や支払いの足しを工面しに来られる場合が多いですが、事業融資も規模の小さい所では個人事業主の皆様が今月の支払いで「あと10万いるんだよ!」から、販売店を営んでらっしゃる方がお店の在庫をトラックで持ってきて「これで200万貸してくれ!」などなど色々あります。個別に回収率を調べた事はありませんが、基本的にこの手のお客様は流さずちゃんと受け戻してくれる上客とされています。もしかしたらグラミン銀行ばりに回収率が9割くらい行くかもしれません。年に一度くらい大量に新品の電気製品などがお店にあふれる事はありますが…

対して女性のお客様の場合「子供が急に熱を出して」や「親戚に急に不幸が」など、緊急に必要なちょっとしたお金を工面するためにお越しになる場合はちゃんと受け戻される場合が多いです。


この場合も受け戻し率の高さは「高い利息」と「低い査定」の2点だったりするのがポイントです。質屋の利息は年108%…というのは最大の話しで実際は地域差や額面にもよりますが月6〜7%からスタートするのが一般的ですし、高額貸し付けの場合はもっと下がるので実質年利だと48〜72%くらいと考えてもサラ金と比べると超高いですね。その分受け戻しが後になればなるほど利息がかさむので、皆さん割と早くお出しになる事が多いのも事実です。

もう一つ「低い査定」というのは、質預りは買取に比べて預り期間中の価値の目減りを想定するので安めになるというのが一般的ですが、慣れたお客様の場合だと10万円お貸しできる時計や貴金属をいつもお持ちになって「今日は6万でいいや」とか「今日はいっぱいまで貸してくれ」などと、お客様の方で調整される場合もあります。そうなると通常の査定では買取でも10万円が一杯の場合でも、確実に受け戻して下さっている実績があるので、お客様が必要な時はそれ以上に用立てたりする事もよくあります。その分利息が入るので貸す側としてもありがたいのです。


という訳で、グラミン銀行とは違いますが、小口の「担保融資」というシステムとして「質屋」という存在は昔から社会の中にある訳です。利息が高く質草も資産価値が高い物が好まれる傾向がある質屋ですが、サラ金がこれだけ発展している現代社会にあっても利用される方が一定量ちゃんといらっしゃるのは、現代社会のマイクロファイナンスとしての機能が必要とされているからなのでしょう。


まとめ

  • ムハンマド・ユヌスさん、ノーベル平和賞受賞おめでとうございます
  • グラミン銀行の詳細についてはニュースサイトだけでなく山形氏のコラムを参照
  • 女性を主に救済したのはある種の「人質」として、低利融資なのは「他の高利貸しとくらべて」
  • あらこれって「質屋」じゃございませんこと?
  • 現代日本でも事業融資としての質貸し付けは受け戻し(回収)率が良いです
  • 女性のお客様は日常で急に入り様なお金を工面される場合だと同様です
  • これもポイントは「高い利息」と「低い査定」だったりします
  • しかし質屋をご利用になる方はちゃんと一定量いらっしゃいます
  • 流さない実績のあるお客様は逆に査定が高くなる場合もあります
  • 質屋もまたマイクロファイナンスのひとつの形です


続き:

ラスコーリニコフの質屋 - マイクロファイナンスと質屋業

lostlost 2006/10/14 17:15 はじめまして。
「マイクロ取り立て屋:マイクロファイナンスも盲信すべからず。」http://cruel.org/economist/microfinance.html

こちらも参考になります。

shichiyashichiya 2006/10/14 17:25 おおっとこちらは見逃していました!どうもありがとうございます。

microfinancemicrofinance 2008/11/13 14:23 はじめまして。
この度、当記事を「今週のマイクロファイナンス情報」というタイトルで私たちのブログでご紹介させていただきました。

「LIVING IN PEACE - マイクロファイナンスの新地平」
http://d.hatena.ne.jp/microfinance/20081017

11月28日にはマイクロファイナンス・フォーラムを実施いたしますので、
ご興味があれば是非よろしくお願い致します。
http://d.hatena.ne.jp/microfinance/20081113