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XRQ技研の業務日誌(XRQ Tech Lab)

2013-09-28 QRPの楽しみ

ヘッドフォーンより小さなリグ

 猛暑続きだった季節も収まってきたようだ。朝晩はちょっとした羽織るものが欲しい気温になり、虫たちのきれいな声が聞こえてくるこの頃である。厳しい暑さの中では秋の訪れを待ち望んでいたのだが、夏の終わりを感じ出すと寂しさも湧いてくる。

 7MHzバンドは賑やかだ。休日ともなれば各地に移動している局が電波を出している。コンディションによって伝播のしかたが時々刻々と変わってくるので、そのタイミングをねらって呼びかける。簡単なアンテナと小電力でも交信が可能だ。私の場合、アンテナは20m長のEFHWと1/4λのダイポールを使っている。家の周りに立木を利用した目立たない線を延ばしている。ダイポールにあってはほぼ直角に曲げた状態での伸展である。

 リグ(送受信機)はもっぱら、最大出力でも4Wのものだ。電信専用なので手のひらに載るような小さなリグである。ヘッドフォーンを耳に信号を聞いていると、すぐ近くの千葉県の局からの信号が聞こえず、和歌山奈良の局が強力に入ってきたり、微かに聞こえていた九州の局がだんだんにはっきりと強いシグナルを送ってきたり、不思議な世界を体験できる。

 この周波数帯は電離層の影響を強く受け、直接伝播するよりも、電離層と地面との反射によって伝わっていくことが多い。そのため、電離層の高さによってその反射した電波の到達地点が変わることになる。電離層が高くなれば遠距離に到達し、下がってくると近距離となる。電離層では反射とともに減衰という現象も起こるので、安定した2地点間の通信経路としてはこの周波数帯は適していない。

 電離層は太陽の影響を強く受ける。そのため伝播のしかたは日中と夜間ではまったくその様相が変わる。電波の到達距離では日中はほぼ国内専用であり、夜間になると海外の局が多く聞こえてくる。

 先日の夕方、移動している局がそろそろ撤収を開始したらしく、通信終了を意味する「CL」という符号を打ち出し、次第にバンドが静かになってきたころ、聞き慣れないコールサインが聞こえてきた。結構シグナルが強力だったので何気なく呼びかけると、私のコールサインの一部と?が返ってきた。すぐに、自分のコールサインを繰り返し送信した。すると、相手からの私のコールサインとともに「599」が返ってきたのだ。これはR:了解度・S:信号強度・T:音質を表す数字である。それぞれが最高であるというレポートをもらうことができた。交信の後でそのコールサインを調べてみると相手はフランスの局だった。ヨーロッパまで私のシグナルが届いたのだ。それも、常夜灯に使われるナツメ電球程度の小さな出力4Wである。

 さまざまな自然条件が重なり合って、そのフランスの局のアンテナと私のアンテナとの間にうまく通路が形成され、貧弱な電波でも繋がることができた偶然の出来事である。

 小電力での通信を「QRP」と呼ぶ。最近、このような設備で交信に挑む人が増えている。大きなアンテナを設置し、数kWという大出力の数百万円もする送受信機を使えば、遠くの局と交信できるチャンスは増える。しかし、電離層の状況など自然条件に比べたら、そのような人間のできる設備投資などは些細なことでしかない。自然の作り出す奇跡的なチャンスを、じっくりと楽しむおもしろさに多くの人たちが魅せられているのであろう。

 QRPにはもう一つの魅力がある。手作りのおもしろさだ。自然界にチャンス委ねて楽しむのだからリグなどの高性能を追求する必要はない。一人一人の技量に応じて送受信機やアンテナなどを作り、その結果として通信ができることを楽しむのだ。

 自然環境への挑戦を続けてきた人間であるが、荒ぶる自然の前にはその力の小ささを思い知らされた。自然に挑むのではなく、その中でどのように生きていくかが問われている。QRPの楽しみ方もその一つの方向だと思うのだ。