XRQ技研の業務日誌(XRQ Tech Lab)

2011-08-10 小説 「極北クレイマー」

フェアリーテールラベンダー

 今日は猛暑日であった。関東のほとんどの観測地点で35度以上の気温を記録した。気温が体温より高くなったところがいくつもあったという。そして電力の需要が初めて供給量の90%を超えたという。東北電力管内では92%とのこと。明日以降もこの暑さが続く模様。厳しい自然である。

 海堂 尊 2009.4 朝日新聞出版週刊朝日」に連載されたものを単行本化

 財政破綻の危機にある極北市の市立病院を舞台に、外科部長の非常勤医師今中良夫を主人公したエンターティメント小説である。

「これで終わり???」というのが読了後の思いであった。物語の進行のそれぞれの場面で楽しめたのだが、収束はあっけない。「これで病院は再建できるのか?」「つぎの物語への序章なのでは」と思える終わり方である。 週刊誌での連載という構成から部分部分での盛り上げを考えたストーリーであるのは致し方ないのかもしれないが、単行本として一気に読んでいると不完全燃焼になってしまうのだ。

 一方、週刊であったが故にか、一人一人の登場人物の設定がしっかりして個性豊かで魅力的である。この作者の他の作品と共通する人物が登場することでも海堂尊ワールドを楽しむことができる。

 物語では厚労省警察庁などのキャリヤと現場との対比が出てくる。現場での日常業務は日々の些細な事柄を調整し、一つ一つの妥協点を探りながら行われている。その大筋を方向付けるのは中央官庁である。医療行政・支援のあり方であれ、司法と医療の関わりであれ、マクロな視点で考えていかなければならないのは事実である。しかしそれらは現場があってのものである。

 そのどちらを行っているのも人である。身をすり減らして動き回り現場を維持していく立場になるのか、現場の状況を大所高所から見て物事を決めていく立場になるのか、その人の身の処し方である。そして自分の立場でどう行動するかが大事である。

 物語では厚労省から派遣された桃色めがねの姫宮香織が活躍し、停滞した状況の市民病院に渇を入れる場面がある。テレビドラマの水戸黄門のような話であり、エンターテイメントになっている。この場面ではキャリヤがしっかりと現場を見てリーダーシップを発揮することで現場が収まっていくハッピーエンドのパターンである。

 逆のパターンが医療ジャーナリスト、赤い車の西園寺さやかの動きである。出産時の異常出血による事故を巡り、キャリア流れの警察署長を抱え込んで事件化を企てる。妻を亡くした遺族の思いとは別のところでことを動かしていくのだ。事実を通して国の制度を改革しようとする正義感と、抽象化できない現場の諸々の事情との相克が見られる場面である。

 また日本医療業務機能評価機構と市民病院とのやりとりでも建前と本音が対比される。医療業務を改善していこうという大義が現場の実態とそぐわないところで行われることで、その目的を達成できず権威だけが一人歩きをする。すばらしい理念で始められたものであっても現状を把握できないときに陥る陳腐さである。

 大震災以来、さまざまな会議が招集されている。復興、事故処理への方向をしっかり定めることは重要である。しかし、現場ではその場にいる人々がさまざなに工夫をしながら事態の収拾に努めている。今こそ中央と地方との風通しをよくし、一丸となって頑張るときだと思う。